「10億円詐取」に、国税局職員が絡んだ「投資をうたう詐欺」 持続化給付金はなぜ狙われたのか? | MONEYIZM
 

「10億円詐取」に、国税局職員が絡んだ「投資をうたう詐欺」 持続化給付金はなぜ狙われたのか?

新型コロナウイルス対策として実施された国の持続化給付金をめぐる高額の詐欺事件が相次ぎ、世間の憤りを買っています。10億円余りの給付金不正受給を主導し、インドネシアに逃亡していた容疑者は逮捕され、取り調べが進められています。また、現職の国税局職員らが、大学生などを暗号資産への投資を名目に詐欺に加担させていた、という驚きの事件もありました。コロナ関連では他にも多くの給付金や助成金制度が活用されましたが、持続化給付金の不正は突出しています。今回はそのカラクリと、不正受給の自覚がある、あるいは加担したかもしれないと感じたときの対処法について解説します。

過去最大の給付金詐欺

わずか5ヶ月の「犯行」

警視庁に逮捕された谷口光弘容疑者のグループが騙し取ったとされる持続化給付金は、総額9億6,000万円に上り、給付金詐欺としては過去最大規模になります。谷口容疑者は、逃亡先のインドネシアから移送され、6月22日に詐欺容疑で逮捕されました。
 

報道によれば、グループは主犯格の谷口容疑者とその元妻、長男、次男らからなる主要メンバー十数人と、その傘下の約15チーム(約40名)から構成されていました。「持続化給付金が受け取れる」と言って本来受給資格のないサラリーマンなどを勧誘し、中小企業庁への申請を代行したうえで、首尾よく給付金を手にした「申請者」から手数料を受け取る、というのがその手口です。
 

グループによる申請の代行は、2020年5月~9月のわずか5か月間に約1,800件に及びました。そのうち36都道府県の約960件(「個人事業主」940件、中小企業20件)で、合計約10億円の給付金を詐取したのです。

「誰でももらえる」と勧誘

同じようなスキームの持続化給付金詐欺は、申請の受付が開始された20年5月直後から全国で多発していました。しかし今回の事件では、突出して高額の不正受給に「成功」しています。グループの誘いに乗って給付金の申請者に名乗り出た人が、過去の事例に比べて桁違いに多かったからにほかなりません。
 

勧誘の手段の1つが、容疑者自らが講師を務めた「持続化給付金セミナー」でした。その場で、受給要件(個人事業主か中小企業)を満たさない会社員などを「誰でも受給できる」「申請はこちらでする」と言葉巧みに誘い、事務局から問い合わせがあった場合の「模範解答」まで指南していました。「簡単に給付金が受け取れる」という話は口コミでも広がり、瞬く間に申請者が膨れ上がったといいます。
 

膨大な申請をこなすため、グループは組織力で対応しました。会社員を個人事業主に仕立て上げたうえでコロナ禍による減収を「証明」するためには、前年分からの確定申告書を偽造する必要があります。家族の中でその役割を次男が担い、元妻と長男は中小企業庁への申請作業に没頭しました。
 

しかし、皮肉なことに申請者が一気に増加したことが、命取りになりました。確定申告書に同じ収入額が並ぶなど、作業が荒くなったことで事務局に不信を抱かれ、警察への情報提供につながったのです。

税務の知識を悪用した詐欺

現職の国税局職員が関与

さらにこれより先、東京国税局職員の塚本晃平容疑者(22年6月に逮捕)、税務大学校などで同期だった元職員の中村上総被告(同1月に逮捕、詐欺罪で起訴済み)、元証券会社社員の中峯竜晟被告(同)など9人が、持続化給付金を騙し取ったとして警視庁少年事件課に摘発される…という事件が明るみに出ました。20年8月に、給付金申請の名義人となっていた少年が警察に出頭したことが、捜査開始のきっかけでした。ドバイに出国していたリーダーとみられる松江大樹容疑者も、帰国と同時に逮捕されています。
 

9人は、中峯被告が主宰する暗号資産(仮想通貨)の投資グループのメンバーで、持続化給付金の不正受給を考えた中峯被告が、税務の知識を持つ中村被告、塚本容疑者を仲間に引き込んだ、という構図だとされます。2人は、申請に必要な確定申告書の偽造を担当し、1件当たり5万円の報酬を得ていました。このグループが詐取した給付金は、およそ2億円に上ります。

投資の名目で若者を勧誘

ただ、この事例が他の給付金詐欺と違うのは、「暗号資産への投資」をうたっていたことです。高校生や大学生をターゲットに、「投資をすれば個人事業主になるから、給付金をもらえる」「給付金を投資に回せば、200%の利益が出る」などと勧誘したのです。
 

実際には、学生らは受給した給付金の2割を手数料として支払い、投資に回ったはずの残り8割も受け取ることはできませんでした。その大半は、松江容疑者の手に渡っていたといいます。

