“攻めの投資”を可能にする 中小企業税制措置拡充について解説 【平成29年度税制改正】 | MONEYIZM
 

“攻めの投資”を可能にする
中小企業税制措置拡充について解説
【平成29年度税制改正】

税制は頻繁に変わってしまうため、中小企業のオーナーが常に最新の情報をキャッチアップするのは難しいかもしれませんが、節税や経営方針を練る上でとても重要です。今回は平成29年度税制改正の中の中小・小規模事業者の「攻めの投資」を支援する税制措置について解説します。

固定資産税の特例の拡充

第一に、中小企業者の固定資産税の特例措置を拡充し、対象設備に一定の器具・建物附属設備等を追加します。そもそも中小企業者の固定資産税の特例措置とは、平成28年7月1日に施行された中小企業等経営強化法によって定められたものです。具体的には、中小企業者が取得する新規の機械装置について、一定の要件を満たした場合には3年間固定資産税を1/2に軽減するという制度です。

従来の制度では、対象となる設備は
● 中小企業者が経営力向上計画に基づき平成30年度末までに取得する新規の機械装置(新品)
● 160万円以上かつ生産性を1%向上させる機械装置
の2点を満たすものに限られています。これに該当する設備は金属加工機械やNC複合加工機といったものです。

そして今回の税制改正により、上記の設備に加えて以下のような設備も対象となります。
● 中小企業者が認定計画に基づき、平成30年度末までに取得する一定の器具備品・建物附属設備等
● 生産性を高める設備
これによって、業務用冷蔵庫や空調設備、理美容機器といったものまで、減税対象に追加されることになります。

本特例の対象となる地域・業種は、
①最低賃金が全国平均(823円)未満の地域についてはすべての業種
②それ以外の地域では労働生産性が全国平均未満の業種
となります。

☆ヒント
例えば、25万円の空調設備を新規で10個購入したとすると、 従来の制度では減税対象になっていないので、初年度は約32,000円、2年目は約27,000円、3年目は約23,000円の固定資産税がかかることになります。しかしながら、これが新制度になると 1/2に軽減されてそれぞれ約16,000円、約13,500円、約11,500円となります。すなわち3年間で合計41,000円の減税効果が生まれることになります。
新規に設備の購入を検討している場合には、減税対象となるかを事前に税理士に相談してみることをお勧めします。

中小企業経営強化税制の創設

新たに、中小企業経営強化税制の創設があります。従来の税制では、中小企業投資促進税制の上乗せ措置というものがありましたが、これを改組するという形で平成29年度から適用されることになります。条件は以下の2点のいずれかになっています。

累計 生産性向上設備(A類型) 収益力強化設備(B類型)
要件 ①経営強化法の認定
②生産性が旧モデル比年平均1%以上改善する設備
①経営強化法の認定
②投資収益率が年平均5%以上の投資計画に係る設備
対象設備 ● 機械・装置(160万円以上)
● 測定工具及び検査工具(30万円以上)
● 器具・備品(30万円以上)
(試験・測定機器、冷凍陳列棚など)
● 建物附属設備(60万円以上)
(ボイラー、LED証明、空調など)
● ソフトウェア(70万円以上)
(情報を収集・分析・指示する機能)
● 機械・装置(160万円以上)
● 測定工具及び検査工具(30万円以上)
● 器具・備品(30万円以上)
● 建物附属設備(60万円以上)
● ソフトウェア(70万円以上)
その他要件 生産等設備を構成する/国内への投資であること/中古・貸付資産でないこと

これらのいずれかに該当する設備を、平成29年度から平成30年度の間に購入した場合には税制措置として、即時償却または7%税額控除のどちらかを選択することができます。

☆ヒント
即時償却とは、設備投資にかかった費用を初年度に全て経費として計上し、利益から差し引くことができる制度のことを指します。利益から経費を差し引いた額が課税対象額となるので、設備投資した初年度には大きな節税効果があります。
即時償却と税額控除のどちらを選択するかですが、企業によって得られるメリットが変わってきます。税理士に相談して、自分の会社にどのような節税効果があるのかを把握しておくようにしましょう。

中小企業投資促進税制の延長

中小企業投資促進税制は、すでに施行されている制度ですが、平成30年度末まで延長されることになります。内容については一部見直しがなされています。改正概要は以下のようになっています。

