「海外に移せば、財産を隠せる」は本当なのか?

「海外に移せば、財産を隠せる」は本当なのか?
公開日:
2021/03/19
最終更新日:
2021/04/06
 
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富裕層の人が、日本とは所得税、相続税などの税率あるいは税制そのものが違う海外に財産を移して節税を行うことは、珍しくありません。ただ、中には意図的な資産隠しの手段として、海外への移転を行うケースも少なからず存在します。「海外の資産は、税務調査を免れることができる」という話も聞きますが、実際はどうなのでしょうか? グローバルな脱税摘発に向けた国税当局の最近の対応を中心に解説します。

日本人の海外資産は4兆円超

さきごろ国税庁は、「令和元年分の国外財産調書の提出状況について」と題するレポートを公表しました。外国に5,000万円を超える資産を持っている個人に提出が義務づけられている「国外財産調書」(後述します)の提出件数と、その記載に基づく財産の額をまとめたものです。

 

それによれば、2020年6月末までに提出された調書は1万652件(前年比6.9%増)、19年12月31日時点での総財産額は4兆2,554億円(同9.2%増)でした。提出者数、金額ともに、この制度が始まった14年以降、6年連続の増加となっています。

 

国外財産を種類別にみると、有価証券2兆4,232億円(構成比56.9%)、預貯金5,948億円(同14.0%)、建物4,510億円(同10.6%)、貸付金1,957億円(同4.6%)などとなりました。前年に比べると、有価証券の増加が目立っていて、世界的な株高が影響したものと分析されています。

国外財産調書とは?

レポートにある「国外財産調書」は、国外財産の保有の増加などに対応し、納税者本人から状況の申告を求める仕組みとして、2013年分から提出が義務づけられました。次の2つにともに該当する場合には、その年の翌年3月15日までに、毎年提出しなくてはなりません。

 

  • ①永住者である居住者に該当すること
    すなわち、非永住者(※1)や非居住者は提出する必要がありません。
  • ②その年の12月31日における国外財産の価額の合計額が5,000万円超であること

◆「国外財産」か否かの判断基準は?

さきほども示したように、国外財産にもいろいろあります。国内なのか国外なのか、判断に迷うこともあるでしょう。国税庁は、「(財産が)国外にあるかどうかについての判定は、財産の種類ごとに行うこと」として、次のような例を示しています。

 

  • 「有価証券等」は、その有価証券等を管理する口座が開設された金融商品取引業者等の営業所等の所在
  • 「預金、貯金又は積金」は、その預金、貯金又は積金の受け入れをした営業所又は事業所の所在
  • 「不動産又は動産」は、その不動産又は動産の所在

 

預貯金や株式などの有価証券については、原則として口座が開設された「所在地」が判断基準になります。例えば、日本の株式であっても、海外支店の口座で管理されていたら、国外財産にカウントされることになるのです。他の財産も合わせて5,000万円を超えていたら、調書の提出義務が生じます。

◆金額はどう算出する?

一方、金額の算出は、どのように行えばいいのでしょうか? カウントは、毎年12月31日時点の「時価」が原則とされています。例えば不動産や非上場株式のように時価の算出が容易ではないものについて、国税庁は「見積価額」を適応するとしていますが、一般の人には対応が難しいケースもありそうです。必要に応じて、税理士などにフォローを頼むことも検討すべきでしょう。

◆提出しなかったり、嘘を書いたりしたらどうなる?

この国外財産調書には、「正当な理由なく期限内に提出がない場合又は虚偽記載の場合に、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」という罰則規定があります。

 

また、海外財産に関連する収入があった場合には、確定申告の際に、その分を申告する必要があります。それを怠ったりすると、過少申告加算税などが課せられることになります。

 

ただし、

 

  • 調書を提出していた場合→記載のある国外財産に関して所得税、相続税の申告漏れが生じても、その際課せられる過少申告加算税などが5%軽減される
  • 調書が提出されていなかったり、本来記載すべき国外財産が記載されていなかったりした場合→同様の加算税が逆に5%上乗せになる

 

という制度になっています。そうすることで、調書の確実な提出を促しているわけです。

 

※1非永住者
日本国籍を有しておらず、かつ過去10年以内に国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年以下の人。

142ヵ国・地域をカバーする情報交換ネットワーク

とはいえ、こうした納税者の自発性に任せているだけで、海外での資産隠しを根絶するのは不可能でしょう。事実、時折悪質な事例が摘発されてニュースになったりします。国税庁は、そうした行為に対する納税者の不満の高まりなどを背景に、ここ数年、国外財産に対する監視強化の姿勢を強め、具体的な方策を実行に移しています。

 

例えば、2019年にOECD(経済協力開発機構)が策定する「CRS」(共通報告基準)という枠組みに参加し、非居住者が自国に持つ金融機関の残高や、利子、配当の受取額などの情報を、多くの国と自動的にやり取りすることが可能になりました。このCRSの情報交換によって、2019事務年度(19年7月~20年6月)には、日本の居住者に関する金融口座情報約206万件を86ヵ国・地域の税務当局から受領し、反対に日本の非居住者に関する口座情報約47万件を65ヵ国・地域に提供したそうです。

 

国税庁は、このCRSなどを通じて得られた情報で、海外にある資産やそこから生じる所得を把握し、さきほどの国外財産調書などすでに保有している他の資料情報と併せて分析を行った上で、課税上問題があると見込まれる納税者に対して税務調査を実施するのです。

 

国税庁の発表資料(「令和元事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」)には、次のような事例が紹介されています。

 

〈受領したCRS情報をもとに、調査対象者A個人名義の海外預金口座を把握したが、所得税申告書等には関連する所得及び財産の記載がなく、所得税の申告漏れが想定された。調査の結果、Aは海外で金融商品への投資や不動産の購入、貸付及び売却を行っていることが判明し、これらに関する所得税の申告が漏れていることを把握した。〉
2021年1月1日現在、日本では77の二国間租税条約(※2)など(情報交換協定、日台民間租税取決めを含む)が発効していて、これらのすべてに情報交換を実施するための規定が設けられています。また、租税に関する行政支援(情報交換・徴収共助・送達共助)を相互に行うための多国間条約である税務行政執行共助条約の締約国は、110ヵ国に上ります。この両者を合わせると、日本の情報交換ネットワークは142ヵ国・地域をカバーするまでになりました。

 

「日本の税務当局は、個人の海外資産を把握することができない」というのは、昔話と考えた方がよさそうです。

※2租税条約
課税関係の安定(法的安定性の確保)、二重課税の除去、脱税及び租税回避への対応などを目的に二国間で結ばれる条約。

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まとめ

国税当局は、個人の国外財産に対する監視の姿勢を強めており、国際ネットワークの構築など、体制も整備されています。「隠そう」とは考えないのが無難。不明な点などについては、この分野に詳しい税理士に相談しましょう。

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