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“紀州のドン・ファン”の元妻を逮捕 13億円の遺産をめぐる「4つの可能性」

“紀州のドン・ファン”の元妻を逮捕 13億円の遺産をめぐる「4つの可能性」

2021年5月21日

“紀州のドン・ファン”と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家男性が不審死を遂げた事件は、男性の妻だった女性が殺人などの疑いで逮捕されるという新たな展開をみせています。注目を集めているのは、「全額を田辺市に寄付する」という「遺言書」を残したとされる男性の遺産の行方。まがまがしい殺人が絡んだかもしれないのですが、これは「遺言書の効力」「相続人の資格」「遺留分」といった相続のイロハが詰め込まれた教科書的な事例でもあります。現状で4通りある遺産分割の可能性について、考えてみました。

「コピー用紙に手書き」の遺言は有効か?

まずポイントになるのが、男性が残したとされる「遺言書」です。報道によれば、コピー用紙に赤ペンで「全財産を田辺市にキフする」と記された2013年2月8日付けの遺言書を、知人が託されていたそう。

基本的に遺言書には、遺言の内容を本人が自筆(手書き)で残す「自筆証書遺言書」、公証役場に行き、公証人に作成・保管してもらう「公正証書遺言書」、本人が作成して公証役場に持っていく「秘密証書遺言書」が認められています。ですから、赤ペンだろうが走り書きだろうが、本人自筆で日付や署名、押印があれば、形式的な有効性には問題なしです。

でも、そもそも遺言書によって、人ではなく自治体などの団体に遺産を譲ることができるのでしょうか? 実は、これもOKです。市町村のほか、学校、福祉施設、公益法人、宗教団体などに遺産を寄付することは可能で、相続税も課税されません。遺言書には、それだけの「力」があるわけです。

今回の男性の「遺言書」に関しては、家庭裁判所の「形式的要件を満たしている」という判断を受け、田辺市が遺産を受け取る準備を始めていました。しかし、男性の兄弟姉妹ら4人の親族が、男性の意思に基づいて作成されたものとは認められないと主張。19年8月に遺言書の無効を求める裁判を起こしており、係争中です。

相続の可能性があるのは?

一般に、遺言書のない相続では(今回の事例で、親族の訴えが認められ、遺言書が無効だと認められた場合にも)、遺産は民法が定める相続人の間で、それぞれの相続分に従って分割されることになります(相続人による遺産分割協議で、それとは異なる分割をすることも可能)。

では、相続人とは誰なのか? 被相続人(亡くなった人)の配偶者は、必ず相続人になります。その他の相続人には、次のような「順位」が設けられていて、前の順位の人がいる場合には、後の順位の親族は、相続人にはなれません。

  • 第1順位 子(子が死亡している場合には、孫)=直系卑属
  • 第2順位 親(両親が死亡している場合には、祖父母)=直系尊属
  • 第3順位 兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡している場合には、甥・姪)

今回の事例に当てはめてみましょう。男性と元妻の間に子どもはいませんでした(第1順位該当なし)。また、男性の両親も祖父母も、すでに他界(第2順位該当なし)。ですから、もし遺言書が無効になれば、配偶者だった元妻と第3順位の兄弟姉妹に相続の権利があるということになります。この場合の法定相続分は、「配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4」と定められています。

100%遺言書の通りになるのか?

では、男性の遺言書の有効性が認められたらどうなるのでしょうか? 「全財産を田辺市に」と明記されている以上、親族はびた一文、遺産を受け取ることができないのか?

そんなことはありません。民法は、一部の相続人に、「遺留分」という遺言書があっても一定の遺産を受け取れる権利を認めているのです。例えば、ずっと介護してきた家族がいるのに、被相続人が「家も預金もすべて愛人に譲る」という遺言書を残した場合、そのまま相続が実行されたのでは、あまりにも理不尽と言えるでしょう。そうしたことが起こらないよう相続人を「保護」するのが、その本来の趣旨です。

遺留分として認められるのは、法定相続分の半分です。ですから、このケースでは、遺言書が有効だった場合、元妻の女性は3/4の半分=3/8の遺産を、遺留分として受け取る権利があることになります。この女性は、遺留分を求める意向を示していて、田辺市も遺産分割協議の準備を始めていた、と報じられています。

ところで、この遺留分が認められるのは、配偶者とさきほどの第2順位の相続人(直系尊属)まで、となっています。つまり、第3順位の兄弟姉妹には、遺留分は認められません。4人の血族が遺産を受け取るためには、遺言書の無効が前提になるわけです。

「元妻逮捕」は、相続に影響するのか?

ここまででも論点満載の相続ですが、さらに状況を複雑にしたのは元妻の逮捕で、仮に起訴、裁判という流れになれば、相続自体の様相がガラリと変わります。

民法は「相続欠格」という制度を設けていて、該当すれば、法定相続人であっても相続人の資格を失います。その要件の1つが、「故意に被相続人又は同順位以上の相続人を死亡、または死亡させようとした場合」。もし元妻の殺人罪が確定したら、彼女は遺産を相続することができなくなるのです。

ちなみに、このほか「詐欺や脅迫によって被相続人の遺言を取り消し・変更・妨害させた場合」や、「被相続人の遺言書偽造・変造・破棄・隠蔽した場合」なども、露見すれば「相続欠格」になります。

仮に元妻が相続人でなくなると、遺言書が有効であれば遺産のすべてが田辺市に寄付され、無効だったら全額を兄弟姉妹で分ける、ということになるでしょう。

刑事裁判の決着まで、相続は「中断」か

整理すると、「遺言書が有効か否か」、「元妻の殺人罪が確定するかどうか」によって、この事例の具体的な遺産分割には、次の4パターンが考えられます(それぞれの相続人が、最大限の権利を主張した場合)。

  a)遺言書=有効・元妻=無罪

約13億円の遺産は田辺市に寄付されるが、元妻はそのうち遺留分(3/8)の約5億円を受け取ることができる。

b)遺言書=有効・元妻=有罪

元妻は相続人の資格を剥奪され、田辺市が遺産すべてを譲り受ける。

c)遺言書=無効・元妻=無罪

田辺市は寄付を受けられず、相続人の間で法定相続分による遺産分割が行われる。配偶者である元妻の女性は遺産の3/4、約10億円を相続。1/4を兄弟姉妹で分ける。

d)遺言書=無効・元妻=有罪

市は寄付を受けられない。元妻が相続人の資格を失うため、13億円を兄弟姉妹で分割する。

現時点では、元妻が殺人罪で起訴されるのかどうかも明らかにはなっていません。殺人事件の裁判ということになれば、決着までにはかなりの日時を要するでしょう。その間、遺産の行方は定まらず、ということになります。

まとめ

注目を集める“紀州のドン・ファン”の巨額遺産ですが、元妻の逮捕によって、「遺言書の有効性」とともに、「相続人の資格」が問われることになりました。一件落着は、まだ先のことになりそうです。

この記事の執筆者
相続財産センター編集部
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