個人事業主が損害保険金を受け取ったら 税金はどうなる? | MONEYIZM
 

個人事業主が損害保険金を受け取ったら
税金はどうなる?

事業主のケガや病気、店舗や商品の災害での損失に備えるためなど、個人事業主はさまざまな理由で損害保険に加入している場合が多いです。実際に損害が起きると、保険金を受け取れます。

 

では、この保険金はどのように会計処理するのでしょうか。ここでは、損害保険金の会計処理や税金について詳しく解説します。

そもそも損害保険とは

個人事業主が加入する一般的な保険には、生命保険や損害保険、地震保険など多くのものがあります。そのため、損害保険についてきちんと理解できていない場合もあるでしょう。まずは、そもそも損害保険とは何かを見ていきましょう。

損害保険とはどんな保険?

損害保険とは、自然災害やケガ、盗難などの偶然のリスクによって損害が生じたときに、その損失を補うために加入する保険です。火災保険や傷害保険、自賠責保険などが損害保険になります。

 

損害保険のいちばんの特徴は、実際に被った損失の額を実額で受け取れることです。そのため、万が一損害が起きたときも、安心して事業活動を継続していけます。原則、契約形態に応じて一定の掛け金を、保険会社に定期的に支払います。

損害保険料を支払った場合の処理方法

では、個人事業主が毎月、損害保険の掛け金を支払った場合の処理方法を見ていきましょう。

 

損害保険料を支払った場合の会計処理時に注意したいのが、損害保険料には経費になるものと経費にならないものがある点です。

 

経費になる損害保険料は、あくまで事業に関係のあるものだけです。例えば、店舗や商品に対する火災保険や地震保険などは経費になります。

 

逆に、家(自宅)の火災保険や個人事業主本人の傷害保険などは、事業に関係するとはいえないため経費にはできません。経費になる損害保険料の処理方法は、次のとおりです。

 

例)店舗に対する火災保険料1万円を、事業用の普通預金から支払った

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
(損害)保険料 1万円 普通預金 1万円 火災保険料

 

損害保険料は、経費科目の(損害)保険料で処理します。プライベートの通帳から支払った場合は、貸方勘定科目を「事業主借」で処理します。経費にならない損害保険料の支払いは、仕訳不要です。
 

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損害保険金を受け取った場合の税金

ここまでは、損害保険料の概要や損害保険料の支払い時の処理を見てきました。ここからは、実際に損害を受けて、損害保険金を受け取ったときの処理について見ていきましょう。

原則、損害保険金を受け取っても税金はかからない

損害保険料は、原則、損害を受けたものを実額で補償するものです。いわばプラスマイナス0円になると考えられる保険です。受け取った損害保険金を収入として税金を課してしまうと、そもそもの損害保険の意味を損ねてしまいます。そのため、税法では、建物の焼失や身体の傷害・疾病を原因として受け取る保険金について税金を課さないと定めています。

 

ただし、損害保険の受け取り額は、保険会社が査定するため、実際の帳簿金額と異なる場合があります。

 

例えば、帳簿価格300万円の機械が損害に遭い、500万円の損害保険金を受け取るという場合もあります。この場合、帳簿価格と受け取り額の差額200万円はどうなるのでしょうか。

実は、差額の200万円も税金はかかりません。

 

損害保険金が事業の収入にはならず、税金がかからないため、機械の廃棄損の経費にはできません。もし、差額の200万円を修繕に使っても、その分は経費になりません。

そこで、仕訳は次のようになります。

 

損害保険金を受け取ったときの仕訳

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
普通預金 500万円 事業主借 500万円 損害保険金受取

 

損害に遭った機械の処理

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
事業主貸 300万円 機械装置 300万円 損害により機械破棄

 

修繕費の仕訳

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
事業主貸 200万円 普通預金 200万円 機械 損害分修繕費

 

損害保険金に関する一連の仕訳を収入や経費に計上しないため、「事業主借」や「事業主貸」の勘定科目を使って処理します。

受け取った損害保険金に税金がかかるケース

原則、損害保険金は受け取っても税金はかかりません。しかし、税金がかかるケースがあります。それが商品に対する損害保険金です。

 

