一度決定した役員報酬の金額を変更したい。そのとき注意すべきこと | MONEYIZM
 

一度決定した役員報酬の金額を変更したい。そのとき注意すべきこと

株主総会で決定した当期の役員報酬は、原則としてその期中に増額・減額することはできませんが、業績の大幅な悪化など一定の理由がある場合には変更が認められます。昨今は、コロナ禍で予期せぬ減収に見舞われ、減額を検討せざるを得ないケースが少なくありません。ただし、安易に変更すると、課税上の問題が起こる可能性もあります。今回は役員報酬の変更について注意すべきポイントをまとめました。

役員報酬の変更はなぜ制限される?

役員報酬の決め方

役員報酬は従業員の給与とは違い、決め方に税法で、次のようなルールが定められています。

 

・前期から増額、減額する場合は、事業年度開始3ヵ月以内の株主総会で決定する(3ヵ月を過ぎると、原則として変更できない)。

・報酬は、「定期同額給与」(毎月一定額を支払う)、「事前確定届出給与」(賞与など)とし、後者は税務署への届け出が必要になる。

 

この役員報酬は、「損金」に計上することができます。つまり、高額なほど利益を圧縮でき、法人税額を減らすことができます。とはいえ、高く設定しすぎると、必要な利益を確保できなくなるかもしれません。役員個人にしてみれば、収入が増えると、今度はそれだけ所得税額が上がります。そのため、役員報酬額をいくらにするのかは、会社経営にとって非常に重要な意味を持っているのです。

変更に「縛り」がある理由

では、報酬金額の事業年度内の変更が制限される理由はどこにあるのでしょうか? 平たく言えば、それを認めると「税収」に影響を与えるからです。

 

会社の業績が予想以上に伸びた場合、利益が増えるのはありがたい話ですが、そのぶん納める法人税も増えることになります。もし役員報酬が自由に変更できるのならば、途中から増額して損金に計上し、法人税を「節税」することが可能になるでしょう。そうした行為を許さないために、原則として認めないことになっているのです。

役員報酬の変更が認められる場合もある

安易に変更すると、損金算入ができなくなる

あえて言えば、役員報酬の期中での変更が禁じられているわけではありません。「勝手に増額したり減額したりすると、課税上の不利益を被ることに注意しましょう」というのが正確な言い方になります。

 

期中に役員報酬を増額した場合には、その増額分(例えば「定期同額給与」を20万円増額したら、20万円×増額後の月数)は損金に計上することができません。個人の所得税のほうは、増えた金額分しっかり増税になりますから、二重の負担増ということになるでしょう。一方で減額をすると、逆に減額前との差額分(例えば「定期同額給与」を20万円減額したら、20万円×減額前の月数)が損金算入できません。

 

なお「事前確定届出給与」については、税務署に対する事前届出どおりに支給しなかった場合、原則として増額・減額に関わらず、全額経費計上できないことになっています。

変更が認められる(損金算入できる)ケースとは?

とはいえ、「正当な理由」があるのにまったく変更できないとなると、円滑な企業運営に支障をきたすことになりかねません。そこで、次のような場合には、増額・減額が認められることになっています。

 

〈増額変更が認められる場合〉

  • 任期の途中で就任したり、昇格したりした

 

〈減額変更が認められる場合〉

  • 任期の途中で辞任したり、降格したりした
  • 病気・ケガなどにより長期にわたり業務を行うことができなくなった
  • 不祥事を起こしたことによって懲戒処分を受けた
  • 会社の業績が悪化した

「業績悪化」の判断基準は?

上のケースで解釈の余地が残るのは、減額についての「業績悪化」という要件(「業績悪化改定事由」)でしょう。主観的にそう判断して役員報酬を下げたら、損金への計上が認められなかったというのでは元も子もありません。コロナ禍中にあって、いぜんとして売上減の可能性は高いですから、とても気になる点でしょう。具体的にはどうなっているのでしょうか?

 

国税庁の「新型コロナウイルス感染症に関連する税務上の取扱い関係」では、法人税の取扱いにおける“業績悪化改定事由”とは、「経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があること」を指すとしたうえで、「業績等が急激に悪化して家賃や給与等の支払いが困難となり、取引銀行や株主との関係からもやむを得ず役員給与を減額しなければならない状況にある場合は、この業績悪化改定事由に該当する」と説明されています。

 

また、現状で売上減少などをきたしていなくても、「役員給与の減額等といった経営改善策を講じなければ、客観的な状況から判断して、急激に財務状況が悪化する可能性が高く、今後の経営状況が著しく悪化することが不可避」と考えられる場合にも、これに該当するとしています。

財務、税務面での注意点

役員報酬の減額が認められる場合にも、次のような点に注意する必要があります。

 

  • 「健康保険料」「厚生年金」の控除

役員報酬が減額されれば、会社負担の社会保険料も下がります。ただし、標準報酬月額(給与額)に応じて段階的に算出される社会保険料の改定時期には、「標準報酬月額が2等級以上落ちてから3ヵ月経過後」というタイムラグがあります。3ヵ月間は、減額された報酬から減額前の高い社会保険料が控除されるので、報酬額に対する負担割合は大きくなります。

 

  • 住民税の控除

住民税の改訂時期は6月と決まっていますから、それまでは、やはり減額前の高い住民税が報酬から控除されます。

 

  • 配偶者の扶養

報酬が減ったことで、配偶者を扶養につけることが可能になるケースがありますから、調べてみましょう。

 

  • 所得税の「予定納税」の減額

確定申告している役員が、所得税の「予定納税」をしている場合、報酬の減額でそれが困難になることもあります。「予定納税の減額」という制度がありますから、税務署に相談してみましょう。

まとめ

経営状況の著しい悪化などのやむをえない理由がある場合には、事業年度の途中で役員報酬を変更することが可能です。ただし、要件を満たさないのにそれを行っても、損金算入は認められません。疑問がある場合には、税理士などの専門家に相談するようにしてください。

マネーイズム編集部
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