「稼げる税理士」になる方法(田中弘・本郷孔洋)
2008.08.30

今日は、業界のノウハウ本を紹介します。

今年の7月に出た本で、田中弘・本郷孔洋共著
「他人より年収10倍「稼げる税理士」になる方法」
(すばる舎リンケージ)です。

賛否両論ありそうな本ですが、
多くの税理士に足りない点の指摘が多く、
私も「ヤバイ」と気付かされる点が結構ありましたね。
(特に178ページ「天丼とカツ丼は食うな」は、
痛いところをつかれましたね。)
ただ、書いてあることの大半は、当たり前のことなんですよね。
当たり前のことが当たり前に出来ていないから、
こういう本がノウハウ本で出るのかなあ。

以下で紹介する文章は、私も教え子や後輩たちに
よく言っていることですが、業界ではほとんど聞かない言葉です。

例えば、「最短距離で1人前になろう」(56-7ページ)では、
「資格というものは早く取ったほうがいいに決まっています。
なぜならそれはひとつの通過点に過ぎないから。
本当の目標は1人前の税理士になること、そして稼げる
税理士になることです。ならば資格はできるだけ早めに取る。」
と書いています。
税理士業界では、「免除は使えない」は定説となっていますが、
近年、大学院補佐人講座の研修を受講した先生を中心に、
見直されつつあります。
大学院は楽だ、とか、試験を逃げた免除虫、だとか言われていますが、
税理士資格はゴールではないはずです。
スタートラインに辿り着けなければ意味がないのです。
税理士という商売は、税理士になってからが勝負なんですよね。
私はダブルマスターであることを公言していますし、
さすがにこれは支部長から怒られましたが、
「免除をお嫌いな方は私の研修に来て頂かなくて結構です」
とまで公言したこともありました。

また、「修行時代に“決め球”を手に入れよう」(62-3ページ)では、
野村監督が井川投手について評価していることを紹介し、
「特徴のある事務所作りに専念せよ」(116-7ページ)では、
「とくに特徴もないということになると、結局差別化の方法は料金ということ
になります。そうなると値下げ競争になり、どんどん単価が下がります。」
という厳しい指摘をしています。
稼げる税理士になりたいのであれば、他の税理士があまりやらないことを
やるべきですし、後輩たちには、「稼ぎたければ相続を武器にしろ」
と言い続けています。
武器がなければ、他の税理士と差別化できないのですから、クライアント
からの値下げ要求に応じなければ顧問契約を切られるだけですよね。

特にOB税理士を中心に、プロフェッショナルの意識もなく、
特徴もない方が多すぎるように感じています。
この業界を知ってもらう意味でも、クライアントだけではなく、
銀行や保険会社等にも読んでもらいたいですね。


法政会計人会第11回総会における講演
2008.08.29

平成20年9月12日(金)、
法政大学ボアソナードタワー25階B会議室にて、
法政会計人会平成20年度(第11回)総会が開催されます。
4時から総会、5時から講演会、
6時から懇親会(同フロアのスタッフクラブにて)
というスケジュールで行われます。

今回の総会は、来るべき全国会計人会サミット当番校への準備のため、
役員の増員等、議事内容は盛り沢山です。
また、来年から経営学部にて、税理士会の寄附講座を行うことに
なりましたので、担当する税理士を選定する必要も出てきました。
前回の幹事会では、網羅的なカリキュラムにするよりも、
担当する各人が、得意分野について、実務的な話をトピックス的に
講演した方が、受講する学生にとって興味深いのではないか、
という話になりました。
担当の神谷学部長とも話をつめていかなければならない問題です。

さて、今回の総会における講演会は、
僭越ながら私が講演させて頂くことになりました。

実務的な話は、私ごとき若輩者の出る幕ではないでしょうから、
イレギュラーなトピックスとして、税理士補佐人の経験談を
話させて頂くことにしました。

7月10日に東京高裁で逆転勝訴判決を頂いたばかりですから、
ネタ的に面白いかなと思っています。

事件については、判例紹介のシリーズで既に書いていますので、
詳細についてはそちらを参考にして下さい。

地裁で敗訴後、補佐人として訴訟参加し、訴状の原案を担当しましたが、
税理士の視点と弁護士の視点の違いからか、
控訴人準備書面の主張はドラスティックに変わりました。
判決文からは、その変更を明確に見ることは出来ませんが、
地裁の事実認定の主要部分を引用しながら、そこに10ページ近い
追加の認定が付け加わった結果、事実認定の基礎的な部分から
ひっくり返った珍しい納税者逆転勝訴を勝ち取ったわけです。

課税庁側が上告し、上告理由書は講演時点では出てこないと思われますが、
事実認定を最高裁で覆すには、高裁の事実認定に審理不尽があることが
明らかとなる証拠をもって、上告理由書を作成する必要があり、
課税庁が、何を根拠に上告をしたのか、見てみないと何も分かりません。

高裁の準備書面の基本的スタンスは、
課税庁がこのような課税をもししていたら、
原告は勝ち目がなかったけれど、課税庁はやってないよね、
というものでした。
そのため、殆どのことを高裁で我々から主張し、課税庁が
「本件には関係のない主張」と排斥を求めていますので、
事実審ではなく法律審でしかない最高裁に対して、
課税庁が何を主張できるのか、研究者としては楽しみです。

法政会計人会は、昨年、山川東京支部長(当時)が
東京税理士会会長に就任し、10周年に花を添えて頂きました。
今年は私ごときで申し訳ありませんが、一生懸命頑張ります。


野村克也「敵は我に在り<新装版>」ワニ文庫
2008.08.28

北京オリンピックでは反町Jにしろ、星野Jにしろ、
男性プロが参加した団体競技は実に残念な結果に終わってしまいました。
采配ミスや選考ミスが敗因として取りざたされているようですが、
ふと思ったのが、ずいぶん古い本ですが、
野村監督の「敵は我に在り」です。
本書は、1982年に書かれた、いわゆる幻の名著で、
今年の3月、ワニ文庫から復刻されました。

本書下巻261ページ以下に、昭和57年の日本シリーズを素材に、
何が判断基準になるのか、を検討した節があります。

「中日の敗戦のあとを振り返ってみると、「どんな方針で臨んだのか」
という答えが、何も出てきません。野球を含め、組織の運営には、
確固とした方針が必要です。野球の場合にも、ペナントレースなら
130試合の、プレーオフなら5試合の、日本シリーズなら7試合の、
それぞれ「勝つための基本方針」があるでしょう。
西武・広岡監督は、はっきりした方針を貫いていたが、中日・
近藤監督には、それが見られなかったのです。短期決戦は、
長期レース以上に投手起用が重要になります。それを知っていたか
どうかが、このシリーズの分岐点となりました。」(263ページ)
「考えてみると、近藤監督は、その種の「軌道修正」ばかり
つづけていたようです。シリーズをこう戦う、こうして勝つ
という強い意志は見られなかった。
「方針」が出てこないまま終わっていました。
これでは、チームは結集されません。逆に選手が動揺するばかりでしょう。
ペナントレースのような長丁場でもいえますが、とくにシリーズのような
短期決戦では、開幕前に勝負は7割がた決まるものです。
このシリーズを、どう戦うか。選手を「洗脳」し、「教育」し、「訓練」
する。そして、確固とした「方針」が打ち出されるべきです。それが、
「勝つ」という唯一の目的に向かって選手を集結させる原点となるのです。」
(264ページ)

どこか、今回の星野Jの結果を予見するような文章に
愕然とする思いで読み返しました。

本書は、旧版の時代から、ID野球のバイブルの1冊としてだけではなく、
人材育成のバイブルとしても活用されていたように思います。

このタイミングだからこそ、また読み返してみてはいかがでしょう。


ITS総合税制研究会夏季研修合宿
2008.08.27

先週の土日を使って、ITS総研の夏季研修合宿に参加してきました。

今年の夏季研修は九十九里。
人数が少なくちょっと寂しいものがありましたが、
久しぶりの仲間に会えるのが楽しみで、IGCの講義のため、
先に帰らなくてはならなくても参加してきました。

ITS総研は、結成されてから今年の忘年会で丸10年かな。
代表幹事の佐久間さんに感謝。
佐久間さんの尽力なしには続かなかったよね。

私の実務の師匠である大森先生の薫陶を受けた税理士を中心に、
不定期の勉強会と夏と冬の研修合宿を続けてきましたが、
昨年は、水野さんの日税論文賞受賞があり、今年は10周年。
来年以降も、イベントが続くといいですね。

今年の研修会は、
水野さんが、長崎の年金受給権二重課税事件を取り上げ、
僕は、事業承継税制の大改正を発表しました。

回り持ちで発表者を決めているはずなんですが、
佐久間さんと水野さんと僕が一番多いかもしれないなあ。
研修合宿では必ず何か発表してきましたね。

次回は10月なんですかね。忘年会の前に研修が出来るかなあ。

メンバーそれぞれが、それぞれの世界で成長し続けているのを見ると、
僕も頑張らんと遺憾なと思う今日この頃です。


会社を継いだ男たち(清水泰著パンローリング株式会社発行)
2008.08.26

事業承継を考える上で、面白い本を見つけましたので、紹介します。

投資関係の出版社として知られるパンローリング株式会社から
今年の8月に出たばかりの本で、
「会社を継いだ男たち ドキュメント2代目の挑戦」(清水泰)です。

本書は、ちばぎん総研の機関紙で連載された企画を加筆・訂正されたもので、
15人の2代目(3代目)社長の挑戦を記事にしたものです。

税理士の相続税対策の多くは、
現社長から、お子さんへの事業の継承を前提として、
スキームが組まれているように思いますが、
本当にそれでいいのでしょうか。

確かに現行相続税法の体系では、お子さんに事業承継されることが
一番合理的で節税効果が大きいように思いますが、
それでは、企業としての成長は難しいのかもしれません。

本書14例目で紹介される株式会社レスターの清水社長は、
「可能性はゼロではありませんが、基本的には会社経営に世襲は
ありえないと思っています。この会社にとって、ベストな人材に
経営してもらうのが一番ですし、社内でトップを継ぎたいと思う
人材が現れなければ、魅力的な会社ではなかったということですから」
という。(本書176ページ)

また、8例目のはるやま商事株式会社の治山社長は、
小さい頃から父親に
「お前は跡継ぎじゃないぞ。もしお前が経営の才能がないなら、
絶対に跡は継がせない」と言われて育ったという。(本書95ページ)

治山社長は、後継者の心構えとして次のように言う。(本書101ページ)
「2代目はありがたいことに3合目、5合目から会社経営を
スタートできます。現状維持では継いだ意味がなく、
成長させなければなりません。それには、自社の強みを生かすと
同時に、過去の成功体験を捨てることも必要なのです。」

事業承継を考える上で、一世一代で築き上げてきた会社を
大きくするのも、壊すのも、後継者ですから、
後継者を誰にするのかということは最も大切なことであるはずです。

従業員もファミリーだけの企業でも、その中で誰が後継者となるのかは、
後の相続問題をこじれさせる原因にもなりえるのですから、
安易に後継者の選定をすることは問題があります。

紹介しました治山社長のように、継がせないと言われた子供が
自分の意思で親の会社を継ぐための人生修行を経て、
後継者として選ばれたケースはまれであろう。

本書に紹介される15人の後継者たちは、
引き継いだ会社を成長させるべく日々奮闘されている方ばかりです。
共通して見えてくることは、
引き継いだ会社を現状維持ではなく、成長させようと努力していること、
自身の後継者を身内に拘っていないこと、であろう。

自分自身は身内から継承したとはいえ、会社を成長させる人材が
後継者であるべきで、それを身内に拘らないのである。
事業承継の難しいポイントとして意識されるべき姿勢であろう。

本書は、事業承継を考える経営者にはもちろんですが、
むしろ、経営者を親に持つ子供たちにこそ、特に大学生世代に
是非とも読ませたい一冊である。


税務調査(4・税務調査の際の事前通知について)
2008.08.25

ここまで、税理士の立会権を巡る訴訟事件である本坊事件を検討してきた。

本坊事件高裁判決は、税務調査に違法性を認めなかったのみならず、
税理士法1条に触れつつ、

「税理士は、税務に関する専門家として、独立かつ公正な立場において、
申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に
規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする職業人であり、
そのような見地からすると、税理士は、税務代理に関する委任契約を締結した
納税義務者が課税庁の質問検査権を行使されるに当たり、納税義務の適正な
実現に資するべく、その現場に立ち会い、検査の対象となっている納税義務者の
すべき主張・陳述について代理・代行することができることは当然であり、
望ましいことでもある。そして、そのような立場に自覚的な税理士であるほど、
課税庁が税理士の立会いなしにする質問検査権の行使に警戒的になることは
容易に想定されるとともに、本件における控訴人もそのような立場から
本件税務署員らに対応したものと認められ、その心情には理解できる」

と、原告税理士の行動に理解を示しながら、
税理士の立会権を認めなかったことに、注意する必要があろう。

ただ、本件において、原告がとった行動は、
同業者として、申し訳ないが、やりすぎの感は否めない。
特に、ビデオカメラを持ち出して、調査内容を撮影しようとすること
については、守秘義務を課税庁側に主張されてもやむを得ない。
もし、撮影を許可して、この撮影された映像が万が一流出してしまった場合、
許可した調査官は公務員法違反で処分されるだけでなく、
原告自身も、税理士法違反に問われ、綱紀監察事例になるものである。

今回の判決は、国家賠償には当たらないだろうと、肯定的に評価はするが、
実務家としては、税理士の立会権の侵害については、
税務調査に対する学術的な意味合いとは異なる判断がなされた
いわゆる事例判決であると信じたいところである。
また、本坊事件は税理士法改正前の平成11年の事件であることを考えれば、
税理士法改正後は、税理士法に税理士の立会権が、
ある程度明確にされたのであるから、(本シリーズ(1)を参照)
税務権限代理証書を添付している権限ある税理士の立会権を侵害する
無理な調査は行われないようになることを期待したい。