対象者 ● 中小企業者等(資本金額1億円以下の法人、農業協同組合等)
● 従業員数1000人以下の個人事業主
対象業種 卸製造業、建設業、農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、卸売業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、ガス業、小売業、料理店業その他の飲食店業、一般旅客自動車運送業、海洋運輸業及び沿海運輸業、内航船舶貸渡業、慮協業、梱包業、郵便業、通信業、損害保険代理業及びサービス業
対象設備 ● 機械及び装置【1台160万円以上】
● 測定工具及び検査工具【1台120万円以上、1台30万円以上かつ複数合計120万円以上】
● 一定のソフトウェア【一のソフトウェアが70万円以上、複数合計70万円以上】
● 貨物自動車(車両総重量5トン以上)
● 内航船舶(取得価格の75%が対象)
措置内容 ● 個人事業主及び資本金3,000万以下の中小企業
30%特別償却 又は 7%税額控除
● 資本金3,000万超の中小企業
30%特別償却

特別償却とは、通常の減価償却費以上の超過償却を経費として計上することを指します。対象の業種も広く、適用されやすい制度になっているので、積極的に活用することが推奨されます。

商業・サービス業・農林水産業活性化税制の延長

商業・サービス業・農林水産業活性化税制とは、商業・サービス業・農林水産業を営む中小企業等の活性化を図るため、一定の要件を満たした経営改善設備の取得を行った場合に、特別償却又は税額控除の適用を認める措置です。消費税率の引き上げに向けて、経営改善の取組を行う事業者の設備投資を後押しするため、適用期限を2年間延長して平成30年度末までとなります。具体的な内容は以下のようになっています。

対象者 ● 中小企業者等(資本金額1億円以下の法人、農業協同組合等)
● 従業員数1000人以下の個人事業主
対象業種 卸売業、小売業、情報通信業、一般旅客自動車運送業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、こん包業、損害保険代理業、不動産業、物品賃貸業、専門サービス業、広告業、技術サービス業、宿泊業、飲食店業、洗濯・理容・美容・浴場業、その他の生活関連サービス業、社会保険・社会福祉・介護事業、サービス業(教育・学習支援業、映画業、協同組合、他に分類されないサービス業(廃棄物処理業、自動車整備業、機械等修理業、職業・労働者派遣業、その他の事業サービス業))、農業、林業、漁業、水産養殖業
対象設備 認定経営革新等支援機関等から経営の改善に資する資産として、書類(経営改善に関する指導及び助言を受けた旨を明らかにする書類)に記載された設備。
設備とは、減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第1の建物附属設備で1台の取得価額が60万円以上のもの、器具及び備品で1台又は1基の取得価額が30万円以上のもののうち、経営の改善に資するために取得する以下の設備。
● 器具及び備品として規定されている
(1)家具、電気機器、ガス機器及び家庭用品
(2)事務機器及び通信機器
(3)時計、試験機器及び測定機器
(4)光学機器及び写真製作機器
(5)看板及び広告器具
(6)理容又は美容機器
(7)娯楽又はスポーツ器具 等
● 建物附属設備として規定されている
(1)電気設備
(2)給排水又は衛生設備及びガス設備
(3)冷房、暖房、通風又はボイラー設備
(4)エヤーカーテン又はドアー自動開閉設備
(5)アーケード又は日よけ設備
(6)店用簡易装備
(7)可動間仕切り 等
措置内容 ● 個人事業主及び資本金3,000万以下の中小企業
30%特別償却 又は 7%税額控除
● 資本金3,000万超の中小企業
30%特別償却
☆ヒント
改正された税制だけでもこれだけ複雑ですので、このほかにも税制があることを考えると素人だけでは扱いきれません。しかし、税金が減らせることを踏まえると積極的に制度を利用するべきです。上記のような制度を利用するためには、まずは自分の企業の収支がどのような状況にあるのかを判断する必要があります。
税理士に相談すれば自社の収支の計算や、面倒な税金の計算も含め、財務に関しては全面的に補助してくれます。積極的に活用していくとよいでしょう。

まとめ

今回紹介したものは今年改正される税制の一部に過ぎません。中小企業に関係する税制はほかにも数多く存在します。これをきっかけに、中小企業の税制について調べたり、税理士などのプロに相談してみたりしてはいかがでしょうか。

清水瑛介
東京大学卒。現、同大学院所属。
不動産投資に長らく関わっており、不動産に関する税制や相続が得意分野。
税理士事務所でアルバイトとして従事。
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