もしも東京五輪のチケットを他人に渡したら? 転売と税金について解説 | MONEYIZM
 

もしも東京五輪のチケットを他人に渡したら?
転売と税金について解説

東京五輪のチケットの取り扱いには細かいルールが定められています。そのため、転売などをした場合、やり方を間違えると違法になってしまいます。違法行為をした場合は罰則があるだけではなく、税金の計算方法も違ってきます。東京五輪のチケットの転売と税金について解説します。

東京五輪のチケットを転売・プレゼントした場合の税金

転売やプレゼントが東京五輪のチケットのルールに沿っているかどうかで、合法または違法に区分されます。

合法的に転売した場合

そもそも合法的とは、東京2020公式リセールサービスを利用したチケットの販売のことを指し、仕組みは次の通りです。

 

東京2020チケット購入・利用規約(以下 購入・利用規約)の第36条(転売禁止の例外)に「当法人から直接購入したチケットの第三者への譲渡は、東京2020公式チケットリセールサービスを利用した購入価格での再販売のみが認められます。」と規定されているため、定価(購入価格)での転売になります。そのため、所得金額は0円となり、税金は発生しません。

プレゼントをした場合

購入・利用規約の第36条(転売禁止の例外)のただし書きに、親族や友人などの知人に限り、チケットのプレゼントが認められています。税金の取り扱いはプレゼントの方法が合法または違法かで違ってきます。

(1)合法的なプレゼント

チケットに利用価値があるため、贈与税の対象になります。

(2)違法なプレゼント

購入・利用規約の第44条(チケットの無効化)に該当し、利用価値がなくなるため、贈与税などの税金は発生しません。

 

プレゼントを合法的にするためには、次のすべての条件を満たす必要があります。

  • プレゼントされるチケットが公式チケット販売サイト・販売所・販売事業者から購入されていること(フリマサイトなどの非公式チャネルやSNSは不可)
  • プレゼントの相手が購入者の親族や知人であること(知らない第三者は不可)
  • 当選チケットなどを管理する公式チケットサイト内「マイチケット」で名義変更の手続きをすること(チケットをただ渡すだけなどの所定の手続きを踏まないプレゼントは不可)

違法な転売をした場合

そもそも違法な転売はチケット不正転売禁止法の第9条により、「1年以下の懲役か100万円以下の罰金、または両方を科せられる」と規定されています。

 

しかし、法律で禁止されていても、違法な転売によるもうけ(売価-購入価格=所得金額)には所得税と住民税が課税されます。もちろん、負担した罰金は経費として所得金額から差し引くことはできません。

確定申告が必要になる人

違法な転売でもうけがある場合には、次の区分に応じた確定申告が必要になります。

(1)原則

所得税の確定申告が必要になります。

(2)特例

「給与所得者+転売での所得金額が20万円以下」に限り、確定申告は不要です。ただし、住民税の申告は必要になります。

 

なお、チケットをプレゼントされた人は、暦年(1月1日から12月31日)の間に他の資産の贈与額と合計して110万円を超える場合、贈与税の確定申告が必要になります。

違法行為でのもうけに対する税金のルール

チケットの転売により確定申告の対象となる場合、違法行為でのもうけに対する税金のルールを知ることが必須になります。

所得は合法・違法を問わない

そもそも所得税は所得の獲得方法が合法・違法を問わずに課税します。所得税法第九条(非課税所得)の範囲に違法行為に関する項目は含まれていないためです。そのため、法律上存在してはいけない違法な転売によるもうけに対しても課税されるのは当然といえます。

収入金額に計上するタイミング

違法行為による収入金額の計上するタイミングは実際に入金された日の現金主義が採用されます。たとえば、12月中旬に1,000円で購入したチケットを知人に2,000円で売ることを約束したとします。知人から入金が翌年1月の場合、収入金額に計上するタイミングも翌年1月になります。もちろん、チケットの購入費用1,000円も翌年1月に経費で落とせます。

無申告なら抜き打ちでの税務調査があり得る

チケットの転売など違法行為でのもうけに対して確定申告をしない場合、抜き打ちでの税務調査があり得ます。国税通則法第74条の10(事前通知を要しない場合)の「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ~中略~がある」に該当するためです。

 

そもそも東京五輪のチケットの転売でもうけがでること自体、違法であり、事前通知されない税務調査の対象になる確率は高くなります。

税務調査で引っかかった場合は?

チケット不正転売禁止法の罰則以外にも、チケットの違法な転売によるもうけが税務調査で発覚した場合のリスクについて説明します。

追徴課税される

チケットの転売による所得に対して所得税が課税されるのはもちろん、ペナルティーに相当する追徴課税もされます。特に意図的にもうけを隠していたと調査官に判断された場合、最も重いペナルティーである重加算税「所得税×税率(35%~50%)」が課されます。 たとえば、税務調査で10万円の所得税が発生した場合、重加算税は「所得税10万円×税率35%=3万5,000円」、納付金額は13万5,000円になります。

 

特に個人事業主や法人経営者が重加算税を課された場合、「税金をごまかした」という情報が税務署内に履歴として残るため、今後税務調査の対象となる確率が高くなります。

勤務先で発覚する場合もあり

給与所得者の場合、税務調査で所得金額が増額すれば、違法な転売の行為や無申告が勤務先に発覚する可能性があります。おもなパターンは次の通りです。

(1)本人が無申告

違法な転売でのもうけの発覚により所得税だけでなく、住民税も増額します。特別徴収により支給される給与から住民税を天引きする関係で、勤務先に住民税(=所得金額)の増額の情報が通知される仕組みになっています。

(2)配偶者が無申告

配偶者を扶養に入れている場合、たとえば専業主婦の妻が税務調査により所得金額が「0円→95万円超」に増額すれば、配偶者控除または配偶者特別控除による所得控除額の変更に関する情報が本人の勤務先に通知されてしまいます。 しかも、増額された所得税に対して延滞税などの追徴課税もされるため、余分な税金がかかったり、事務的手間が増える勤務先に迷惑をかけたりして、上記(1)よりもデメリットが多くなります。

税金以外に増額される支払項目

税務調査に伴う所得金額の増額により、住民税をベースに計算する税金以外の支払項目も増額します。おもに以下の通りです。
 

  • 国民健康保険料
  • 免除や減額されている国民年金
  • 保育料 など

まとめ

今回は東京五輪のチケットの転売をした場合の税金の内容から違法行為で獲得した所得税の取り扱いまで説明しました。転売によるもうけが合法でなくても税務署に申告するのはもちろん、そもそも転売で利益を得ることは違法行為ですのでご注意ください。

 

また、東京2020チケット購入・利用規約に則らない方法でプレゼントされたチケットも無効になってしまいます。この記事を機に東京五輪のチケットのルールをきちんと確認しましょう。

阿部正仁
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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