診療報酬の改定⁉具体的にどんなことが変わるの? | MONEYIZM
 

診療報酬の改定⁉具体的にどんなことが変わるの?

令和4年度の診療報酬改定が施行されました。そもそも、私たちが支払う保険料や病院での支払と診療報酬はどのような関係なのでしょうか?また、診療報酬の改定によって、具体的にはどんなことが変わるのでしょうか?この記事では、診療報酬の基礎的なことや今般の改定についてわかりやすく解説します。

そもそも診療報酬制度とは何か?

私たちの支払う健康保険料と診療報酬の関係

診療報酬とは、病院などの医療機関が行う診療などのサービスに対し、公的な医療保険から医療機関に支払われる報酬 のことを言います。つまり、医療機関が健保組合などの保険者から受け取る報酬を指します。

 

わが国には国民の誰もが公的な医療保険に加入し、一人ひとりが支払う保険料によってお互いに助け合う国民皆保険制度が設けられています。
そのため、国民は医療機関を自由に選んで、安い費用で医療サービスを受けることができます。

 

では、診療報酬と私たちが支払う保険料はどこで結びついているのでしょうか?

 

【保険診療の関係図】

 

被保険者(患者)は公的な医療保険組合(医療保険者)に保険料を支払う
医療施設は患者に医療サービスをする
被保険者は一部負担金を支払う
医療機関から審査支払機関に「診療報酬」を請求する
審査支払機関は審査後、医療保険者に診療報酬を請求する
医療保険者は審査支払機関に請求額を支払う
審査支払機関から診療報酬が支払われる

 

上図の審査支払機関とは、社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会などです。
医療機関からの医療費の請求が正しいかを審査し、医療保険者へ請求します。
上図の④で医療機関が提出する月ごとの診療報酬明細を「レセプト」と呼びます。
最終的に、健康保険組合など医療保険者は、上記①で支払われた保険料から審査支払機関を通じて医療機関に診療報酬を支払っています。

 

上図の赤い矢印が診療報酬と言えます。
診療報酬は、厚生労働大臣が定めた医療サービスのそれぞれの点数を足し合わせた額となります。
そのうち、自己負担分(1〜3割)以外を医療保険者が医療機関に支払うこととなります。

 

ここで、医療報酬といってもすべてが医師や看護師の収入となるわけではありません。
医療機関も事業ですから、人件費だけでなく、材料費、経費などその医療事業に必要な費用を診療報酬でまかなっています。

診療報酬はどのように決まるの?

私たちが医療技術やサービスを受けた場合に病院から受け取った領収書を見ると、各明細項目に点数が付されています。

 

この点数は、厚生労働大臣によって個々の医療行為について細かく点数が決められており、「1点=10円 」で計算されます。
したがって、医療機関が違っても同じ治療を受けた場合には診察代は変わらないようになっています。

 

医療機関が医療サービスの対価として受け取る報酬である診療報酬は、厚生労働大臣が決定します。
その決定に際しては、専門的な立場から調査・ 審議する機関である「中央社会保険医療協議会 (「中医協」と略す)」が設置されています。
中医協は、保険者、被保険者、医師、学者などから構成され、いくつかの外部の専門組織と連携し、個々の医療行為に対する点数について見直し内容を検討します。

 

診療報酬は、医療技術の発達や国内の経済環境などを踏まえ、原則として2年に一度の見直しが行われます。これが「診療報酬改定」です。
直近では令和2年に診療報酬の改定がありましたので、令和4年度が改定の年にあたります。

 

単純に考えますと、診療報酬が上がれば患者の負担も上がり、診療報酬が下がれば医師の収入が減ることにつながります。しかし、診療報酬が下がれば医師にかかろうとする患者が増えるとも言えます。
診療報酬は、診療の対価の問題であり、患者数や感染症などの影響などにより医療の現場は大きく変わります。

令和4年度の診療報酬改定の内容とは?

診療報酬は下がったのか?

