法人の繰越損失が税金の計算にどう影響するのか? 節税につながるのか? | MONEYIZM
 

法人の繰越損失が税金の計算にどう影響するのか?
節税につながるのか?

「赤字を翌年度以降の節税に活用できる」これが法人の繰越損失の制度です。しかし、すべての法人が赤字の全額を翌年度以降の所得金額から控除できるわけではありません。繰越損失を節税に最大限活用するためには条件があります。そこで、繰越損失について解説します。

そもそも繰越損失とは何か?

繰越損失は法人の節税に活用できることは周知のことでしょう。そこで、まずは繰越損失のアウトラインについて説明します。

所得金額から引ききれない赤字の金額が繰越損失である

繰越損失とは、所得金額から引ききれない金額のことを指します。たとえば、今期の赤字が100万円とします。所得金額は0円のため、引ききれない赤字100万円と同額(100万円)が繰越損失となります。また、別の例として、今期の所得金額50万円に対し、前期以前の累積赤字が100万円とします。その場合、所得金額から引ききれない赤字の金額「所得金額50万円-赤字100万円=▲50万円」が繰越損失となります。

繰越損失の種類について解説

繰越損失の種類はおもに2種類あります。それぞれの繰越損失について紹介します。

(1)青色申告欠損金

青色申告で確定申告をした繰越損失について、翌年度以降の所得金額から控除できる制度です。この繰越損失のことを青色申告欠損金といいます。つまり、白色申告で確定申告をした繰越損失は翌年度以降の所得金額から控除できず、切り捨てられてしまいます。特に法人を設立する場合、青色申告承認申請書を次のいずれか早い日の前日の提出期限までに提出することが大切になってきます。

・設立の日から3月を経過した日(設立日が7月1日の場合、提出期限は9月30日)

・設立年度の終了日(決算日が3月31日の場合、提出期限は3月30日)

(2)  災害損失金

繰越損失のうち、災害に伴う損失部分について翌年度以降の所得金額から控除できる制度です。青色申告だけでなく、白色申告にも適用できるのが特徴です。なお、災害と損失部分についてのそれぞれの範囲は次の通りです。

①  災害

・震災、風水害、火災、冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害

・鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害

・害虫、害獣その他の生物による異常な災害

②  損失部分

・棚卸資産、固定資産、固定資産を利用するために支出された繰延資産(賃貸物件の権利金など)について生じた損失の額

・被害資産の原状回復(元に戻す)のための費用

・被害の拡大または発生の防止のための費用

ただし、保険金、損害賠償金などで補てんされる金額は災害損失欠損金から控除します。

青色申告の繰越損失について解説

法人の繰越損失で翌年度以降の所得金額から控除できるケースは青色申告欠損金が多いでしょう。そこで、青色申告の繰越損失について詳しく紹介します。

中小企業の繰越損失の取り扱い

中小企業の繰越損失は翌年度以降の所得金額から全額控除することができます。たとえば、今期の繰越損失100万円、翌期の所得金額が100万円とします。翌期の法人税などの課税対象額は「所得金額100万円-繰越損失100万円=0円」となります。

中小企業以外の繰越損失の取り扱い

中小企業以外の場合、繰越損失は翌年度以降の所得金額から全額控除することができません。そのため、今期の繰越損失が翌期の所得金額を上回っても、法人税などの課税対象額はプラスとなるケースが生じます。繰越損失のうち、所得控除できる金額は年度の開始日に応じて次の割合となります。

年度の開始日 控除できる割合 所得金額100万円の場合に控除できる金額
平成24年4月1日から
平成27年3月31日
所得金額の80% 80万円
平成27年4月1日から
平成28年3月31日
所得金額の65% 65万円
平成28年4月1日から
平成29年3月31日
所得金額の60% 60万円
平成29年4月1日から
平成30年3月31日
所得金額の55% 55万円
平成30年4月1日以降 所得金額の50% 50万円

 

所得金額から控除できる繰越損失の割合は年々減少していることが分かります。そのため、中小企業以外については繰越損失を活用した節税がしづらくなってきているといえます。

中小企業の範囲について解説

繰越損失の全額が所得控除できる中小企業の範囲は次の条件を満たす法人です。

(1)資本金が1億円以下または資本金がない法人であること

(2)資本金5億円以上の大法人が100%出資する法人でないこと

繰越損失を利用して税金の還付が受けられる繰り戻し還付制度について解説

繰越損失は翌年度以降の所得金額から控除できるだけなく、過去に支払った税金を取り戻すことができます。それが繰り戻し還付制度です。

そもそも繰り戻し還付制度とは何か?

過去に支払った税金を取り戻せる繰り戻し還付制度を詳しく見ていきましょう。

(1)対象となる法人

・青色申告書を提出する法人

・災害損失欠損金がある法人

(2)繰り戻し還付で税金が取り戻せる条件

・前年度、今年度について連続して青色申告により確定申告書を提出していること

・今年度の青色申告書である確定申告書を提出期限までに提出していること

・確定申告書の提出と同時に欠損金の繰戻しによる還付請求書を提出すること

・次の法人であること

①  中小企業

②  公益法人等

③  協同組合等

④  公益法人等とみなされる法人(認可地縁団体、管理組合法人、団地管理組合法人、法人である政党等、防災街区整備事業組合、特定非営利活動法人、マンション建替組合、マンション敷地売却組合)

⑤  人格のない社団等(PTA、同業者団体など)

 

※中小企業の範囲は前述の青色申告の繰越損失を翌年度以降の所得金額から控除できる場合と同じです。

繰り戻し還付制度により還付される金額の計算方法

そもそも繰り戻し還付は前年度に法人税を納付していることが大前提であり、その税金を取り戻す制度です。還付される金額の計算方法は次の通りです。

前年度の法人税額×(今年度の繰越損失/前年度の所得金額)

 

例)

前年度の法人税75万円、前年度の所得金額500万円、今年度の繰越損失400万円の場合

 

前年度の法人税75万円×(今年度の繰越損失400万円/前年度の所得金額500万円)=60万円

 

なお、繰り戻し還付で使い切れない繰越損失は翌年度以降の所得金額から控除することができます。たとえば、前年度の所得金額500万円、今年度の繰越損失600万円で繰り戻し還付に税金を取り戻した場合、「今年度の繰越損失600万円-前年度の所得金額500万円=100万円」が翌年度以降の所得金額から控除することが可能です。

まとめ

繰越損失は中小企業の節税に活用することができます。また、過去に支払った法人税を取り戻すことも可能です。しかし、繰越損失を最大限節税に活用するためには、青色申告の承認を受けることが必須です。特に法人を設立する場合、青色申告承認申請書を提出期限までに必ず提出するようにしましょう。

阿部正仁
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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