医療費は法人の経費にできるか? ケース別にみた損金算入の是非 – マネーイズム
 

医療費は法人の経費にできるか?
ケース別にみた損金算入の是非

    公開日:
    2021/07/26
     
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    会社が従業員の福利厚生を目的として、健康診断や予防接種などの「医療費」を支出することがあります。この記事では、そもそも「医療費」が費用として認められる場合の条件をはじめ、会計処理や税務申告をするにあたって注意すべき点についてを解説していきます。

    法人が支払う「医療費」とは?

    法人が支払う「医療費」あれこれ

    会社が支出する「医療費」としてよく出てくるものを列挙してみましょう。

    • 健康診断や人間ドックにかかる費用
    • 予防接種にかかる費用
    • ケガや病気にかかる診療費

     

    「労働安全衛生法」により、会社は従業員に健康診断を受診させることが義務づけられています。また、従業員が50名を超える企業については「産業医」を選任して従業員の健康管理のケアをしていかなければなりません。

     

    「健康診断」「産業医の選任」
    このように、従業員の福利厚生に対する支出は必要不可欠なものとなりつつあります。

    医療費については「会計」と「税法」で取り扱いが違う

    前段で挙げた福利厚生費は全額(または一部)を会社が支出するものですから「費用」となります。

     

    例)従業員の健康診断料 100,000円を会社で負担した

    借方勘定科目 金額 貸方勘定科目 金額
    福利厚生費 100,000円 現金 100,000円

     

    「福利厚生」が目的ですから、会計上は「福利厚生費」で問題ありません。ただし、支払の内容によっては「税法」における取り扱いが異なる場合があります。

     

    • 特定の従業員だけが受診した健康診断の費用が給与として認定された。
    • 役員が受診した人間ドックの費用のうち、高額で特殊な部分が役員賞与とされた。

     

    このように、会計の福利厚生費が税務上「給与」「役員賞与」とされ、場合によっては費用(損金)とならないケースもあり得ます。

    「医療費」支払についてのケース別スタディ

    健康診断や人間ドックの支払い

    会社が支出する福利厚生費で最も一般的なのが健康診断や人間ドックの費用でしょう。

     

    「労働安全衛生法」で義務付けられていることもあり、会社主導で毎年健康診断の受診を手配しているケースが多いのではないでしょうか。

     

    健康診断や人間ドックの費用は誰が負担すべきなのでしょうか?

     

    厚生労働省の通達によれば、会社には従業員に健康診断を受診させる義務があるので、費用負担についても会社が負担とすべき、としています。会社が負担するのですから「費用」として計上することはできますが、ここで問題となるのが「税法上の取り扱い」です。

     

    「福利厚生費」とすべきなのか?「給与」として源泉税課税しなければならないのか?が問題となります。「福利厚生費」として処理するための判断基準としては次の2点が挙げられます。

     

    • 対象者は誰か?
      健康診断や人間ドックの受診対象者は「全員平等」でなければなりません。
      特定の役員や従業員のみを対象とすれば、その特定の個人だけに経済的利益を供与したと みなされます。こういった費用は「役員賞与」や「給与」として認定される可能性があります。
    • 受診内容が一般的にみて過剰・高額ではないか?
      一般的にみて、受診内容が過剰であったり著しく高額な場合にも「役員賞与」や「給与」とし て認定されるケースがあります。
      例えば、オプションとして「がん遺伝子検査」「全身スクリーニング」など、特殊で高額な検査 を付けた場合などです。

    予防接種費用の支払い

    インフルエンザの季節になると職場全体で「予防接種」を受ける企業があります。

     

    新型コロナワクチンの接種をはじめ、「予防接種」には接種義務がありません。あくまで「本人の意思により接種する」という点が重要です。接種は本人の意思ですから、健康診断と違って会社には従業員に予防接種を受けることを強制することはできません。また、「労働安全衛生法」にも会社の義務はうたわれていません。したがって、予防接種の支出を会社の費用とするためにはそれなりの「理由」が必要となります。福利厚生費に限らず、税法で費用として認められるためには「業務遂行上必要な支出であること」が大前提です。

     

    以上のことから「予防接種費用」を福利厚生費として処理するための判断基準としては次の3点が挙げられます。

     

    • 業務遂行上必要な支出であるか?
      業務を行ううえで予防接種を受けた方が良い、あるいは受けなければならないという理由が必要となります。
      例えば、感染リスクの高い病院等の医療施設へ行く機会が多い医療機器販売業者がリスクを軽減するために予防接種を受けるなどのケースです。
    • 対象者は誰か?
      健康診断同様、接種対象者は「全員平等」でなければなりません。
      特定の役員や従業員のみを対象とすれば、その特定の個人だけに経済的利益を供与したとみなされます。こういった費用は「役員賞与」や「給与」として認定される可能性があります。
    • 接種が予防を目的としているものか?
      業務遂行上必要な支出ですから「予防を目的としていること」が前提です。
      「ビタミン注射」や「ヒアルロン酸注射」など、予防を目的としないものは当然費用とはなりませんので注意してください。

     

    また、昨今の新型コロナウイルス流行の感染対策としてマスクや消毒を購入するケースがあります。これら消耗品についても予防接種同様、会社全員で使用するもので予防を目的としているのであれば福利厚生費として費用計上することができます。

    業務上のケガに対する診療費の支払い

    業務中に従業員がケガをした場合、労働保険適用事業所であれば労災申請により「医療補償給付」を受けることになります。しかし、ちょっとした治療であれば、わざわざ労災申請をせずに診療機関の領収書で精算するケースがあります。

     

    業務上の負傷や疾患により生じた診療費については、会社が全額負担しなければなりません。診療費を費用として計上するポイントとしては「業務中や通勤中に起こったこと」を立証する必要があります。

     

    業務中の「業務災害」、通勤中の「通勤災害」に該当する範囲については、文末のリンクを参照してください。

    「医療費」が否認又は給与認定されないための方策

    特定の個人を対象とするものではないこと

    では、「医療費」が否認あるいは給与認定されないためのポイントについて解説します。医療費が否認される原因で一番多いのが、特定の個人を対象としているケースです。

     

    会社が負担する医療費は「誰にでも平等」でなければなりません。特定の個人にかかる費用だけを負担した場合、社員間で不平等が生じますので、税法では特定の個人に対し「経済的利益の供与」があったとみなします。

     

    「経済的利益」は給与扱いとなりますので、源泉所得税の対象となります。

    役員に対する「医療費」の支払には特に注意を

    特定の個人にかかる経済的利益の供与で、特に注意したいのが役員に対する費用負担です。

     

    会社の役員といえば業務遂行のキーパーソンですから、病気で倒れられたら困ります。結果として健康診断や予防接種などの費用が、一般の従業員より高額になりがちです。

     

    しかし、先にも述べましたが「医療費」が給与認定あるいは否認されないための条件は「誰にでも平等に」「一般的なものと比較して特殊・高額でないもの」です。役員だからといって特別な医療費の支出が認められるというわけではありませんので注意してください。

     

    なお、役員に対する医療費が役員賞与認定された場合、源泉所得税の対象となるだけでは済みません。役員賞与は「事前確定届出」が要件ですが、医療費の会社負担を事前に届出していなければ否認されます。

    まとめ

    「企業は人なり人は企業なり」という言葉がありますが、役員や従業員が健康でなければ会社は成り立ちません。積極的な福利厚生費の支出は健康増進につながりますが、せっかくの支出が結果として従業員個人の負担にならないよう充分注意しましょう。

    奥谷佳子
    Webライター/ライター フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。 自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。 取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。
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