終章

2007.12.25

酒を飲んで性質が良くなる人は珍しい。
車の免許をとって早3年、その間に色々な酔っ払い共を乗せてきたが、
まぁ大概は普段は大人しい人がずうずうしくなったり、普段からずうずうしい人が
更にずうずうしくなったりするだけだ。
期待などしていない、まして言動が奇抜な人が大人しくなるなど、有り得ないことだ。
しかもそれが指揮者などという職業であるならば…。


飲み会は苛烈を極めた。
私は車の運転手だ、酒は飲めないという文言が相手に通用しているのかどうか。
誘いを先輩方向に受け流しながら、周囲に空き瓶や御銚子が積みあがっていくのを
何となく眺めている。
酒を飲まずに過ごす飲み会には慣れていたが、ペースの速さには驚くばかりだ。

先輩は明らかに「飲んでも酔えない雰囲気」に呑まれている。
後藤田さんは「まぁそんなもんにしておけよ」という雰囲気だ。
そして山本氏はドンドン出来上がっていく。


店を出て車に全員を乗せる。
ご機嫌が一人、まずまずご機嫌が一人、飲んだはずなのに蒼白なのが一人、素面一人。
来た道を帰るが、うん、酒くせぇ!!
思わず、冷たい秋の夜に車の窓を開けてしまう。
コレ、検問に捕まったら言い逃れが出来るかな…などとボンヤリと考える。

高速道路を降り、まず山本さんの自宅に向かう。
目の前を走るバスに向かい「あのバスを追え!!そうすれば着くぞ~!!」と相変わらず
ご機嫌な山本さん、運転手に対し「絶対に追い抜くなよ!!追うんだ~!!」と注文。
後ろの車から感じる威圧感、ノロノロと進むバス、進退窮まる運転手、つまりは私。
後藤田さんのフォローを受けつつ、何とか山本さん自宅に到着。

その後後藤田さんの自宅まで。
「おーぅ今日はありがとうねー」といういつもの調子も、心なしか疲れ気味か。
あの後藤田さんが疲れをみせるとは、と驚愕する。

先輩を自宅最寄の駅で降ろしたとき、思わずついた溜息はなんだったのか。
こうして私の人生において、二度と体験しないであろう珍道中は終わった。


その後。
山本さんとは二度とお会いすることはなかった。
氏の訃報をニュースで聞いた際、何ともいえない気分になったのをよく覚えている。
たった一日の出会い、向こうはこちらのことなど全く覚えてもいらっしゃらなかったで
あろうが、私にとっては忘れえぬ経験であった。

後藤田さんとはその後もお付き合いが続いた。
引越しをする私に、新しい合唱団を紹介してくださったのも氏であった。
その後、私が税理士試験に挑戦するため合唱活動を自粛していた際、彼が
亡くなられたのを聞いた。
試験が近かったこともあり、お葬式には行かなかった。
今でも少しの後悔がある。

そして最近、子供らが幼稚園や保育園で覚えてくる数々の歌の中に、
彼らが作った、または関わった曲が数多くあることに今更ながら気が付く。
私が出会ったのは、正に時代を担ったというに相応しい方々だったのだな、と
思わずにはいられない。
あの周囲を振り回さずにはいられないパワーが、今ではひどく懐かしい。

そして、今日も私は歌を歌い続けている。


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