サンリオに13億円の追徴課税 適用された「タックスヘイブン対策税制」とは? | MONEYIZM
 

サンリオに13億円の追徴課税 適用された「タックスヘイブン対策税制」とは?

「ハローキティ」でおなじみのサンリオが、東京国税局から約13億円の追徴課税処分を受けたと発表し、ニュースになりました。海外子会社の所得を日本で申告しなかったことが「タックスヘイブン対策税制」に抵触したということですが、サンリオ側は処分を不服として、法的手続きを検討中だといいます。ところで、そもそも「タックスヘイブン」とは、何のことなのでしょうか? 個人の相続税対策などとしても使われることがある、その節税の仕組みについて、解説します。

節税になるのはなぜか?

タックスヘイブンとは?

タックスヘイブン(Tax Haven)は、法人税や所得税などの税率がゼロか極めて低い国や地域のことで、日本語では「租税回避地」「低課税地域」と訳されています。それらの国々では、海外企業や富裕層のマネーを「誘致」するために、戦略的にそうした税の優遇措置を設けているのです。
 

具体的には、

  • 無税:バハマ、バミューダ、バーレーン、ケイマン諸島、マーシャル諸島など
  • 特定の会社や事業活動に限り優遇:オランダ、イギリス、ルクセンブルク、リヒテンシュタイン、アイルランドなど
  • 国外で生じた所得が非課税:パナマ、マレーシア、コスタリカなど
  • 法人税が低率:香港、マカオ、台湾、シンガポール、アイルランド、キプロス、モンテネグロなど

といった地域が該当します。
 

こうした地域では、自分の国で課税される高率の法人税や所得税、相続税、贈与税などの負担が大幅に軽減されるため、多国籍企業が拠点を置いたり、富裕層が資産を移したりといった形で、節税対策に活用されることになります。

「すべて違法」ではない

その全貌は秘密のベールに包まれていたのですが、2016年に、世界各国の富豪や首脳たちのタックスヘイブンの取引をリークした「パナマ文書」が流出し、世界中の注目を浴びることになりました。さらに2021年10月には、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)によって告発された「パンドラ文書」も公開されています。
 

これらの機密文書が明らかにした国の上層部や富裕層による「税逃れ」の実態に、多くの納税者は怒りの声を挙げました。また、タックスヘイブンは、反社会的勢力のマネーロンダリング(資金洗浄)に利用されることもしばしばで、一般的にはネガティブなイメージが定着しています。
 

ただ、低い(あるいはゼロの)税率は、基本的に当該国の主権に基づいて設定されたものであり、タックスヘイブンを活用すればイコール違法、というわけではありません。例えば日本の企業がタックスヘイブンに拠点を設けた場合でも、日本の税法の範囲内で行う節税については、問題ないのです。

タックスヘイブン対策税制とは?

海外子会社の所得が「争点」に

しかし、今回サンリオは、「問題あり」として追徴課税の対象とされました。経緯を簡単にみておきましょう。
 

東京国税局が指摘したのは、同社の香港および台湾の子会社の2017年3月期~21年3月期の5事業年度の所得、約42億円でした。本来、日本の親会社の所得に合算して日本で申告すべきなのに、それを怠った、というのが更正(税務当局による処分)の理由で、地方税などを含めて約13億円の追徴課税処分となったのです。
 

実は、同社は2017年12月に同様の事由で更正処分(対象期間2013年3月期~16年3月期の4事業年度)を受けていて、これに対する処分取消訴訟が係属中でした。今回の処分についても、「前回と同様、税額を一旦納付した上で、然るべき手続きにおいて当社主張の正当性を訴えていく予定です」(同社発表のリリース)としています。

処分の根拠となった「経済活動基準」

今回、サンリオに適用されたのが、タックスヘイブン対策税制(「CFC税制」)でした。これは、日本の居住者または内国法人が、タックスヘイブンに実質的な活動のないペーパーカンパニーなどを設立して、租税回避を図る行為を規制するために作られた制度です。この制度が適用された場合には、海外子会社の所得の全額または一部を、親会社の所得に含めて、日本で申告・納税しなくてはなりません。
 

2017年度の税制改正で、このCFC税制の適用範囲が大幅に広がり(つまり租税回避に対する規制が抜本的に強化され)、中身も複雑になりました。同社に対する国税局の更正通知では、香港および台湾子会社は、17年度の改正で明示されたCFC税制の「経済活動基準」を満たしておらず、親会社と合算課税されるべき、とされました。
 

CFC税制の「経済活動基準」には、4つあります。

  • 事業基準(主な事業が株式の保有等、一定の事業でないこと)
  • 基準(本店所在地国に主な事業に必要な事務所等を有すること)
  • 管理支配基準(本店所在地国において事業の管理、支配、運営を自ら行っていること)
  • 以下の(a)(b)のいずれかの基準

(a)所在地国基準(主に本店所在地国で主な事業を行っていること)
(b)非関連者基準(主に関連者以外の者と取引を行っていること。卸売業、保険協、水運業、航空運送業、航空機貸付業、銀行業、金融商品取引業、保険業の場合に適用)
 

以上のどれかを満たさない場合には、外国子会社の所得の全額が親会社の所得とみなされ、合算課税されるのです。サンリオの海外子会社は、ペーパーカンパニーとはいえないものの、この基準に抵触すると判断されたわけです。

サンリオの主張は?

