設備投資で使うことができる法人税法・租税特別措置法の特典を解説 | MONEYIZM
 

設備投資で使うことができる法人税法・租税特別措置法の特典を解説

令和3年度税制改正で「中小企業経営強化税制」「中小企業投資促進税制」の期限延長が決まりました。企業の設備投資を国が税制面で支援していくこの制度ですが、適用を受けることができれば大きなメリットとなります。今回は企業が多額の設備投資をするにあたり、適用可能な制度について解説していきます。

設備投資と税法上の特例について

国が推進する「設備投資の促進」と税制支援

国内外の経済情勢をふまえた国家戦略を税制面でバックアップすることを目的として、政府は毎年「税制大綱 」という税制の方針を決定しています。令和3年度は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、「新たな日常に向けた企業の経営改革」「コロナ渦から立ちあがる企業の成長支援」といったキーワードが挙げられています。

 

その中でも「生産性の向上」「国際競争力の強化」を目指し、企業の設備投資を支援する「中小企業経営強化税制」「中小企業投資促進税制」という制度が期限延長されました。

 

大規模な設備投資をした企業には税制面で様々な特典を用意しますという趣旨の制度ですが、設備投資となれば投資額は多額になりやすいので適用可能であれば節税効果は高いものとなります。
 

税法上の特典を適用した場合のメリット

一言で特典といっても、その手法は「特別償却」「即時償却」といった費用面での節税から、税額から直接控除する「税額控除」、補助金を受け取った場合に収益を繰り延べる「圧縮記帳」など様々です。

 

毎期経常的に利益を計上する企業であれば、節税額が最も大きくなる「税額控除」を適用するのが有利でしょう。

 

大口の物品販売や大規模工事の完成など、当期に限り多額の利益が計上され、節税を考えているということであれば「特別償却」「即時償却」の適用が検討されます。

 

将来的に収益が減少することが予想されるのであれば「圧縮記帳」で固定資産の簿価を圧縮し、翌期以降の減価償却費を抑えるのも1つの方法です。

 

いずれの特典を適用しても法人税額を抑えたり、合法的な利益の調整をしたりできます。問題は、会社の実情に合わせてどの制度を利用するか?という点です。

法人が適用可能な税制上の特典にはどのようなものがあるか?

設備投資と「特別償却」「税額控除」の関係

ではまず、設備投資が会計上どのように処理されるのか?税制上の特典とどのように関わってくるのか?から見ていきましょう。

 

例:工場の生産ライン構築のために機械装置1,000万円を購入した
借   方 貸   方
機械装置   10,000,000円 現  金   10,000,000円

設備投資額が30万円以上になる場合、会計上は「固定資産」として資産計上しなければなりません。

 

機械装置は使用すれば時間の経過とともにその価値を減少(減価)させていきます。会計上はこの価値の減少に応じて固定資産を費用化していきます。これが「減価償却」です。

 

例:機械装置1,000万円の減価償却費300万円を計上した
借   方 貸   方
減価償却費   3,000,000円 機械装置   3,000,000円

減価償却費の金額は任意で決定することはできず、償却方法の届出をした場合を除き「法定償却方法」で「法定耐用年数」の期間内に一定の償却率で費用化していかなければなりません。

 

しかし「中小企業投資促進税制」では、一定の要件を満たした場合に限り、この減価償却費を割り増しして計上することができます。

 

例:機械装置1,000万円の普通償却額300万円に加え、特別償却3,000,000円を計上した
借   方 貸   方
減価償却費   6,000,000円
(うち、特別償却額3,000,000円)
機械装置   6,000,000円

通常の減価償却と比べて費用をより多く計上できますので利益を抑え、節税できるというわけです。
 

当期の利益を抑えたい場合は「即時償却」

「中小企業投資促進税制」の特別償却は「取得価額の30%まで」という制限があります。しかし、もう少し税額を抑えたいという場合にはさらに「即時償却」という制度があります。

 

「中小企業経営強化税制」の上乗せ要件をクリアすれば、通常の減価償却を行ったあとの残額を全額費用化することが可能となります。これを「即時償却」と呼びます。

 

