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相続税の物納とは? 物納できる条件や差し押さえとの違いについて解説

相続税の物納とは? 物納できる条件や差し押さえとの違いについて解説

2020年12月16日

遺産相続に付き物である相続税の問題に頭を抱える人も多いでしょう。なかでも、現金で納付することが困難な場合に選ぶ「物納」という方法には、初めての方にとってはわかりづらい複雑な部分が多くあります。この記事では、物納の順位や物納が認められる条件、差し押さえとの違いについて解説します。

相続税の納め方

まず、そもそもどのような場合に相続税の納付義務が発生するのか、どのような納付方法があるのか、といった基本事項を確認しましょう。

相続税は現金で納付

相続財産の合計額が、遺産に係る基礎控除額(3,000万円と、相続人1人につき600万円を合わせた額)を上回る場合、相続税の申告と納税が必要になります。申告・納税の期限は、被相続人の死亡がわかった日の翌日から10ヶ月以内となっています。基本的に、相続税は現金で納めなければなりません。

遺産分割が間に合わなかった場合

相続税の申告・納税期限までに相続財産の分割が間に合わないときでも、申告・納税の期限を延長することはできません。この場合、まずは民法の規定に従って分割したと仮定して相続税を計算し、申告・納税を行います。その後、相続の分割が完了してから、必要に応じて修正申告や更生の請求を行います。

相続税の延納

相続税を一括で納付することが困難である場合、延納を申請できます。ただし、以下の条件をすべて満たす必要があります。

  • 相続税の金額が10万円を超えること
  • 一括で納付するのが困難である事由があること
  • 一括での納付が困難な金額の範囲内で延納を申請すること
  • 延納する税額と利子税額に相当する担保を提供すること(ただし、延納期間が3年以下、かつ延納税額が100万円以下である場合は、担保の提供は必要ありません。)
  • 延納申請期限まで(被相続人の死亡が分かった日の翌日から10ヶ月以内)に、延納申請書と担保提供関係書類を税務署に提出すること

相続税の物納

相続税を現金で納付できず、延納によっても納付することが困難である場合は、「物納」という手段を取ることが考えられます。ここでは物納が認められる条件や物納の順位について説明します。

相続税の物納とは

物納とは、相続税を現金ではなく相続財産そのものによって納付することをいいます。相続財産のなかに金銭にあたるものがなく、手持ちの財産にも相続税に相当する金銭がないなどの場合に取られる手段です。

物納が認められる場合

相続税は、現金ではなく相続した物によって納めることが可能です。ただし、現金により一括で支払うことも、延納して分割で支払うことも困難である場合に限られます。物納は相続税納付の最終手段となっていることから、以下の条件を満たさなければなりません。

  • 延納によっても、相続税を現金で納付するのが困難である事由があること
  • 現金による納付が困難な金額の範囲内でのみ申請をすること
  • 物納が可能な財産、物納にあてるべき財産の順位の定め(後述)に従うこと
  • 物納にあてる財産が日本国内に所在すること
  • 物納申請期限まで(被相続人の死亡が分かった日の翌日から10ヶ月以内)に、物納申請書と物納手続関係書類を税務署に提出すること(ただし、物納手続関係書類提出期限延長届出書を提出することで、物納申請の期限を延長できます。延長できる期間は1回の延長申請につき最大3ヶ月で、延長申請は何回でもできますが、合計で延長できる期間は物納申請期限の翌日から1年未満です。また、書類提出後3ヶ月以内に、税務署により物納が許可または却下されますが、却下された場合、財産を変更し1回まで再申請できます。)

物納の順位とは

物納にあてる財産には、どの財産を優先的に選ぶべきかという順位が定められています。例えば、相続財産の中に、第1順位の財産である上場株式があるにもかかわらず、第2順位の財産である非上場株式を物納にあてることはできません。

  • 第1順位:不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等
  • 第1順位の財産のうち物納劣後財産(後述)にあたるもの
  • 第2順位:非上場株式等
  • 第2順位の財産のうち物納劣後財産にあたるもの
  • 第3順位:動産

