認知症になった親の預金を子どもが引き出す 原則NO→「柔軟な対応」へ、銀行が動きました – マネーイズム
 

認知症になった親の預金を子どもが引き出す
原則NO→「柔軟な対応」へ、銀行が動きました

    公開日:
    2021/03/05
     
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    介護が必要になった人の生活費、介護施設の入居費や使用料などの支払いに、当人の持つ現金・預金が重要な「原資」になることは、言うまでもありません。ところが、その人が認知症になり、預金口座の管理ができなくなると、大きな問題に直面します。預金は原則として預金者本人しか下ろせないため、介護を担う子どもなどが引き出そうと思っても、原則としてNG。親のために使うお金なのに自由にできない、という事態が起こる可能性が高いのです。実際に家族と銀行とのトラブルも増加する中、全国銀行協会(全銀協)はこのほど、そうした状況にどう対処すべきかの新たな指針を発表し、注目されました。詳しく見ていくことにします。

    本人以外の親族は「門前払い」!?

    認知症の初期~中期においては、昔の出来事や子どものことはわかるのに、少し前のことが思い出せない、という症状は普通です。異変に気づいた子どもが、お金の管理のことが心配になって尋ねてみると、通帳やキャッシュカードのありかは曖昧、暗証番号もおぼつかない……。そうなって初めて、事の重大さを認識させられることになります。

     

    通帳を見つけ、印鑑を持って窓口に行っても、預金者以外の人に「はいどうぞ」と、すんなり払い出しを行う金融機関は、まずありません。預金は基本的に預金者本人の資産ですから、引き出すのには本人の意思確認が必要になるのです。

     

    実際、子どもが親の預金を勝手に引き出して自分のために使い、それが親の相続の際に問題になることがあります。相続財産が目減りした他の相続人から、「きちんと意思確認もせずに払い出しに応じた銀行」が訴えられる事例も発生しています。そうしたリスクを回避するため、「理由の如何を問わず、預金引き出しには応じない」と、本人以外の親族には「門前払い」を貫く金融機関も少なくありません。

    銀行が求める「成年後見」の問題点

    ただし、本人以外への払い出しに、まったく応じないわけではありません。こうした場合に金融機関側が求めるのが、「成年後見制度」の利用です。

     

    成年後見制度は、認知症や精神障害などで判断能力の不十分な人たちを保護、支援するための国の制度で、財産管理、契約、遺産分割協議などを、家庭裁判所が選任した成年後見人(法定後見)、ないし本人が判断の判断能力のあるうちに選任しておいた親族などの任意後見人(任意後見)が代わって行います。こうして選ばれた後見人であれば、預金払い出しなどの代理取引に応じることができる、というのが金融機関のスタンスなのです。

     

    成年後見人相手の取引であれば、銀行はノーリスクです。しかし、制度を使う親族にとっては、メリットばかりではありません。成年後見人に選ばれるのは、通常、弁護士などの「他人」です。そういう人に親の財産を預けることに対しては抵抗感を覚える人も多く、実際に後見人の横領事件が時々報じられたりもします。「士業」に後見人をしてもらうためには、月々数万円の出費も覚悟しなくてはなりません。

     

    一方、本人の財産は家庭裁判所の監督下に置かれるため、親族が柔軟に活用することが難しくなる、という問題もあります。例えば実家を売却してお金をつくろうとしても、裁判所の認める正当な理由がなければ認められません。

     

    そうした「使い勝手の悪さ」もあって、この制度の利用者数は、2018年末段階でわずか22万人あまりにとどまっています。結果的に、銀行側の要求と親族の実情には大きな隔たりがあり、それが両者のトラブルを生む要因にもなっているわけです。

    本人以外も引き出しやすくなる?