令和4年度の診療報酬は、結果としてマイナス0.94%と、引き下げられました。
診療報酬は、診療報酬本体と薬価等に分けられ、技術・サービスの価格とモノ(薬)の価格とから成り立っています。
今回の診療報酬改定の内訳は次のとおりです。

 

令和4年度 診療報酬改定
診療報酬本体 +0.43%
薬価等 -1.37%
合計 -0.94%

今回のこの価格算定には、看護の処遇改善の対応、リフィル処方箋の導入、不妊治療の保険適用によるものが含まれています。細かな改正事項を盛り込んだ結果、最終的に若干の引き下げとなりました。

 

では、今回の診療報酬改定に盛り込まれた具体的内容について見ていきましょう。

看護職員の改善、リフィル処方箋、不妊治療の保険適用について

ここでは、いくつかの内容の中から、看護職員の改善、リフィル処方箋、不妊治療の保険適用を取り上げます。

 

【看護職員の待遇改善】
令和4年度診療報酬改定においては、地域でコロナ医療など一定の医療機関で働く看護職員について月額給与平均12,000円相当のアップの処遇改善 がなされます。
一定の医療機関とは、救急医療を一定数扱う病院などを指します。

 

【リフィル処方箋】
一定期間内に薬の処方箋を繰り返して利用できるという制度 (リフィル処方箋)が新たに導入されます。

 

現状では薬の処方を受けるためにはその都度医師の診察を受ける必要があり、医師から発行された処方箋を持って薬局に行くルールとなっています。

 

改正後は、医師の診察に基づき発行されたリフィル処方箋があれば、一定期間においては、診察なしで薬局で薬の処方が受けられることになります。
対象となる患者は、一定期間に処方箋の反復利用が可能な人に限られるものの、例えば毎月の通院が3ヶ月に1回で済むことになり、家や職場の近くの薬局に行くだけですませることができます。

 

【不妊治療の保険適用】
従来までは不妊治療の保険適用については、経済的負担の軽減を図るための補助はありましたが、健康保険の適用はありませんでした。
 

令和4年4月からは、人工授精、体外受精・顕微鏡受精などについて新たに健康保険が適用されることになりました。少子化に対応し、安心できる社会保障を構築するといった令和2年度からの取り組みの結果です。

今後の医療体制の具体策とは?

コロナにも対応できる効率的・効果的な医療提供体制

今回の改定において、コロナ拡大により明らかになった医療への課題に対応するための改革を進めるとされています。

 

改定は、次の4つの基本認識から構成されており 、要約すると次のとおりです。

  • ● 新たな感染症にも対応できるなど医療を取り巻く課題への対応
  • ● 全世代型社会保障の実現
  • ● 安心・安全で質の高い医療の実現
  • ● 持続可能性の確保、経済・財政との調和

 

重点課題とされる具体的方向性の中に、「医療機能や患者の状態に応じた入院医療の評価」という項目が掲げられています。
これには、入院医療費の算定における包括払い(DPC)制度の見直しが含まれています。
次項では今般の改定によるDPC制度について、少し掘り下げて見てみましょう。

DPC制度の見直しについて

DPC(Diagnosis Procedure Combination:包括払い)制度とは、入院の際の医療費の計算方法に関するしくみです。急患や重症な病気など急性期の入院医療を対象とした制度です。

 

診療行為や投薬を行った実績で医療費を計算する「出来高払い」に対し、包括払いとは、手術などの診療行為に応じて、厚生労働省が定めた点数に基づき1日あたりの金額からなる包括評価部分と出来高評価部分を組み合わせて医療費を計算する方式です。

 

下の式の下線部がDPC(包括払い)による医療費です。

入院に係る医療費=包括評価 × 在院日数 × 医療機関別係数+出来高制による評価

この制度により、同じ病気で入院した場合、1日にかかる医療費が平準化され、医療機関による差が縮小されます。

 

今回の診療報酬改定にあたっては、整備事項として「在院日数を含めた医療の標準化に向けた、DPC制度の算定方法の見直し等」が掲げられています。
診療実態を踏まえてDPC制度を進めるとし、次の3点において見直しされます。

  • ● 医療機関別係数の見直し
  • ● 算定ルールの見直し
  • ● 退院患者調査の見直し

いくら1日あたりの医療費が定められていても、入院日数が異なればその分医療機関の収入が多くなります。そこで、現行のDPC制度について「在院日数」でなく、「1入院」単位という考え方も議論されています。

まとめ

診療報酬改定は2年に1回実施され、今回はコロナの影響により以前よりも健康や医療に対する国民の意識が高くなる中での改定でした。
年々増大する医療費ですが、今後とも医療の現場で、患者である私たちが主体的にかかわることのできる方向づけがなされるといいですね。

岡和恵
大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。 システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。 2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。
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