税金ゼロで後継者に自社株を渡せる「事業承継税制」
でも、使うときにはリスクも認識を

税金ゼロで後継者に自社株を渡せる「事業承継税制」  でも、使うときにはリスクも認識を
公開日:
2020/02/12
 
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家業を息子などの後継者に譲る事業承継の際、大きな問題になるのが自社株です。安定的な経営を確保するために不可欠な株式ですが、渡す際には、多額の贈与税や相続税を覚悟しなくてはなりません。それがネックで廃業を余儀なくされた、というような事態を避けるため、2018年度の税制改正で実行されたのが、「事業承継税制」の大幅な拡充です。この改正により、ひとことで言えば、税金を1円も払わずに自社株を渡せるようになりました。ただし、気をつけないと、せっかく「新税制」を使ったのに、“元の木阿弥”になるリスクもあるのです。詳しく解説しましょう。

自社株の贈与税、相続税が「納税猶予」される仕組み

市場で売買されるわけではない非上場会社の株式は、①事業内容の類似する上場会社の株価に比準して評価する「類似業種比準価額方式」、②その会社の純資産額をベースにする「純資産価額方式」、③配当額に準ずる「配当還元方式」――の3つのどれか、ないし組み合わせによって「評価」します。いずれにしても、業績が良かったり、資産を多く持っていたりするほど、その株価は上がっていきます。

 

経営者が持つ自社株はその人の財産ですから、生前に後継者に譲るときには贈与税、相続で渡すことになったら相続税が課税され、その負担が後継者に重くのしかかることになります。そうした現状を踏まえて、18年度に行われたのが、事業承継税制の拡充でした。簡単に言えば、09年度から導入されていた同制度の利用の要件を大幅に緩和したうえで、それを満たせば、自社株の引き継ぎにかかる納税が100%猶予される10年間の特例措置が盛り込まれたのです。

 

ただし、適用を受けるためには、①2018年4月1日から23年3月31日までの5年間に「特例承継計画」を提出すること、②18年1月1日から27年12月31日までに贈与、相続により自社株式を取得すること――が必要になります。

自社株を譲られてから起こりうる問題を知っておく

事業承継の自社株対策に頭を悩ませてきた中小企業経営者、後継者にとっては、間違いなく朗報と言えるでしょう。実際、利用も広がりつつあるようです。ただし、この制度にもリスクが存在することは、きちんと認識しておく必要があります。実は、「事業承継が済んだらそれで終わり」ではないのです。

 

今説明したように、これは自社株を渡す際の贈与税、相続税が「猶予」される制度です。逆に言えば、その時点で「免除」されるわけではありません。制度を利用して自社株を引き継いだ後も守るべき要件があり、もしそれに反した場合には、猶予されていた税金の支払いを求められることになります。原則として、猶予期間分の利子税という税金も別途課税され、それらを一括で支払わなくてはならなくなります。そうした資金が不足しているからこそ、この制度を使うケースがほとんどでしょう。万が一、特例の取り消しを宣告されたら、事業の継続自体が危うくなるかもしれません。

 

この納税猶予の「取消事由」はけっこう多岐にわたり、例えば次のようなものがあります。

 

  • 後継者が会社の代表者でなくなった場合
  • 納税猶予対象株式を譲渡した場合
  • 解散した場合
  • 上場会社に該当した場合
  • 資産管理会社(※1)に該当した場合
  • 事業年度の総収入額がゼロになった場合
  • 年次報告書を未提出または虚偽の報告をしていた場合
  • 資本金・資本準備金を減少した場合
  • 一定の組織変更があった場合

 

後継者にとって、無税で株式を受け取れるのは、ありがたいこと。でも、その適用を受けて走り出した場合には、一定程度、経営の手足を縛られることも覚悟する必要があるのです。

 

※1資産管理会社
有価証券、自ら使用していない不動産、現預金などの特定の資産の保有割合が総額の70%以上の会社(資産保有型会社)や、これらの特定の資産からの運用収入が総収入金額の75%以上の会社(資産運用型会社)をいう。

長期にわたる専門家のフォローが不可欠になる

今のような要件を順守していても、そのことをきちんと報告する義務も課せられていて、それを怠ると、やはり納税猶予は取り消されます。具体的には、制度の適用から5年間は毎年、それ以降も3年に1回、「継続届出書」に一定の書類を添付して、税務署に提出しなくてはなりません。5年間は、都道府県庁にも、認定時の要件を引き続き維持していることを示した「年次報告書」を、毎年提出しなくてはならないのです。管理部門がしっかりしている企業ならまだしも、中小企業にとっては、かなりの負担になるのではないでしょうか。

 

この猶予期間は、基本的に次の事業承継までとなっています。つまり、今回自社株を相続した後継者が、それを自分の子どもなどに渡すまで納税は猶予され、承継によって免除になるという仕組みになっているのです(※2)。

 

裏を返せば、次世代にバトンタッチするまでは、いろいろある「打ち切り事由」に該当しないように注意を払い、関係機関への報告書の提出を続けなくてはなりません。現実問題として、自社でこなすのはもちろん、申告・納税がメインの税理士に頼んでも、対応するのには無理があります。制度を利用しようと考えたら、この税制に詳しい専門家による、長期間のフォローが不可欠になるでしょう。そうしたフォロー体制が望めるのかどうかも含めて、慎重に検討する必要があります。

 

それらに確信が持てない場合、後継者がいろいろな束縛を受けずに経営に臨める環境を保持したい場合には、多少の税金を支払ってでも、従来のやり方で株を渡していくのがベター。「事業承継の新しい制度ができたから」と安心するのではなく、そのメリット・デメリットを、十分比較検討したうえで結論を出すようにしたいものです。

 

※2 後継者が死亡したり、精神障害者保健福祉手帳の交付、要介護5の要介護認定を受けたりしたときにも、納税免除になります。

まとめ

事業承継税制による納税猶予はありがたいけれど、その状態を維持していくのはことのほか大変で、事業活動にとって問題が生じる可能性も。特例の適用を受ける場合には、そういう「負の側面」も考えに入れて、検討する必要があります。

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