なお、上場・非上場株式には、特別の法律により法人の発行する債券や出資証券は含まれますが、短期社債などは含まれません。

また、特定登録美術品(重要文化財や国宝など)は、上記の順位にかかわらず物納にあてることができます。

管理処分不適格財産及び物納劣後財産とは

物納は相続税納付の最終手段ですので、国が管理または処分することが難しい財産は、物納申請財産として認められなかったり優先順位が低いと見なされたりします。

物納申請財産として認められない「管理処分不適格財産」には、例えば以下のような財産が該当します。

  • 不動産
    1. 担保権の設定されている不動産
    2. 権利の帰属について争いのある不動産
    3. 境界線が不明瞭な土地
    4. 使用にあたり、隣り合う不動産の所有者との争訟が必要になる不動産
    5. 管理・処分のために国が多大な費用を負担する必要がある不動産
  • 株式
    1. 譲渡に必要な手続きが取られていない株式
    2. 譲渡制限のある株式
    3. 質権などの担保権が設定されている株式
    4. 権利の帰属について争いのある株式
    5. 共有の株式(ただし、共有者全員がその株式の物納許可申請をする場合を除きます。)

また、「物納劣後財産」に該当する財産は、物納において優先順位が低いとみなされます。例えば、物納劣後財産に該当する不動産と該当しない不動産がある場合は、後者の不動産を優先的に物納にあてなければなりません。物納劣後財産の例として、具体的に以下のような財産が挙げられます。

  • 地上権、永小作権、耕作をするための賃借権、地役権、入会権が設定されている土地
  • 納税義務者が居住している、または事業に使用している建物とその敷地 ただし、納税義務者がその建物・敷地の物納許可申請をする場合を除きます。
  • 劇場、工場、浴場など、特殊な維持・管理が必要である建物とその敷地
  • 道路(建築基準法第43条第1項による)に2メートル以上接していない土地
  • 事業を休止している法人の株式

最近の税制改正での変更点

2017具体的には、社債や株式などの有価証券のうち上場されているものが第1順位に加えられました。この変更により、これまで第2順位であった上場株式を第1順位で物納にあてられるようになっています。また、これまで物納にあてることのできなかった上場投資証券なども第1順位に加えられており、物納にあてられる財産の範囲が広がったといえるでしょう。この変更は、2017年4月1日以降の申請分から適用されています。

☆ヒント
物納には条件があるうえに、物納の順位や物納できない財産など、規定が細かく定められています。そもそも相続にかかわる手続き自体が複雑だといえるでしょう。しかし、相続税の仕組みを上手く活用すれば、節税の余地もあります。財産の相続が決まった段階で、まずは税理士に相談してみるのはいかがでしょうか。

相続税を納められないとどうなる?

延納や物納を使ってもなお相続税を期限内に納付できない場合、税務署から督促状が送付され、延滞税や差し押さえなどのペナルティが課されます。

延滞税

相続税の納付が遅れると、納期限の翌日から納付が完了する日までの日数に対して、一定の割合で延滞税が課せられます。税率は、納期限の翌日から2ヶ月を経過すると大幅に上がります。そのため、相続税の支払いは早いに越したことはないといえるでしょう。

差し押さえ

税務署の督促を受けてもなお相続税の納付がない場合、相続財産が差し押さえられます。この時、衣類や家具、食料といった生活に欠かせないものや、事業のために欠かせないものなどは差し押さえられないことになっています。しかしそれ以外の財産は、本人の意思にかかわらず徴収職員の裁量次第で差し押さえられる可能性があります。

相続税の連帯納付義務とは

相続財産を複数の相続人で分割する場合、その相続人の間で相続税の連帯納付の義務があります。例えば3人で分割相続をし、うち1人が相続税の未納を続けていると、既に自分の分の相続税を納付した他の相続人に未納分の督促がなされることになります。分割相続をする場合は、他の相続人が問題なく相続税を納付できるかどうかという点にも意識を向けておく必要があるでしょう。

まとめ

今回は、相続税の物納の条件や順位、およびその他の注意点を紹介しました。物納をはじめ、相続税の申告には落とし穴も多いものです。多額の相続税が発生しそうだとわかっている場合は、一括現金での納付ができそうか、他にどのような納付方法が可能か、などと事前に考えておくと良いでしょう。

永井綾
慶應大学法学部卒。
外資系コンサルティング会社に勤務後、某有名法律事務所に転職し、広報業務に携わる。
コンサルティング業務での幅広い業界知識と、法学部・法律事務所で培った知識を解説します。
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