「電子マネー」にチャージしていた店が突然閉店 残金は返金されるのか? | MONEYIZM
 

「電子マネー」にチャージしていた店が突然閉店 残金は返金されるのか?

2022年10月に、京都、大阪で4店舗を展開するスーパーマーケットが突然閉店しました。利用客が困惑したのは、買い物ができなくなるからだけではありません。店では、そこだけで使える独自の「電子マネー」を導入していたのですが、チャージしていた残高を返却してもらえない事態になったのです。プリペイドカードなどが広く普及した今、他でも十分起こり得ることだといえるでしょう。このように、電子マネーの発行者が倒産したような場合、残高分は“泣き寝入り”するしかないのでしょうか? わかりやすく解説します。

電子マネーの法律的な位置づけ

数万円チャージしていた人も

報道によれば、問題のスーパーは、店長や従業員にも事前連絡のないまま、何の前触れもなく一斉に閉店したといいます。閉まったシャッターには「事業の継続が不可能な状況となり、本日をもって事業を廃止することになりました」という張り紙がありました。文面からすると、倒産したものとみられます。
 

また、張り紙には、発行していた電子マネーについて、「チャージ金の返金を行うことは法律上できません」という文言もありました。中には数万円をチャージしていた利用客もいて、困惑や怒りが広がったのも当然といえます。

「前払い式支払い手段」とは?

そもそも、「法律上返金はできない」という店側の主張は、本当に正しいのでしょうか? 順を追って説明します。
 

プリペイドカード、商品券、前払い式の電子マネーなど、あらかじめお金をチャージ(入金)したり変換したりして入手し、商品の支払いに使用するものを、「前払式支払手段」といいます。
 

これには、
①発行した事業者が提供するサービス内でのみ利用できる「自家型前払式支払手段」
②発行している事業者以外でも利用できる「第三者型前払式支払手段」
があります。②は、交通系電子マネー(「Suica」、「PASMO」など)のように、交通機関だけでなく、コンビニや自販機など様々な場所で使えるものをいいます。
 

倒産したスーパーが発行していたのは、①です。②を発行する事業者が、事前に内閣総理大臣から登録を受ける必要があるのに対し、①の場合には、特に申請などは不要で、誰でも発行することができることになっています(入金額の「未使用残高」が基準日=毎年3月末か9月末の時点で1,000万円分残っていた場合には、内閣総理大臣への届け出を行う義務が発生します)。
 

「資金決済法」による利用者保護

誰でも発行可能とはいっても、当然、守るべきルールがあります。「前払式支払手段」には、利用者保護の観点から、「資金決済に関する法律」(資金決済法)が適用され、様々な義務が課せられているのです。
 

例えば、発行者には、

  • 発行者名
  • 支払可能金額など
  • 有効期限
  • 利用者からの苦情相談窓口の所在地および連絡先
  • 利用可能な施設または場所の範囲
  • 利用上の注意
  • 残高およびその確認方法
  • 約款等がある場合にはその旨

を利用者に周知する「情報の提供義務」が課せられています。
 

また、「発行保証金の供託」(詳しくは後述します)や、紛失盗難、なりすまし、アカウントの乗っ取りなどによる不正利用(「無権限取引」)への対応方針の周知も、義務づけられています。
 

残金の「払い戻し」は可能なのか?

払い戻しは原則として「不可」

では、「この店ではもう買い物しないから、電子マネーの残額を返してもらおう」というのは、認められるのでしょうか? 実は、原則として残額の払い戻しには応じてもらえません。発行者の側が「出資法」や「銀行法」に触れるかもしれないからです
 

詳述は避けますが、無制限の払い戻しを認めると、金融機関のみに認められている「預かり業務」や「為替取引」を、免許を持たない電子マネーなどの発行者が行うことになる可能性があるのです。例えば、現金をプリペイドカードに換えて遠方の人に送った場合、カードの入金額が換金可能ならば、それを送金手段(為替取引)として使うことができるわけです。
 

