賃上げ税制に首相が意欲! 賃上げ税制の今後と現状について – マネーイズム
 

賃上げ税制に首相が意欲! 賃上げ税制の今後と現状について

公開日:
2021/12/09
 

岸田新政権になって、さまざまな施策を行うことが公表されていますが、その中で注目される施策のひとつに、賃上げ税制があります。これまでにも、賃金を上げた場合の税優措置はありましたが、今回の賃上げ税制はそれ以上のものにしたいとのことです。

 

そこで、ここでは賃上げ税制の今後と現状について解説します。

岸田首相が意欲を見せる賃上げ税制とは

はじめに、岸田首相が意欲を見せる新たな賃上げ税制について見ていきましょう。新たな賃上げ税制については、まだ詳細は公表されていません。しかし、岸田首相の発言などから、それがどのようなものか大枠が見えています。

 

岸田首相が意欲を見せる「新たな賃上げ税制」では、分配を強化して中間層の所得を厚くする狙いがあると考えられます。具体的には、給料の総額ではなく、一人ひとりの賃金を上げた場合に税制優遇が受けられる制度作りをしていくということです。

 

「一人ひとりの賃金を上げる」というのが具体的にどのようなことを指すのかについてはまだ公表されていません。しかし従業員の全員に恩恵があるように、基本給の引き上げなどが想定されています。また、一人ひとりの賃金をあげた場合の企業側の税制優遇としては、法人税の控除率を引き上げ、税負担を軽くすることが予定されています。

 

具体的な方法については、年末にまとめる2022年の税制改正大綱で議論になる見通しです。

賃上げ税制は今もある! 現行の賃上げ税制とは

衆議院の総選挙や岸田首相の発言などで注目を集めている賃上げ税制ですが、実は現在もすでに行われています。そこで、ここでは現行の賃上げ税制について見ていきましょう。

 

現行の賃上げ税制には、大企業向けと中小企業向けの2つがあります。大企業向けと中小企業向けの大きな違いは、要件面で中小企業向けのほうが緩和されている点にあります。

 

また、令和3年3月31日以前に開始する事業年度と、令和3年4月1日以降に開始する事業年度では要件が異なります。以下で大企業向けと中小企業向けのそれぞれの賃上げ税制の内容について、改正前と改正後のものを見ていきましょう。

1.大企業向け賃上げ税制

大企業向け賃上げ税制は、次のようになっています。

①改正前

・適用年度

平成30年4月1日から令和3年3月31日に開始した事業年度

 

・適用要件

賃上げの要件 ・雇用者給与等支給額が前年度よりも増加

かつ

・継続雇用者給与等支給額が前年度と比べて3%以上増加

設備投資の要件 当期の設備投資額≧当期の減価償却費総額×95%
上乗せ要件 教育訓練費が比較教育訓練費より20%以上増加

 

・税額控除限度額(上限 法人税額×20%)
(雇用者給与等支給額-前期の雇用者給与等支給額)×15%(上乗せの場合は×20%)

 

②改正後

・適用年度

令和3年4月1日から令和5年3月31日に開始した事業年度

 

・適用要件

賃上げの要件 ・雇用者給与等支給額が前年度よりも増加

かつ

・新規雇用者給与等支給額が前年度と比べて2%以上増加

設備投資の要件 なし
上乗せ要件 教育訓練費が前期の教育訓練費より20%以上増加

 

・税額控除限度額(上限 法人税額×20%)

控除対象新規雇用者給与等支給額×15%(上乗せの場合は×20%)

 

2.中小企業向け賃上げ税制

中小企業向け賃上げ税制は、次のようになっています。

①改正前

・適用年度

平成30年4月1日から令和3年3月31日に開始した事業年度

 

・適用要件

賃上げの要件 ・雇用者給与等支給額が前年度よりも増加

かつ

・継続雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加

上乗せ要件 継続雇用者給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加かつ次のいずれかの要件を満たすこと

・教育訓練費が前期の教育訓練費より10%以上増加

・期末までに、中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受け、経営力向上計画に基づき経営力向上が確実に行われたと証明がされていること

