自治体の認定申請がスタートした日本のカジノ そこで儲けたら日本人は課税、外国人は非課税に? | MONEYIZM
 

自治体の認定申請がスタートした日本のカジノ
そこで儲けたら日本人は課税、外国人は非課税に?

選挙に勝利した横浜の新市長が、前市長が推進していたカジノを含むIR(統合型リゾート施設)の誘致を撤回する、という出来事がありました。一方で、2021年10月からは、新型コロナの影響で延期されていたIR誘致を目指す自治体の認定申請の受付が、来年4月までの予定で始まりました。いよいよ“日本版カジノ”開設に向けた動きが本格化するわけですが、訪日外国人の儲けに対する課税などについては、政府・与党内で議論がありました。結論はどうなったのでしょう? 現在までの流れをまとめました。

日本人には、他のギャンブルと同じく課税

見つかりにくい「カジノのマネー」

カジノの問題点としてよく指摘されるのが、「ギャンブル依存症」の誘発とともに、「不正なマネー」の温床になるという点です。現金をいったんチップに交換するカジノゲームは、実際にマネーロンダリング(資金洗浄)の場として、活用されてきた歴史があります。

 

儲けに課税しようとした場合も、一筋縄ではいきません。仲間同士でチップを分け合って利益がなかったかのように見せかけるといった不正は、簡単には捕捉しにくいのです。競馬や競輪などの他のギャンブルと違い、客の多くが外国人というのも、課税という点からすると、大きなハンデと言えるでしょう。帰国してしまえば、税務調査が困難になってしまうからです。

 

このカジノの利益に対する課税については、ようやく政府としての方向性が固まった段階です。具体的にみていきましょう。

カジノの利益は「一時所得」

まず、日本人が日本のカジノで利益を得た場合について。これは、税法上、他のギャンブルと同様に「一時所得」とされる見通しです。1年間の利益が50万円を超えた場合には、原則として課税対象になるわけです。

不正防止に「マイナンバーカード」を利用?

では、さきほどのような不正を防ぐ手立ては、何か講じられるのでしょうか? 2019年末に財務省が提示した原案では、「マイナンバーカード」の利用がうたわれています。カジノ入場時に提示するカードに全プレイ履歴を記録し、チップ購入額と払戻金額の差額を算出するというもので、確かにこれが実行されれば、儲けは正確に把握できるでしょう。

 

そもそも日本のカジノを規制するIR整備法では、日本人が国内のカジノに入場する際には、マイナンバーカードの提示が義務づけられていました。これは、ギャンブル依存症対策として、1日の入場回数を制限することなどが目的です。

外国人は「源泉徴収」が検討された

カジノ事業者が換金額を管理

一方、外国人については、今の財務省原案では、事業者が利用客の換金額などを記録し、税を源泉徴収する仕組みが提案されました。競馬など他の公営ギャンブルなどにはない、「厳格な税の取り立て」です。

 

ただし、それは徴収方法の話です。外国人が日本で所得を得たからといって、必ず日本の所得税を課税できるとは限りません。課税できるかどうかは、その人が住む本国との取り決めによるのです。

中国人には課税、韓国人は非課税?

その取り決めを「租税条約」と言います。なぜそうしたものが必要なのかというと、例えばA国人がB国で所得を得たとき、B国が「ここで利益があったのだから」と所得税を徴収し、A国もまた「わが国の国民だから」と課税したら、税の二重取り(二重課税)になるからです。そうした事態を避けるためのルールが、条約に定められています。

 

どちらで納税する必要があるのかは、ケースバイケース。欧米や韓国、OECD(経済協力開発機構)加盟国など多くの国との間では、本国で課税される「居住地国課税」となる条約を結んでいます。つまり、日本では所得税を課税できません。

 

これに対して、中国、インド、シンガポールなどとの条約では、日本で課税することができることになっています。これを「源泉地国課税」と言います。

 

同じ日本のカジノで儲けた外国人でも、中国人やインド人には日本で所得税が課税され、韓国人には課税されない、ということもありえたわけです。

訪日外国人客は非課税の方向に

国際競争力の確保を優先

しかし、この財務省案には、自民党のIR推進派から異論が噴出しました。税を源泉徴収されるとなると、海外の大口顧客は、わざわざ来日することに二の足を踏むかもしれません。カジノ運営のノウハウを持つ海外の事業者なども、そもそも高い納付金などを課せられているうえに、顧客の利益の管理まで義務づけられるのは、大きな負担になるでしょう。

 

国内にカジノを中心としたIRを整備しようというのは、それによって多くの外国人旅行客を呼び込み、経済活性化の起爆剤にしようという国策です。厳格な課税によって国際競争力を失ってしまったら元も子もない、というのが推進派の主張でした。

 

そうした議論の末、当初予定されていた税制改正大綱への、訪日外国人に対する源泉徴収導入は見送られました。結果的に、IR推進派の主張が採用され、「非課税」とする方向性が固まったのです。

 

現時点での政府の見解は、次の通りです(江田憲司衆議院議員の質問主意書に対する答弁)。

 

「IR事業の国際競争力を確保する観点から、非居住者のカジノ所得について非課税とする」方向で検討し、「令和四年度以降の税制改正で具体化する」とされたことを踏まえ、当該税制については、改正の時期を含め、令和四年度以降の税制改正プロセスの中で検討してまいりたい。

 

「非居住者」とは、外国人のこと。要するに、外国人がカジノで得た利益については非課税とし、具体的な中身は2022年度以降の税制改正に盛り込みたい、ということです。

海外のカジノで儲けたら?

反対に、日本人が海外のカジノで儲けたら、税金はどうなるのでしょう? 実は、中国、シンガポール、ドイツ、英国をはじめ海外の多くのカジノでは、非居住者は非課税となっています。アメリカでは源泉徴収を行いますが、一定の基準を超えた「大当たり」の場合に限定されているそう。

 

ならば税金を支払わなくて済むかというと、そうではありません。日本は「全世界課税方式」という課税制度になっているため、国内同様、海外のカジノで儲けた利益が年間50万円を超えたら、一時所得として申告しなくてはならないのです。ただし、利益を得た国で課税された場合には、日本で二重払いする必要はありません。

まとめ

やがて誕生する日本のカジノも、非居住者は儲けに課税されないことになりそうです。日本人が楽しむ場合には、マイナンバーカードが必要。儲けが年間50万円を超えたら、一時所得として申告しなくてはなりません。

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