    しかし、そう言っている間にも認知症患者は増え続け、2025年には高齢者の5人に1人、約700万人が罹患するという推計もあるほど。説明してきたような事態が他人事とは言えない状況が広がる中で、銀行側により柔軟な対応を求める声も高まっています。

     

    今回の全銀協の新指針は、そうした現状を踏まえて示されたものです。

     

    さきほど、「親族には『門前払い』の金融機関も少なくない」と言いましたが、一方で生活費や入院費用、葬儀費用などに関して、親族と面談し必要事項などを確認したうえで、必要額に限定した払い出しに応じるような金融機関も存在します。要するに、法的な代理権を持たない親族の預金の引き出しについては、各行の現場に対応が一任されているのが現状。一定のガイドラインを示すことで、金融機関によってバラバラな足並みをある程度揃え、少なくとも「絶対ダメ」のような硬直的な対応をなくしていこうというのが、その狙いだと言えます。

     

    新指針では、本人に認知判断能力がなく、預金の引き出しを求める親族などが法的代理権を持たない(後見人ではない)場合について、「極めて限定的な対応」と前置きしつつ、次のような「考え方」を示しています(抜粋)。

     

    • 成年後見制度の利用を求めることが基本であり、成年後見人等が指定された後は、成年後見人等以外の親族等からの払出し(振込)依頼には応じず、成年後見人等からの払出し(振込)依頼を求めることが基本である。
    • 本人が認知判断能力を喪失していることを確認する方法としては、本人との面談、診断書の提出、本人の担当医からのヒアリング等に加え、診断書がない場合についても、複数行員による本人面談実施や医療介護費の内容等のエビデンスを確認することなどが考えられる。
    • 認知判断能力を喪失する以前であれば本人が支払っていたであろう本人の医療費等の支払い手続きを親族等が代わりにする行為など、本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、依頼に応じることが考えられる
    • 預金が僅少となり、投資信託等の金融商品しかまとまった資産として残っていない顧客の医療費や施設入居費、生活費等の費用を支払うために、親族等から本人の保有する投資信託等の金融商品の解約等の依頼があり、やむを得ず対応する場合、基本的には上記の預金の払出し(振込)の考え方と同様であるが、投資信託等の金融商品は価格変動があることから、一旦、解約等を行った場合、預金と異なり、原状回復が困難である。この点に鑑み、金融商品の解約等については、より慎重な対応が求められる。

    「すべて解決」とはいかない

    新指針に示された内容が、高齢の親がいる家族にとって朗報であることは、言うまでもないでしょう。ただし、これで「親が認知症になっても、いつでも預金が引き出せる」とはならないことにも、注意が必要です。

     

    今回の指針は、あくまでも業界団体が示した「考え方」で、法的拘束力などはありません。文中には、「あくまで無権代理におけるリスク許容の考え方の一例であり、無権代理の親族等からの払出依頼に応じることによるリスクは伴う」という「但し書き」もあるのです。いざという時に困らないためには、やはり自ら「防衛策」を講じておく必要があると考えるべきでしょう。

     

    親の預金が引き出せなくなって困るのは子どもたちですが、その状況は、介護の費用がショートするという形で、自分の身にも降りかかってきます。そんなことにならないために、通帳や印鑑、キャッシュカードの保管場所や暗証番号は、家族に伝えておくのが理想です。

     

    また、さきほども述べたように、こうした状況での金融機関の対応はそれぞれ違い、中には次のような取扱いを行っている銀行もあります。

     

    三井住友銀行は、預金者本人が事前に申し込むことで、本人が窓口やATMに来店できなくなった場合、登録した代理人が各種手続きを行えるサービスを行っています。あらかじめ2親等以内の親族を指名すればOK。こうしたサービスを利用すれば、信頼できる家族に、安心してお金の管理を任せることができるはずです。

     

    もし、財産を子どもに委ねなければならなくなった場合、自分が口座を持つ銀行がどのような対応を用意しているのか、確かめておくことをお勧めします。いずれにしても、心身ともに元気なうちに準備をしておくことが重要なのは、言うまでもありません。

    まとめ

    全銀協が、認知症になった人の預金の引き出しに柔軟に対応することを求めた新指針を公表しました。認知症患者の増加という現実を踏まえた前向きな方針が示されましたが、「その時」困らないためには、やはり元気なうちに自ら手立てを講じておくことが重要です。

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