個人事業主が注意するべきみなし譲渡とは?
廃業時の対策も解説

個人事業主が注意するべきみなし譲渡とは?  廃業時の対策も解説
公開日:
2021/02/18
 
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2019年10月、廃業した個人事業主についての消費税課税漏れが多数あったとみられるという報道がきっかけで、「みなし譲渡」に注目が集まりました。思わぬ税負担に悩むことがないよう、みなし譲渡とは何なのか、廃業時にはどのようなケースがみなし譲渡になるのか、あらかじめ理解しておきましょう。この記事ではみなし譲渡について、個人事業主と消費税の関わりや節税のためにできることも含めて解説します。

個人事業主と消費税の関わり

みなし譲渡において問題になるのが、事業者の消費税負担です。そもそも個人事業主にはどのような場合に消費税の納税義務が発生するのか、はじめに確認しましょう。

免税事業者と課税事業者

個人であれ法人であれ、事業者には基本的に、売上高にかかる消費税の納付義務があります。しかし、売上規模が小さい事業者は、納税義務の免除を受けることができます。

 

納税義務のある事業者を「課税事業者」、納税義務を免除される事業者を「免税事業者」と呼び、以下の条件のいずれかを満たす場合に免税事業者となります。

 

  • 基準期間(法人の場合は前々年度、個人事業主の場合は前々年)の課税売上高が1,000万円以下であること
    なお課税売上高とは、売上から返品・割戻し・値引き分の返金額を差し引いて消費税を除いた金額であり、免税取引を含みます。
  • 基準期間が1年に満たない場合、その期間の課税売上高を1年相当になるように換算した金額が1,000万円以下であること
    例えば基準期間が3ヶ月である場合、この3ヶ月の間の課税売上高を3で割り、12を掛けた金額が1,000万円以下である場合は、免税事業者となります。
    ただし、特定期間(法人の場合は前事業年度の初め6ヶ月間、個人事業主の場合は前年の1月1日から6月30日の6か月間)の課税売上高が1,000万円を超えた場合は、課税事業者となります。
  • 基準期間がない、すなわち事業開始から1年目または2年目であり、かつ事業年度開始日の時点での資本または出資の金額が1,000万円未満であること

課税事業者の消費税負担

課税事業者となった場合、消費税を計算し申告・納付しなければなりません。税額は、法人の場合は前々年度、個人事業主の場合は前々年を対象とし、課税売上げにかかる消費税額から課税仕入れ等にかかる消費税額(仕入控除税額)を控除することで算出されます。課税仕入れ等には、事業のために棚卸資産や原材料などの購入・賃借を行ったり役務の提供を受けたりすることが含まれます。

みなし譲渡をした際の消費税の取り扱いとは

課税事業者となる個人事業主が注意しておきたいのが「みなし譲渡」です。ここではみなし譲渡にかかる消費税や、特に注意すべきみなし譲渡のパターンをご紹介します。

みなし譲渡とは

「消費税は売上げを対象として課される」と聞くと、対価を支払う取引のみが該当するように思われるかもしれません。しかし、対価なく取引をした、つまり資産を譲渡した場合や時価に比べ極端に低い額(時価のおおむね50%未満)で取引をした場合も課税売上げに該当し、このような取引を「みなし譲渡」と呼びます。例えば、車両や事務用品などを個人に譲渡した場合はみなし譲渡です。また、飲食店経営者が余った食材でまかないを作って食べるという場合も、棚卸資産を個人に譲渡していると考えられみなし譲渡に該当します。

みなし譲渡にかかる消費税

みなし譲渡では、取引された資産などの時価が取引の対価であったとみなされます。例えば、事業用に20万円で購入していたパソコンを家事用として無償で個人に譲渡した場合、これはみなし譲渡に該当し、時価が15万円であれば15万円を課税売上げとした消費税が課されることになります。数千円という低価格で譲渡された場合も、時価である15万円が課税売上げです。

個人事業主が廃業する場合のみなし譲渡とは

みなし譲渡は、特に個人事業主が廃業する時に気を付けておきたいものでもあります。廃業にあたって、建物や車両など事業用に使用していた資産を家事用に転用することはしばしばあるでしょう。この行為は事業資産の個人への譲渡となるため、みなし譲渡に該当します。