本件のように不意打ち調査や税理士の立会権が無視されるような事態が
生じるのには、事務運営指針に基づいた税務行政の実態が一因であろう。
いわゆる通達行政である。
憲法84条が求める租税法律主義が、課税要件の全てを法律で決めなさい、
と明言しているにもかかわらず、税務行政は、
法の世界では法源にも含まれない通達や指針によって運営されているのである。
通達行政については、ある程度は必要悪の部分があると考えるが、
行き過ぎた通達行政が、自分では法の解釈をせず、疑問があれば、
何でも税務署に問い合わせて処理をするような税理士を生んでいるし、
平和事件のように、事例応答集に記載されている事例を模した
租税回避スキームが生まれてしまうのであろう。

話を戻す。

裁判所が判決文でも事務運営指針は、平成13年3月27日付けの
「税務調査の際の事前通知について」であるが、これには、事前通知は、
昭和37年9月6日付の「税務調査の際の納税者及び関与税理士に対する
事前通知について」に基づいて適切に実施することを要求し、
「有りのままの事実実態等を確認しなければ、申告内容等に係る事実の
把握が困難であると想定される場合」には事前通知を要さない旨が
規定されている。

本件の場合に、調査が10年近く行われていなかったとはいえ、
優良法人として評されていた法人であったことから、大阪高裁も
「本件両会社は、これまで優良法人との評価を得ていた上、
具体的な問題点を把握した上での調査ではないから、あえて無予告で
調査をしなければならないほどの必要性があったかは、かなり疑問
というべきである。」と指摘しているところである。
ただ、だからといって調査の必要性がないとは判断できないので、
税務調査が違法とはいえないというのが、大阪高裁の判断である。

さて、問題は、この事務運営指針の法律解釈上の意味である。
通達は行政庁内部の業務命令に当たるのだから、税務署員は
通達(本件では事務運営指針)に従って業務を行うのは当然である。
しかし、通達は、法源でない以上、国民を拘束できるルールではない。
つまり、通達や事務運営指針の内容に国民が従う法的根拠はない。

租税裁判全体について言えることであるが、判決文を見ると、
通達どころか、私的著作物と最高裁が認定した質疑応答集や
コンメンタールを判決の根拠として引用する場合が結構多いのである。
弁護士に税法が専門といえる方が少ないことは業界内では
周知の事実であるが、裁判官はそうでないことを信じたいが、
正直、そうとは信じられないのが実情である。
本件も、事前調査の違法性を事務運営指針をもって否定する。
憲法84条は
「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、
法律又は法律の定める要件を必要とする。」と規定するが、
事務運営指針は、法源に当たらないのであるから、
当然法律の定める要件には該当しない。
そのことを裁判所はどう評価するのか。

また、根拠として引用する事務運営指針は平成13年3月27日付
のものであり、平成11年の事件には適用することは許されない。
それとも、大阪高裁は、事務運営指針は法ではないから、
遡及適用も許されるとでも言うのであろうか。甚だ疑問である。

本件で適用すべき事務運営指針も、昭和37年9月6日付であり、
実に37年間もの長期にわたり、事務運営指針のまま残されている
規定である。ここまで長期に適用するのであれば、せめて個別通達に
昇格させることをしないのか?
まさかとは思うが、通達に昇格させると、税務六法に掲載
されてしまうから、事務運営指針のままにして、専門家である
税理士等にしか出回らないようにしたわけではあるまい。
現在では、国税庁HPで事務運営指針も検索できますが、
当時は、古い事務運営指針を調べるには苦労しましたね。

事務運営指針のみで国民の申告が適正に行われているのかを確認する
唯一の手段でもある税務調査のやり方を決めることに無理があり、
税務調査における無用のトラブルが生じる危険性も孕んでいるのである。
税理士が、税務署員による質問検査権の行使を警戒しなければならない
状況をなくすためにも、ルールの明確化、オープン化が必要なのである。


税務調査(3・本坊事件2)
2008.08.24

前回に引き続き、本坊事件を紹介し、税務調査の問題について検討する。

神戸地裁では、原告の全面敗訴であり、大阪高裁でも敗訴して、
本坊事件は確定している。
大阪高裁でも事実認定に基づいた判断を下している点は注意が必要であろう。
以下に大阪高裁の判断を見てみよう。

 質問検査権の意義については、地裁同様、最高裁判決を引用している。

 しかしながら、実定法上特段の定めのない実施の細目について、
上記のような範囲において税務職員の裁量権があるというものの、
質問検査の必要性においても、私的利益との較量における社会通念上の
相当性においても、実際の調査の場面において、その判断を一義的に
することは容易ではなく、税務職員と調査対象者との間でトラブルと
なることも少なくなく、行きすぎた調査によって納税者の権利が侵害される
事態も見られるところである。このようなトラブルを回避し、
納税者の権利が不当に侵害されることを防止するためには、税務行政における
適正かつ具体的な手続規定を定めること等とともに、税務の専門家であり、
税務代理・代行権を有する税理士が調査に立ち会ったり、調査対象者に
適切な助言・指導・援助を与えることは重要である。

 確かに、調査の必要性がある場合であっても、事務運営指針等が示すように、
原則として、事前に調査対象者に対し通知することが税務行政上望ましいと
されており、前述のように、これらの定めは、納税者の権利保護の観点から
重要であるから、みだりに無予告調査を行うべきではない。
 しかし、在りのままの実態を把握するためには、事前通知をすることなく
調査を敢行することが相当な場合もあるのであって、事務運営指針においても、
無予告調査が許容されるものとされており、また、法律上、
事前通知が質問検査権行使の必須の要件であるともいえない。
しかも、無予告で調査に臨場しても、調査対象者あるいはその委任している
税理士が調査に応じることを承諾しなければ、実際には調査を実施することは
できず、改めて調査日時等を協議するしかなく、無予告での調査
(いわゆる「抜き打ち調査」)は奏功しないこととなるほかはない。
 本件の場合は、先に判断したように、本件両会社は、これまで優良法人との
評価を得ていた上、具体的な問題点を把握した上での調査ではないから、
あえて無予告で調査をしなければならないほどの必要性があったかは、
かなり疑問というべきである。
 しかし、本件両会社は相当長期間にわたって税務調査を受けていなかった
のであるから、両会社の過去数年の申告額について、課税庁が
「在りのままの実態」を調査するために、今回は無予告で調査を実施しようと
判断したことは格別不合理なこととまではいえず、先に認定したとおり、
現場に臨場した直後には、控訴人と電話で連絡され、控訴人及び調査対象者の
反対で実際には調査は行われていないことも考慮すれば、無予告であったこと
のみを捉えて、これを違法と判断するのは相当でない。

 ところで、税理士が調査対象者から税務調査を含めて委任を受けている場合は、
その間に債権・債務関係が生じており、税理士は、必要がある場合は
委任者のために税務調査に立ち会い、委任の趣旨に応じた対応をする義務があり、
その履行によって報酬を請求できることにもなり、委任者も受任者である
税理士に対し、そのような義務の履行を求める権利があるというべきであって、
第三者たる税務職員において、この権利を侵害することは、その方法・態様等の
いかんによっては、債権侵害として違法となることもないとはいえない。
そして、受任者である税理士の明確な拒絶にもかかわらず、調査対象者に直接
承諾を求めることは、その限りにおいて、委任契約を部分解除することを
要求することにもなるのであって、任意の説得の限度を超えれば、
違法となることもあり得るというべきである。
 しかるところ、本件税務署員らは、初回臨場した平成10年2月3日、
控訴人の了解がない以上調査に応じることができない旨の乙会長、丙社長又は
丁社長の回答を受け、控訴人に電話して了解を得てもらいたい旨丙社長に促す
などしたほか、せめて現状確認だけでも実施したい旨申し入れて、それ以上の
情報収集に固執しない態度を鮮明にし、本件両会社関係者がこれにも
応じることなく、控訴人の意向に従う意思を翻さず、事態がこれ以上
進展しないと知れると、結局同日の調査を断念して帰庁し、その後も平成11年
6月に反面調査に着手(両会社とも)するまで1年3か月の間、繰り返し、
控訴人も交えて、A社a営業所又はB社事務所を訪れ、あるいは電話連絡の方法で
税務調査への協力方を依頼しており(時に、乙会長らに直接調査の承諾を求めたり、
同人等から控訴人を説得することを要請したこともあるが、控訴人の意向に従う
との意見表明を受け、結局、控訴人との折衝を続けている。)、この間、
控訴人を排除する形での情報収集活動を遂げた形跡はないことからすれば、
本件税務署員らの上記認定のような要請が多数回にわたったことのみをとらえて
違法と評価することはできない。

 あらかじめこれらの日を調査日とすることを合意の上、税務署員が案内された
部屋にはビデオカメラ等の準備がされており、しかも本件両会社側において、
帳簿等の提示の申し出もないまま、控訴人らがビデオカメラの撮影を開始した
ことから、これを中止するように税務署員が求めたところこれに応じなかったために、
調査拒否と判断して調査を打ち切ったものである。
 しかるところ、国家公務員の守秘義務の対象であると考えられる税務調査の様子が
一般私人によって不特定多数の部外者に明らかにされる危険が予想される状況
において、守秘義務を負う国家公務員が撮影されることを回避するため撮影中止を
求め、それに応じない場合には、後日の説得が功を奏することを期待して、
撮影の対象となっている当日の税務調査自体をひとまず打ち切るという対応が
不相当なものということはできない。

 税理士は、税務に関する専門家として、独立かつ公正な立場において、
申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に
規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする職業人であり、
そのような見地からすると、税理士は、税務代理に関する委任契約を締結した
納税義務者が課税庁の質問検査権を行使されるに当たり、納税義務の適正な
実現に資するべく、その現場に立ち会い、検査の対象となっている納税義務者の
すべき主張・陳述について代理・代行することができることは当然であり、
望ましいことでもある。そして、そのような立場に自覚的な税理士であるほど、
課税庁が税理士の立会いなしにする質問検査権の行使に警戒的になることは
容易に想定されるとともに、本件における控訴人もそのような立場から
本件税務署員らに対応したものと認められ、その心情には理解できるものがある。
 そして、本件の無予告調査の正当性には相当の疑問があることなどからすれば、
本件における控訴人の対応には全く理由がないとはいえないが、本件税務署員らに
違法行為・違法事由があったとまでは認め難いことからすれば、
結局、控訴人の本訴請求は排斥するほかはない。


税務調査(2・本坊事件の与える影響)
2008.08.23

前回に引き続き、税務調査のことについて、話をしたい。

今回と次回とで、税務代理権限証書を添付していたにもかかわらず、
税務代理契約を締結する税理士に事前告知せずに税務調査を強行され、
その結果、税務委任契約さえ破棄されてしまった税理士が、
国家賠償請求をした大阪高裁平成17年3月29日判決
いわゆる本坊事件を通じて、税務調査の問題点を検討する。

神戸地裁平成16年2月26日判決(TAINSコードZ254-9572)
大阪高裁平成17年3月29日判決(TAINSコードZ999-0089)

事件の概要は、次のようなものである。

 本件は、税理士である原告が、熊本西税務署員や宇土税務署員らによる
下記主張の違法な職権行為によって、A株式会社他1社との各税務委任契約に
基づく税務代理権を侵害されるとともに、両社が同契約を解除するに至り、
契約を破壊された旨主張して、同契約に基づく3年間の顧問料540万円の
70%である378万円及び原告の信用を毀損されたことによる非財産的
損害として300万円の合計678万円の損害につき、国家賠償法1条1項に
基づく損害賠償を請求した事案である。
 原告は、熊本西税務署員及び宇土税務署員の違法な職権行為として、
原告が税務委任契約を締結している2社に対して、原告が遠方に居住
しているため調査立会が困難であると知りながら、事前通知のない
税務調査を行ったこと、調査の際、税理士の代理権を無視する発言を
行ったこと、調査を不当に打ち切ったこと、調査理由を開示しなかったこと、
納税者である2社に対し脅迫的言辞を行ったこと、調査の際、
承諾なく建物内に進入することを容認しなければならないような威勢を
示したこと等を主張している。

神戸地裁の判断は以下のようなものである。

そもそも、税務署員には課税処分に必要な資料の取得収集が可能となるように、
課税要件事実関係者に質問し、帳簿書類その他の関係物件を検査する権利が
与えられているところ、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の
定めのない実施の細目については、前記の質問検査の必要があり、かつ、
これと被調査者の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる
限り、前記権限を行使する収税官吏の合理的な選択に委ねられていると
解するべきであり、税務調査の日時、場所の事前通知、調査の理由及び
必要性の個別的、具体的告知が法律上、税務調査の一律の要件とされている
ものではないと解すべきところ(最高裁昭和58年7月14日第1小法廷判決)、
本件で事前通知なく税務調査のため臨場した税務署員らの行為が、調査の
必要性と被調査者の私的利益との衡量において、社会通念上相当な限度を
超えているとみるべき事情が認められないから、事前通知がないことを
違法事由とする原告の主張に理由はない。
 また、本件においては、税理士である原告が兵庫県西脇市に在住している
という事情があったが、被調査者は、遠隔地に居住する税理士と税務委任契約を
締結している場合でも、電話等で連絡をとって対応を相談することは可能であり、
そのような場合に事前通知を欠く調査が相当な限度を越えていると解すべき
理由はない。

 原告は、熊本西税務署員や宇土税務署員が、当初から原告の税務代理権を
侵害する意図に基づいて、(1)原告と委任契約を締結していたA及びBに対して
不意打ち調査を強行しようとし、(2)両社が税理士である原告に対処を求めた
のに対し、「税理士は関係ないので社長さえよければ調査します。」などと
原告の税務代理権を無視する発言をし、(3)原告の立会いの下で行われた
税務調査を正当な理由なくして打ち切り、(4)その後も原告がなぜ両社を
調査する必要があるのかを明らかにするよう求めてもこれに応じず、
原告が税務代理権の趣旨を双方で確認することを求めたのに対しても
全くまともな対応をとろうとせず、(5)両社に対し、反面調査を強行して
青色申告の取消しや消費税等の更正処分を強行するとの脅迫的発言をする
などし、そのような一連の行為によって、原告の税務代理権を甚だしく
違法に侵害したと主張する。
 しかしながら、本件において、熊本西税務署員及び宇土税務署員につき、
原告主張のごとき違法行為ないし違法事由を肯認できないことは既に
認定説示のとおりである。
よって、同税務署員らが原告の税務代理権を違法に侵害したとは認められない。

