譲渡所得を控除して土地をお得に売却できる! 2020年から適用される 「低未利用土地の譲渡所得特別控除」とは? | MONEYIZM
 

譲渡所得を控除して土地をお得に売却できる!
2020年から適用される
「低未利用土地の譲渡所得特別控除」とは?

現在日本では、少子高齢化・人口減少にともなう未利用の空き地や空き家の増加が問題になっています。こうした土地を、新たな事業を始めるために使いたいといったニーズを持つ人に譲渡し、有効活用してもらい経済を活性化するというのが理想です。しかし、実際には土地の持ち主にとっては、手間や諸費用をかけてまで譲渡することにメリットが少なく、手つかずの不動産がそのままにされてしまっています。そんな未利用の土地ですが、今年から適用される「低未利用土地の譲渡所得特別控除」を利用すれば、譲渡時の所得を100万円分も控除できる可能性があるのです。今回は、この制度の概要や適用を受けるための条件について紹介します。

「低未利用土地の譲渡所得特別控除」とは

低未利用地とは

低未利用地とは、「居住や業務に全く利用されていない、あるいはその周囲の土地と比べて明らかに利用の程度が低い土地」のことを指します。具体的には、空き地および、空き家・空き店舗等のある土地が該当します。コインパーキングについては、設備投資が行われ、ある種の業務に利用されている土地といえますが、「譲渡後に建物等を建ててより高度な利用をする意向が確認された場合は、それまでの土地の利用の程度が低いと考えられるため、低未利用地と認める」と規定されています。

 

人口減少に加え、経済・産業を取り巻く状況の大きな変化の影響もあり、日本における世帯・法人の所有する土地のうち、平成25年度時点で約8%にあたる15万5,000haもの土地が未利用の空地となっています。世帯が所有する空き地の総面積に限定しても、その面積は981キロ平米、およそ3億坪にも上ります。また、低未利用の土地が有効活用されないまま放置された結果として持ち主不明の土地も増加傾向にあり、解消しなければならない問題となっているのです。

特例の適用で低未利用土地の譲渡所得から100万円を控除できる!

令和2年度の税制改正で創設された「低未利用地の適切な利用・管理を促進するための特例措置(以下、「低未利用土地の譲渡所得特別控除」と表記)」は、令和2年7月1日から令和4年12月31日までの間に行う一定の条件を満たす低未利用地の譲渡によって生じる長期譲渡所得から、課税の対象となる金額を100万円分控除できる制度です。同制度は、低未利用土地の譲渡で得られる利益を増やすことで、用途のない土地の持ち主から土地に価値を見出す人への土地の譲渡を促すことを目的としています。

低未利用地増加の背景

低未利用地の譲渡には割高感がある

用途がない土地を売却せずに保有したままでいる人が多い背景には、土地の譲渡にともなう手続きの手間や諸費用の割に期待したほどの利益が得られないという、現在の土地の譲渡に関する制度の持つ「割高感」があります。空き地の取得経緯では「相続・贈与で取得」した割合も増加しており、欲しくて持っているわけではないけど、手放すのにも負担が大きく困っている土地の所有者が多いことが考えられます。

 

  • 土地測量費・解体費が負担
    土地を売却する際には、その土地の境界を明確にするために測量士に確定測量を行ってもらう必要があります。一般的な売買契約書で要求される官民査定有り・立会証明書有りの測量を依頼すると1~3ヶ月の期間を要し、費用は土地の面積でも上下しますが30~80万円前後かかるといわれています。また、土地の上に不要な住宅や作業場などが残っている場合はその解体費用も必要になります。
  • 譲渡益にさらに譲渡所得税を課される
    土地を売却して受け取った譲渡価格から、その土地の取得費と、上記の測量費・解体費に宅建業者への仲介手数料などを合わせた譲渡経費を差し引いた金額が、その譲渡によって得られる「譲渡所得(譲渡益)」となります。この譲渡所得は長期譲渡所得として課税の対象となるため、そこからさらに20%の税金が徴収され、残った分だけが土地を手放して実際に手に入るお金になるということです。

特別控除で土地譲渡時の利益が増える

低未利用土地の譲渡所得特別控除を利用すると、課税対象となる金額をこの譲渡所得額から100万円分控除することができます。譲渡所得額が100万円未満の場合は全額が控除されることになります。譲渡所得にかかる税率は20%なので、金額にして最大20万円分の減税となり、土地の譲渡で得られる利益を増やすことができるのです。

低未利用土地の譲渡所得特別控除を受ける方法は?

