個人事業主の自己破産について解説! 普通の自己破産と何が違う? – マネーイズム
 

個人事業主の自己破産について解説!
普通の自己破産と何が違う?

公開日:
2021/08/12
 
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個人事業主の自己破産における基本的な手続きは、非事業者の自己破産と変わりません。ただし個人事業主の場合は複雑な契約関係や財産関係があることが多くより綿密な調査が必要になるため、非事業者の自己破産とは異なる規定も定められています。そこでこの記事では、個人事業主の自己破産について、非事業者とは異なるポイントや多くの個人事業主が抱く疑問点について解説します。

個人事業主の自己破産とは

個人で事業を行っている人を「個人事業主」といいます。事業主1人で事業を行う場合だけでなく、従業員を雇用している場合でも、法人化していなければ個人事業主になります。個人事業主の自己破産にはどのような特徴があるのでしょうか。

自己破産の手続き

自己破産は、債務の返済ができなくなった場合に、申立てにより開始されます。破産者の財産を換価し債権者に配当することで、債務について免責を得ることができるものです。破産手続きには大きく二種類あり、破産手続きが開始した時点で破産者に財産がなく、ギャンブルや詐欺、虚偽などの免責不許可事由がない場合に認められるのが「同時廃止」です。反対に、一定額以上の財産が見込まれる場合や免責不許可事由にあたる恐れがある場合などは、管財事件として扱われることになります。なお、財産のうち生活に必要な家財道具や99万円までの現金は自由財産とされ、差押えの対象にはなりません。

事業を営んでいない人の自己破産との違い

個人事業主と非事業者の違いの一つに給与の在り方があります。非事業者の場合は会社から給与が支給されるため、たとえ会社が倒産しても、自分の財産まで差し押さえられることはありません。ところが個人事業主は会社の利益が自己の収入になるため、自己の財産も事業用の財産も同じように差押えの対象となります。

 

  • 管財事件としての扱い
    事業を営むにあたっては、多くの場合複数の取引先との契約関係が発生します。破産手続きの際も財産関係や契約関係を調査・確認しなければ、財産の見逃しが発生し債権者に不利益が生じるでしょう。そのため、個人事業主の自己破産は多くの場合管財事件として扱われます。ただし、事業規模が小さく取引関係も複雑でない場合は同時廃止として処理されることもあります。

    ※管財事件
    自己破産手続きの一つで、債務者に一定以上の財産がある場合に、破産管財人が選任され、破産者の財産を調査・管理・処分し債権者に配当します。
  • 財産処分の対象
    個人事業主の自己破産では、現金や預金、不動産、自動車、生命保険など、自由財産を除くすべての財産が差押えの対象になるほか、事業資産の処分もしなくてはなりません。事業設備や什器、備品はもちろん、在庫や材料、売掛金も対象になります。また、事業内容に価値があるとみなされる場合は、事業譲渡という形で事業そのものも換価されることになるでしょう。
  • 契約の清算処理
    自己破産手続きが開始されると契約関係が清算されます。この契約関係には、取引先との契約のほか、従業員との雇用契約や事業所の賃貸契約などが該当します。なお、生活に必要な契約(水道光熱、自宅の賃貸契約、通信回線契約など)は清算する必要はありません。
  • 仕事・事業の継続
    非事業者が自己破産しても、そのことを理由に会社を辞める必要はありません。しかし個人事業主の場合は、事業に必要な設備なども処分対象になり、事業所の賃貸契約も清算されます。また、数年間は融資が受けられなくなるため、事業を継続していくことは困難になるでしょう。

自己破産後も事業を継続するためには

ほとんどの場合、個人事業主が自己破産後に事業を続けるのは難しいでしょう。しかし、以下でご紹介するような一定の場合においては事業を継続することが可能かもしれません。

継続が可能な事業であることが前提

自己破産後の事業継続が可能かどうかは、財産を差し押さえられた後でもできる事業内容であることが前提となります。事業所がいらない、高価な設備や什器を使わない、従業員や外注を使わないなど、一人親方の「腕一本」でできるような事業などが該当する可能性があります。

差押禁止財産として認めてもらう

民事執行法131条で差押禁止動産についての規定がされています。この条文では、農業や漁業を営む人や職人などは、業務に用いる道具なども自由財産に含めることができるとされており、裁判所が認めれば差し押えされずに残すことができるかもしれません。しかしこのような「業務上に欠かせない道具」には具体的な規定がなく、たとえば同じ「農機具」でも農業の規模やその地域の技術水準などが勘案した上で可否が決められるため、専門家に意見を求める必要があります。

