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「紀州のドン・ファン」の遺産が田辺市へ?あらためて考える「遺言書のできること」

「紀州のドン・ファン」の遺産が田辺市へ?あらためて考える「遺言書のできること」

2019年9月19日

世間の耳目を集めた、「紀州のドン・ファン」事件。亡くなった会社経営者の遺産約13億円を、「全財産を寄付する」という故人の遺言に基づき、和歌山県田辺市が受け取る方針だと報じられました。遺産を自治体に寄付することが可能なの? 何億円もの遺産分割を、手書きの遺言書でして大丈夫? 相続人はびた一文もらえないの? 遺言書を知るうえで格好の「教科書」でもある今回の事例を通して、あらためてその効力を検証します。(事例の事実関係については、2019年9月15日時点までの報道をベースにしています)

手書きでも有効性は変わらない

今回残されたのは、「全財産を田辺市に寄付する」という内容の自筆の遺言書でした。法的に有効だと認められる遺言書には、次の3種類があります。

 
  • 自筆証書遺言書 遺言の内容を、本人が自筆(手書き)で残す。財産目録などを除き、パソコンなどによる作成はNG。
  • 公正証書遺言書 公証役場に行き、公証人に作成・保管してもらう。
  • 秘密証書遺言書 本人が作成し、公証役場に持っていく。
 

つまり、どんなに遺産が高額であっても、本人の手書きで有効な遺言書を作成することができます。ただし、逆に言えば、本文については、すべて「本人自筆」であることが条件になります。他人が偽造したような場合はもちろん、誰かに代筆してもらってもアウトなのです。字を書くのが困難な場合には、公正証書遺言書にすれば、有効性を保つことができます。

 

第三者の目が入らない「自筆」の場合には、「書き忘れ」にも注意が必要です。遺言内容のほか、署名、日付、そして押印も必須。これらを1つでも欠けば、無効になってしまいます。報道された写真を見る限り、今回の遺言書は、遺産額には見合わないようなごく簡素なものながら、今の要件は満たしています。田辺市も有効性を確認したうえで、遺産受け取りの手続きに入ったのでしょう(念のため筆跡鑑定は行われているようです)。

「人間」以外にも遺産を渡すことはできる

遺産を分ける相手は、相続人やそれ以外の親族、お世話になった人というのが普通でしょう。では、例えば「お世話になった団体」に、それを渡すことはできるのでしょうか? 答えは「イエス」です。

 

遺言書によって、今回のように市町村のほか、学校、福祉施設、公益法人、宗教団体などに遺産を寄付することは可能なのです。この場合、相続税は課税されません。

 

ただ、やはり注意すべき点があります。寄付の相手が自治体だったら問題ないでしょうが、各種民間団体などの場合には、「正式名称」「所在地」などを正確に記すことで、遺言執行人(※)などが戸惑うことのないようにしておく必要があります。また、寄付とはいえ、不動産を譲る場合には、相手の意思も確認しておくべきでしょう。物件の維持管理ができなかったり、現金化が難しかったりして、断られるケースも実際にあるようです。

 
※遺言執行人 財産目録の作成、相続財産の管理、遺言の執行に必要な一切の手続きを行う。相続人の1人がなったり、弁護士や司法書士など専門家に依頼したりすることができる。

すべてが遺言書の内容通りになるのか?

一方今回の事例では、「若い妻」の遺産の取り分についても、話題になっています。「全財産を市に寄付するという遺言書があるのだから、1円ももらえないのではないか」「いや、半分は彼女のものらしい」――。その疑問に答える前に、「もし遺言書がなかったらどうだったのか」を考えてみましょう。

 

被相続人(亡くなった人)の遺言書がない場合、民法が定める相続人には、遺産の法定相続分を受け取る権利があります。報道によれば、このケースの相続人は、「配偶者と兄弟姉妹」。亡くなった会社経営者には、子どもがいなかったのでしょう。もしいれば、相続人は「配偶者と子ども」でした。

 

「配偶者と兄弟姉妹」の相続の場合、法定相続分は前者が3/4、後者が1/4と決められています。兄弟姉妹が複数いたら、1/4をその人数分で分けることになります。

 

さて、今回はさきほど説明したような遺言書がありました。被相続人の意思が示された遺言書は、法定相続分に優先しますから、そのままであれば、遺産は全額が田辺市に渡り、配偶者の取り分は0ということになりそうですが……。実は、必ずしもそうはならないのです。配偶者には、遺留分が認められているからです。

  「遺留分」とは、「最低限受け取れる遺産」のことです。例えば、献身的に夫の介護をした妻が、「全財産を愛人に譲る」という

遺言書によって遺産を1円ももらえなかったら、どうでしょう? そうした理不尽な状況が生じないように、民法は一部の相続人にそれを認めているのです。たとえ寄付であっても、侵害することはできません。

 

ただし、黙っていても遺留分がもらえるのかというと、そうではありません。「必ずしも」と言ったのはそのためで、権利を行使するためには「遺留分侵害請求」をする必要があります。基本的に遺留分を侵害している相手(このケースでは田辺市)に対して、内容証明郵便などで請求権行使の意思を伝えるだけでOK。侵害している相手が、遺留分の支払いを拒否することはできません。

 

田辺市は、具体的な遺産の分割については被相続人の親族と協議する方針だと報じられていますから、今後どういう展開になっていくのかはわかりませんが、仮に配偶者が遺留分を主張した場合、その取り分はどれくらいになるのでしょうか? 「配偶者と兄弟姉妹」が相続人の場合には、配偶者の遺留分は遺産の1/2とされています。なお、兄弟姉妹は相続人ではありますが、遺留分は認められていないのです。

 

さきほど説明したように、今回の事例の配偶者の法定相続分は、遺産の3/4。「全額寄付」という遺言書があったために、受け取る権利は、1/2に「目減り」したことになります。

まとめ

自分の死後、遺言書によって自治体や団体に寄付することができます。ただし、その場合でも、一部の相続人に認められた遺留分を侵害することはできません。

この記事の執筆者
相続財産センター編集部
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