国税に関する「再調査の請求」「審査請求」「訴訟」は 納税者の権利! しかし、“勝率10%”の現実が | MONEYIZM
 

国税に関する「再調査の請求」「審査請求」「訴訟」は
納税者の権利! しかし、“勝率10%”の現実が

所得税や法人税、消費税、相続税などの国税に関して、国税局や税務署から処分を受けた場合には、税務署長などに対する「再調査の請求」、国税不服審判所に対する「審査請求」、さらには裁判所に対する「訴訟」という救済制度が、納税者の権利として認められています。納税者は、課税当局の“言いなり”にならなくていいというわけですが、実際に「争い」になった場合には、勝ち目は薄いのが現実のようです。国税庁の発表資料をもとに、「制度の概要と実際」を解説します。

国税に関する処分に不服の場合には

例えば、きちんと申告・納税したつもりなのに、想定外の申告漏れを指摘され、多額の追徴課税が課せられた。国税の滞納による差押えに、納得がいかない――。そのようなときに、“泣き寝入り”しなくてもいいように儲けられているのが、納税者の救済制度です。

 

これは、税務調査(※)に基づく処分について争うケースのフローチャートです。

 

 

納税者が修正申告に応じないでいると、税務署は「更正」という処分を行い、納税を迫ります。この段階で、納税者は、①国税局や税務署などの処分庁に対する「再調査の請求」か、②国税不服審判所に対する「審査請求」を行うことができます。いずれも行政上の救済制度(不服申立制度)です。

 

①「再調査の請求」は、もともと更正処分に対する「異議申立て」という制度でした。2016年4月に現行のように改正されたのですが、それ以前は、原則として①のプロセスを経なければ②に進むことはできませんでした。しかし、改正後は、直接②を選択することも可能になりました。

 

その②を担当する国税不服審判所とは、執行機関である国税局や税務署から分離された別個の機関として、1970年に国税庁に設置されました。審査請求人(納税者)と処分庁の双方の主張を聞き、必要があれば自ら調査を行って、審理、裁決を行います。

それでも主張が認められず、納税を不服とする場合には、③裁判所に「訴訟」を起こし、処分の是正を求めることになります(司法上の救済制度)。

 

※税務調査
国税局や税務署が、納税者の税務申告が正しいかどうかをチェックするために行う調査。税務署が行う任意調査と、国税局査察部が行う強制調査がある。

極めて低い納税者の「勝率」

では、実際に国税に関する処分について当局と争った結果は、どうなったのでしょう? 国税庁は、6月23日に2020年度における「再調査の請求」「審査請求」「訴訟」の概要を公表しました。

 

①再調査の請求=容認は10%

まず、税務署などに対する再調査の請求について。請求申立ての件数は、2016年度に前年度の半分近く(1,674件)に減少して以降、多くても2,000件程度で推移しています。これは、さきほど説明したように、16年4月から直接、審査請求を行うことができるようになり、その道を選ぶ納税者が増えたからにほかなりません。

 

ただ、それにしても近年、19年度は対前年度比33.5%の1,359件、20年度も同26.4%減の1,000件という大きな落ち込みになっています。要因として考えられるのは、新型コロナウイルス感染症による移動制限の影響により税務調査自体の数が減少したことで、この傾向は審査請求や訴訟にも共通しています。

 

気になる請求の結果ですが、同年度中の処理件数999件のうち、納税者の主張が何らかの形で受け入れられた「容認」件数は、ちょうど100件(一部容認96件、全部容認4件)で、率にして10.0%(前年度12.4%)でした。残りは、棄却(審理の結果、請求を認めない)679件、却下(請求自体が適切ではないとして、「門前払い」)95件、取下げなど125件となっています。

 

なお、国税庁は「簡易迅速な手続により納税者の権利利益の救済を図るため」再調査の請求については、標準審理期間を3ヵ月と定めています。20年度の処理件数のうち、この期間に終えた案件は全体の99.9%(前年度91.1%)でした。

 

②審査請求=認容は10%

再調査の請求とは逆に、16年度以降、審査請求の件数は増えたのですが、20年度は対前年度比13.0%減の2,229件となりました。

 

同年度中の処理件数は2,328件で、そのうち納税者の主張が受け入れられた「認容」件数は、233件(一部認容168件、全部認容65件)で、こちらも全体の10.0%にとどまっています。棄却は1,803件、却下が93件、取下げなどは199件でした。

 

審査請求については、標準審理期間が1年とされていますが、20年度は新型コロナの影響で審理が遅れ、1年以内に処理した件数は、全体の83.5%(前年度98.0%)でした。

 

③訴訟=国の敗訴(納税者の勝訴)は8%

訴訟の発生件数は、対前年度比26.0%減の165件でした。

 

一方、20年度に終結した訴訟は180件で、そのうち訴えられた国が敗訴したのは14件(一部敗訴7件、全部敗訴7件)しかありませんでした。率にすると7.8%(前年度9.7%)です。残りは、納税者側の「負け」で、棄却144件、却下14件、取下げなど8件となりました。

「納得のいく納税」のために、専門家の力を借りる

こうした数字を課税当局がわざわざ発表するのは、「処分を行うときは、適正に実施しています」というアピールもあるのだと思われます。万が一、不当な決定などが行われた場合には、臆せず戦うことも必要ですが、説明してきたような現実があることは、頭に入れておきましょう。当然のことながら、「税逃れ」のための請求や訴えが認められるような甘い世界ではないと考えてください。

 

納税者にとっては、不本意ながら修正申告を求められるような状況になっても、納得できる範囲で折り合いを付けられるのがベター。例えば、税務調査(任意調査)は、税理士の同席が認められますから、そういうときに頼りになる(税務署と戦ってくれる)プロの力を借りるのも大事なことです。

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まとめ

国税に関する処分を受けた納税者には、「再調査の請求」「審査請求」「訴訟」という救済制度が設けられていますが、主張が認められる可能性は低いという現実があります。納得できない状況に直面した場合は、税務調査などに実績のある税理士にサポートを依頼しましょう。

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