短期退職手当とは?退職金に対する税金の計算方法が変わる? | MONEYIZM
 

短期退職手当とは?退職金に対する税金の計算方法が変わる?

令和3年度の税制改正により、令和4年以降に退職があった場合の退職金に対する税金の計算方法が変わることになりました。変更が行われたのは、短期退職手当についてです。

 

そこでここでは、退職金に対する税金の計算方法がどう変わるのか、短期退職手当とはどのようなものかについて解説します。また、短期退職手当に関するQ&A も掲載しています。

一般的な退職金の税金計算とは

短期退職手当に関する退職金の税金計算を見ていく前に、まずは、一般的な退職金の税金計算やその具体例を見ていきましょう。

 

一般的な退職金の税金計算

そもそも退職金とは、会社を退職する際に、これまでの会社への貢献や勤務期間などに応じてもらえる金銭などのことです。勤務先から受け取る退職手当に加え、生命保険会社などから退職一時金として受け取る保険金なども退職金に相当します。もちろん退職金も給料などと同じように収入になるため、所得税などが課されます。

 

ただし、給料と退職金を同じものとして所得税を課すことは、退職金の性質上、不平等と考えられるため、退職金は給料とは別の方法で所得金額の計算を行います。つまり、給料は給与所得、退職金は退職所得となり、所得区分が異なります。一般的な退職所得は、次の計算式で求めます。

 

退職所得=(退職金の金額- 退職所得控除額)×1/2

 

退職所得控除額は、勤続年数に応じて、次の表にあてはめて計算します。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

例えば、勤続年数が10年の場合の退職所得控除額は40万円×10年=400万円になります。

 

退職金の所得税は、退職金の支給時に源泉徴収されます。源泉徴収される金額は、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出しているかどうかで異なります。

 

「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出している場合は、退職所得金額を「退職所得の源泉徴収税額の速算表」にあてはめて、正しい所得税の金額を源泉徴収します。
そのため、確定申告は不要です。

退職所得の源泉徴収税額の速算表
課税退職所得金額(A) 所得税率 控除額 税額
195万円以下 5% 0円 (A)×5%×102.1%
195万円を超え330万円以下 10% 97,500円 ((A)×10%-97,500円)×102.1%
330万円を超え695万円以下 20% 427,500円 ((A)×20%-427,500円)×102.1%
695万円を超え900万円以下 23% 636,000円 ((A)×23%-636,000円)×102.1%
900万円を超え1,800万円以下 33% 1,536,000円 ((A)×33%-1,536,000円)×102.1%
1,800万円を超え4,000万円以下 40% 2,796,000円 ((A)×40%-2,796,000円)×102.1%
4,000万円超 45% 4,796,000円 ((A)×45%-4,796,000円)×102.1%

「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出していない場合は、退職金の支給額に20.42%の税率をかけて、概算の所得税等の金額を計算し、源泉徴収します。源泉徴収される金額は、あくまで概算の金額であるため、確定申告する必要があります。

一般的な退職金の税金計算例

では、具体例で一般的な退職金の税金を計算してみましょう。

 

例)退職金600万円、勤続年数10年(退職所得控除額400万円)、退職所得の受給に関する申告書提出済の場合

 

退職所得金額=(退職金の金額600万円- 退職所得控除額400万円)×1/2=100万円
所得税等の金額=退職所得金額100万円×5%×102.1%=51,050円

 

退職所得金額は100万円であるため、上記の「退職所得の源泉徴収税額の速算表」にあてはめると、税額は5%×102.1%になります。

短期退職手当がある場合の税金計算とは

令和4年以降に退職があった場合、短期退職手当がある場合の税金の計算方法が変わります。

そこで、ここでは短期退職手当がある場合の税金計算について見ていきましょう。

短期退職手当とはどんなもの

短期退職手当とは、勤続年数が5年以下である短期勤続年数の従業員に対する退職手当(退職金)のことです。短期退職手当はあくまで、一般の従業員に対するものであるため、役員などの場合は短期退職手当に該当しません(特定役員退職手当等という違う考え方があります)。