熊本西税務署員及び宇土税務署員が、両社の調査に際し、税理士は
関係ないと述べた事実が認められないことは既に認定説示のとおりであるし、
熊本西税務署員及び宇土税務署員が、原告と両社との税務委任契約が解除
されることを意図し、あるいはその恐れを認識しつつ、敢えて原告と両社
ないし乙ら関係者との信頼関係を破壊するような行為をなし、もって
税務委任契約が解除されるに至らしめたことを認めるに足る証拠はない。
かえって、前記認定事実に照らすと、原告が両社から税務委任契約を
解除されるに至ったのは、両社が熊本西税務署長及び宇土税務署長から
青色申告承認の取消処分や消費税等の更正処分等を受け、多額の税金の
追加納付を余儀なくされたことが主たる原因であり、税務署員らの行為により
信頼関係を破壊されたことが原因であるとは認めがたい。

前記税務調査の際、原告らが調査現場をビデオカメラで撮影し、
税務署員らが中止を求めても応じなかった事実も認められるところ、
国家公務員の守秘義務の対象であると考えられる税務調査の様子が
一般私人によって不特定多数の部外者に明らかにされる危険が予想される
状況において、守秘義務を負う国家公務員が撮影されることを回避するため
撮影中止を求め、それに応じない場合には撮影の対象となっている
当日の税務調査自体を打ち切るということも相当な判断として是認できる。
加えて、仮に税務調査の打切りがあったとしても、そのことが税理士の
代理権を侵害するものと解すべき理由はないから、いずれにせよ、
同職員らが税務調査を中止したことが不当であるとの原告の主張には理由がない。

神戸地裁は、以上のように判示し、原告の全面敗訴となった。
神戸地裁の判断は、事前告知なしに行った税務調査に違法はなく、
税理士にも、社長にも任意に調査に協力してもらうよう、
努力を尽くした上で、守秘義務等の問題から調査継続不可能として
調査を打ち切ったものであるから、本件税務調査に違法性がないので、
原告の主張に理由がないとして、退けたのである。

また、本件訴訟が注目された理由である、税務代理権の侵害についても、
事前告知なしに違法なく、調査理由の開示の法的義務はなく、
調査打ち切りにも違法性がない以上、原告主張の侵害行為には違法性はない、
と判断されたのである。

高裁は引用判決ではなく、高裁でも事実認定に基づいた判断がされており、
次回は高裁判決を紹介する。


税務調査(1・学術上の通説)
2008.08.22

今日は、税務調査の話をしたいと思います。
まずは、学術的な意味で税務調査がどのように捉えられているのかを考えます。
基礎とするのは、税法学の基礎を築いた名著、金子宏「租税法」(弘文堂)です。

金子租税法では、税務調査と言わず、質問検査権として解説されています。

質問検査権は、
「資料の入手について納税者の任意の協力が得られるとは限らないから、(略)
必要な資料の取得収集を可能ならしめるため、租税職員に質問検査権、
すなわち課税要件事実について関係者に質問し、関係の物件を検査する
権限を認めている」と説明されている。

つまり、学術的には、任意調査では、税務調査をする権限を与えなければ、
処分を下すのに必要な資料がそろわない恐れがあるので、権限を与えていると
考えているのである。

しかし、この権限は、「いわゆる行政調査を認めるものであって、
強制調査を認めるものではないが、質問に対する不答弁ならびに検査の拒否・
妨害に対しては刑罰が科されることになっているから、直接の強制力はないが、
質問・検査の相手方には、それが適法な質問・検査である限り、
質問に答え検査を受忍する義務がある。」とされており、
半強制の権限であることを認めている。

また、この権限が与えられるのは、「租税の公平・確実な賦課徴収のために
必要な資料の取得収集を目的とするものであって、犯則の調査を目的とする
ものではなく、犯則調査に直接結び付く」ものではないから、
憲法で保障されているはずの家宅捜索における令状主義や
不利益証言に対する黙秘権の規定は適用されない。
(その根拠として最高裁昭和47年11月22日判決、最高裁昭和58年7月14日判決)

この権限は、「各個別の租税に関する調査について必要があるときに
行うことができる」こととされ、「必要があるとき」の意味は、
「客観的な必要性が認められるときという意味であって、
必要性の認定は、租税職員の自由な裁量にゆだねられているわけではない。」
しかし、調査の必要性の判断は「専門技術的な判断を必要とする問題であるから、
租税職員の必要性の認定が違法とされる事例は実際問題としては少ない」。

税務調査の相手方には、納税義務所に対する本人調査と
納税義務者と直接的な関係のある者に対する反面調査に分けられるが、
「反面調査は、特に必要があると認められる場合のほかは、本人調査によって
十分な資料の取得収集ができなかった場合にのみ認められる」。

税務調査は「検査対象物件に対してのみ許され、その閲覧・筆写等の方法で行われる」。

税務調査を行う際、租税職員は「その身分を示す証明書を携帯し、関係人の
請求のあったときは、これを提示しなければならない。」
税務調査の事前告知については争いがあり、判例は否定的である。
「税理士以外の第三者の立会いを認めるかどうかは、
担当職員の判断に委ねられている」。

経験豊富な税理士から見ると、ここまで紹介してきた金子租税法の説明に、
違和感を感じるはずだと思います。

一般に税務調査は3年おきに来ると言われますが、
学術的には客観的な必要性がある時のみとされています。
金子先生も指摘していますが、実際には、税務署が必要だと言って
調査した場合に、その必要性が否定された判例はないようです。

また、反面調査については、特に必要があると認められる場合に許されると
学術的には言われておりますが、実務的には、反面調査が本人調査の形式で
行われているとしか思えない調査も多々あるようです。
調査の現場で、事前に税務署でメモしてきた資料と調査物件とを突合している
調査官に当たることが、私も多いですね。
申告内容との突合であれば、申告書(特に内訳書)と突合するはずですからね。

また、平成14年改正税理士法34条が、
「税務官公署の当該職員は、租税の課税標準等を記載した申告書を提出した
者について、当該申告書に係る租税に関しあらかじめその者に日時場所を
通知してその帳簿書類(略)を調査する場合において、当該租税に関し」
税務代理権限証書を「提出している税理士があるときは、あわせて
当該税理士に対しその調査の日時場所を通知しなければならない。」
と規定していることを考えると、抜き打ちで飛び込みの調査がある場合は
争いが残るかもしれないが、税理士への事前告知が原則論とされた
と解する向きもある。
日税連編「新税理士法」(税務経理協会2002)108ページは、
「税務代理権限証書を税務官公署に提出している税理士は、納税義務者本人
のために税務代理行為を行うのであるから、税理士法は、税理士の立場を尊重し、
税務官公署の権限ある職員に、税理士に対する調査の日時及び場所の
通知義務を課することとし、反射的に税理士に対し権利を付与する定めを
設けている。」
「この調査の通知により税理士は、通常、その調査に立会うことになるが、
この調査の通知がない場合であっても、税理士はその調査に立会い、
納税義務者の主張・陳述につき代理・代行することができることは言うまでもない。」

ただ、同書109ページは次のような不備を認めている。
「税務官公署の当該職員が上記の点について義務違反を行ったからといって、
税理士から税理士法上の責任を追及する途はなく、また、その調査の効力に
何らの影響を及ぼすものではないが、税務官公署が調査を行うに当たっては、
納税義務者本人及び関与税理士に事情が許す限り事前に告知することが
税理士の地位の向上と税務執行の円滑化の観点から有益であり、少なくとも
この調査の通知義務違反が生ずることのないよう税務官公署が十分配慮するよう
税理士法は期待しているといえる。」

つまり、税務代理権限証書をつけていたとしても、税理士法が事前通知義務を
課していたとしても、罰則のない税理士法違反は問い得ない、
という限界があるのである。

この点について、次回では、判例を通じて検討してみることとしたい。


高杉良「不撓不屈」(新潮文庫2006)
2008.08.21

今日は、税理士にどうしても読んでもらいたい本を紹介します。

高杉良「不撓不屈(上・下)」(新潮文庫2006)です。

本書は、2002年に新潮社から出版された同名の本に、
文庫版に当たって、加筆されたものである。

国士舘大学で私の講義をとっている学生にとっては、
夏休みのレポート課題に指定されている本です。

滝田栄主演で映画化され、2006年6月に公開されましたので、
映画でご覧になられた方も多いのではないでしょうか。
私は、映画を公開直後に妻と地元の映画館で見ました。
ご年配の方が多く、同業者?も多かったように思います。

本書は、飯塚毅税理士の国税庁との苦闘を題材にしています。
昭和38年の調査から足掛け8年もの長期間争われたいわゆる飯塚事件を
ドキュメンタリータッチで描き出した力作です。
映画もドキュメンタリー映画のような雰囲気もありましたが、
家族愛をテーマにした名作です。是非DVD等で見て頂きたい。
ちなみに、映画にはほんのワンシーンですが、
友人が調査官役でセリフ付きで出演しております。

飯塚先生がTKCの創設者であることから、反TKCの先生方には
飯塚事件が税理士業界にもたらした功績さえ無視されているような気がしますが、
(ちなみに私はMJS派です)
飯塚事件が昭和40年の税理士法改悪を阻止したと言ってもいいのではないでしょうか。
飯塚事件がなければ、税理士法1条に独立した中立の立場としての
税理士の専門家の地位を勝ち得なかったのかもしれません。
その意味では、税理士業界にとって、
飯塚事件を風化させることは許されないと思います。

今は時代が違うといわれれば、その通りでしょう。
税務署も当時のような「国家権力ありき」の
税務調査が許されないことは百も承知です。
ただ、近年の税務訴訟における納税者勝訴判決の急増を考えると、
税理士補佐人による貢献だけとは考えにくいんですね。
税理士法改正前に2%程度であった勝訴率が現在では20%強ですからね。
それだけ税務署によるちょっと無理な課税が増えているような気がしています。

税務調査について、近いうちに私の考えを書き込む予定ですが、
無理な処分が増えているこの時代だからこそ、
飯塚事件を忘れないで頂きたいのです。
また、納税者の皆様にも、
税理士に、これだけの男がいたことを知ってもらいたいのです。

飯塚先生の、「事実をして真理を悟らしめよ」、
「一円の取りすぎた税金もなく、一円の取り足らざる税金無からしむべし」、
との指導理念は、私の指導理念とさせて頂いております。

「理論武装は納税者のために!」という私の事務所の経営理念は、
納税者のために最善を尽くすのが専門家としての税理士の役割であるとの
思いから来るのですが、税理士までもが税務署の方を向いて仕事をしていたら、
納税者は誰を頼ればいいのか、との強い思いを、
亡き父から託されているように感じているからに他なりません。

本書上巻の30ページに、飯塚事件の端緒時における
飯塚先生の決意として、このような文章があります。

「弁護士の今日の権威は、先輩たちの血と涙の半世紀の闘いのすえに、
勝ち取ったものです。弁護士もかつては検事正に隷属して、その監督下に
服していました。検事と対等な立場で正義の実現に邁進すべき弁護士が、
身分的に検事に隷属していて、どうして真の正義を実現し得ますか。
同じことが税理士にも言えるんです。今日、有史以来の重税の中で、
課税関係における公平と正義を実現しなければならないときに、
税理士が身分的に税務当局に隷属していて、どうして真の公平と正義とを
実現し得ましょうか。誰かが、税理士の実質的独立性の確保のために、
当局の圧力を一身に受けて、闘わなければならないのです。わたくしは、
その使命を帯びている。当局と闘う立場に立たされたと覚悟しております。」

このような高邁な精神と自己に厳しい強い心があってはじめて、
税理士業のあるべき姿が体現されてのである。

また、下巻296ページに飯塚先生がなくなった直後に書かれた
産経新聞のコラムが引用されている。

「脱税を許さぬ税理士だった。納税者に一円でも不必要な税を納めさせる
ことも、よしとはしなかった。税法に基づいた徹底した租税主義。
ところが、41年前国税庁に「脱税指導者」の汚名を着せられた。
 昭和38年、当時の税法のぎりぎりまで得意先企業に指導した節税策を
「脱税」とされ、得意先約400社が徹底的な税務調査を受けてしまった。
自らの会計事務所の職員4人が法人税法違反(脱税)などに問われ
宇都宮地検に逮捕、起訴された。
 しかし、4人全員が昭和45年の宇都宮地裁判決で「無罪」を勝ち取る。
税務行政史上に残る「飯塚事件」である。(略)
 目指したのは、「独立した公正な立場」に立った租税の実現。
そのことを通じた中小企業の健全な発展だった。(略)
 大乗仏教の経論に登場する「自利利他」を「自利とは利他をいう」と
紹介し、「社会のために精進努力の生活に徹することが、自利すなわち
本当の喜びであり幸福なのだ」と説いた。
 14日の葬儀式で、ドイツで会計事務所支援ネットワークをつくり、
親交を深めたダテフ社名誉会長のハインツ・セビガー博士は
飯塚氏の生涯を「正義を求める不屈の闘いでした」とたたえた。」

飯塚先生のような強い人間ではありませんが、
少しでも近づけるよう、頑張りたいですね。


産婦人科医の医療過誤訴訟、原告敗訴(福島地裁)
2008.08.20

平成20年8月20日、福島地裁において、注目の判決が下された。

産婦人科医の急減のきっかけとも言われる福島県立大野病院で起きた
帝王切開による出産後、胎盤剥離が発見され、結果として出血多量で
母親が死亡するという痛ましい事故を巡り、医療過誤の有無、および
医師による証拠隠滅の可能性の有無が問われた事件の判決である。