例:機械装置1,000万円の普通償却額300万円に加え、即時償却7,000,000円を計上した
借   方 貸   方
減価償却費   10,000,000円
(うち、即時償却額7,000,000円)
機械装置   10,000,000円

設備投資の取得価額を当期において全額費用とすることができますので、当期に限っていえば節税効果は非常に高いものとなります。

 

なお、「特別償却」や「即時償却」は将来の減価償却費を当期に先食いする制度です。翌期以降の業績が芳しくないと予想されるのであれば、将来的な費用を当期のうちに費用化しておくことで、翌期以降の費用負担を軽減するといったメリットもあります。

 

なお「中小企業経営強化税制 」で対象となる設備にはA類からD類の4種類があり、分類によって適用の手続きが異なります。特例の適用を受ける際にはあらかじめ設備投資がどの分類に該当するのか確認してから手続きを進めましょう。

設備投資時に補助金や助成金を受け取った場合

設備投資時に受けることができる補助金、助成金

積極的に設備投資を行う企業を支援するものとして、中小企業庁の「ものづくり補助金」や資源エネルギー庁の「先進的省エネルギー投資促進事業費補助金 (省エネ補助金)」など各種の補助金、助成金が用意されています。

 

例えば「ものづくり補助金」であれば、一般型で1,000万円、グローバル展開型で3,000万円の補助を受けることができます。

 

また「省エネ補助金」では、中小企業等であれば最大で投資額の2/3という多額の助成金を受け取ることができます。

 

助成金とはいえ収入ですから法人税課税の問題はあります。しかし、多額の設備投資資金を充当できますので積極的に申請してみてはいかかでしょうか。
 

「圧縮記帳」と「特別償却」「税額控除」の重複適用について

補助金や助成金を受け取った場合の一般的な会計処理は以下の通りです。

 

例:機械装置5,000万円の取得に伴い、「ものづくり補助金」1,000万円が交付された
借   方 貸   方
現   金   10,000,000円 受取補助金収入   10,000,000円

一時的に収入が増加しますので納税額が増加しますが、納税が厳しいということであれば「圧縮記帳」という選択肢もあります。「圧縮記帳」とは、固定資産を取得するにあたり補助金や助成金、保険金等を受け取った際に固定資産の簿価を圧縮して圧縮損(費用)を計上するという方法です。

 

補助金等の受取額は収益となりますが、この「圧縮記帳」を使って圧縮損(費用)を計上することで収益と費用を相殺し、利益を抑えることができます。

 

「圧縮記帳」には以下の2つがあります。

1.法人税法上の圧縮記帳
  • 補助金、助成金、保険金等で固定資産を取得した場合
  • 不動産の交換により一定要件の固定資産を取得した場合
2.租税特別措置法上の圧縮記帳
  • 収用や換地等により固定資産を取得した場合
  • 特定資産の買替等により固定資産を取得した場合

今回は1.法人税法上の圧縮記帳を例に解説していきます。

 

例:機械装置について補助金1,000万円分の圧縮記帳を行った(直接圧縮方式)
借   方 貸   方
機械装置圧縮損   10,000,000円 機械装置   10,000,000円

ここで問題となるのが、法人税法上の「圧縮記帳」を行った設備について、租税特別措置法の「特別償却」「即時償却」や「税額控除」を重複して適用できるかどうかです。

 

結論から言えば、法人税法上の圧縮記帳を行った場合「特別償却」「即時償却」や「税額控除」といった租税特別措置法上の特例を重複適用ができます。

 

税法の規定には、法人税法と租税特別措置法の重複を認めないとする規定はありません。したがって、法人税法上の圧縮記帳を行った場合は租税特別措置法の各種特例を適用可能です。

まとめ

多額の設備投資は会社の損益にも資金繰りにも多大な影響を与えますので、会社にとっては一大プロジェクトであるといえます。経営を左右する大事な局面で会社にとって最も有利な選択ができるよう、現在施行されている税制の特典に対する理解を深めましょう。

奥谷佳子
Webライター/ライター
フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。 自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。 取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。