個人事業主の交際費の費用計上は認められますが 無制限ではありません – マネーイズム
 

個人事業主の交際費の費用計上は認められますが
無制限ではありません

事業を展開する過程でいろいろな費用が発生します。なかでも、悩みの種となるのが交際費です。事実、交際費は費用であると税法も会計基準も認めています。しかし、さすがに税法では課税の公平という面から無制限というわけにはいきません。加えられている制約を検証しつつ個人事業主のケースを説明していきます。

交際費は交際費等と理解してください

交際費等と理解しなければならない理由

交際費という名称の問題ではなく、交際費、接待費、機密費等があり事業主が得意先、仕入先その他の事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出する費用全般を交際費等といいます。

 

名称が交通費、広告宣伝費、接待費、機密費等であっても、事業主の事業活動を有利に展開するために支出する費用は交際費等です。上記の事業活動のための支出であれば、経理上交際費の名称で支出するものに限らず税務上は交際費として扱います。

名称から一般的に交際費等に含まれないとされるもの

交際費等に含まれないものとして税法が例示しているものには下記があります。

 

① 従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用。

② 飲食その他、これに類する行為のために要する費用であって、その支出する金額を飲食等に参加した者の数で割って計算した金額が5,000円以下の費用。

③ カレンダー、手帳、扇子、うちわ、手ぬぐいその他、これらに類する物品を贈与するために通常要する費用。

④ 会議に関連して、茶菓、弁当、その他、これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用

⑤ 新聞、雑誌等の出版物または放送番組を編集するために行われる座談会、その他記事の収集のため、または放送のための取材に通常要する費用。

交際費等の意義と範囲

交際費等の意義を検証

交際費の意義については既に記述しましたが、事業主が支出する費用が税法上の交際費等に当たるかどうかの判定基準はありませんので、営業業績の向上に結びつかない無駄な支出をなくすという趣旨に基づき判定するしかありません。

交際費等に含まれるものとその判定チェックポイント

① 交際費等に含まれるものとしては下記のものがあります。

・ 創業記念における宴会費、交通費及び記念品代等の費用

・ 下請け工場、特約店、代理店等となるため、またはするための運動費等の費用

・ 得意先、仕入先等の慶弔、禍福に際して支出する費用

・ 得意先、仕入先その他事業に関係ある者等を旅行、観劇等に招待する費用

・ 建設業者がマンション等の建設に当り、周辺住民の同意を得るため、その住民や関係者に酒食を供与する費用

・ 得意先、仕入先等の役員、従業員に対して取引の謝礼等として支出する費用

 ② 交際費判定のチェクポイント
・ 接待等の事実があること

交際費等は、支払済み、未払いにかかわらず接待等の実態が伴った事実があれば、交際費等として計上できます。

・  使途が明らかであること。

使途が明らかでないものは、交際費等ではなく使途不明金となります。

・  支出は事業に関係ある者のためのものであること。

交際費等の支出は、得意先、仕入先その他事業に関係のある者のためでなければなりません。

・  接待に類する行為であること。

交際費等は、接待、供応、慰安、贈答その他、これらに類する行為のための支出であることが必要です。

・   支出の目的は何か

親睦を深め、取引関係を円滑にすることを目的とする支出でなければなりません。
 

【関連記事】:個人事業主の交際費の考え方を詳しく解説!法人の交際費とどう違う?

交際費等に対する税法の立ち位置

法人税法の交際費等に対する位置付け

法人税法は「損金(費用)」として、売上原価、完成工事原価及び販売費及び一般管理費、その他の費用を挙げています。交際費は販売費及び一般管理費ですから損金です。

租税特別措置法の交際費等に対する位置付け

① 租税特別措置法とは、税法の規定は基本的に正しいのだけれど、「現在の状況には相応しくない部分がある」という時に、景気動向を見極め、経済政策や社会政策等の観点から、税法の規定について臨時的に例外措置を取り、期間を区切って臨時の取扱を定めることをいいます。税法の規定に対する例外規定ですから、法人税法に限らず所得税法、相続税法等にも租税特別措置法は存在します。

 