持続化給付金が狙われたワケ

「迅速な支給」を優先

持続化給付金は、「新型コロナウイルス感染症の影響により、1か月の売上が前年同月比で50%以上減少している」ことなどを要件に、個人事業主(最大100万円)、中小企業(最大200万円)に、原則として使途を限定せずに給付を行う、という制度です。主管は経済産業省(中小企業庁)で、申請期間は2020年5月1日~2021年2月15日まででした(現在は終了)。
 

持続化給付金について、詳しくは…
参考:「売上半減の個人事業主に、100万円の現金給付!中小企業も対象の「持続化給付金」を解説します」マネーイズム
 

当時、新型コロナによる外出制限などにより景気が急減速し、広範な業種で事業の継続が困難になる個人や企業が続出しました。そうした危機を乗り越えてもらおうと緊急対策として設けられたのがこの給付金で、申請はオンラインでもOKで、最短2週間で入金されるなど、スピード重視の制度設計となっていました。
 

不正受給は13億円、自主返還は166億円超に

この給付金のおかげで、ひと息つげた事業者が数多くいたのは事実です。一方、スピードを優先したために、申請内容は自己申告(第三者のチェックなどはなし)で、事務局レベルで要件の精査は難しい、という「弱点」がありました。当初から「不正の行われるリスクは高い」と指摘され、実際その通りになってしまいました。
 

ちなみに、経産省が挙げている「不正受給」は、以下のような行為です。

  • ● 事業を実施していないのに申請する
  • ● 各月の売り上げを偽って申請する
  • ● 売上減少の理由が新型コロナウイルスの影響によらない場合は給付対象とならないことを認識しつつ、申請する。(季節性のある事業において、意図的に通常事業収入を得られる時期以外を対象月として申請することを含む)

メディアで表沙汰になったような詐欺は、その全ての“合わせ技”ということができるでしょう。
 

同省によれば、この持続化給付金には約441万件の申請があり、うち約424万件の対象事業者に対し、総額約5兆5,000億円が支給されました。このうち、不正受給と認定されたのが1,297者、不正受給総額は、6月30日時点で約13億760万円に上っています。
 

また、後述する給付金の「自主返還」は、6月30日時点で、申出件数:約2万2,800件、返還済み件数:約1万5,500件、返還済み金額:約166億4,500万円となっています。

不正受給の認識があったらどうすればいい?

経産省は不正受給者名などを公表

では、実際に持続化給付金の不正受給を行っていて、それを認定されたらどうなるのでしょうか? 「もらったお金を返せばいい」ではすみません。ペナルティとして、給付金の全額に加え、年3%の延滞金と、その合計額の20%に相当する加算金の納付を併せて求められるのです。同時に、経産省ホームページに、不正受給した申請者の氏名や屋号、所在地などが公表されます。
 

なお、中小企業庁から督促を受けるまでに、今述べた全額を納付した場合には、氏名などは公表されません(認定日、金額、不正の概要のみ記載)。さきほどの1,297者のうち1,032者は、すでに納付済みだということです。
 

一方、給付要件を満たさないにもかかわらず誤って申請を行い、給付金を受給してしまった場合などについて、中小企業庁が調査を開始する前に自主的な返還の申出を行い、返還を完了した場合には、原則として加算金・延滞金は課されないことになっています。

不正行為の追及は終わっていない

1年以上前に申請が終了した持続化給付金ですが、不正受給についての調査は終わっていません。経産省は、ホームページで「不正受給は絶対に許しません」と宣言し、該当する場合には、速やかにさきほどの自主返還を申し出るよう求めています。
 

不正行為のハードルが低かったぶん、それを立証するのも、実はそう難しくないのです。偽造された確定申告書や売上数字を調整した資料などの「動かぬ証拠」を、相手に渡しているからです。申請内容をしらみつぶしに調べることで、やがて不正は暴かれると考えるべきでしょう。
 

ペナルティは、加算金や延滞金だけではありません。経産省は「事案によっては刑事告発する」としており、すでに多くの逮捕者が出ています。容疑は「詐欺罪」ですが、この罪には「窃盗罪」と違い罰金刑がありません。有罪判決が確定すると、執行猶予が付かない限り刑務所に収監されることになります。
 

さきほどの例のように、誰かに勧誘されて軽い気持ちで受給した(詐欺の意識はなかった)場合でも、お目こぼしにはなりません。もしその自覚があるのなら、すぐに給付金の自主返納を申し出て、指示に従う必要があります。
 

返納すれば、警察沙汰になる可能性は低くなるでしょう。ただし、返したからといって、法的に詐欺の事実が消えるわけではないことには、注意が必要です。悪質な詐欺に加担していたようなケースでは、刑事事件に強い弁護士に相談することをお勧めします。

まとめ

コロナ禍で苦しむ事業者を緊急支援するために支給された持続化給付金をめぐる不正受給が、相次いで明るみに出ています。申請のしやすさを突かれた形ですが、不正の事実を突き止めるのも比較的容易です。身に覚えがある場合には、速やかに自主返納を申し出るのがいいでしょう。

マネーイズム編集部
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