確定申告時に書類で申請する

この特別控除を受けるには、令和2年7月1日から令和4年12月31日までの間の土地譲渡を行った年度の確定申告時に、「低未利用土地等確認申請書」と「当該低未利用土地等の売買契約書の写し等譲渡の対価の額が500万円以下であることを明らかにする書類」を確定申告書に添付する必要があります。

低未利用土地等確認書について

低未利用地等確認書は、当該低未利用土地等について、所在市区町村が書面等で後述する特別控除を受けるための要件を満たしていることを確認したことを示す書類のことです。この書類の発行を希望する場合は、以下の3つの要件の確認に必要な書類とともに各市区町村の窓口に申請します。

 

  • 低未利用土地等であることの確認
    1. 1. 低未利用土地等確認申請書(https://www.mlit.go.jp/common/001351595.doc
    2. 2. 売買契約書の写し
    3. 3. 以下のいずれかの書類
      1. 1. 所在市区町村等が運営する空き地・空き家バンクへの登録が確認できる書類
      2. 2. 宅地建物取引業者が、現況更地・空き家・空き店舗である旨を表示した広告
      3. 3. 電気、水道またはガスの使用中止日が確認できる書類( クレジットカードの利用明細等を含む)
      4. 4. その他要件を満たすことを容易に認めることができる書類
  • 譲渡後の利用についての確認
    1. 1. 以下のいずれかの書類
      1. 1. 低未利用土地等の譲渡後の利用について別記様式(2)-1 (宅地建物取引業者の仲介により譲渡した場合)(https://www.mlit.go.jp/common/001351608.doc
      2. 2. 低未利用土地等の譲渡後の利用について(2)-2(宅地建物取引業者を介さず相対取引にて譲渡した場合) (https://www.mlit.go.jp/common/001351609.doc
      3. 3. 低未利用土地等の譲渡後の利用について(2)-3(宅地建物取引業者が譲渡後の利用について確認した場合)(https://www.mlit.go.jp/common/001351610.doc
  • その他の要件の確認等
    1. 1. 申請のあった土地等に係わる登記事項証明書

 

低未利用地として認められるための条件を満たす区域や、交付に要する時間等の「低未利用土地等確認書の詳細」については、居住の市区町村の住宅課等にお問い合わせください。また、「低未利用土地の譲渡所得特別控除制度そのもの」については、市区町村ではなく居住地を管轄する税務署に問い合わせるよう注意してください。

特別控除の対象となるための8要件

特別控除の対象となるためには、以下の8要件をすべて満たす必要があります。

 

  • 譲渡した者が個人であること。
  • 都市計画区域内にある低未利用土地等であり、譲渡の後の土地等の利用について市区町村長の確認がされたものの譲渡であること。
  • 所有期間が5年を超えるものの譲渡であること。
  • 譲渡者がその年に譲渡した低未利用土地等について地年租税特別措置法上の特例措置を受けていないこと。
  • 配偶者等、当該個人と特別の関係がある者への譲渡でないこと。
  • 土地等の上にある資産を含めた譲渡額の合計が500万円を超えないこと。
  • 該当の土地の譲渡について所得税法上の特例措置を受けていないこと。
  • 当該の低未利用土地等と一筆の土地から分筆された土地等について、その前年または前々年にこの特例措置を受けていないこと。

 

☆ヒント
低未利用土地の譲渡所得特別控除を受けるために必要な条件は項目が多く、確認が複雑なものも含まれています。検討している譲渡がこれらの条件を満たしているか、控除を受けることでどのくらいの利益が望めるのかといった具体的かつ個々のケースに伴う疑問は専門家に相談すると安心です。また、同制度で認められる土地の譲渡は、令和4年末までと期限が決まっています。土地の譲渡には時間のかかる諸手続きが必要なこともあるため、土地の売却を検討している方はできるだけ早めに税理士に問い合わせることをおすすめします。

まとめ

2020年(令和4年)12月31日までに使っていない土地の譲渡を行う場合は、低未利用土地の譲渡所得特別控除を利用することで、その譲渡所得の100万円分を課税対象から控除することができます。通常は諸経費や課税によって利益が少なくなってしまいがちな土地の譲渡をお得に行える大きなチャンスですので、使っていないもののなかなか手放すタイミングのなかった土地をお持ちの方は、ぜひこの制度の利用を検討してみてください。

永井綾
慶應大学法学部卒。 外資系コンサルティング会社に勤務後、某有名法律事務所に転職し、広報業務に携わる。 コンサルティング業務での幅広い業界知識と、法学部・法律事務所で培った知識を解説します。
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