一方、サンリオは、以下のように主張して、国税当局と争う姿勢を見せています。
 

  • 当社の香港子会社および台湾子会社は、現地の消費者の嗜好を反映する当社のキャラクターのローカライズ(現地化)業務やキャラクタービジネスを展開するという積極的な経済合理性を有し、個々の現地顧客のニーズを反映させるためのカスタマイズ、企画提案およびサポートを行う独立した事業実態を備えている。
  • 当社は、各子会社が「適用除外基準」(注:17年税制改正以前)ないし「経済活動基準」を充足し、CFC税制の適用を受けないものと判断した上で、適正に申告してきた。
  • 各子会社の事業実態が十分に考慮されず、本件更正処分を受けるに至ったことは、遺憾である。

 

タックスヘイブンをめぐる企業活動と租税回避行為について、司法がどのような判断を下すのか、今後が注目されます。

相続税対策としてのタックスヘイブンの利用

このタックスヘイブンは、企業だけでなく、富裕層の相続税、贈与税の節税策としても使われてきました。日本では高い税率(それぞれ最高で55%)を覚悟しなくてはならないため、高額の資産を持つ場合には、それをタックスヘイブンに移した上で子どもなどに渡すメリットには、大きなものがあります。
 

利用の仕方には、大きく2つあります。

10年以上、海外に暮らす

1つは、相続発生時に、被相続人(亡くなった人)、相続人ともに「制限納税義務者」となっていることです。具体的には、ともに10年以上外国に居住していることが条件です。この場合には、相続時に課税されるのは、日本国内にある財産だけです。海外には、そもそも相続税がない国も多くありますから、節税効果はいうまでもないでしょう。
 

ただし、この制度についても、やはり2017年度の税制改正で、海外居住期間が5年から10年へと延長されました。言わずもがなのことですが、節税を目的に海外移住しても、10年待たずに被相続人が死亡した場合には、全財産に日本の相続税が課税されることになります。

海外の会社を経由して贈与を行う

節税のためとはいえ、「親子で海外に10年住む」というのは、現実的にはかなりハードルの高い話かもしれません。日本に居ながらにして節税することが可能な、次のような方法もあります。
 

まず、親がタックスヘイブンに会社を設立します。その会社に親が資産を贈与し、そこから子どもや親族に贈与を行うのです。なぜ、わざわざ海外に会社をつくるかといえば、日本国内で同じことをしても、法人への贈与に多額の法人税が発生してしまうからです。タックスヘイブンの会社であれば、法人税は少額かゼロです。
 

親から子どもなどに直接贈与を行った場合、さきほども説明したように、高額の贈与税がかかります。一方、法人から個人への贈与は、原則として「一時所得」とみなされ、所得税の課税対象になります。
 

一時所得は、「総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(最高50万円)」で計算します。ポイントは、課税所得(課税される所得金額)は、さらにその1/2になること。1億円の所得があっても、課税されるのは5,000万円だけということです。
 

贈与税の最高税率は55%、所得税も住民税と合わせて55%です。仮にこれに該当する「贈与」を行ったとしましょう。支払う税金は、「海外の会社経由」にすれば、通常の贈与に比べておよそ半額で済むわけです。

タックスヘイブンの利用は厳格化の方向

繰り返しになりますが、こうしたタックスヘイブンを利用した節税自体は、違法ではありません。しかし、限りなく“グレーゾーン”に近いことは、認識しておく必要があるでしょう。今説明したスキームについても、不自然な贈与が疑われたりすれば、税務署から租税回避行為と指摘されるリスクがゼロとはいえないのです。そうなると、せっかくの努力が水泡に帰すばかりではなく、「申告漏れ」による加算税などのペナルティを課せられる可能性もあります。
 

国税当局は、「税の公平性」の観点から、海外への資産移動などに目を光らせており、国レベルでの情報交換の仕組みも強化されています。タックスヘイブンに関しては、今後も税制改正などを通じて、規制強化、厳格化の流れが加速するとみるのが妥当でしょう。利用しようと考える場合には、この分野に詳しい税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

まとめ

サンリオが、タックスヘイブン対策税制の適用を受け、海外子会社の所得に対して約13億円の追徴課税処分を受けました。同社は、処分を不服として訴訟を提起する意向を示しており、今後が注目されます。
タックスヘイブンは、相続税や贈与税の節税にも使われますが、租税回避行為に対する国税当局の監視は、強化されています。利用する場合には、必ず専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。
 

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<サンリオ・ハローキティ vs 東京国税局>タックスヘイブンとは?【3分かんたん確定申告・税金チャンネル】

<サンリオ・ハローキティ vs 東京国税局>タックスヘイブンとは?パート2【3分かんたん確定申告・税金チャンネル】

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マネーイズム編集部
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