判決文を手に入れていないので、明確なことは分からないが、
新聞各紙が速報してくれている。
ここでは、毎日新聞のネット記事を紹介する。


 本件の被告である加藤克彦医師は、平成16年12月17日、
帝王切開手術中、はがせば大量出血する恐れのある「癒着胎盤」と
認識しながら支給摘出手術などに移行せず、クーパー(手術用はさみ)で
胎盤をはがして女性を失血死させ、医師法21条が規定する
24時間以内の警察署への異状死体の届け出をしなかったとして起訴された。
 争点の胎盤剥離について、判決は大量出血の予見可能性は認めたものの、
「剥離を中止して子宮摘出手術などに移行することが、
当時の医学的水準とは認められない」と判断した。
医師法21条については「診療中の患者が、その病気によって
死亡したような場合は、届け出の要件を欠き、今回は妥当しない」と指摘した。
 医療行為を巡り医師が逮捕、起訴された異例の事件で、日本医学会や
日本産科婦人科学会など全国の医療団体が「結果責任だけで犯罪行為とし、
医療に介入している」と抗議声明を出すなど、論議を呼んだ。
公判では、検察、被告側双方の鑑定医や手術に立ち会った同病院の医師、
看護婦ら計11人が証言台に立っていた。


このような事件であるが、私は専門家責任の立場から、
極めて妥当な判決ではないのかと考えている。
娘さんを殺された父親の「絶対の許さない」という気持ちも分かるが、
法律上は妥当であろう。

故意による医療ミスであれば、医療過誤事件ではなく、殺人事件であるべきであろう。
毎日のネット記事では、加藤医師の支援をしてきた上准教授の見解として、
「今回のような医療事故を法廷で真相究明することの限界が明らかになった。
これを機に医療事故における業務上過失致死罪の適用について国民的な議論が必要。
司法関係者も、医療事故に刑法を適用することの是非をもっと議論すべきだ」
という意見を掲載しているが、まさに至言である。

医師は人間なのだからミスもありえよう。
しかし、専門家としてこの資格無しに業務が出来ない国家資格を、
国家から付与されたことの意味を、医師は考える必要があろう。

医師法1条
「医師は、医療及び保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上及び
増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする。」

医師法17条は、
「医師でなければ、医業をなしてはならない。」、

医師法19条
「診療に従事する医師は、診療治療の求があった場合には、
正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」

医師法は、以上のような規定を以て、
医療行為を国家資格を持つ医師のみによる独占事業としているが、
これは、医師に必要な高度専門性を確保し、医師を名乗る人間の
最低限度の実力を担保することによって、粗悪な医療行為による
公衆衛生へのマイナス効果を減少させることを目的とするのであろう。

また、医師に医療行為義務を負わすことにより、
救急医療への対応をも、法律上は図っているのである。

ここで考えてもらいたい。
近年頻繁に起こる救急患者のたらい回し事件を。
これは医師法19条違反の恐れが十分にあるのではないのか?
たらい回しにより受け入れ病院が見つからずに死亡する患者は、
医師法19条違反の医師によって間接的に殺されたといえるのではないのか?

専門家責任の立場から、本件は極めて妥当な判決であると述べたが、
専門家が果たすべき責任は結果責任ではなく、善管注意義務である。
その状況において最善を尽くしたかどうかであるはずであろう。
そうでなく、結果責任だというのであれば、
医療行為の結果、患者が死亡してしまうとしたら、
その医師は殺人を犯したことになるのか。

同じことが私のような税理士であれば、租税裁判の結果、
納税者の脱税が確定した場合には、その申告を指導した税理士は
脱税指導したことになるのか。
専門家責任論から言えば、結果責任とはこのような意味である。

専門家責任論から見れば、むしろたらい回しの方が悪質であるにもかかわらず、
奈良県警も大阪府警も、妊婦たらい回し事件を問題にしていない。

先に紹介した上准教授の言われるように、
医療事件の刑事事件性の検討が今後に求められる課題であろう。

近年盛んになってきたインフォームドコンセントやセカンドオピニオンは
患者が自分の受ける医療行為を理解し、病院を選択する上で、重要であろう。

我々税理士もこの事件を対岸の火事としてではなく、
専門家責任のあり方を考えるべきであろう。


織田信長の経営塾(幻冬舎文庫2007)
2008.08.19

今日は、ちょっと変わった視点から、会社経営について考えている
本を紹介したいと思います。

北見昌朗「織田信長の経営塾」(幻冬舎文庫)です。
もともとは2004年に講談社から出版されたものを
幻冬舎が、昨年、文庫化した本です。

織田信長のエピソードを現代の企業経営に置き換えて、
信長ならこういうときはどうするだろうかという視点から、
企業経営を考えている本で、著者の北見氏は、
歴史家ではなく、経営コンサルタントである。

著者自信があとがきにおいて、
「私はあくまでも歴史を題材にして、現代の経営者に労務管理の
極意を伝授したかったわけである。」と書いているが、
本書においては、学問上、史実性が疑わしいエピソードも取り上げられている。
本書は歴史書ではないから、一般に知られているエピソードは
史実であるであろうとのもと、題材として使っているに過ぎない。

本書の41~42ページでは、信長の経営相談として、
社員にヤル気を起こさせる秘訣は何ですか?
というコラムがあるが、このコラムが本書の特長であろう。

信長 人の上に立つ者は、もっと人間というものを勉強して欲しい。
   人間というのは、頭と心と体がある。問題はその心だ。
   人間は、自分が行っている仕事に対して誇りを持ちたいものだ。
   仕事を通じて世の中の役に立っているのだという自覚を持てば、
   人間は自然と意欲を燃やすようになる。
   だから、人の心に火をつけることが最も大事だ。

塾生 「人の心に火をつける」のですか?

信長 そうだ。人の心に火をつけるには理想が要る。
   予の場合は、それが天下統一というものだった。
   長く続いた戦乱の世を終わらせて、平和な時代を作ることだった。
   戦国時代は、全国に無数の大名がいて競い合ったが、
   みな自分の領地拡大だけを考えていた。
   予のように天下統一という大目標を真剣に掲げた者は少なかった。
   理想とは、遠く、大きなものだ。他人が、
   「そんなことできるわけがない」と言うような大きな目標が必要だ。
   その理想に人が協力してくれるのだ。

塾生 なるほど、そうですか。
   それならば、私には反省点がございます。・・・(以下略)

このようなやり取りの後、
現代の経営に置き換えてみれば
として、コラムで信長と塾生のやり取りを踏まえた
コンサルタントの解説が入ってくる。

経営指南書となると、小難しい専門用語を並び立てる本が多い中、
本書は、歴史好きにはたまらない、薀蓄を含みながら、
自然に会社を経営する心構えを示してくれている。

これから会社を起業する方、事業に伸び悩みを感じている方に
一読を薦めたい本である。


役員のみなし退職金の損金性(6・完)
2008.08.18

ここまで納税者敗訴の事例1及び納税者勝訴の事例2~4を紹介してきたが、
裁判所で勝敗が分かれたポイントはどこにあったのだろうか。
事例4は上場会社の従業員が執行役に就任するという事情によるものであるため、
役員分掌変更の場合という意味では、事例1~3についてまず検討したい。

 役員分掌変更の場合、役員退職給与の損金性を判断するための基準となるのが
法人税基本通達9-2-32であることは間違いない。その適用についても、
形式的判断ではなく、実質的に判断しなければならない。
退職金が支給される当該役員の分掌変更後の勤務実態が問題となるのである。
 役員退職給与の損金性が否認された多くの事例においては、
本件通達の形式的適用がなされたために実質的に退職の事実がないのが
実情であろう。事例1においても、主要な取引先が代表者の交代を
知らなかったという事実だけみても、名目的に代表取締役を辞任していたこと
が推認できよう。この点、損金性が肯定された事例2は、Bの代表取締役退任
および会長への就任について、社内報に当該人事異動およびあいさつ文を
それぞれ掲載するとともに、取引先等にあいさつ状を送付している。
さらに、事例3においては、就業規則もしくは退職金規定に基づいて
他の従業員と同様の基準で支給された退職金であった。
 また、勤務実態においても、損金性が否認された事例1は、
主要な取引先に対する実質的な対応をBが行っているが、
損金性が肯定された事例2では、(1)役職の新設や異動、給与査定など、
人事上の決定に関与していないこと、(2)取引先の選定や新規契約など、
営業上の決定に関与していないこと及び(3)設備等の取得や修繕など、
会計上の決定に関与していないことなどから、
Bの役員としての勤務実態は否定されている。
同様に、事例3は、本件学長としての職務は常勤を要するものでないだけではなく、
その多くを副学長である丁や学長補佐である戊にゆだねていたことから、
常勤から非常勤への変更として法人税基本通達9-2-32(1)にあたることになる。
 さらに、分掌変更後の報酬については、事例1、2とも半減しているが
判断は分かれている。一方で、事例3は約30%(総額では約21%)の
減少にすぎないにもかかわらず、給与面にも職務の量、内容、性質の変動が
一応反映されていると判示されている。これは、本件通達に規定された
50%以上の減少という数値基準は例示であり、退職の事実を反映する金額
であれば、退職と同一に取り扱われることができるものと考えられる。
 したがって、分掌変更した役員の分掌変更後の勤務実態が退職と同一に
取り扱われるべき退職の事実と実質的に判断できるかどうかが、
役員退職給与の損金性の判断基準となるのである。
 役員としての職務権限を有しないこと、有するとしてもその実質を
補助者等にゆだねていることが必要であると考えられ、
形式的基準としては、就業規則の存在および他の従業員も同様の基準で
取り扱われることが必要であると考えられる。

ところが、事例4を考えてみると、就業規則等に記載されておらず、
職名も担当業務等も変わらず、給与も変わらない場合であっても、
従業員から役員への法的身分が変更されたことによって、
みなし退職金の支給が認められたのである。
このことは、何を意味するのか。

事例1~3の検討から「勤務実態が退職と同一に扱われるべき退職の事実」を
判断基準とされた他、法的身分の変更も退職の事情と同一に扱われるのであれば、
役員が勤務を続けながらみなし退職金を受け取りたいのであれば、
法的身分の変更、つまり、役員から従業員への身分の変更も、
退職の事実とみなし得る可能性が高いと言えよう。

平成20年10月より新しい事業承継税制が遡及適用されることになっているが、
事業承継対策として株式の生前贈与とともに役員の分掌変更を行い、
みなし退職金を支給するケースは多くなることが予想される。

しかし、いわゆる平和事件最高裁判決(最高裁平成16年7月20日判決)が
判示したように、税理士は専門家としての責任において、解説書の記述を
判例等を考慮した上で検討しなければならないことを要求していると考えられ、
その上、自己の判断の根拠とリスクについて、依頼者に対する説明責任さえ
負っていることを、我々税理士は肝に銘じなければならないのである。

ロースクールでは税法が選択科目として導入され、
現在ではごく僅かである税法に強い弁護士が急増することが予想され、
アカウンティングスクールでも税法が必修科目とされていることから、
弁護士も会計士も、税法の専門家が誕生する素地が整っているこの時代、
通達のみに従うのではなく、自己のリスクを踏まえて、実質的な判断が出来なければ、
我々税理士の未来はなくなってくるかもしれない。
心して、自己研鑽をしなければならない時代になったのである。


役員のみなし退職金の損金性(5)
2008.08.17

今日は、昨日紹介した事例と裁判所も日付も同じ別の事件である
大阪地裁平成20年2月29日判決を紹介します。
今日の事例は、会社の使用人であった者が執行役に就任するに当って、
打切り支給された従業員退職給与の退職所得性を争った事例です。

事実の概要は次の通りです。

昭和37年に設立された原告X社は、各種製品の企画、販売及び
輸出入に関する事業を行う、2つの市場の1部に上場する株式会社であり、
平成15年6月26日の株主総会決議に基づき、委員会等設置会社に移行した。
X社の取締役会は、同日、原告の使用人であったBら6名を執行役に選任し、
Bらは、同日、X社の進行役に就任した。
X社は、平成15年7月31日、Bらに対し、本件退職金規定に基づいて
算出した退職金合計6341万円(本件各金員)を支払うこととし、
その際、Bらから、本件各金員に係る所得は所得税法30条1項にいう
「退職所得」に該当するとして合計20万余円の源泉徴収税額を徴収し、
同年8月11日、これを国に納付した。
被告Y税務署長は、平成16年3月31日付けで、X社に対し、
本件各金員に係る所得は所得税法28条1項にいう「給与所得」に該当する
として、納税告知及び不納付加算税賦課決定をしたところ、X社が
本件各処分の取消しを求めて提起されたのが本件である。
なお、X社においては、本件各金員の支払後、報酬委員会規則が策定され
(平成17年6月24日施行)、取締役及び執行役(役員)の退職慰労金の額は、
退任時の報酬月額に在任年数と役位係数を乗じて算出した額を限度とし、
使用人から役員に就任した場合には、社員としての退職金を支給し、
役員退職慰労金については、執行役就任前における使用人であった
勤続期間の通算を行わないこととしている。

本件における裁判所の判断は、次のようなものであった。

Bらが使用人としての地位を喪失すると同時に執行役に就任していること、
Bらが執行役就任前、既にいわゆる執行役員として本部長等のX社における
重要な職位に就いており、執行役就任の前後でBらの職名、担当業務等に
特段変動がみられないこと、Bらに支給された年間の給与額も大幅には
変動していないことなどに照らせば、その勤務関係の基礎を成す契約が
雇用関係から委任契約に変更され、Bらの法的身分に変動が生じたとしても、
これによって直ちにX社とBらとの間の勤務関係がいったん終了したと
みるのは困難である。そうすると、本件各金員が「退職手当、一時恩給
その他の退職により一時に受ける給与」に該当するとはいい難い。

会社の使用人がその執行役に就任する場合、会社の規模、性格、実情等に照らし、
当該身分関係の異動が形式上のものにすぎず、名目的、観念的なものと
いわざるを得ないような特別の事情のない限り、その勤務関係の基礎を成す
契約関係の法的性質自体が抜本的に変動し、その結果として、勤務関係の性質、
内容、労働条件等に重大な変動を生じるのが通常であるということができる。
 そして、Bらの執行役就任時におけるX社の会社としての性格及び規模、
X社における役員の位置付け及びその構成、従業員の役員への就任状況、
給与体系の変更内容、給与支給額の変動内容、Bらの執行役就任時に採られた
各種手続等にかんがみれば、Bらの身分関係の異動がその実質を有するもので
あることは明らかである。
 したがって、BらとX社との勤務関係については、Bらの執行役就任により、
その性質、内容、労働条件において重大な変動を生じたというべきであり、
執行役就任後の勤務関係は、実質的にみて、執行役就任前の勤務関係の
単なる延長とみることはできないというのが相当である。