 

仮にみなし譲渡における消費税課税の規定がないとすると、個人事業主が事業資産を家事用におろすことで、結果的には個人が消費税の負担なく資産を購入できてしまうことになります。みなし譲渡の規定があるために、このような租税回避はできない仕組みになっているのです。

個人事業主が廃業するときの消費税対策

ここまで、個人事業主が廃業するときに、みなし譲渡による消費税負担が発生し得ることを説明してきました。それでは、この消費税負担額を少しでも軽減するためにできることはあるのでしょうか。ここでは考えられる消費税対策を三つご紹介します。

免税事業者になってからの廃業

一つ目は、免税事業者になってから廃業することです。事業規模を徐々に縮小し課税売上高が1,000万円以下になった翌々年であれば、免税事業者になることができます。その時点での廃業であれば、資産の譲渡を行っても消費税の納付義務を免れることができます。

 

ただし、この手段をとるためには、売上規模が1,000万円以下になり、さらにその後2年近く細々と事業を継続することになります。これは、できるだけ早く廃業したい場合には現実的な手段とはいいにくいでしょう。

簡易課税制度の利用

二つ目は、簡易課税制度を利用することです。簡易課税制度とは、消費税の納付額を計算する際、仕入控除税額の計算を簡略化できるようにする制度です。前々年度(個人事業主の場合は前々年)の課税売上高が5,000万円以下であれば、簡易課税制度の適用を受けるための届出書を提出できます。簡易課税制度の適用を受けると、課税売上げにみなし仕入率をかけることによって簡易的に算出することができるようになります。通常であれば、仕入控除税額の元となる課税仕入れ額を実際の取引に基づいて厳密に算出しなければならないため、仕入控除税額の計算にみなし仕入率を用いることができれば計算にかかる事務的な負担が大幅に軽減されることになります。なお、みなし仕入率は、卸売業は90%、サービス業は50%、というように、事業の種類によって決まっています。

 

ここで、実際の取引に基づいて算出された仕入控除税額よりもみなし仕入率を用いて算出された仕入控除税額の方が大きい場合、簡易課税制度を利用する方が消費税額を小さく抑えられることになります。ただし、簡易課税制度の適用を受けるためには、基準期間(個人事業主の場合は前々年)の始まる前日までに届出書を提出している必要があります。また、簡易課税制度の適用を受けることを選択した場合、最低2年間はみなし仕入率による消費税計算を続けなければならないことにも注意が必要です。

廃業前での事業資産の処分

三つ目は、廃業前に事業資産を処分することです。処分をしてしまえば、譲渡にかかる消費税が発生しないだけでなく、処分にかかる費用を課税仕入れに含めることもできます。当然、資産を家事用に転用することはできなくなりますが、今すぐ廃業したいと思っている個人事業主であっても選択しやすい消費税対策の手段であるといえるでしょう。

 

☆ヒント
廃業するにあたり事業資産を家事用に転用する場合に消費税負担が発生し得る点など、みなし譲渡にはいくつかの注意すべきポイントがあります。廃業を考えるようになり、事業資産を家事用として使用する可能性があるのであれば、できるだけ早く対策を立てることが望ましいでしょう。消費税の扱いは難しく落とし穴も多いですが、一方で節税ポイントもあります。廃業を考え始めた段階で税理士に相談しておくと良いでしょう。

まとめ

今回は、みなし譲渡をした際の消費税の取り扱いや廃業時の注意点、節税方法を解説しました。個人事業主にとって廃業自体が大仕事となりますが、さらに想定外の消費税負担に慌てたくないでしょう。まだ廃業を考えていない段階であっても、みなし譲渡のことを頭に入れておくことをおすすめします。

永井綾
慶應大学法学部卒。 外資系コンサルティング会社に勤務後、某有名法律事務所に転職し、広報業務に携わる。 コンサルティング業務での幅広い業界知識と、法学部・法律事務所で培った知識を解説します。
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