自ら「破産宣告」したスリランカ なぜそんなことに?日本や世界への影響は? | MONEYIZM
 

自ら「破産宣告」したスリランカ なぜそんなことに?日本や世界への影響は?

2022年7月5日、スリランカのウィクラマシンハ首相が、議会で国の「破産」を宣言しました。ニュースでは、失政に怒った国民のデモや、ガソリンスタンドに何日も行列しないと給油できないような住民の苦境が伝えられています。
そもそもスリランカはどんな国で、なぜこのような事態に至ってしまったのでしょうか? また、日本への影響はどのようなものがあるのでしょうか?最新の情報を踏まえて解説します。

スリランカはどんな国?

かつての国名は「セイロン」

スリランカは、インドの南側に浮かぶ北海道の8割ほどの面積を持つ島国です。かつては紅茶で有名な「セイロン」という国名でした。1815年からイギリス領でしたが、1948年に独立、1972年にスリランカ共和国、78年に現在のスリランカ民主社会主義共和国になりました。主な産業は農業(紅茶、ゴム、ココナッツ、米作)、繊維業、観光業などです。

日本は主要な経済援助国

日本とスリランカの貿易額は、約666億円(2021年)で、スリランカにとって日本は重要な貿易相手国(輸入は第7位、輸出は第11位)です。日本からの輸出は355億円で、主要品目は、自動車、一般機械、電気機器など。一方、日本の輸入は311億円で、紅茶、衣類及び同付属品、魚介類、宝石などが主要品目となっています(2021年、日本財務省貿易統計)。
 

長く民族問題を背景にした国内紛争が続いたことや、度重なる失政により、経済は停滞し、国は貧しい状況に置かれてきました。そのため、海外からの経済援助が欠かせず、かつては日本が最大の援助国でした。
日本は、近年でも同国に対する援助国・機関の支援額合計に占める割合が11%(2019年、スリランカ財務省資料)に上る世界2位の援助国です。ちなみに1位は中国で、支援の割合は40%となっています。

経済危機で首相も大統領も辞任

このように、もともと脆弱だったスリランカの経済ですが、ここにきて状況は一気に悪化しました。外貨不足から、エネルギーや食糧の輸入が困難になり、生活必需品の値上がりが加速。そればかりではなく、燃料不足のために物流が滞り、停電も相次ぐ事態となりました。
 

独立以来最悪といわれる経済危機を招いたのは、大統領や首相の責任だと怒った国民は、国内各地で抗議デモを起こしました。そして、5月9日にマヒンダ・ラジャパクサ首相が辞任、7月14日には国外逃亡していたゴタバヤ・ラジャパクサ大統領が辞任しています。
 

そうこうする間に、22年4月末には、外貨準備高が約16億ドルと、1ヵ月分の輸入額にも満たない水準に。デフォルト(対外債務の支払い不能)必至の状況となり、ついに「破産宣告」にまで追い込まれてしまいました。

「破産」をもたらした原因

なぜこんなことになってしまったのか、原因としては、次のような問題が挙げられています。

対外債務が膨らんだ

今回の危機をもたらしたのは、説明したように外貨の不足です。外貨を稼ぐための産業の育成に失敗したということもありますが、他国から無計画な借り入れを繰り返した結果、対外債務が膨らみ、その返済に追われるようになったのが響きました。
 

スリランカは2000年代から、対外借り入れを拡大して、それを原資にシンガポールのような金融港湾都市の建設をはじめとするインフラ整備を行い、経済成長を実現する、という政策を実行しました。しかし、実際にはそれで新たな産業や雇用が生まれることはなく、債務だけが積み上がる結果になりました。
 

最大の借入先は中国だったのですが、そこでは中国の仕掛けた“債務の罠”にはまった、という見方もあります。例えばスリランカは、中国から14億ドルを借りて、港湾のインフラ整備を進めたのですが、2017年には返済が行き詰まり、担保にしていた南アジア最大の港であるハンバントタ港の運営権を中国企業に99年間引き渡さざるをえなくなったのです。
 

ただ、「中国がスリランカの経済破綻を“誘導”した」とする見解については、反論もあります。対中国の債務は、スリランカの債務全体の1割程度。中国の意図はむしろ親中的なスリランカの政権を支えることにあり、その破滅は望んでいなかった、というものです。
 

ともあれ、この事態に象徴的なように、スリランカは対外的な借金で首が回らなくなり、国民生活に必要不可欠な物資の調達に大きな支障をきたすようになっていきました。

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「一族独裁」の政治が政策を歪めた

無理・無計画な経済政策が国家財政を傷つけたのは明白ですが、そこには、15年近くにわたって「ラジャパクサ一族」による独裁的な政治が行われてきた、という背景があります。同国では、2005年から、今回辞任した兄のマヒンダ・ラジャパクサ氏と弟のゴタバヤ・ラジャパクサ氏がほぼ連続して大統領や首相を務め、大臣や官僚にも一族の息がかかった人物が配置されました。その結果、政治腐敗が進み、国政が機能不全に陥ったわけです。
 

独裁政権による思い付きのような政策の1つが、21年に突然宣言された「有機農業国家」でした。政府は、環境に優しい農法を実施する取り組みの一環だとして、同年4月から化学肥料の使用を禁止したのです(外貨不足で肥料が輸入できなくなったから、という指摘もあります)。しかしその結果、スリランカの農業は壊滅的な打撃を受け、11月には撤回されました。

新型コロナやウクライナ情勢も拍車をかけた

予期せぬ外的要因も、経済危機に拍車をかけました。新型コロナの拡大によって、主要産業の1つである観光業は、低迷を余儀なくされました。さらに、ウクライナ問題に伴い原油や食糧の輸入価格が上昇したことも、外貨不足の同国にとって大きな痛手となったのです。

今後はどうなる?

新大統領は選出されたが

スリランカでは、7月20日、国会議員による投票で、国外逃亡したラジャパクサ前大統領の下で首相だったウィクラマシンハ氏を大統領に選出しました。また、首相には、やはりラジャパクサ前大統領の下で外相や教育相などを歴任したグナワルダナ氏が任命されました(首相は大統領の任命)。
 

大統領は、「挙国一致内閣を樹立して、経済危機からの脱却を目指す」と宣言していますが、前途が容易でないことは明らかです。特にグナワルダナ新首相は、ラジャパクサ一族と近い関係にあるとされ、前大統領などの辞任でいったん収まった国民の不満が再燃する恐れもあります。

日本への影響は?

スリランカの名目GDPは、世界全体の0.1%に過ぎません。そのため、同国の「破産宣告」が日本を含む世界経済に与える影響は、そう大きくはないものと思われます。
 

また、スリランカに進出している日本企業についてみると、帝国データバンク調べで、22年7月時点で180社が進出しており、業種別では、卸売業が全体の1/4を占めています。特に同国向けに中古車輸出を手掛ける「中古車卸」が多く、他業種ではサービス業、製造業のウエートが比較的高くなっています。
これら進出企業に関しても、今のところ目立った問題は報告されていないようです。ただし、今後大きく政情が悪化したり、あるいは大規模停電が頻発したりするような事態になれば、活動に支障をきたす可能性は否定できません。

まとめ

スリランカの「破産宣告」は、主として対外債務の急増に伴い、深刻な外貨不足に陥ったことによるものでした。背景には、長きにわたって行われてきた一族による国政支配の下、経済政策の失敗が繰り返されたという実態がありました。今のところ、日本経済への影響は限定的なものだと思われますが、政治の安定が取り戻せるのかなど、今後を注視する必要があるでしょう。

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マネーイズム編集部