発足した「デジタル庁」と国税庁が連携 税の申告や税務調査はどう変わるのか? | MONEYIZM
 

発足した「デジタル庁」と国税庁が連携
税の申告や税務調査はどう変わるのか?

2021年9月1日、行政の電子化の司令塔を担う「デジタル庁」が発足しました。「世界標準」から後れをとったデジタル化の現状を打開すべく新設された組織ですが、目玉の1つが「納税者の利便性向上」をはじめとする税金関連の改革です。これに先行する形で、国税庁は税務行政のデジタル化に着手しており、今後デジタル庁と連携した取り組みが加速するものと思われます。どんな近未来が予想されるのか、まとめました。

デジタル庁の目指すもの

コロナ禍で“遅れ”が可視化

かつては半導体の開発などで世界をリードしていた日本ですが、社会のデジタル化という点では、大きな後れをとってしまいました。それを痛感させられたのが、新型コロナをめぐる対応です。欧米諸国などでは、たとえフリーターでも、申請すれば即刻コロナの給付金が振り込まれるのに、日本では多くの書類の提出を求められたうえに、何ヵ月経っても支給されない、といった事態が頻発。感染者との接触を通知するアプリにはトラブルが続き、今年に入って始まったワクチン接種でも混乱をきたしました。

 

他国でスムーズな対応を可能にしたのは、デジタルの力にほかなりません。日本は、いまだに行政手続きにおいて「紙のやり取り」がメインになっているため、時間がかかってしまう。「二重行政」の非効率も、図らずも明らかになったわけです。

省庁や自治体にまたがる施策を統一

こうした現実を踏まえて発足したデジタル庁の役割は、ひとことで言えば、これまで複数の省庁や自治体にまたがって行われてきた施策のデジタル化に関する業務をまとめ、国レベルのデジタル化を主導することです。

 

首相官邸のホームページには、「全国規模のクラウド移行に向け、今後5年間で自治体のシステムも統一、標準化を進め、業務の効率化と住民サービスの向上を進めていきます」と、達成時期の目標も示されています。

何が便利になるのか?

「税務署に行かずにできる申告」などを推進

では、税務申告がどう変わるのか、みていきたいと思います。国税庁は、デジタル庁の設置をにらんで、21年6月に「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)-税務行政の将来像2.0-」を公表しました。キーワードは、「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会」です。

 

個人事業主はもとより、サラリーマンでも確定申告が必要になる場合があります。現在は、税務署の窓口での申告のほか、e-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用した電子申告なども行うことができるのですが、いずれにしても「必要事項」を書き込む必要があります。

 

DXで目標とされているのは、そうしたことが不要で、スマホやパソコンから「ワンタッチ」で申告・納税が可能になる社会で、具体的にはマイナポータル(マイナンバーカードの個人向けサイト)の活用が想定されています。マイナポータルで収集した申告に必要なデータを国税庁のシステムが自動で取り込み、納税も納税者が指定した口座から自動的に引き落とされる(振替納税)仕組みです。

 

このほか、税務署に対する「申請・届出」、「特例適用の確認等」、各種「相談」についても、簡略化を実現したり、居ながらにしてできたりするシステムを構築する、としています。

スマホのカメラで情報を読み取る

今の話に関連して、こんな報道がありました(21年9月10日『日本経済新聞』)。

政府は所得税の確定申告を巡り、スマートフォンのカメラで源泉徴収票を読み取ることで、必要項目を自動で記載できるシステムを導入する。すでに企業と開発に着手しており、2022年1月にも運用を始める。

このシステムが実用化されれば、手入力の煩わしさから解放されるだけでなく、転記ミスなども防ぐことができるでしょう。申告の簡素化を図るには、入力作業の軽減が大きなポイントですが、そこでは「スマホのカメラ」が大いに活躍することになりそうです。

AIが「申告漏れ」を暴く!?

幅広いデータを分析

「税務のデジタル化」が推進されるのは、申告・納税だけではなく、税務調査(※)などにおいても「幅広いデータの分析により、申告漏れの可能性が高い納税者の判定や、滞納者の状況に応じた対応の判別を行うなど、課税・徴収の効率化・高度化に取り組む」(前掲「将来像」)としています。

 

具体的には、申告内容や調査事績、資料などのほか、民間情報機関や外国の政府から入手する情報などの膨大な情報リソースを、統計学や機械学習などの技術を用いてデータ分析を行う「BA(Business Analytics)ツール」を用いて加工・分析し、申告漏れなどの高リスク対象を抽出する、といった研究が行われます。

 

平たく言えば、AIを活用することで、これまで発見が難しかった企業や個人間の「隠れた関係」などを検知し、調査に利用していくということです。

 

また、これまで文書のやり取りなどが必要だった、税務調査の際の金融機関への預貯金照会や、調査対象企業からの資料の提出が、オンライン化されることになりました。

 

※税務調査
国税局や税務署が、納税者の税務申告が正しいかどうかをチェックするために行う調査。税務署が行う任意調査と、国税局査察部が行う強制調査がある。

「リモート調査」を拡大へ

税務調査といえば、調査担当者が対象となった会社に出向いて、書類などを調べ、経営者などから話を聞くというのが「当たり前」でしたが、コロナ禍もあり、課税当局は20年7月から、大規模法人を対象にWeb会議システムなどを利用した「リモート税務調査」を実施しています。今後も、調査の効率化を図る観点から、必要な機器・環境の整備を進め、その拡大に取り組んでいくというのが、国税庁の考えです。

 

さらに、将来的には、十分なセキュリティを担保したうえで、国税局などの調査担当者が、調査対象の法人の社内のデータサーバなどのネットワーク回線と無線通信でつながり、その情報に直接アクセスできる仕組みの確立も展望されています。こうなると、申告漏れなどに関連するデジタル情報は、隠しようがなくなるでしょう。

デジタル化に向けた課題は?

マイナンバーカードの普及がカギに

確定申告などが楽になるのはハッピーなのですが、課題もあります。説明したように、こうした恩恵を受けるためには、マイナンバーカードを取得し、マイナポータルを開設していることが前提になります。

 

国レベルでデジタル化を実現するためには、国民の多数にカードを持ってもらう必要があるわけですが、その交付率は35%程度にとどまっています。プライバシー保護の観点から、マイナンバーそのものを敬遠する人も少なくありません。この状況を打開して、どこまで国民の情報と行政をつなげられるかが、当面のポイントと言えるでしょう。

まとめ

デジタル庁が発足し、行政のデジタル化に向けた動きが加速しそうです。税の申告などについても、画期的な自動化が展望されているのですが、国レベルで使い勝手のよいシステムを構築するためには、マイナンバーカードの普及がカギになりそうです。

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