スーパーの張り紙にあった「法律上返金はできない」という文言は、このことを言っているのかもしれません。

しかし、例外はある

ただし、払い戻しに応じてもらえる場合もあります。

●払戻金が少額なとき

利用者保護の観点から、発行者の業務に支障をきたさない範囲で払い戻しが可能な場合があります。具体的には、

  • 基準期間における払戻金額の総額が、直前の基準期間の発行額の100分の20を超えない場合
  • 基準期間における払戻金額の総額が、直前の基準日未使用残高の100分の5を超えない場合

となっています。

●利用者にやむを得ない事情があるとき

「やむを得ない事情」とは、引っ越しや海外移住などの理由で、利用場所が限定されたプリペイドカードなどが使えなくなる、といった状況が想定されています。ただし、その判断は、発行者に委ねられています。

発行の業務を停止したら、払い戻しが義務

一方、発行者が発行の業務をやめたり、「第三者型発行者」がその登録を取り消されたりした場合には、発行者には残金の払い戻しが義務づけられています。
 

払い戻しの手続きは以下のようになります。

  • 発行者は発行業務の廃止と払戻しの実施予定について、内閣総理大臣に届け出
  • 新聞に払い戻しの実施およびその手続きについて公告
  • さらに、発行者のすべての営業所・事務所や利用できる店の目につきやすい場所に払い戻しおよびその手続きについての掲示を行う
  • 利用者は、この手続きに沿って、60日以上の一定期間内に、払い戻しの申し出をする

なお、これは、発行者の業務が平常通りの場合を想定した措置です。今回のスーパーのように、発行者が破産した場合にも、自動的に発行の業務がストップすることになりますが、残金の返金に関する状況は、少し複雑なものになります。

発行者が破産した場合にはどうなる?

財産は管財人の管理下に置かれる

大きな違いは、裁判所の破産宣告を受けると、その財産が破産管財人の管理の下に置かれることです。仮に発行者に残金を払い戻す意思があったとしても、財産に手をつけることはできません。
 

管財人は、その財産を売却してお金に換え、それを債権者に分配します。ただ、分配には優先順位があり、まず税金や従業員の給料などから充当されていきます。電子マネーにチャージした利用者ももちろん債権者ですが、その優先順位は高くはありません。最悪、“ない袖は振れない”と、一銭も戻ってこないことも考えられます。

今回のケースでは……

そうしたことにならないように、発行者には「発行保証金」の供託義務が課せられています。毎年、基準日の時点で、前払式支払手段の未使用残高(現金から前払式支払手段に変換後、まだ使用されていないもの)が1,000万円以上である場合に発生するもので、最寄りの法務局に未使用残高の半額を保証金として預けなくてはなりません。
 

発行者が破産した場合には、管理下に置かれた財産に関わりなく、この保証金を元に利用者へ返金されることになっています(発行保証金の還付)。この場合も、発行が廃止されたときと同様、利用者は還付の手続きに従って、一定の期間内に申し出をする必要があります。ただし、必ずしも残金の全額が戻ってくるとは限りません。
 

さらに、今回のスーパーに関しては、今説明した未使用残高のハードルがあります。1,000万円以上でなければ、保証金の供託自体が行われていませんから、この制度に期待することはできないのです。4店舗の利用客が総額でどの程度のチャージを行っていたのかわかりませんが、全ては破産手続き待ち、ということになるかもしれません。
 

ただし、財産が残っていた場合には、発行者はたとえ少額であっても、払い戻しを行わなくてはなりません。「チャージ金の返金は法律上できない」と言い切るのは、少なくとも財産の配分が決定するまでは「間違い」ということになります。
 

2022/11/14追記

その後の報道で、このスーパーの電子マネーの未使用残高は300~400万円で、法務局への供託義務の対象外のため、保証金は預けられていないことがわかりました。カード利用者は600~700人いて、この人たちは金融機関や取引先と同列の債権者という扱いになります。

まとめ

スーパーが潰れ、独自に発行していた電子マネーの残金が利用者に返金されない、というニュースがありました。通常でも、プリペイドカードなどに入金したお金は、原則として払い戻すことができません。発行者が倒産した場合には、なおさら回収は難しくなります。特に中小の「自家型前払式支払手段」を利用するときには、そうしたリスクも頭に入れておきましょう。

マネーイズム編集部
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