事実婚のカップルは、住民票の「未届」の記載と収入基準の要件を満たすことで配偶者を健康保険の扶養に入れることができます。会社員・公務員のパートナーは、厚生年金保険の扶養にも入れます。税法上の扶養に入ることはできませんが、子どもは一定の要件を満たすと扶養控除を受けることが可能です。
今回は事実婚のカップルと扶養、配偶者を扶養に入れる要件・手続き・必要書類、子どもを扶養に入れる要件などについて解説していきます。
事実婚でも要件を満たすと社会保険の扶養に入れる
婚姻届を提出していない事実婚のカップルでも、住民票の「未届」の記載・収入基準の要件を満たすと社会保険の扶養に入ることが可能です。住民票の記載とは住民票の続柄に「妻(未届)」「夫(未届)」と記載されていることを意味します。
事実婚の配偶者は、住民票の「未届」の記載・収入基準を満たせば社会保険の扶養に入れる
事実婚とは、婚姻届を出していないものの事実上夫婦として暮らすカップルです。
男女共同参画局のホームページには「事実婚を選択している人は成人人口の2~3%を占めていることが推察される」と記載されています。
婚姻届を出すと苗字が変わり手続きが煩雑である、夫婦別姓を希望しているなどの理由があり事実婚を選ぶ人もいらっしゃるでしょう。
カップルのうち主婦あるいは主夫は一定の要件を満たすと、配偶者の社会保険の扶養に入れます。
1.事実婚および生計が一であることを、証明できる書類(健康保険被保険者証(被扶養者)・連名の郵便物など)がある
2.配偶者が厚生年金に加入している20歳以上60歳未満であり、年収が130万円未満かつ配偶者の年収の2分の1未満
<健康保険・全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合>
1.主として被保険者に生計を維持されている
2.被保険者と同一世帯で暮らしている場合、年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)同時に被保険者の年間収入の2分の1未満である
2は基準を満たさなくても、その世帯の生計の状況を果たしていると認められる際には被扶養者となることがある
「生計が一である」とは、同じ財布で生活をしていることを意味します。
「生計が一である」=同居しているというわけではありませんので、別居していても家族を扶養に入れることは可能です。ただし、事実婚の場合は続柄に「妻(未届)」「夫(未届)」と記載されている住民票を提出しなければならない健康保険組合もあります。
健康保険法の規定は以下のとおりです。
1 被保険者(日雇特例被保険者であった者を含む。以下この項において同じ。)の直系尊属、配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下この項において同じ。)、子、孫及び兄弟姉妹であって、主としてその被保険者により生計を維持するもの
3 被保険者の配偶者で届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあるものの父母及び子であって、その被保険者と同一の世帯に属し、主としてその被保険者により生計を維持するもの
4 前号の配偶者の死亡後におけるその父母及び子であって、引き続きその被保険者と同一の世帯に属し、主としてその被保険者により生計を維持するもの
厚生年金保険・健康保険以外にも、法律婚と事実婚で同等の取り扱いがされているものがあります。
男女共同参画局の公表資料で確認してみましょう。
税法上の扶養(配偶者控除・扶養控除)は対象外
配偶者控除の対象となる「配偶者」とは、民法の規定により婚姻届を出した配偶者を指します。事実婚は該当しないため、配偶者控除の対象外です。
扶養控除は所得税法上の「扶養親族」に対して適用されます。
「扶養親族」の要件の1つに「配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること」という記載がありますので、事実婚の関係では対象外です。
他にも法律婚と取り扱いが異なるものがあります。
事実婚の配偶者が扶養に入る場合の手続き・必要書類
事実婚の配偶者を、健康保険の扶養に入る際の手続き・必要書類
事実婚の配偶者を社会保険の扶養に入れるためには健康保険は健康保険組合に、厚生年金保険は日本年金機構に必要書類を提出し審査を受けます。
審査に通り被扶養者の認定を受けると、被扶養者の健康保険証などが送付されます。
勤務先が大企業の場合、必要書類の提出先は自社で設立した健康保険組合「組合健保」です。
組合健保の規定を読み扶養の要件を確認し、必要書類を集めましょう。公務員や私学教職員なども、独自の健康保険組合に加入することになります。
上記以外の会社員は、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入します。
協会けんぽでは、健康保険被扶養者認定申請書に世帯全員の住民票(続柄が記載されているもの)と対象者の年収を証明できる書類(所得証明書、年金等の支払通知、確定申告の写し、現在給与収入のある方は直近3カ月分の給与明細の写し)を添付し提出します。
場合によっては、以下の書類も必要です。
対象者が資格を喪失している:「資格喪失証明書」を添付する(未喪失の場合は認定後に提出を求めることがある)
対象者と被保険者が別居している:送金の証明書(直近3ヶ月分の銀行振込、現金書留の控え)
扶養の手続きを行いたい方は、勤務先の担当者に報告し書類を受け取りましょう。
被扶養者と認定された後も、健康保険組合は健康保険法施行規則第50条に基づき「現在もその要件を満たしているか」を定期的に再確認します。
再確認は事実婚のカップルだけではなく、全ての被扶養者に対して実施されます。
会社員・公務員で厚生年金保険に加入している場合
事実婚の夫婦のうち一方が会社員・公務員の場合、主婦もしくは主夫を厚生年金の扶養に入れることが可能です。
そのためには、事実婚関係および⽣計同⼀関係の認定が必要です。まずは以下の㋐〜㋕のいずれかの書類が事実婚関係・⽣計同⼀関係証明書類となりますので準備しましょう。
㋐〜㋕のいずれかの書類に加え「事実婚関係及び⽣計同⼀関係に関する申⽴書」への第三者証明の記⼊が必要です。
「住⺠票上は別世帯だが、住⺠票上の住所は同⼀である」というケースでは、㋐〜㋕のいずれかの書類の提出のみで大丈夫です。
「事実婚関係及び⽣計同⼀関係に関する申⽴書」への第三者証明の記⼊は不要です。
事実婚の夫婦の間に生まれた子どもは扶養に入れるのか
認知届を出すと社会保険の扶養に入れる、扶養控除も適用可能
事実婚にかかわらず、婚姻届を出していない男女間の子どもは「認知届」を提出することで父親と子どもの法律的な親子関係が成立します。
よって認知届を提出している場合は、基本的に社会保険の扶養に入ることが可能です。
認知届によって法律的な親子関係が成立していますので、子どもは扶養控除(税法上の扶養)の対象にもなります。
所得税法と事実婚
事実婚の配偶者に、税法上の扶養は適用されません。
しかし、税務大学校論叢第 96 号では「法律婚をあえて選択しない(又はできない)者が増加することが見込まれることを考慮した場合に、所得税法上の「配偶者」について、必ずしも法律婚のみに限定するのではなく、法律婚以外の場合、すなわち、事実婚や同性婚の場合も含めて良いのではないかとの考え方も採り得るところである」と言及されています。
最後には「今日、課題となっているのは、当事者の選択する事実婚や同性婚に対してどのように対応していくか、ということである(略)。こうした複雑化した課題に対して、所得税法のみで対応するというのは困難であり、まずは、民法における議論がなされた上で、それを踏まえて検討するべきではないかと思われる」と提案されています。
まとめ
事実婚のカップルのうち主婦または主夫が扶養に入る要件・手続き・必要書類をこの記事で確認し、実際の場面で活かしていきましょう。