Bらについては執行役への就任の前後でその勤務関係の性質、内容、
労働条件等において重大な変動があったと認められる上、執行役への就任の
時点でBらのそれまでの継続的な勤務に対する報償ないしその間の
労務の対価を一括精算することについて合理的な必要性も認められるのであって、
本件退職金規定において執行役を含む役員への就任による退職の場合と
それ以外の事由による普通退職の場合とで退職金の支給率を区別して
規定していないことなどをも併せ考えると、本件各金員は、Bらが
執行役への就任という従前の勤務関係の延長とはみられない実質を有する
新たな勤務関係に入ったことに伴い、その時点でBらのそれまでの
継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価を一括精算する趣旨で
支給されたと認めるに十分であり、そうである以上、本件各金員は、課税上、
「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うのが相当というべきである。

大阪地裁はこのように判示して、納税者勝訴としたのである。

本件で注目すべきは、Bらが執行役に就任するという法的身分の変動が、
税法上は、直接勤務関係の終了に伴う退職所得とされる理由ではないことを
指摘した上で、労働条件の変動等を担保として、実質的に退職所得と同等に
取り扱うべき身分関係の変動があったものと事実認定されたという点である。
つまり、本件が納税者勝訴だから、就業規則等に明示されていない場合の
役員就任に伴う従業員退職金の打切り支給は退職所得となる、
と安易に考えることは、許されないということである。
また、本件は控訴されているので、大阪高裁の判断が注目されるところであるが、
事実認定を覆すだけの証拠を課税庁が立証することができれば、
ひっくり返される可能性も大きく残されている判決内容である。
ただ、現状では、実質的に退職所得と同等と取り扱うべき事情が認められる
のであれば、打切り支給は退職所得となると考えてよいのではないだろうか。


役員のみなし退職金の損金性(4)
2008.08.16

今日は、源泉税の事件になりますが、学校法人の理事長が
傘下の高等学校の校長を退職し、傘下の大学の学長に就任したことに伴い、
支給された退職金の退職所得性が認められた
大阪地裁平成20年2月29日判決を紹介します。

事件の概要は次の通りです。

 原告である学校法人の設置するB高校及びC中学の校長であった甲が、
校長を退職した後、同じ学校法人の設置するD大学の学長に就任した。
そこで、原告は、甲に対し、B高校の就業規則及び退職金規定に基づいて、
退職金4800万円余りを支払い、この金員に係る所得は所得税法30条1項に
規定する退職所得に該当するとして、甲の所得税を源泉徴収し、国に納付した。
ところが、被告税務署長は、本件所得は所得税法28条1項に規定する給与所得に
該当するとして、原告に対して納税告知及び不納付加算税付加決定処分
(以下、本件各処分)をしたことから、原告が本件各処分の取消を求め、
訴訟を提起したものである。

裁判所は次のように判断している。

 確かに、甲は、本件校長の職を退く前後を通じて学校法人である原告の
理事及び理事長の地位にとどまっていた。
 本件校長からの退職及び本件学長への就任という勤務関係の異動は、
同一の学校法人の設置する内部組織としての教育機関の代表者、
最終責任者の職間の移動にすぎないとみられなくもない。
 しかしながら、そもそも、同一の学校法人の設置する教育機関であっても、
高等学校と大学とでは、その教育機関としての目的、性格が基本的に異なるものであり、
その差異に応じて学校教育法その他の関係法令によりその組織及び運営の
両面にわたって種々の規制がされているのであって、同一の学校法人との間に
雇用等の法律関係にある者であっても、少なくとも教員については、
その設置する高等学校及び大学相互間の異動は一般的に考え難く、
原告においても、このような観点から、本件高校及び本件大学について
それぞれ別個とした上勤続年数に関する通算規定等を設けていないものと解される。
 甲の平成14年3月31日までの原告における職務のうち主要なものは、
常時勤務を要する本件校長としての職務であったということができ、
その余の理事長としての職務及び園長としての職務は、いずれも常時勤務を
要しないものである上、丁若しくは戊又は副園長にその職務の一部又は大部分を
ゆだねていたというのであるから、これらの職務は、甲の原告における
職務のうちのごく一部にすぎなかったというべきである。
 平成14年4月1日以降については、本件学長としての職務が
主要なものであったということができるものの、甲が本件大学に出勤するのは
1週間に2,3回という頻度であって、理事長としての職務、園長としての
職務と同様、常時勤務を要するものではなく、さらにその多くを副学長である丁や
学長補佐である戊にゆだねていたというのである。
 以上によれば、甲の本件学長就任後の職務は、本件校長在職時の職務に比べ、
その量において相当軽減されたものであるだけでなく、勤務形態自体が
異なるとともに、その内容、性質においても、学校の代表者、
最終責任者としての職務という点では本質的な相違はないものの、
具体的な職務内容や自らのかかわり方については相当程度異なるところがある
というべきである。
 甲の本件学長就任時の給与月額は、本件校長退職時に比べ、約21%減少しており、
本件学長としての職務に対する給与は、本件校長としての職務に対する給与に比べて、
約30%減少したというのであり、給与面にも前記のような職務の量、内容、性質の
変動が一応反映されているということができる。
 以上に認定、説示したところからすれば、甲の本件校長からの退職、
本件学長への就任という勤務関係の異動は、社会通念に照らし、
単に同一法人内における相当業務の変更といった程度のものにとどまらず、
これにより、甲の勤務関係は、その性質、内容、処遇等に重大な変更があった
といわなければならない。

以上のような判断に基づいて、本件退職金を退職所得とする源泉所得税の納付を
容認したのである。

本件は、甲の年齢的な事情を含め、非常に特殊なケースであるため、
いわゆる事例判決として評価すべき事例かもしれない。
しかし、本件における裁判所の判断のポイントである、
就業規則および退職金規定の存在を過小評価すべきではなかろう。

つまり、みなし退職による退職金の支給を考えるためには、
長期的な視点から、就業規則および退職金規定を整備しておくことが重要であり、
また、その就業規則等に基づいて、親族以外の他の従業員にも、
規則通りの支給がなされていることは、傍証として重要である。

本件では、通達がおおむね50%以下の減少とする報酬の減少について、
職務給では約30%、給与全体でも約21%の減少に過ぎないにもかかわらず、
裁判所は、職務の激変に伴う給与の減少として是認したことには、
注目してもよいのではなかろうか。

この点の、今後の税務行政に与える影響を考えると、
課税庁がなぜ控訴しなかったのか、不思議でならない。
つまり、職務の激変に伴う給与の減少額は、通達基準にいう半額以下、を
裁判所は判断基準とはしていないということだからである。

この点の明確な基準は、今後の判例の積み重ねを待つしかなかろうが、
いかに通達のみに従うことが納税者に不利な、
無用の税額の支払をお願いする行為となるかを、我々税理士は肝に銘ずる必要があろう。


役員のみなし退職金の損金性(3)
2008.08.15

今日は、役員に対するみなし退職金の損金性が認められた数少ない事例から、
平成18年11月28日裁決を紹介します。

事実の概要は以下の通りである。

 審査請求人X社の創業者であり取締役会長であるAの長男である
代表取締役Bは、平成13年ころから独断的な言動が目立つようになり、
その子供である取締役専務Cや取締役常務Dらと対立するようになったところ、
平成13年6月ころ、Aは、Bに対して、代表取締役を退任し、
Cを新たに代表取締役に就任させ、X社の経営から退くよう迫った。
平成13年10月にAとBは、Bの代表取締役の退任について
数回話し合いを行い、顧問税理士の担当者Eとも相談の上、
(1)Bは平成14年10月31日をもって取締役を辞任し、
取締役でない会長に就任すること、
(2)Cの代表取締役就任後、Bは営業について一切関与しないこと、
(3)本件辞任後の報酬は、代表取締役退任時の役員報酬の額の半額とすること
で合意した。
 平成14年1月にCは代表取締役に就任した後、
Bは、同年10月17日にX社の代表取締役を辞任する旨の辞任届を提出し、
同日開催の臨時株主総会・取締役会において、Bの取締役退任、
取締役ではない会長への就任および退職慰労金の支給が承認・決定された。
 X社は、Bの代表取締役退任および会長就任について、
社内報に当該人事異動およびあいさつ文をそれぞれ掲載するとともに、
取引先等にあいさつ状を送付した。
 X社の平成14年10月期の法人税について、X社がBの取締役辞任に際し
支給した役員退職金を損金の額に算入したところ、審査被請求人Y税務署長は、
退職の事実は認められないから、当該退職金は役員賞与に該当し
損金の額に算入されないとして更正処分等を行ったのに対し、
X社がその全部の取消しを求めたのが本件である。

本件における審判書の判断は以下のようなものである。

(1)みなし役員とは、相談役、顧問その他これらに類する者で
その法人内における地位、その行う職務等からみて他の役員と同様に
実質的に法人の経営に従事しているものをいい、さらに、
法人の経営に従事するとは、法人の主要な業務執行の意思決定に
参画していることをいうものと解するのが相当である。
 本件辞任は、CとBとの間の経営方針等の対立に端を発し、
本件合意を経て、長期化したBの経営体制を刷新するために、
BをX社の経営から引退させることを目的として行われたものであり、
X社内においてBが更迭されたものと認められる。
また、Bは、本件辞任後において、(1)役職の新設や異動、給与査定など、
人事上の決定に関与していないこと、(2)取引先の選定や新規契約など、
営業上の決定に関与していないこと及び(3)設備等の取得や修繕など、
会計上の決定に関与していないことから、経営に関する重要事項の意思決定に
参画する機会を与えられていないものと認められる。
そうすると、Bは、本件辞任を契機として、取締役の地位を追われ、
経営の第一線からの引退を余儀なくされたものであり、本件辞任後は、
Bの過去の功績に報いるために与えられた名誉職である会長として、
単に名義上存しているにすぎないものと言わざるを得ない。
したがって、Bは、本件辞任後、X社において実質的権限を有しておらず、
その経営に従事していると認めることはできないから、
Bはみなし役員に該当せず、法人税法上の役員には当たらない。

(2)Y税務署長は、Bが本件辞任後も他の従業員給与をはるかに超える額の
給与等の支給を月月受けているから取締役としての地位にある旨主張するが、
Bに支給する金額の決定は、Bの行う職務内容等を基礎としてされたものとは
認められず、単に代表取締役退任時の役員報酬の額の半額とする旨の合意に
基づいてされたにすぎないから、その金額の多寡のみをもって直ちに
Bが取締役としての地位にあるものと言うことはできない。

(3)Y税務署長は、本件各議事録にはBを出席取締役又は取締役会長とする
表記が、また、本件ホームページの会社組織図には取締役と社長との間に
会長を位置付ける表記がある旨主張するが、それらの記載は事実に即しておらず、
その実体を表したものとは認められない。

(4)Y税務署長は、Bが本件各幹部会及び本件各品質管理委員会へ出席の上、
経営陣の一人として経営方針等を指示するあいさつを行っている旨主張するが、
当該各会議自体が経営の重要な意思決定を行う場であるとは認められず、
たとえBがX社の求めるまま当該各会議に出席したとしても、Bが会長や
ISOの提案者という立場からすれば特段不自然であると言うことはできず、
そのあいさつの内容も儀礼的なものにすぎないことから、
Bが経営方針等に関する指示を行っているとは認められない。

(5)Y税務署長は、本件各営業所日誌及び本件各設備稟議書には、
Bのサインがあるから、請求人の業務内容を管理監督している又は
費用支出の可否を判断している旨主張するが、それらのサインは単に
Bが閲覧したことを示すにすぎず、その閲覧した本件各営業所日誌及び
本件各設備稟議書の件数もごく僅かであり、Bがサインしていることをもって、
直ちにBが請求人の業務内容を管理監督している又は費用支出の可否を
判断していると言うことはできない。

以上のように判断して、X社が支出したBのみなし退職金の損金性を是認した。

本件においては、息子である専務取締役Cが祖父である取締役会長のA、
および顧問税理士を味方につけて、父である代表取締役Bに対して行った
クーデターの結果、Bが経営の実権を奪われ、取締役ではない会長に就任した
のであるから、会長職に留まるとはいえ、職務内容の激変に伴う給与額の激変により、
みなし退職金を支払うことを容認したのである。

多くの事例とは決定的に異なる点は、代表取締役を退任したBに
経営の実権が本当に残されていないことであろう。

また、本件において注目すべきは、状況証拠とはいえ、
CやEから非常に多くの物証が提出されている点である。

我々の職務において、注意しなければならない点であるが、
状況証拠とはいえ、裁判までになった場合を想定して、
判断基準となった書証を残しておくことは必要であろう。

また、本件では、取締役会議事録や株主総会議事録が、
課税庁側の証拠として使われていることには、要注意でしょう。
この議事録では、Bが取締役として各議事に参加していることになっており、
ワープロ書きされた記名に対して、押印されていることが
課税庁側から、Bは取締役としての実権を持っていることの証拠とされたのである。

これも注意点であるが、
もし仮に税理士が勝手に作った議事録であったとしたら、
有印私文書偽造になるわけですから、この書類によって、
裁判所が証拠として認定し、敗訴することになれば、
税理士賠償訴訟事件になることは避けられないであろうし、
保険の方でも免責事由になるであろう。


フェンシングの快挙を祝って
2008.08.14

うちの事務所も昨日からお盆休みに入りました。
とはいっても、実家が事務所であるため、
私は毎日事務所に出勤し、実家に帰ってきているであろう
両親の霊とともにお盆を過ごしております。

オリンピックは、悲喜こもごもですね。
北島の2冠を始め、森田の銅、予選敗退でも日本新等、水泳陣は好調、
体操も男子は団体は金を取れませんでしたが、内村が個人総合で銀。
女子は、久しぶりの決勝進出。
フェンシングでは、太田が日本人初のメダリストとして銀。
フェンシング関係者は本当に喜んでいることでしょう。
マイナー競技(失礼!)にとってメダリストの誕生は、
後進の育成には欠かせない悲願だったことでしょう。
このおかげで、競技人口が増え、競技人口が増えれば、
練習環境が飛躍的によくなるからです。
山本先生が40歳でメダリストとなったアーチェリーと同じ構図です。
アーチェリーは弓道と、フェンシングは剣道と
それぞれ似て非なるスポーツですから、
道具も練習環境も同じというわけにはいかないところに、
それぞれの劣悪な練習環境ができてしまう。

私はスポーツは見ている一方ですが、
25年前くらいからサッカーとアメリカンフットボールにはまりました。
サッカーでさえ、Jリーグ構想が実現しそうになるまで
マイナースポーツでしたから、当時からのファンは、
同世代になかなかいませんね。
反町監督のファンだったので、今回の反町ジャパンの結果には非常に
残念でしたが、あれだけ攻撃的な方が、攻撃で悩むとは皮肉なことでした。

日本は1人のスターがそのスポーツをメジャーにするだけに、
今回の太田選手の快挙に溜飲が下がりました。
フェンシングが日本のメジャースポーツになるためには、メダリストが必要なのです。

小倉さんは彼のメダルの瞬間のために、テレビスタッフとケンカしたそうです。
小倉さんのような、アスリートの気持ちの分かるキャスターは
わが国にはどれだけいるのだろうか?それもさびしい気がしますが・・・

頑張れ、日本!


