「ワクチン職域接種」のために従業員に支給した 交通費 所得税は非課税でいいのか? | MONEYIZM
 

「ワクチン職域接種」のために従業員に支給した
交通費 所得税は非課税でいいのか?

新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けたワクチン接種が、ようやく本格化し、6月21日からは、企業などでの「職域接種」も始まりました。ワクチンの供給不足から、現在(7月中旬時点)いったん新規申請の受付が中断していますが、いずれ再開されるものと思われます。ところで、この職域接種に伴う課税関係について、国税庁はこのほどいくつかの論点整理を行っています。以下にポイントを整理しました。

新型コロナワクチンの職域接種とは?

企業や医療機関が委託を受けて行う

職域接種は、地域の負担を軽減し、接種の加速化を図るため、賛同する企業や大学などにおいて職域単位での接種を可能とするもので、医療従事者や会場などは企業や大学が自ら確保し、自治体の接種事業に影響を与えないことを原則に実施されます。実施主体は市町村(特別区を含む)で、企業や医療機関などが、その委託を受けて接種を行います。委託契約者は、市町村から接種1回当たり2,070円(税抜き)を委託料として受け取ります。

パターンは3つ

職域接種には、次の3パターンがあります。

 

  • 【パターン1】 企業内診療所で実施(契約者:企業または企業内診療所)
  • 【パターン2】 外部機関が出張して実施(契約者:医療機関)
  • 【パターン3】 外部機関に出向いて実施(契約者:医療機関)

国税庁が「FAQ」に課税関係を追加

ただ、新たな取り組みだけに、現場では課税関係をめぐる疑問も生じているようです。そこで、国税庁はこのほど「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」を更新し、職域接種に関連する法人税、所得税についての論点整理を行いました。具体的にみていきましょう。

法人税に関する取扱い

◆職域接種に係る会場準備費用の負担を求めない場合の取扱い
Q) 当社は、新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの職域接種を実施したいと考えています。職域接種の対象者は、①当社の事業所において勤務する当社の役員、従業員及びこれらの者と同居する親族でワクチン接種を希望する者(従業員等)、②関連会社の従業員等、③当社の取引先の従業員等とする予定です。

 

その際、接種会場の使用料、接種会場の設営費用、当社の診療所の産業医以外の医師・看護師等の派遣を受けるための費用など、接種会場の準備のために要する費用(「会場準備費用」)が生じます。しかし、ワクチン接種事業の受託に係る委託料収入を上回る費用負担が生じた場合でも、関連会社及び取引先に負担を求めることは予定していません。

 

この場合、会場準備費用の額の一部は法人税法上の寄附金の額又は交際費等の額に該当するでしょうか。

 

また、接種会場の近隣住民で接種を希望する者を対象に追加した場合には、法人税法上の取扱いは変わるのでしょうか。

 

A) 貴社の職域接種は【パターン1】で行われると考えられます。会場準備費用を含む受託業務の実施に必要な費用が委託の対価を上回る場合には、貴社に費用負担が生ずることになりますが、この場合の貴社の費用負担は、貴社の従業員等のほか、関連会社及び取引先の従業員等もワクチン接種を受けることで社内の新型コロナウイルス感染症の感染拡大が防止され、貴社の今後の業務遂行上の著しい支障の発生防止のため、つまり、貴社の業務遂行に必要な費用の負担と考えられます。

 

貴社が関連会社や取引先に負担を求めないとしても、法人税法上の寄附金又は交際費等のいずれにも該当しないと考えられます。

 

また【パターン2】においては、企業から依頼を受けた外部の医療機関が市町村と委託契約を締結し、委託の対価も医療機関に支払われることとなります。ただし、医療機関における受託業務の実施に必要な費用が委託の対価を上回るなどの場合においては、企業と医療機関の契約内容により、企業に会場準備費用などの負担が生ずる可能性があります。

 

この場合の会場準備費用などの負担も、【パターン1】で行われるものと同様に、企業の今後の業務遂行上の著しい支障の発生防止のため、つまり、企業の業務遂行に必要な費用の負担と考えられます。

 

貴社が関連会社や取引先に負担を求めないとしても、その会場準備費用は法人税法上の寄附金又は交際費等には該当しないと考えられます。

 

職域接種の対象に、接種会場の近隣住民で希望する者を追加する場合であっても、上記の取扱いが変わるものではありません。

所得税に関する取扱い

◆ワクチンの職域接種により接種を受けた者の所得税の課税関係
Q)当社が職域接種のための会場準備費を負担した場合、その会場でワクチン接種を受けた上記①~③の者に、所得税の課税は生じますか。

 

A) 新型コロナワクチンの接種については、予防接種法の規定に基づき市町村(特別区を含む)において実施するものとされており、被接種者が接種に要する費用を負担することはなく、被接種者において税負担が生ずることもありません。

 

◆ワクチンの職域接種に係る接種会場までの交通費の取扱い
Q) 当社は、新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの職域接種を医療機関の施設を利用して実施(【パターン3】)するため、当社の役員及び従業員で接種を受ける者に対しては、勤務先又は自宅から接種会場までの交通費を支給する予定です。この場合、この交通費は非課税としてよいでしょうか。

 

A) 貴社の役員及び従業員の接種会場までの交通費については、職務命令に基づき出張する場合の「旅費」と同等と考えられますので、「接種会場への交通費として相当な額」であれば、非課税として差し支えありません。

 

◆ワクチンの職域接種に係るデジタルワクチン接種証明書の取得費用の取扱い
Q) 当社は、職域接種の実施を外部業者に委託する予定ですが、その業務委託内容の1つに、希望する者に対して、有料で「デジタルワクチン接種証明書」の交付を受けることができる、という項目があります。

 

このデジタルワクチン接種証明書の取得費用を負担した場合、その取得費用は役員及び従業員に対する給与に該当するでしょうか。

 

A) 貴社の役員及び従業員がデジタルワクチン接種証明書を受けることが、貴社の業務遂行上必要であると認められる場合には、その費用は役員及び従業員が負担すべき費用ではなく、給与には該当しません。

まとめ

いったん中断している職域接種の新規申請受付ですが、ワクチンの供給体制の整備に伴い、再開されるものとみられます。会社が会場費などを負担する際には、課税関係を確認しておきましょう。

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