法人税法においても、この特別法と位置付ける租税特別措置法に、本則である法人税法の取扱いとは異なる規定が多くあります。ここで問題とする交際費等の取扱いはその一つです。

 

②  租税特別措置法は、昭和25年以降一貫して交際費等の損金計上を原則として認めていません。それは企業資本の蓄積強化を推進するため、法人の無駄な費用の使いすぎを防ぐためものです。また、接待のため対応する営業担当社員は法人の費用で飲食しますから、事実上は現物給与に当りますが、それを正確に個人所得に反映させることは不可能です。そのため、元の法人に負担させるためだとか、また何よりも法人の負担で飲食することに対して嫌悪感をもつ国民感情に配慮するためと説明されてきました。

 

この措置法の規定はほぼ3年毎に改定されたり継続されたりしています。時の経済状況を反映して引き締められたり、緩和されたりしてクッションの役割を果たし、臨時特別法なのにあたかも、ずっと存在していたかのような存在感を示して現在に至っています。

 

③  事業の展開には取引先等に対して何らかの支出が必要ですから、租税特別措置法は現実的対応から、極めて限定的に交際費等の損金計上を認めています。それは交際費等には法人の営業活動にとって必要な経費であるという性格もあります。とりわけ我が国では交渉事には飲食接待は当然という悪しき伝統があり、中小規模の法人にはこの現象が色濃く残っているからだと説明しています。

個人事業主にはこんな制約が

交際費等の損金算入に係る具体的規制内容

①  法人の場合

・ 資本金が1億円以下の中小企業の場合は1事業年度で最大800万円まで交際費等に計上できます。資本金1億円超の法人では交際費等は費用計上できません。

・ 本来は接待費ですが、例外として、法人の場合1人あたり5,000円以下の飲食接待費は一定の要件を満たす場合、交際費等から除外することができます。

② 個人事業主の場合は、業務上必要不可欠なものであれば、交際費等を必要経費として計上できます。費用計上に上限はないということです。

個人事業主の場合の交際費等計上の規制はどんなもの?

① 営業活動との関連、支出目的の制約

・ 事業を展開する過程で、事業の特殊性を考慮して事業を円滑かつ有利に進めるための支出であること

・ 支出が得意先、仕入先、その他、事業関係者のためのものであること。

 ②支出金額等の妥当性と適切な会計処理の制約

・ 事業内容・事業規模から判断して妥当な金額でしかも支出回数が常識的であること。

・ その支出に関する会計処理が適正かつ正確に行われており、それを裏付ける領収書等が揃っていること。飲食費を交際費として計上する際には、日時や場所、誰と飲食をしたのか、いくら出費したのかといった内容が必要になります、特に「誰と飲食をしたのか」を明確にしなければなりません。福利厚生費か社内飲食費か会議費かが問題になるからです。

まとめ

法人税法の規定にも拘らず、租税特別措置法は、交際費等を原則損金と認めていません。租税特別措置法の性質上その効力は期間限定であり、かつ時の経済状況に対応して頻繁に変更されてきました。法人税法の規定に拘らず、あたかもずっと存在してきた法律のようにほぼ3年毎に改定されたり、継続されたりしながら景気調整のクッションの役割を果たしてきました。

 

上記は法人の場合であり、個人事業主の場合は規制されませんが、決して無制限に費用と認められるわけではありません。ゴルフ好きの事業主が交際費の名目で、同業者や友人とのゴルフ場通いの多額の費用を決算書に載せたところ、税務調査で8割カット、すなわち計上した金額の8割は費用と認めませんと切り捨てられた事例があります。事業に関係する人たちへの費用かどうか、つまりは「利益を出すために必要な支出であるかどうか」が、交際費として認められるかどうかの重要なポイントとなります。

 

営業活動との関連性を説明できて、金額的に妥当で、その営業活動のために必要な費用であるという裏付が明確にできることが必要ということになります。

 

税理士 久慈伸樹
税理士 専門学校専任講師、短大専任講師、四大時間講師を歴任。退職後税理士法人を主宰、解散後自宅を事務所として税理士業を営む。相続税申告が得意。
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