役員のみなし退職金の損金性(2)
2008.08.13

今日は、従来からの判例を代表して、直近の最高裁判決である
最高裁平成19年3月13日判決を紹介したい。

本件の概要は、以下のようなものであった。

 染色業を営んできた原告X社は、創業者であるAが平成3年まで
代表取締役を務め、Aの息子であるBが2代目を引き継いでいた。
しかし、平成11年以降、繊維業界不況の影響から赤字に転落し、
平成11年6月から事業整理を開始するに伴い、
役員報酬を代表取締役Bは150万円から75万円、
取締役Aは80万円から20万円と大幅に引き下げた。
平成13年11月までに工場の従業員を解雇して工場を閉鎖するとともに、
Aら役員および従業員を被保険者とした簡易保険および団体生命保険の
満期保険金として、約1億5614万円の支払いを受けた。
 平成13年10月に給与の改訂を行い、Bは75万円から95万円に増額をし、
平成14年1月にBの妻であるCが取締役に就任したのに伴い、
新事業形態への転換を企図した。
 平成14年3月31日に臨時株主総会、取締役会を開催し、
代表取締役Bの退任、取締役Aの取締役退任を決議し、これに伴い、
Aに対し1560万円、Bに対し4000万円の退職慰労金(本件金員)を
支払うことを決議した。また、後任の代表取締役にはCが就任し、
Bは取締役として残り、Aは監査役に就任することを決議した。
この役員分掌変更に伴い、各々の役員報酬は、Bは95万円から45万円に、
Aは20万円から8万円に減額し、Cは20万円から45万円に増額された。
 被告Y税務署長は、本件退職慰労金の支払いについて、
A、Bに退職の事実がないから役員賞与にあたるとして、
本件更正処分を行ったところ、原告X社が本件更正処分の取り消しを求めて
提訴したものが本件である。

判決内容は地裁、高裁はほぼ同じ、
最高裁は、実質的に事実誤認又は単なる法令違反を主張するのみの
上告理由に対して、上告不受理決定をし、納税者敗訴が確定した。

判決内容は、京都地裁平成18年2月10日判決の文章から紹介する。

 原告は、本件事業年度までに、取引先の倒産、廃業、事業縮小などにより
売上高が減少し、自社工場を閉鎖し、従業員を解雇しており、
外注を主とするようになっており、原告の業務の実態、内容は、
本件事業年度において大きく変わっていることはうかがえる。
しかし、原告は、同年4月1日以降も従前の取引先との取引を継続され、
その取引による売上げが同日以降も、従前の取引先との取引が
原告の業務の主要部分を占めること、主要な取引先との実質的な対応は、
引き続きBが担当していたこと、Cが企画制作及び販売している
商品の売上高が原告の売上高に占める割合は小さいこと、
同日以降のBの報酬は減額されたとはいえ、なお代表取締役であるCと
同額であることなどの事情を考慮すると、Bは、同日以降も、
原告で常勤しており、原告の売上げの相当程度を占める主要な活動について
重要な地位を占めていたというべきである
(原告自身も,本件事業年度の後の法人税の確定申告の際には,
Aが常勤の取締役であるとの認識を有していたこともその表れである。)。
この点、原告は、同日以降、Bに替わってCが代表者として
原告の経営上主要な地位を占めていたという趣旨の主張をし、
証人B及び原告代表者も同趣旨の供述をするが,
Cのそれまでの原告における経験は豊かであったとはいえない上、
Cの創作小物についての経験についても、縮小したとはいえ
原告の営業の主軸となり得るものといえるものではないことに照らし、
両者の供述は不合理というべきであり、採用することはできない。
 そうすると、Bが平成14年3月31日をもって、
「常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても
代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上
主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと」
(本件通達(1))との事実はなく、その他、原告を実質的に退職したのと
同様な事情があったとは認められない。

 確かに、本件事業年度までの工場の閉鎖、従業員の解雇などの経過からすれば、
原告の元従業員などの関係者との関係では、少なくとも形式的には、
Aら役員が退任する意味があることは理解できるものの、そのことは、
実質的にも退職することまでも必要とした事情とまではいうことができない。
また、原告は、Cを代表者として、それまでの染色業から創作小物品の小売へと
業務を転換し、それに伴い、A及びBは、原告を実質的に退職した旨主張するが、
平成14年4月1日以降の原告の売上げの大部分は、従前の取引の継続によるもの
であり、Cの創作小物についてのそれまでの経験が豊富ともいえないことからすれば、
創作小物品の小売への業務の転換を主な目的として代表者を交代し、
それに伴ってA及びBが原告を実質的に退職したとは考え難い。
むしろ、本件事業年度には、保険金等の雑収入があり、
本件金員の支払がない場合には、本件事業年度の法人税額は多額になるのに対し、
本件金員の支払がされ、それが損金として認められた場合には、
法人税額は0円となること、原告の主張によっても、A及びBに対する
退職金の支給が本件事業年度の最終日の株主総会及び取締役会で決議されたと
されていることを考慮すると、上記の雑収入があったことに伴う法人税額の増額を
避けるために、A及びBが原告を退職したものとして、
本件金員の支払をしたという疑いも生じる。

と判示され、退職金の損金性を否認されているのである。

高裁では、もう少し詳しい事実認定が行われているが、
判示内容に全く変わりはない。

従来の判例はこのようなものであったことを念頭において、
次回以降、損金性が認められた事例を紹介することにしたい。


役員のみなし退職金の損金性(1)
2008.08.12

役員の分掌変更に伴ってみなし退職金を支払う場合、
損金性が認められるのであろうか。
法人税法基本通達9-2-32は、
「その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、
実質的に退職したと同様の事情があると認められることによるである場合」
は、支給された退職金を退職所得として取り扱う旨、規定している。
しかし、多くの判例では、その損金性が否定されている。
その点について、私は、平成20年6月18日に東京税理士会館にて
行われた租税訴訟学会第21回研究会において、
最近の3つの事例を用いて、その損金性の判断基準について考察した。
この発表の内容について詳しく知りたい方は、租税訴訟学会HPから、
当日の発表資料を購入(1000円)して頂くか、
月刊税務事例2008年8月号に掲載された私の原稿をお読み下さい。
ここでは、当日、目黒支部の朝倉洋子先生からご指摘を受けた判例を含め、
以下の4つの事例を紹介したいと思います。

事例1.最高裁平成19年3月13日判決(TAINSコードZ888-1249)
事例2.平成18年11月28日裁決(TAINSコードF0-2-277)
事例3.大阪地裁平成20年2月29日判決(TAINSコードZ888-1319)
事例4.大阪地裁平成20年2月29日判決(TAINSコードZ888-1330)

事例1は従来からの判例の流れを踏襲するもので、納税者敗訴判決です。
従来からの判例のほとんどは、役員分掌変更に伴う退職金の支給について、
その損金性を認めないものでした。

ところが、事例2は、お子さんである専務取締役が、
父親に対してクーデターを起こし、父親は代表取締役社長の座を追われ、
取締役ではない会長に就任した事案です。
事例3は、学校法人の理事長が、傘下の高等学校で校長を兼任していましたが、
常勤が必要な校長を退職し、常勤を要しない傘下の大学の学長に就任したことに
伴う退職金の支給を巡る事案で、就業規則や退職金規定がそろっていますし、
必要な書証も大体そろっているという事案です。
事例4は、従業員らが執行役員に就任することにより
その立場が従業員ではなくなることに伴って支給された
いわゆる退職金の打ち切り支給について、
就業規則に明記されていないことを指摘され、否認されたために争われた事案です。

事例2~4は、それぞれ、納税者勝訴、つまり、退職金として認められた事案です。

事例1と事例2~4とでは、どこが異なるために、裁判所の判断が変わるのか、
この6回のシリーズにおいて、それぞれの判例を紹介し、
その判断基準を検討することにしたい。


諦めない心の強さ
2008.08.11

北京オリンピックが開幕しましたが、
わが日本勢は、苦しい戦いを強いられていますね。
そんな中、柔道男子66キロ級で内柴正人選手が、
日本勢第1号で金メダルを獲得しました。

彼の、諦めない心の強さが、本番でも出たなという気がします。

内柴は、4年前のアテネオリンピックでは、
オール1本の圧倒的な強さで金メダルに輝きましたが、
4年前は、正直、期待された選手ではありませんでした。
それこそ、メダルを取れなければ、
なぜ彼を選考したのかという批判をされかねない選手でしたが、
そんな中で勝ったわけです。
今回は、五輪後の相次ぐ怪我で、内柴はもう終わったとまで言われていましたが、
選考会で見事復活。北京の切符を手に入れたわけです。

おそらく、外国勢の中には、このクラスでは日本に人がいない、
と感じ、マークさえしない選手もいたかもしれません。
ディフェンディングチャンピオンというよりも
昨年の世界選手権にも選ばれなかった、ピークを過ぎたベテラン
という扱いだったんではないでしょうか。

それでも、彼は諦めなかったのです。

支えは、子供と奥様だったのでしょう。

大学時代から指導を受け続けた全日本監督斉藤仁先生の指導の賜物かもしれません。

斉藤監督は、現役時代、全日本を取れずに、
万全ではない山下の代わりの選手として、
山下の2階級制覇ではなく、
山下・斉藤で最重量級の2階級制覇を成し遂げた選手でした。

山下が引退した翌年、斉藤のモチベーションが下がってしまったのでしょう、
翌年も全日本を取れず、その翌年の全日本に優勝し、
やっと富士山の頂上を制覇したのです。

その経験が教え子でもある後輩たちに脈々と受け継がれているように思います。

同門の鈴木、石井も後に控えています。
頑張れ、日本。


大学院は昨日でようやく前期終了
2008.08.10

北京オリンピックが始まりました。
マスコミの煽りとは裏腹に、苦戦のスタートを切ったようですね。
ただ、敗れた選手たちも、自分の力を出し切れて負けたなら、
メダルの色だの、取れた取れないだの、いいんではないですかね。
素直に、世界は強かったと認めて、その差を埋める努力が
負けた時から始まるような気がします。
柔道の谷選手、モチベーションが下がっての3位決定戦での一本勝ち、
見事ではないですか。
メダルの色はともかく、最後まで勝負をしてくれたことに感激です。

国士舘大学のはしか騒動の余波でしたが、
昨日は、夏休みのオープンキャンパスをやりながら、
大学院の通常講義は行われました。
税理士試験を並行していた2年生にとっては、
ある意味、昨日は恵みの1日だったように思います。

通常であれば、7月いっぱいで終わりでしたが、2週間間が開いた分、
終わりが遅くなりましたので、税理士試験が終わった後にゼミがあったのは、
修論の勝負になる夏休みを活かすのに、よかったように思います。

ただ、今年の院生たちは、意識が低すぎるのか、
あまりにも危機感がないのが気になるところですね。
免除で進学してきた気持ちは分かりますが、
大学は、研究機関ですから、教えてもらうところではありません。
あくまで、自分で問題意識を持ったテーマについて研究するための
方法論は教えることもできますが、
問題提起に対する自分なりの解答という学術論文のスタイルで
書けるのか、かなり不安がありますね。
幸い、師匠は高みを求めていませんので、その点ではいいんですけど、
ここでやり方を覚えていかないと、
実務に戻ったときに(若手にとっては就職したときか?)
「だから免除は使えない」と言われるだけなんだけどなあ。

ともかく、昨日でお手伝いも一休み、今月は原稿に追われる毎日ですね。


六本木ママの経済学(中経の文庫2008)
2008.08.09

今日は、会計というものを理解するためのヒントになるような
本を紹介したいと思います。

今年の2月に中経の文庫から出版された
友岡賛「六本木ママの経済学」です。

著者の友岡先生は慶応大学商学部の教授です。
友岡先生とは直接の面識はありませんが、
15年ほど前、中央監査法人のスカラシップで、
お弟子さんと一緒だったことから、先生の研究に注目していました。
会計士に求められる役割の変遷に関する翻訳本を出され、
かなり堅い印象を持っていただけに、
この本があの友岡先生が書かれたということに若干驚きました。

林 總 「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?」(ダイヤモンド社)
の大ヒットから会計本が大分売れているようですし、
友岡先生も大分意識しているように思います。

友岡「六本木ママの経済学」は、
お水の世界を舞台にして、お店に勤め続けるのか、
自分のお店を持つのかを迷っている女の子を主人公に
損益分岐点や機会費用について、
非常に分かりやすく解説してくれています。

会計について全く素人でも入っていきやすい本ですので、
将来、自分のお店を持ちたいとお思いの方に、
友岡「六本木ママ・・・」と、林「餃子屋と・・・」の双方を
是非、一読を薦めたいですね。


日税研究賞に友人が入選
2008.08.08

今年の日税研究賞の税理士の部では、
本所支部の税理士、秋山高善氏が、
「消費税法36条の趣旨の探求を通じた消費税法の再検証の必要性」
で受賞されました。

彼は実務家としてはまだ登録して間もないかけだしかもしれませんが、
長年、専門学校で講師をしておりましたので、
彼に教わったという実務家もいらっしゃるかもしれませんね。