自由財産拡張を認めてもらう

破産者の事情を考慮し、裁判所の裁量で自由財産の範囲の拡張をすることができます。この自由財産拡張には具体的な規定があるわけではなく、破産手続きの公正さと破産者の生活保障のバランスを考えて判断されます。しかし、本来的自由財産の範囲を超えた財産までを自由財産と認めてもらうのは難しいといえるでしょう。個人事業主の場合、高齢や病気でほかに就業の見込みがなく、これまで営んできた事業を続けるほかないといった事情がある人は、認められやすくなるかもしれません。

民事(個人)再生による債務整理という手も

民事(個人)再生は債務整理方法の一つです。債務総額が5,000万円未満であること、債権者の同意が得られることなど、いくつかの要件を満たす必要がありますが、民事再生が認められると借金の元本を減らし返済期間を延ばすことができます。また、個人事業主の場合、自己破産すると債務がなくなる代わりに財産も差し押さえられ、結果として事業の継続は難しくなることが多いですが、民事再生であれば事業を続けながら返済を続けることが可能でしょう。ただし、民事再生には「生産価値保証原則」という、自己破産した場合に差し押さえられる金額以上は返済をしなくてはいけないという原則があります。事業を続ける場合に大きな設備などがあると返済金額も大きくなる可能性があります。

個人事業主の自己破産についての疑問

売掛金はどうなる?

自己破産手続きの際に差し押さえられる財産には、自己破産手続き開始前に発生した「売掛金請求権」も含まれます。自由財産に含まれるものの一つに、破産手続き開始後に得た財産は差押えの対象にはならないという「新得財産」がありますが、売掛金請求権の場合は注意が必要です。破産手続き開始時点ではまだ回収できていなくても、売掛金が発生する要因が破産手続き開始前ならば差押えの対象になります。

賃貸契約の解除はいつにする?

自己破産手続きの開始前か開始後かにかかわらず、賃貸契約の解除をすること自体に問題はないでしょう。しかしこの際、家賃の多額の滞納があると物件の貸主も債権者の一人となることに注意が必要です。破産手続きではすべての債権者を平等に扱うため、破産を決意した後にほかの債権者への報告に先んじて滞納家賃を支払ってしまうと、偏頗弁済(へんぱべんさい)になる可能性があり、破産が認められない事態になりかねません。

個人事業主の家族の資産はどうなる?

事業の債務が個人事業主だけの名義であれば、家族の財産まで差し押さえられることはありません。ただし、家族名義のカードでの借入れがある場合や、家族が保証人になっている借入れがあれば、家族も同時に自己破産をした方が良い場合もあります。また、自己破産手続きの際は財産隠しを目的とした家族間での金銭のやりとりがないか確認されることがあります。

特定退職金共済や、中小企業退職金共済はどうなる?

事業主が従業員のために掛け金を支払う上記のような退職金制度は、会社の倒産とは関係ありません。そもそも会社が倒産したからといって従業員の給与や退職金の請求権がなくなるわけではありませんが、会社の財産が乏しい場合など支払いが難しいこともあります。その際は未払賃金立替払制度などの給与補償の制度を利用する必要がありますが、退職金共済や中退共に関してはこの心配はなく、雇用契約の解消とともに受け取ることができるでしょう。

自己破産による個人事業主の「モラル・ハザード」

自己破産することで債務の返済義務はなくなるものの、事業をたたみ、財産を失い、社会的信用にも大きな影響を及ぼします。このように破産者は多くのものを失い、そこに至るまでにも辛い選択肢を迫られる場面があるでしょう。このような過程で破産者が自暴自棄になりモラル破綻に陥ることが少なくありません。借金がなくなっても、人間関係や人脈まで壊してしまわないようにしたいものです。そのためには事業が立ち行かなくなる前からさまざまなリスクを把握し、対策を立てることが望ましいでしょう。

 

☆ヒント
個人事業主として、自己破産の決断に至る前に経費を削減したり経営を改善したりするのは苦しいものでしょう。自暴自棄になりモラル破綻してしまっては信用を失い再起も難しくなります。あらかじめ信頼できる顧問税理士をみつけておけば、日頃から資金繰りについて相談でき、会社のリスクについても対策を講じることができるので安心です。

まとめ

多くの個人事業主は収入が不安定になる傾向があり、時世の影響を受けやすい職種といえます。しかし個人事業主の強みとして、柔軟に事業方針を変えていけることと、事業費用が抑えられることが挙げられます。また、状況によっては金融機関との相談で返済計画の変更が認められる場合もあり、個人事業主に向けた支援制度にも目を向ければ答えがみつかるかもしれません。専門家に相談することで、思わぬコストカットや助成制度を知ることができる可能性もあるでしょう。苦労や困難も多い個人事業主ですが、強みを活かして自己破産に陥らないように早めの対策を心掛けましょう。

永井綾
慶應大学法学部卒。 外資系コンサルティング会社に勤務後、某有名法律事務所に転職し、広報業務に携わる。 コンサルティング業務での幅広い業界知識と、法学部・法律事務所で培った知識を解説します。
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