販売するための商品や製品、製品を製造するための原材料など、販売商品や棚卸資産が火災などの損害が要因で受け取った損害保険金は、売上の補填と考え、収入に計上する必要があります。

 

商品については、受け取った損害保険金を収入に計上するため、商品の購入代も経費(売上原価)にできます。

 

では、税金のかからない店舗と税金のかかる商品が同じ火災で焼失した場合はどうなるのでしょうか。

 

この場合、受け取った損害保険金のうち、店舗部分は収入に計上せず、商品部分のみ収入に計上します。具体例で確認しましょう。

 

例)火災が起こり、店舗と商品が焼失したため、損害保険金2,000万円を受け取った。損害保険金の内、1,500万円は店舗、500万円は商品分だった。店舗の帳簿価格は1,000万円、商品は購入時に「仕入高400万円」で処理している。

 

損害保険金を受け取ったときの仕訳

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
普通預金 2,000万円 事業主借 1,500万円 損害保険金受取
店舗分
売上高 500万円 損害保険金受取

商品分

 

売上高は「雑収入」などの別の収入科目で処理しても、問題ありません。

 

損害に合った店舗の処理

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
事業主貸 1,000万円 建物 1,000万円 火災により建物焼失

 

損害に合った商品の処理

既に仕入高で計上されているため、処理不要

 

商品については、損害保険金の受取額500万円-仕入高400万円=100万円が利益になり、税金の対象となります。

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個人事業主が受け取る「損害保険金」の中でも、税金がかかるケースがあるって本当!|3分でわかる!税金チャンネル

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損害保険金を受け取った場合の注意点

ここからは、個人事業主が損害保険金を受け取った場合の注意点について、見ていきましょう。

損害保険金を受け取った場合の経費の処理

損害保険金を受け取った場合の経費の処理は、ここまで見てきたとおり、受け取った損害保険金が非課税のものであれば経費も非課税、損害保険金が課税であれば、経費も課税でした。

 

しかし、受け取った損害保険金が非課税であっても、経費が課税の場合があります。それが、損害保険金よりも損失が大きかった場合です。

 

例えば、帳簿価格2,000万円の店舗が焼失し、1,500万円の損害保険金を受け取った場合です。建物の損失は、損害保険金を超えています。この場合、受け取った損害保険金を超える損失分(500万円)は経費にできます。焼失した建物の仕訳は次のようになります。

 

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
事業主貸 1,500万円 建物 2,000万円 火災により建物焼失
雑損失 500万円 火災により建物焼失

 

雑損失は、「雑費」など別の経費科目で処理しても、問題ありません。

消費税の課税事業者の場合は消費税に注意

損害保険金で、注意しなければならないことのひとつが消費税です。受け取った損害保険金は、収入に計上するかどうかは関係なく、そもそも消費税の計算には影響しません(対象外)。そのため、損害保険金を売上や雑収入で計上している場合は、消費税の計算に含めないように注意しましょう。

 

では、経費はどうなるのでしょうか。消費税は物の購入やサービスの提供に対してかかります。そのため、損害保険金を使って、修理をしたり、新たな資産を購入したりした場合は、消費税の対象になります。経費になるかどうかは関係ありません。

 

そこで、事業主貸などで処理した修繕費なども、消費税の計算に含む点に注意が必要です。

 

損害保険金 課税関係まとめ

原因 損害保険金 経費 消費税
(損害保険金)
消費税
経費支払部分
建物の焼失
身体の傷害など
非課税 非課税 対象外 課税
商品・棚卸資産 課税 課税 対象外 課税

まとめ

損害保険金を受け取った場合の処理は、その損害保険金が建物の焼失や身体の傷害・疾病によるものなのか、商品・棚卸資産に対するものなのかで処理方法が異なります。

 

また、消費税についても、損害保険金の使い方などにより処理が異なる場合があります。正しく処理をするためには、損害保険金の処理がどのケースに該当するのかをきちんと見極めることが重要となるでしょう。

 

長谷川よう
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。
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