彼とは4年来の付き合いで、多くの研究会等で一緒になります。
受賞した論文も今年の2月に、研究の緒の段階で、
日本税法学会関東部会で発表しているものだと思います。
関東部会は毎回発表者2名なのですが、彼が発表した時の相方が僕でした。

ここ2~3年の間に、多くの友人や教え子が、
相次いで様々な賞を受賞してくれるのは嬉しいのですが、
何か、先を越されたなあ、という忸怩たる思いもあるのは事実です。

昨年は、日税研究賞研究者の部で、友人の水野氏が入賞。
ITS総合税制研究会の創設時からの仲間で、
青山IGC学院や武蔵野情報学園では同時期に講師もやっていました。
今は故郷の名古屋で大学教授をやっていらっしゃいます。

昨年はもう一人、牧氏が租税資料館奨励賞を受賞しました。
研究テーマが近いこともあり、よく議論をする友人です。

一昨年は、租税資料館奨励賞を
西新井支部の土屋税理士、東京地方会の青山税理士が受賞し、
4名中2名が友人というか、教え子の受賞でした。
2名とも、僕が教えなくても、何の問題もなかったんですけどね。
ちなみに4年前に同賞を受賞した麹町支部の成瀬税理士も教え子です。

どんどん先を越されていきますが、私はいつか花咲くときまで潜伏中です。
10年後に、「10年前からこんなことを言ってた人がいたんだ」、
言われる日を楽しみに。


税理士よ、プロフェッショナルたれ!
2008.08.07

昨日は、支部と署の交流会がありましたので、
税務署長以下、署幹部の皆様とお会いしてきました。

税理士事務所からの税務相談への対応について、
署長の挨拶でも言及され、支部会員からの要望事項としても
取り上げられていましたが、
署としては、税理士との関係を良好に保つためにも、
最善の努力を尽くして、出来る限りの対応に努めるけれども、
税理士はプロフェッショナルの資格者であるから、
税務行政の簡素化の要請に伴い、出来る限りご自分で
対応して頂きたいとの方針であることを強調しておりました。

この点について、税務弘報9月号97ページに山本守之先生が
「プロとしての税理士」を書いていらっしゃいます。
ここで、紹介したいと思います。

「国税局の税務相談室を訪れると相談に来ている納税者であふれている。
担当者は忙しさでてんてこ舞いである。
 そのせいか、昨年から「税理士等の相談はご遠慮願いたい」
ということになり、この相談事務は各税理士会で行われている。
課税庁にしてみれば、税理士は税務のプロであるから
官庁に相談するよりも自分で考えろということだろう。
 たしかに、プロとして自分で調べることをせずに課税庁に
相談するのは恥ずべきことかも知れない。
 しかし、相談する側には、公表されていない内部情報(通達)を
知りたいという狙いもあるようだ。」

このような書き出しで始まるこの文章は、税理士による税務署への
相談事例の本質を描き出しているように思います。
我々税理士はプロフェッショナルとしての素養と資質を認められて
国家から資格を付与されているはずです。
ですから、法律解釈に疑問があっても、自分で解決できるはずですね。
しかし、現実には、表に出てきていない解釈指針が、
課税庁にはあって、それに従っていなければ、処分されるわけです。
そこに新聞でよく見るであろう追徴事例でよく見る
「見解の相違」が存在することになるわけです。

見解の相違のために、納税者に無用な負担を掛けないために、
我々は自分の解釈以外の判断基準を求めて、税務相談室を利用したのです。
また、OB税理士のように、かつての人脈を通じて、
内部情報を手に入れられる方が、有利になっていたとも言えるわけです。

しかし、今は時代が違います。
小泉改革の下、自己責任社会になりつつありますし、
公務員法の厳格化に伴い、かつてのコネを使えない状況になったわけです。

山本先生の原稿では、静岡地裁平成7年10月13日判決を例に、
内部情報を知っていた税理士が、内部情報をそのままある納税者に適用したところ、
法の本来の解釈に戻って更正処分された例を紹介して、次のようにまとめています。

「結局、税理士が内部情報を生のままで信ずるのではなく、
プロとしての知識や考え方に基づいて処理すべきであろう。
その意味からすれば課税庁の見解を頼りに税理士としての
業務を行うことも考え直すべきであろう。
 このような意味からすれば、プロとしての税理士の相談は
税理士会で担当するのは当然かもしれない。同時に課税庁も
取扱いの情報を内部限りとするのはやめ、すべて公表する
ことにしてはどうか。また、問題のあるものについては
パブリックコメントとすべきである。」

まさに、至言であろう。
国家がその素養と資質を評価して国家資格を付与している税理士が
プロフェッショナルとしての誇りと自信を持たないでどうするのであろうか。
税務署の方ばかりを向いていないで、
もっと納税者の方を向くべきではないのか。

税務署に相談してご指導を仰がなければ、
納税者を指導できないのであれば、何のための国家資格なのか。

我々税理士はプロフェッショナルとしての自覚を
持たなければならないのではならないのではなかろうか。


不利益な遡及立法の合憲性(その4・完)
2008.08.06

ここまで3回に渡って、不利益な遡及立法の合憲性を巡る3つの判例
福岡地裁平成20年1月29日判決(全部取消・納税者勝訴)
東京地裁平成20年2月14日判決(請求棄却)
千葉地裁平成20年5月16日判決(請求棄却)
を検討してきた。

結果は1勝2敗で、納税者には分が悪い結果になっている。
しかし、福岡地裁の論理はオーソドックスな論理展開をしているものの、
東京地裁、千葉地裁の論理には、
本件改正の内容に対する嫌悪感がチラついているように見える。

つまり、公平な課税の実現のためには、法律の大前提であるはずの
法律の遡及適用の禁止を無視してもいいではないかという
先入観が見え隠れするのである。

例えば、千葉地裁では、
「これらの実施を翌年度まで遅らせれば(略)、その間に節税を
ねらいにした不当な低価による土地取引が横行しかねず、これが
資産デフレをもたらすとの懸念によるものであり、特に後者の点は、
現にその与党である自民党の平成16年度税制改正大綱が日本経済新聞に
報道された直後ころから、年内の駆け込み土地売却を勧める税理士等の
提案がインターネットのホームページに掲載される等の動きが
みられたことからも、単なる懸念にとどまらず現実性を帯びていた」
との指摘である。

確かに、この頃、指摘されているような土地売却を謳う税理士は
そこそこいたように思います。大学院でも、修士論文の追い込みで
ありながら、この件への対応に振り回されて、論文どころでは
なくなっていた院生が数名いました。

しかし、節税をねらいにした「不当」な低価については、
不動産屋が個人事業であればともかく、不動産屋が法人であれば、
廉売により購入したら、時価での受贈益課税すべきですよね。
実際に土地が動いていたら、岩瀬事件のように
私法行為による否認を使って、贈与で課税できるのではないでしょうか?
岩瀬事件では「7億円の土地」と「4億円の土地+3億円の現金」の
取引でしたが、一方的な売買だけであれば、この論理を使わないのでしょうか?
そんなに国税庁は、事件毎に態度を変える日和見主義なのでしょうか?

東京地裁や千葉地裁の判断は、
金子先生の分類によっても、狭義の意味での合法的な節税行為になる行為を
脱法行為とでも言うべき「法の網の目を掻い潜る」租税回避と同視する
学問的に見て歪んだ先入観に基づいてなされた判断であると考える。

悪質な「不当な低価」で売買する「不当な課税逃れ」を否認するために、
「私法行為による否認」という論理が生み出されてきたと考えますが、
その結果として、法律が許してきた合法的な節税さえ
法改正の遡及適用によってすべて否認されようというのであろうか。
国税庁および裁判所の判断ミスについて、猛省を求めたい。

遡及適用の問題と租税回避の問題は全く別次元の話であって、
裁判所の判断基準として、「不当」な取引がなされる可能性が
持ち出されること自体、おかしいのではないでしょうか。

また、期間税という問題については、所得税は暦年と決められて、
暦年で法律を適用しなければならないという前提で検討されているように
思いますが、本当にそれでいいのですか?
期間税であるというだけで、遡及適用が一切認められないのは、
予測可能性を著しく害します。

また、東京地裁および千葉地裁は、一応の周知ができていることを
前提に判決はかかれておりますが、それでは信義則の問題はどうでしょうか?
改正前の法律ですから、まさに信義則の対象となる公的見解ですね。
3事例とも更正の請求による事例なので、なんとも言えませんが、
もし平成14年分以前の申告書を用いて申告されて、
間違えて損益通算してしまった方の処分であれば、
少なくとも加算税の取消事由になるでしょうね。

また、一部の税理士の行為が、裁判所に使われてしまった感はありますが、
平成16年1月の税理士会の支部での賀詞交換会の時点で、
どうする?とか、どうした?といった話があったように思います。
本当に周知されていたんですかね?

また、もう1つ、重要な懸念があります。
東京地裁や千葉地裁の論理から言うと、
重要性・緊急性・必要性がそろったら、年の中途でも、
年初にさかのぼって適用することに合理性があると考えられるんですよね?
そうすると、今度の臨時国会で遡及立法されてしまっても、
同じ判断をするんですかね?

これからの税理士はどうやって専門家責任を果たせばいいのでしょうか?
リスクばかり大きくなって、やることの出来る行為は
会計士や弁護士より少ないなんて、この業界に未来はあるのだろうか?

この3事例を読むとそんな重いことを考えずにはいられません。


不利益な遡及立法の合憲性(その3)
2008.08.05

今日は、その2同様、納税者敗訴であった
千葉地裁平成20年5月16日判決について検討したい。

千葉地裁は、まず不利益遡及適用は違憲であることを指摘した上で、
「実質的に考えても、本件譲渡がされた時点においては、その譲渡による
損失を他の各種所得の計算上において損益通算できるとする改正前の
措置法が効力を有していたのであり、一般納税者としては、
その損益通算による利益をも予め考慮して譲渡に及ぶことが
通常予想される。とりわけ、本件譲渡を行った者が租税の専門家とは
いえない一般納税者の場合には、譲渡が行われた年度内に譲渡による
損失の損益通算が廃止されることを予想して、その危険を回避する
措置を期待することが必ずしも容易ではないとみられ、したがって、
原告の場合は、本件改正附則が本件譲渡にも適用されることによる
不利益は決して少なくはないといえる。」と指摘する。

「しかしながら、遡及立法が禁止の対象とする行為は、過去の事実や取引を
課税要件とする新たな租税を創設し、あるいは過去の事実や取引から生じる
納税義務の内容を納税者の不利益に変更する行為であるところ、
所得税はいわゆる期間税であり、これを納付する義務は、国税通則法15条
2項1号の規定により暦年の終了の時に成立し、また、その年分の
納付すべき税額は、原則として所得税法120条の規定により確定申告の
手続により確定するものであり、また、損益通算については、所得税法の
関係規定によれば、所得税の納税義務が成立し、納付すべき税額を
確定する段階において、その年間における総所得金額等を計算する際に、
譲渡所得等の金額の計算上損失が生じている場合には、その金額を
他の各種所得の金額から控除するという制度であり、個々の譲渡の段階
において適用されるものではなく、対象となる譲渡所得の計算も、
個々の譲渡の都度されるものではなく、暦年を単位とした期間で把握される
ものである。
そうすると、本件において、平成16年分の所得税の課税期間が開始
したものの、その所得税の納税義務が成立する以前に行われた本件譲渡
についても改正措置法を適用する旨を定めた本件改正附則は、
厳密に言えば、遡及立法には該当しないといわざるを得ない。」

「もっとも、期間税の場合であっても、納税者は、通常その当時存在する
租税法規に従って課税が行われることを信頼して各種の取引行為を
行うものであるといえるから、その取引によって直ちに納税義務が
発生するものではないとしても、そのような納税者の信頼を保護し、
租税法律主義の趣旨である国民生活の法的安定性や予見可能性の維持を
図る必要はある。もっとも、期間税について、年度の途中において
納税者に不利益な変更がされ、年度の始めにさかのぼって適用される
場合とはいっても、立法過程に多少の時間差があるにすぎない場合や、
納税者の不利益が比較的軽微な場合であるとか、年度の始めに
さかのぼって適用しなければならない必要性が立法目的に照らし
特に高いといえるような場合等種々の場合が考えられるのであるから、
このような場合を捨象して一律に租税法規の遡及適用であるとして、
原則として許されず、特段の事情がある場合にのみ許容されると
解するのは相当ではない。」
と判示して、遡及適用を認めていない。

また、本件改正が立法裁量を逸脱・濫用したか、については、
以下のように判示して、原告の請求を棄却している。

「本件改正措置法の立法目的については、本件譲渡との関係では、
税率引下げによる土地取引の活性化を促すことが低迷するわが国経済の
現状に鑑みて急務とされていたことに加えて、株式に対する課税との
不均衡是正の見地(略)から、土地建物等の長期譲渡所得に係る
損益通算をできるだけ早期に廃止する必要があったことが挙げられる。
そして、本件改正附則を設けたのも、措置法の改正において、
損益通算の廃止は、長期譲渡所得税率の引下げと一体の措置として
実施することを予定していたところ、仮に損益通算の廃止のみの
施行時期を遅らせれば、駆け込み目的の安売りによる資産デフレの
助長が懸念されたことから、改正措置法31条の規定を平成16年分の
所得の課税開始時以後に行う土地等の譲渡について適用する必要性が
高かったことによる。」

「土地建物等の長期譲渡所得について損益通算の制度を廃止することは、
同所得に分離課税方式が採られていることとの整合性を図り、かつ、
損益通算がされることによる不均衡を解消して適正な租税負担の要請に
応えるものとして、合理性があるということができる。」
「平成16年度税制改正における譲渡所得についての損益通算の廃止は、
長期譲渡所得の税率引下げ等の措置と相まって、使用収益に応じた
適切な価格による土地取引を促進し、収益性の高い土地の流動性を高め、
もって、土地市場を活性化させ、これにより土地価格の下落に歯止めが
かかることが期待されたものであり、その目的に照らして、
損益通算廃止措置は合理性を有すると考えられる。」

