国内資産を貯蓄から投資へシフトさせる目的で2014年に開始された少額投資非課税制度(通称:NISA)は、何度かの改正を経て現在でも運用されています。2024年には「新NISA」と呼ばれ、NISAをさらに利用しやすくするための拡充が行われます。今回は「新NISA」でどれくらい積み立てればよいのかを中心に解説していきます。
新しいNISA制度の変更点
まずは現行のNISAを見てみよう
日本の財政の抜本的な問題点として挙げられるのが、個人が稼ぎ出した所得が貯蓄に回ってしまい、投資や消費といった形で市場に出回らず眠ったままになっているという点です。世界でも有数の経済大国でありながら、貯蓄大国でもある我が国の経済構造に対し、資産活用を促進する政策を講じるのは政府として当然の流れといえます。「貯蓄から投資へ」をスローガンに投資促進を目的として始まったのが「少額投資非課税制度(NISA)」をはじめとする投資促進税制です。NISAも何度かの制度拡充を行いながら、有効な投資方法として現在でも多くの方が運用しています。2022年に岸田内閣が打ち出した「資産所得倍増プラン」をもとに、さらなる抜本的な拡充が図られることになりました。それが2024年から始まる「新NISA」と呼ばれるものです。
新しいNISA制度の変更点について解説
はじめに、2024年1月から開始される改正NISA(以降、新NISA)について、従来のNISAからの変更点を中心に比較してみましょう。大きな改正点としては以下の4つが挙げられます。
現行NISA | 新NISA | |||
---|---|---|---|---|
つみたてNISA | 一般NISA | つみたて投資枠 | 成長投資枠 | |
制度の選択 | いずれか一方を選択 | 併用することが可能 | ||
年間投資上限額 | 40万円/年 | 120万円/年 | 120万円/年 | 240万円/年 |
非課税期間 | 20年 | 5年 | 期間無制限 | |
生涯投資 非課税上限額 |
800万円 | 600万円 | 両制度合計で1,800万円 (投資成長枠は1,200万円上限) |
税法では、投資により得た売却益や配当金といったいわゆる「もうけ」に対して所得税が課税されます。NISA制度はこのような「もうけ」に対して一定額を非課税とすることで、有利な資産運用の1つとして機能しているのです。このような優遇措置の効果もあってか、現在ではジュニアNISAを含めて約32兆円以上の資産がNISAにより運用されています。岸田内閣では更なる投資拡大を目標に、2022年「資産所得倍増プラン」を策定し、従来のNISAをさらに使いやすくするための優遇措置をとることになります。これが2024年1月から始まる「新NISA」です。
新NISA制度のポイントについて解説
現行NISAと新NISAの比較
次に、現行NISAと新NISAについて、拡充されより使いやすくなったポイントを詳しく解説していきます。
1.制度併用が可能に
現行NISAは「つみたてNISA」と「一般NISA」の2本建てになっています。しかし、1人につき1口座しか持てないという縛りがあるため、NISAを始める際には「つみたてNISA」と「一般NISA」のどちらか一方を選択しなければなりませんでした。新NISAではこの縛りがなくなって、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の併用が可能となっています。
2.年間投資上限額の拡充
現行NISAでは年間の非課税投資上限額が「つみたてNISAで年間40万円」「一般NISAで年間120万円」となっていました。新NISAでは上限額が拡充され「つみたて投資枠で年間120万円」「成長投資枠で年間240万円」まで非課税となります。
3.非課税期間の拡充
現行NISAでは売却益や配当金に税金がかからない非課税期間を「つみたてNISAで20年」「一般NISAで5年」としていました。新NISAではこの非課税期間を撤廃し、運用開始後は期間を定めず無期限で非課税の特典を受けることができるようになりました。
4.生涯投資非課税上限額の拡充
現行NISAでは生涯投資非課税上限額が「つみたてNISAで年間800万円(40万円×20年)」「一般NISAで年間600万円(120万円×5年)」となっていました。新NISAでは両方の制度を併用できることや非課税期間を無期限としたこともあり、上限額が拡充され「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の合計で」1,800万円まで非課税となります。ただし、そのうち「成長投資枠」は1,200万円が上限となります。
つみたて投資枠と成長投資枠の比較
新NISAから併用が可能となる「つみたて投資枠」と「成長投資枠」ですが、その投資枠について詳しく解説しましょう。
1.つみたて投資枠
「つみたて投資枠」は、現行NISAでいうところの「つみたてNISA」に該当します。「つみたて」という名前の通り、積立型や分散投資型といったように比較的安定して運用ができるタイプの投資枠です。
2.成長投資枠
「成長投資枠」は、現行NISAでいうところの「一般NISA」に該当します。上場株式や投資信託といったような、ハイリターンが期待できる銘柄への運用ができるタイプの投資枠です。ただし、投機性が強すぎる高レバレッジ型の投資信託はNISA商品から除外されています。
3.両者を併用するメリットとは?
先にも述べた通り「つみたて投資枠」と「成長投資枠」は併用することが可能です。したがって、「つみたて投資枠120万円」+「成長投資枠240万円」=360万円まで非課税で運用することが可能となります。生涯投資上限額の縛り(1,800万円)はありますが、開始から5年間は両者を年間上限枠いっぱいまで使うことができます。
新NISAまで投資は待つべき?
新NISAと現行NISAは別枠扱い
ここで問題になるのが、既に現行NISAを運用しているケースです。現行NISAを新NISAにロールオーバー(移管)し、新NISAの非課税枠を使うことができるかという疑問が生じます。結論から言えば、現行NISAの新NISAへのロールオーバーはできません。新NISAは現行NISAとは別の制度としてスタートしますので、現行NISAを移管することをそもそも想定していません。しかし、いま現在NISAを運用しておらず、2024年の新NISAが開始する前に現行NISAを検討している方は、運用を進めるのも1つの方法です。理由としては、現行NISA枠と新NISAは制度が別であるため、非課税枠もまた別枠となることが挙げられます。現行NISAの非課税枠と新NISAの非課税枠の両方を使うことができますので、検討されている方は新NISA開始までにNISAを始めたほうがよいでしょう。
新NISA導入でいくらまで積み立てるべきか
新NISAで拡充される年間投資枠は「つみたて投資枠120万円」「成長投資枠240万円」ですから、最大で年間360万円を新NISAに積み立てることが可能です。結論から言えば、運用益のことを考えて、できるだけ早い段階で生涯非課税投資上限額まで枠を使い切った方が運用資産は増えるでしょう。かといって、年収を超える投資はできませんし、生活ができなければ資産運用も成立しません。まずは自分の現状を正しく理解し、生活に支障がない範囲でいくら投資に回せるのかを計算してみるのが良いでしょう。
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まもなく新NISA開始!現NISAから移行はできる?
まとめ
新NISAの開始により、資産運用がさらに促進されることが予想されます。既にNISAを運用している方も、これからNISAを検討されている方も、新NISAで拡充されたポイントをしっかり把握し、自分に合った資産運用をしてみてはいかがでしょうか。
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