今年も残すところわずかとなってきました。競馬ファンの中には、そろそろ年末のGⅠレース「有馬記念」のことが気になる人もいるでしょう。ところで、今年はインスタントジョンソンじゃいさんの競馬の払戻金への課税問題が大きなニュースになりました。万馬券は嬉しいけれど、もし年の暮れに大きな「収入」があった場合、やはり高い税金を課せられることになるのでしょうか? 年末調整との関係、配偶者控除などへの影響は? 今回は、有馬記念開催にあわせて「競馬と税金」についておさらいします。
競馬の払戻金は「場合によって」課税される
年間50万円以下ならば非課税
競馬の払戻金に税金がかかるのでしょうか?
最初に答えを言えば、「原則として、年間の払戻金額が50万円を超えた場合、超えた部分に課税」されます。逆に言えば、50万円以下ならば、税金はかかりません。さらにサラリーマン(給与所得者)であれば、90万円まで課税されません(理由は後述)。
競馬の払戻金にかかる税金は「所得税」です。所得税の所得区分には、「給与所得」「事業所得」「譲渡所得」など9種類があり、このどれにも該当しないものを「雑所得」といいます。要するに、税法上の所得には10種類あって、税額の計算方法などがそれぞれ違うのです。
競馬の払戻金は、原則として「一時所得」に分類されます。
競馬の払戻金は原則として「一時所得」。その税額は?
一時所得は、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得で、労務や役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得」と定義され、具体的には以下のようなものを指します。
①懸賞や福引きの賞金品(業務に関して受けるものを除きます。)
②競馬や競輪の払戻金(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除きます。)
③生命保険の一時金(業務に関して受けるものを除きます。)や損害保険の満期返戻金等
④法人から贈与された金品(業務に関して受けるもの、継続的に受けるものを除きます。)
⑤遺失物拾得者や埋蔵物発見者の受ける報労金等
競馬の払戻金は、②として明記されています。
この一時所得の金額は、次のように計算します。
年間の払戻金額が50万円以下ならば非課税になるのは、「特別控除額」が認められているからです。また、競馬の場合は、「当たり馬券の購入金額」が「収入を得るために支出した金額」として認められます。
例えば、競馬で1年間に計200万円の払い戻し(総収入金額)を受けたとします。その各レースで購入した当たり馬券の購入金額(収入を得るために支出した金額)が合計50万円だったら、一時所得金額は
になります。
さらに一時所得の場合には、課税されるのは、その1/2の金額になります。今先ほどの例でいえば、課税所得は「100万円×1/2=50万円」となります。これを、給与所得や事業所得などと合算し、確定申告を行います。
具体的に言うと、給与所得が600万円だったら、650万円に所得税の税率を掛けて、最終的な税額を計算するわけです。
なお、一般のサラリーマンの場合、給与所得や退職所得以外の所得が20万円以下ならば、確定申告はしなくていいことになっています。そのため、申告が必要なボーダーラインの金額をxとすると、「(x-50)×1/2=20万円」で、x=90万円。
つまり、払戻金から当たり馬券を差し引いた残りが90万円以下であれば、申告は不要、ということになります。
競馬の払戻金が「雑所得」となることも
「雑所得」の計算方法
しかし、繰り返し「原則として」と述べた通り、競馬の払戻金が一時所得とならない、例外的なケースもあります。
先述の一時所得の例②の但し書きにある「営利を目的とする継続的行為から生じたもの」に該当する場合で、これは「雑所得」(9種類の所得のどれにも当てはまらないもの)とされます。
雑所得の金額は、
で計算します。この金額を、やはり給与所得や事業所得などと合算して、確定申告をします。
違いはどこに?
じゃいさんの納税が問題になったのは、まさにこの「一時所得か雑所得か」でした。高額の払戻金を「雑所得」として申告していたじゃいさんに対し、税務署が逆に「一時所得」に該当する(=「営利を目的とする継続的行為から生じたもの」には当たらない)とみなして、追徴課税を課したわけです。
しかし、雑所得には、一時所得のような特別控除がありません。課税所得が1/2になることもないのです。一見、不利にも感じられるのですが、なぜ雑所得としたほうが納税額が少なくてすむのでしょうか?
ポイントは、雑所得に認められている「必要経費」にあります。必要経費(経費)とは「所得を得るために必要な経費」のことで、競馬の場合には「外れ馬券」の購入費などを必要経費とすることができるのです。
先ほどの総収入200万円の例に当てはめれば、これとは別に外れ馬券の購入に150万円を支出していたら、雑所得は、
ということになり、課税はされないことになります。
じゃいさんのように、1年を通してコンスタントに馬券を買い続ける人の場合、当然「負け」も多くなりますから、当たり馬券の購入費用しか差し引けない一時所得に比べ、雑所得としたほうが、圧倒的に「有利」になるわけです。
雑所得として認められる条件は?
とはいえ、「私は営利目的で競馬をやっています」と主張するだけでは、税務署に雑所得として認めてもらうことはできません。この「一時所得か雑所得か」をめぐっては、何度か裁判にもなっているのですが、最高裁が雑所得と判断を下したのは、次のような事例です。
- ネット上でJRA全競馬場のほぼ全レースの馬券を無差別に購入する、という買い方をしていた(2015年)
- ネットで馬券を購入できるサービスを使って、年間数億円から数十億円の馬券を買い続けた(2017年)
いずれも、市販の競馬予想ソフトに改良を加えたり、独自の情報収集をしたり、といった点も含めて、「営利目的」と認定されたのでした。
しかし、実際にはこのような買い方をする例は稀でしょう。競馬の払戻金が雑所得として認められるハードルは、極めて高いといえます。
年末に馬券を当てたら?
高額の払い戻しを受けたら確定申告が必要
競馬で高額の払い戻しを受けたら(一時所得の場合)、サラリーマンであっても、翌年に確定申告が必要です。年末調整は、給与・賞与などを対象にしていますので、そちらでカバーすることはできません。確定申告は原則として3月15日までで、納税も同時に行うことになります。
配偶者控除などに注意
年末調整用の書類の提出期限を過ぎた後、例えば有馬記念で大当たりしたとして、その場合に気をつけたいのは「配偶者控除」です。
配偶者の年間の合計所得金額が48万円以下であれば配偶者控除が受けられるのですが、納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超えると受けられません。
一方、扶養に入っている家族が高額の払い戻しを受けて所得が発生した(変わった)場合、扶養から外れることもあります。
このようなケースでは、年末調整の修正ないし確定申告での対応が必要になります。速やかに会社の担当者に連絡し、指示を仰ぐべきでしょう。
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まとめ
競馬の払戻金は、原則として一時所得として扱われ、年間50万円(サラリーマンは90万円)を超えると、所得税がかかります。高額の払い戻しを受けた場合には、配偶者控除や扶養に影響を与える可能性がありますので、注意しましょう。