 

・税額控除限度額(上限 法人税額×20%)
(雇用者給与等支給額-前期の雇用者給与等支給額)×15%(上乗せの場合は×25%)

②改正後

・適用年度

令和3年4月1日から令和5年3月31日に開始した事業年度

 

・適用要件

賃上げの要件 ・雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加
上乗せ要件 雇用者給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加かつ次のいずれかの要件を満たすこと

・教育訓練費が前期の教育訓練費より10%以上増加

・期末までに、中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受け、経営力向上計画に基づき経営力向上が確実に行われたと証明がされていること

 

・税額控除限度額(上限 法人税額×20%)
(雇用者給与等支給額-前期の雇用者給与等支給額)×15%(上乗せの場合は×25%)

中小企業における賃上げ税制の具体例

ここからは、中小企業における賃上げ税制の具体例について見ていきましょう。

 

通常の場合の賃上げ税制の具体例

まずは、上乗せ要件のない通常の場合の賃上げ税制の具体例から見ていきましょう。

 

例)中小企業で事業年度は令和3年4月1日以降。前年度の雇用者給与等支給額が5,000万円、今年度の雇用者給与等支給額が5,200万円、今年度の法人税額は300万円だった。

 

・要件の適用判定
事業年度が令和3年4月1日以降のため、改正後の賃上げ税制が適用されます。適用要件は、雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加していることです。

 

【計算式】

(今年度の雇用者給与等支給額5,200万円-前年度の雇用者給与等支給額5,000万円)÷前年度の雇用者給与等支給額5,000万円=4%

 

雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加しているため、賃上げ税制の対象になります。

 

・税額控除額の計算
税額控除額の計算式は(雇用者給与等支給額-前期の雇用者給与等支給額)×15%です。上記の例であてはめて計算すると、次のようになります。

 

【計算式】

(今年度の雇用者給与等支給額5,200万円-前年度の雇用者給与等支給額5,000万円)×15%=30万円

 

上限は今年度の法人税額300万円×20%=60万円で、上限を超えていないため、上記の計算結果の30万円が法人税の金額から控除されます。

中小企業における賃上げ税制の上乗せ措置とは

次に、中小企業における賃上げ税制の上乗せ措置についてみていきましょう。中小企業における賃上げ税制の上乗せ措置を受けるためには、雇用者給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加が必要になります。

 

例えば、上記のケースの場合は雇用者給与等支給額が前年度と比べて4%増加しているため、上乗せ措置の基準はクリアしています。

 

また、教育訓練費増加要件もしくは経営力向上要件を満たす必要もあります。それぞれの概要は次の通りです。

 

・教育訓練費増加要件
教育訓練費とは、外部講師謝金や外部施設使用料、研修委託費や外部研修参加費などが対象となります。また、対象者はあくまで従業員のため、会社の役員や個人事業主、内定者などの入社予定者は対象にならないので注意が必要です。これらの教育訓練費が前期の教育訓練費より10%以上増加している場合は、上乗せ措置の対象となります。

 

・経営力向上要件
経営力向上計画とは、中小企業等経営強化法に基づいて、コスト管理などのマネジメントの向上などの経営力を向上するために実施する計画のことです。経営力向上計画は、中小企業庁に申請して認定を受けます。また、計画の策定にあたり、商工会議所や商工会などの認定経営革新等支援機関の支援を受けることもできます。

 

期末までに、中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受け、経営力向上計画に基づき経営力向上が確実に行われたと証明ができれば、経営力向上要件を満たすことになります。

まとめ

岸田新政権の目玉となる施策のひとつに、賃上げ税制があります。これは、給料の総額ではなく、一人ひとりの賃金を上げた場合に税制優遇が受けられる制度を作ろうとするものです。現行でも、賃上げ税制は存在していますが、内容は給料の総額が対象となっています。

 

賃上げ税制は納める税額を低くできる制度です。現行の制度の適用ができる場合はもちろんのこと、できない場合もこれからの新制度で適用できる場合は、積極的に利用しましょう。

長谷川よう
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。