 

短期退職手当に対する改正とは、勤続年数が5年以下の従業員に対する退職所得金額の求め方を次のように変更するというものです。

 

退職所得金額

短期退職手当等の収入金額-退職所得控除額≦300 万円の場合 短期退職手当等の収入金額-退職所得控除額>300万円の場合
(短期退職手当等の収入金額-退職所得控除額)×1/2 150万円+{短期退職手当等の収入金額-(300万円+退職所得控除額)}

勤続年数が5年超の場合には、変更がなく令和3年以前と同じです。

短期退職手当がある場合の税金計算例

では、具体的に短期退職手当がある場合の税金の計算例を見ていきましょう。

 

例1)退職金400万円、勤続年数5年、退職所得控除40万円×5年=200万円の場合

このケースでは、退職金400万円-退職所得控除200万円=200万円であるので、退職所得金額の計算は300万円以下の計算式を使って求めます。

退職所得金額=(短期退職手当等の収入金額400万円-退職所得控除額200万円)×1/2=100万円
所得税等の金額=退職所得金額100万円×5%×102.1%=51,050円

退職所得金額が100万円なので、上記の「退職所得の源泉徴収税額の速算表」にあてはめ、税額は5%×102.1%になります。

 

例2)退職金1,000万円、勤続年数5年、退職所得控除40万円×5年=200万円の場合

このケースでは、退職金1,000万円-退職所得控除200万円=800万円であるため、退職所得金額の計算は300万円超の計算式を使って求めます。

退職所得金額=150万円+{短期退職手当等の収入金額1,000万円-(300万円+退職所得控除額200万円)}=650万円
所得税等の金額=(退職所得金額650万円×20%-427,500円)×102.1%=890,822円

退職所得金額650万円のため、上記の「退職所得の源泉徴収税額の速算表」にあてはめ、税額は(退職所得金額×20%-427,500円)×102.1%になります。

短期退職手当に関するQ&A

ここまでは、短期退職手当に関する税制改正について見てきました。ここからは、短期退職手当に関するQ&Aを見ていきましょう。

 
Q 令和3年に退職した人も、退職手当の支給が令和4年の場合は短期退職手当の適用を受けますか?
A 原則、令和3年12月31日以前に退職した従業員は、短期退職手当の適用を受けません。
そのため、改正前の法令を適用します。

 

Q 勤続年数に1年未満の端数がある場合は、どのように計算しますか?
A 勤続年数に1年未満の端数がある場合は、端数を切り上げします。例えば、勤続年数が5年1か月の場合は、1年未満の端数切り上げで勤続年数6年となるため、その退職金は短期退職手当に該当しません。

 

Q 同一年中に、異なる会社からそれぞれ退職手当等の支給を受ける場合は?
A それぞれの退職金ごとに、短期退職手当に該当するかどうかを判定します。

 

Q 一時勤務しなかった期間がある場合は?
A 復職前に退職金を受け取っているかどうかで異なります。復職前に退職金を受け取っていない場合は、復職前と復職後の年数を合算したものが勤続年数になります。復職前に退職金を受け取っている場合は、復職後の年数のみ、勤続年数になります。

まとめ

退職金は、従業員に支給する際に所得税等の源泉徴収をする必要があります。「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出している場合は、退職所得金額を「退職所得の源泉徴収税額の速算表」にあてはめて、正しい所得税の金額を源泉徴収します。「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出していない場合は、退職金の支給額に20.42%の税率をかけて、概算の所得税等の金額を計算し、源泉徴収します。

 

ただし、一般的には、退職所得の受給に関する申告書の提出を求めるため、正しい所得税の金額を源泉徴収することになります。この際に気を付けたいのが、短期退職手当がある場合です。令和4年以降に、勤続年数が5年以下である短期勤続年数の従業員に対して退職金を支払う場合は、退職所得金額の計算が異なります。

 

退職金から源泉徴収する所得税等の金額を間違えた場合は、トラブルのもとになる可能性もあります。正確に、源泉徴収する所得税等の金額を計算しましょう。

長谷川よう
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。