「本件の場合、不動産譲渡による損失を他の所得の金額の計算上、
損益通算する制度の問題性については、平成16年税制改正の
数年前ごろから政府税制調査会において既に度々指摘されていた
ものであり、これが自由民主党の決定した平成16年度税制改正大綱の
中に損益通算制度廃止という内容で盛り込まれた。そして、
その大綱の内容は、平成15年12月18日の日本経済新聞に
掲載され、その周知の程度は完全なものとはいえないまでも、
平成16年分所得税から長期譲渡所得について損益通算制度が
適用されなくなることを納税者において予測できる状態になった
ということができる。したがって、平成16年1月1日からの
土地建物等の譲渡時を基準とすると、確かに切迫していたことは
否定できないものの、同日以降の土地建物等の譲渡について
損益通算ができなくなることを納税者においてあらかじめ予測する
ことができる可能性がなかったとまではいえない。」

この論理がとんでもない暴挙であることは自明であろう。
つまり、国会論議の中でどのように改正されるか分からない
政府税調及び与党税調の改正大綱の中身は、
日経新聞等に掲載されているから、周知されていたというのである。
この論理をそのまま適用されてしまうならば、
我々税理士は、税調の答申の内容を即時に理解し、
クライアントに周知徹底させなければ、
クライアントとの関係悪化を機に、
税理士賠償訴訟のターゲットにされることを
裁判所が認めたことになるのである。

また、東京地裁でも指摘されているが、もう1点として、
本件改正が先延ばしになっていたら、
「年内の駆け込み土地売却を勧める税理士等の提案が
インターネットのホームページに掲載される等の動きがみられた
ことからも、単なる懸念にとどまらず現実性を帯びていた」
と指摘する。
しかし、改正大綱の中身が周知されていたのならば、
一部の税理士がわざわざHPで節税への呼びかけはしないし、
むしろ、クライアントに周知していなかったら職務怠慢なわけで、
税理士がプロフェッショナルであることをやめたことを
意味するのではないでしょうか?
千葉地裁の論理は、「卵が先か鶏が先か」であって、
自己撞着はなはだしいおかしな判決である。

次回において、この3事例を総括して、検討することとしたい。


お祭り
2008.08.04

昨日は、私が住んでいる町会にある神社の夏祭りでした。
町会でやっていますので、町会の祭りのイメージですね。

昨日はホントに暑かったけれど、娘と山車を引きながら、後ろではお神輿、
水掛祭りなので、お神輿と担ぎ手には、方々から水を掛けられ、
暑い中、一瞬の涼を感じるヒトトキです。

僕は右ひざと腰を痛めているため、神輿を担げませんでしたが、
妻は久しぶり(去年は妊娠中でしたので)に担いでいました。

再来週は富岡八幡の本祭り、深川が熱く燃える日です。

昨日はもう1つ、僕にはイベントがありました。
名古屋にいる教え子の税理士が上京してきましたので、
彼がかつて住んでいた船堀で久しぶりに飲みました。

まだ独立せず、補助税理士をしておりますが、
元気に仕事に励んでいるようで、安心しました。
体調を崩した時期もあるとのことでしたが、
故郷で奮闘してくれているようです。

仕事の関係もあって、年に数回、上京しているので、
当時のメンバーとはよく会っているようです。

船堀の一鳥という焼鳥屋でしたが、非常に上手い店でしたね。
〆で食べた鳥雑炊、最高でした。
シマの鶏飯を思わせる味で懐かしい感じがしました。
いい店紹介してくれてありがとうね。

明日から、本試験。
頑張れ受験生!


不利益な遡及立法の合憲性(その2)
2008.08.03

その1では、納税者勝訴の福岡地裁を取り上げましたが、
今日は、納税者敗訴の東京地裁を検討しましょう。
同じく納税者敗訴判決の千葉地裁は東京地裁とも論理が異なるため、
次回に検討します。

まず東京地裁平成20年2月14日判決を紹介します。

「確かに、行政法規をその公布の前に終結した過去の事実に適用することは、
一般国民の生活における予測を裏切り、法的安定性を害するものであることを
否定することはできず、これをむやみに行うことは許されないというべきである。
このことは、国民の納税義務を定め、これにより国民の財産権への侵害を
根拠付ける法規である租税法規の場合にはより一層妥当するものである。
したがって、租税法規を遡及して適用することは、それが納税者に
利益をもたらす場合は格別、過去の事実や取引を課税要件とする新たな
租税を創設し、あるいは過去の事実や取引から生ずる納税義務の内容を
納税者の不利益に変更するなど、それによって納税者が不利益を被る場合、
現在の法規に従って課税が行われるとの一般国民の信頼を裏切り、
その経済生活における予測可能性や法的安定性を損なうものとして、
憲法84条、30条から導かれる租税法律主義に反し、違憲となることが
あるものと解される。」

「しかし、遡及処罰を禁止している憲法39条と異なり、同法84条、30条は、
租税法規を遡及して適用することを明示的に禁止するものではないから、
納税者に不利益な租税法規の遡及適用が一律に租税法律主義に反して
違憲となるものと解することは出来ない。」
「租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え、
所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有しており、
国民の課税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等の国政全般からの
総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、
極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである」
(最高裁昭和60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁)
「したがって、課税要件等に限らず、租税法規を納税者に不利益に遡及適用
することについても、上記の諸般の事情の下、その合理的な必要性が
認められるときは、租税法律主義に反しないものとして許容される余地
があるものと解される。そして、この場合、納税者に不利益な遡及適用が
租税法律主義に反しないものといえるかどうかは、その遡及適用によって
不利益に変更される納税者の納税義務の性質、その内容を不利益に変更する程度、
及びこれを変更することによって保護されるべき公益の性質などを総合的に
勘案し、その変更が合理的なものとして容認されるべきものであるかどうか
によって判断すべきである(財産権の遡及的制約に関する
最高裁昭和53年7月12日大法廷判決・民集32巻5号946頁参照)。」

「土地等又は建物等の長期譲渡所得について損益通算制度を廃止することは、
同所得に分離課税方式が採られていたこととの整合性を図り、かつ、
損益通算がされることによ不均衡を解消して適正な租税負担の要請に
こたえ得るものとして合理性があったということができる。」
「平成16年度税制改正における譲渡所得についての損益通算の廃止は、
長期譲渡所得の特別控除の廃止及び税率の引き下げと相まって、
使用収益に応じた適切な価格による土地取引を促進し、特に、
収益性の高い土地の流動性を高め、土地市場を活性化させる目的を
有しており、これにより土地価格の下落に歯止めがかかることを
期待してされたものである。したがって、これらの措置を全体として
早急に実施する必要性があったことも肯定することができる。」
「他方、改正措置法31条1項後段の規定の適用を平成17年分所得税
以降とするならば、その適用となる平成17年1月1日までの間に、
節税目的で、すなわち損益通算を目的として、土地等又は建物等が
大量に安価で売却され、土地価格の下落に歯止めをかけようとした
上記政策目的を阻害することが予想された。このことも、(略)
改正措置法31条1項後段の規定の適用時期を平成16年1月1日以後
としたことの合理性を基礎付けるものといえる。」

「平成15年12月に平成16年度税制改正の概要が公表された直後、
同月中に土地等又は建物等を売却するよう強く勧める不動産会社、
税理士等が少なからず存在していたことが認められ、このことからすれば、
改正措置法31条1項後段の規定の適用時期が遅くなればなるほど、
それまでの間に含み損を抱えた不動産の安値での売却が促進される
具体的な危険があったと認めることができるから、その危険が
抽象的で根拠がないとする(略)原告らの主張には理由がない。」

「以上の検討によれば、本件改正附則27条1項により改正措置法
31条1項後段の規定を平成16年1月1日から同年3月31日までの
間に行われた土地等又は建物等の譲渡について適用することは、
その個々の譲渡についてみれば納税者が一定の不利益を受け得ることは
否定できないものの、納税者の平成16年分所得税の納税義務の
内容自体を不利益に変更するものではなく、遡及適用することに
合理的な必要性が認められ、かつ、納税者においても、既に
平成15年12月の時点においてその適用を予測できる可能性が
なかったとまではいえないのであるから、これらの事情を総合的に
勘案すると、当該変更は合理的なものとして容認されるべきものである。」

東京地裁は、以上のような論理構成で、
納税者に対する不利益改正遡及適用を肯定したのである。

遡及適用は原則的には違憲だけれども、課税逃れの恐れが具体的かつ
合理的に予想できるから、課税の公平のために、本件改正は違憲ではない
というのが、東京地裁の判断ではないだろうか。

しかしこの論理は、このような事態が生じるまで法の不備を
是正してこなかったことを無視した判断である。
租税回避であるならばまだしも、本件損益通算は、
法が用意した、狭義の意味での節税行為であり、
それが否認されるのであれば、
法治国家といえず、行政国家に堕したとしかいいようがない暴挙である。

これが脱法行為である租税回避であるというのであれば、
何が合法行為である節税行為であるのか。

また、平成16年1月1日に遡って施行するのではなく、
平成16年3月26日成立、即日施行でもよかったのではないか。
その点について、所得税が期間税であるとの性質から
本件改正を合憲と認めたのが千葉地裁である。

次回は千葉地裁平成20年5月16日判決を検討することにしたい。


福田改造内閣発足
2008.08.02

ようやく、福田内閣が内閣改造を行いました。
やるからには、安倍さんのカラーではない、
福田カラーをどうするかなあと思いましたが、
やはり重厚な、というか、慎重な人選でしたね。
来るべき総選挙への挙党一致体制を確立したかったんですかね?

党人事を見るとそう思います。
人気の麻生。
政策があれだけ違うのに、よく担ぎ出したなあ。
もう自分の次を考えたんですかね。
裏でも動けるまとめ役の笹川さんに、実直な保利さん。
実働部隊として、選対の古賀さん、国対の大島さんを留任させてますね。
党内調整は彼らに丸投げするつもりなんですかね?

伊吹さんの財務大臣は僕的にはヒットです。
まとめ役でありながら、前に出来れない伊吹さんなら、
与謝野さんが動きやすいでしょうし、官僚もやりやすいのではないですかね。
今の時代の幹事長には正直向いてなかったように思います。
ただ、伊吹・二階・与謝野という経済閣僚人事は、
来るべき増税の時代への予兆でしょうか。
11月の政府税調答申が怖い気がする。

問題続出の農水には豪腕の太田さんですね。
谷垣さんも復活し、注目の消費者庁には野田聖子さんですか。

実力者をそろえ、実績を積み重ねることで信頼回復。
慎重な福田さんらしい人選だったように思います。
お手並み拝見。
でも、次の選挙、自分の顔で戦う気、あるのかなあ?

小沢さんは、総理奪取宣言したというのに。


判例紹介 不利益な遡及立法の合憲性(その1)
2008.08.01

平成16年度税制改正において、譲渡損失の損益通算を不可とする改正が
なされたことについて、憤りを感じた実務家は多かったのではないでしょうか。

これは、平成15年12月17日に公表された
与党税調平成16年度税制改正大綱において、
平成16年1月1日以後に行われた取引による譲渡損失の損益通算を
認めない旨の税制改正を行う方針が公表され、
通常国会において、平成16年3月26日成立、
3月31日公布、4月1日施行されたのです。

皆さん、よく考えて下さい。
法律制定以前に遡って適用される法律の適用を遡及適用といいますが、
何のために法律というものは作るのでしょうか。
法律は社会のルールを文章化したもので、
罰則に関しては、これをしたら違反になるよということを、
法律に書いてあれば違法ですが、書いてなければ裁けないのが原則です。
つまり、法律を遡及適用して、法律がなかったときの行為に対して
違法だということは出来ないというのが、法の基本的な考え方です。

ところが、平成16年度税制改正における
譲渡損失の損益通算の不適用については、
法律が制定された平成16年3月26日以前の
平成16年1月1日以後、法律制定前の期間まで、
法律の条文上では、損使役通算適用であったにもかかわらず、
取引後に改正された条文を適用して、不適用とされたのである。

そのことを争った事件が今年に入って3件、地裁判決が相次いで出されています。
福岡地裁平成20年1月29日判決(TAINSコードZ888-1312)
東京地裁平成20年2月14日判決(TAINSコードZ888-1313)
千葉地裁平成20年5月16日判決(TAINSコードZ888-1331)

この3事例に関して、判決が対立していなければ、問題がないのですが、
福岡地裁は全部取消納税者勝訴判決であるものの、
東京地裁、千葉地裁とも、請求棄却で納税者が負けてしまいました。
3事例とも高裁に控訴されていますので、各高裁の判断が待たれるところです。

福岡地裁の判決を紹介します。
「租税法規の遡及適用の禁止は、国民の経済生活に法的安定性、予見可能性を
保障する機能を有することにかんがみると、遡及適用とは、新たに制定された
法規を施行前の時点に遡って適用することをいうと解すべきである。
本件改正は、平成16年3月26日に成立し、同月31日に公布され、
同年4月1日から施行されたものであるところ、その施行前である
同年1月1日から同年3月31日までの建物等の譲渡について適用する
ものであるから、遡及適用に該当するというべきである。」
「本件改正で遡及適用を行う必要性・合理性(とりわけ、損益通算目的の
駆け込み的不動産売却を防止する必要性など)は一定程度認められはするものの、
損益通算を廃止するかどうかの問題は、その性質上、その暦年途中に生じ、
あるいは決定さざるを得ない事由に係っているものでないこと、
本件改正は生活の基本である住宅の取得に関わるものであり、これにより
不利益を被る国民の経済的損失は多額に上る場合も少なくないこと、
平成15年12月31日時点において、国民に対し本件改正が
周知されているといえる状況ではなかったことを総合すると、
本件改正の遡及適用が、国民に対してその経済生活の法的安定性又は
予見可能性を害しないものであるということはできない。
損益通算目的の駆け込み的不動産売却を防止する必要性も、
駆け込み期間を可及的に短くする限度で許容されるものであって、
それを超えて国民に予見可能性を与えないような形で行うことまでも
許容するものではないというべきである。」
「そうすると、本件改正は、新設された特例措置の適用もなく、
損益通算を受けられなくなった原告に適用される限りにおいて、
租税法規不遡及の原則(憲法84条)に違反し、違憲無効というべきである。」