4月から自賠責に年125円の賦課金が 一方で国は自賠責の会計から6,000億円「借金」している!? | MONEYIZM
 

4月から自賠責に年125円の賦課金が 一方で国は自賠責の会計から6,000億円「借金」している!?

自動車ユーザーが加入する「自賠責保険」の保険料に、2023年4月から新たな「賦課金」が設けられます。事故被害者支援の充実を目的としたもので、自家用車に関しては1台当たり年間125円課せられることが決まりました。ところで、国の一般会計が、この自賠責を扱う特別会計から約6,000億円を「借り入れた」状態になっていて、「返済」のめども十分立っていないことをご存知でしょうか? どういうことなのか、なぜそんなことになっているのかを解説します。

自賠責保険の「賦課金」とは?

まず、自賠責保険とはどういうものなのかについて説明します。

自賠責は「強制保険」

自賠責は、正式には「自動車損害賠償責任保険」といいます。一般の自動車保険(任意)と異なり、自動車やバイクなどを運転する際には加入が義務づけられており、未加入では車検が受けられないうえ、その状態で運転すれば「50万円以下の罰金または1年以下の懲役」+「免許停止」などの処分を受けます。
 

補償は人身事故の賠償損害のみで、対物事故の賠償損害や運転者のケガ、自動車自体の損害などは対象外です。また、死亡は最高3,000万円、後遺障害による損害は最高4,000万円、傷害による損害は最高120万円など(いずれも被害者1人当たり)の補償限度額が設けられています。

新設される「賦課金」

国土交通省は、この自賠責の保険料に、23年4月契約分から新たな「賦課金」を設けることを決めました。その名の通り、通常の保険料に上乗せして徴収されるもので、1年当たり

  • 自家用車:125円
  • 営業用のバス、トラック、タクシー:150円
  • バイク、緊急車両など:100円

となっています。
 

これにより、年間およそ100億円程度が確保される見込みで、被害者対策として「脊髄を損傷した人が中長期で入院できる施設の運営」や、「親が高齢になるなどして介護者がいなくなった人への支援策」のほか、事故防止対策として「自動ブレーキの普及」などに充てられる、としています。
 

自賠責には、現在もひき逃げや無保険の車による人身事故被害者の保障を目的に、車1台当たり32円(2年分)の賦課金が課せられています。ただ、自動車による死亡事故は減少傾向にある一方、要介護の重度障害の残る被害者数は横ばいで推移していることから、自動車損害賠償保障法などの関連法を改正し、使途の拡充などを図った新たな賦課金制度を作った、と説明されています。
 

保険料は2年ぶりに引き下げ

一方、自賠責の保険料自体は、同じ4月に2年ぶりに引き下げられることが決まっています。理由は、交通事故が減り、保険会社が支払う保険金も減少しているからです。
 

交通事故は、2004年のおよそ95万件をピークに減少が続き、昨年はその3割程度となりました。保険会社が契約者に支払う保険金も、2016年度に7,634億円だったものが、21年度には5,867億円まで減っているのです。
 

保険料の引き下げ幅は、全車種の平均で1割程度となる見通し。このため、賦課金の新設があっても、自賠責絡みのユーザーの負担自体は増えないものとみられています。
 

国が自賠責保険から「借金」とは、どういうことか?

一般会計と特別会計

では、本題の国の「借金」問題について解説していきましょう。まず理解する必要があるのは、国の会計には「一般会計」と「特別会計」があることです。
 

一般会計では、公共事業、社会保障など継続的で一般的な行政がカバーされます。一方、特定の事業について、それとは切り離して経理を行うのが特別会計です。財政規模が大きくなると、個々の事業の状況や資金の運営実績などが不明確になりがちなため、「一般会計と区分して経理することにより、特定の事業や資金運用の状況を明確化すること」(財務省)を目的に設けられています。
 

現在、「交付税及び譲与税配布金」(総務省・内閣府)、「国債整理基金」(財務省)、「年金」(厚生労働省)、「エネルギー対策」(経済産業省・環境省・文部科学省)、「東日本大震災復興」(復興庁)など13の特別会計があり、その1つが今回のテーマに関わる国交省管轄の「自動車安全特別会計」です。
 

特別会計は、国が①特定の事業を行なう場合、②特定の資金を保有してその運用を行う場合、③その他特定の歳入をもって特定の歳出に充て、一般の歳入歳出と区分して経理する必要がある場合――に限って設置することが、財政法で認められています。ですから、それぞれの予算や積立金などを他の歳出(用途)に転用したりすることは、原則としてできません。
 

「一般会計」に「自動車安全特別会計」から繰り入れ

ところが、現在、一般会計が自動車安全特別会計から5,952億円(22年度末当初予算見込み)もの「借り入れ」を行っている、という事実があります。正確には、財務省がこの特別会計から一般会計へのおよそ6,000億円の繰り入れ(借り入れ)を行っていて、国交省に対し、その資金から見込まれる運用益(利子)も含めて繰り戻し(返済)を約束している、という状況に置かれているのです。
 

しかも、「返済」のめどは立っていません。2022年11月11日の閣議終了後の記者会見で、この件について質問された鈴木俊一財務大臣は、「今の財政事情を考えると1回でお返しするのは無理な状況。これは申し訳ないと思っているが、そういう中で着実に確実に繰り戻し、誠意をもってお返ししていくことが大切だと思っている」と答えました。
 

何が問題なのか?

自動車安全特別会計は、自動車ユーザーから徴収した検査・登録手数料、さきほど説明した賦課金、積立金として管理している自賠責保険の再保険(国による保険のバックアップ)契約に関わる再保険料、過去の再保険料の運用益を財源としています。使途は、自動車の検査・登録業務、基準適合性の審査、ひき逃げ・無保険車の被害者救済対策、再保険金の支払い、事故による重度後遺障害者などの被害者救済対策、事故発生防止対策など。本来、こうした「特定の事業」に使われるべきお金が、一般会計に「流用」されていることになります。
 

一般会計からの「返済」が遅々として進まない中、同特別会計は積立金を取り崩して事業を進めています。ところが、国交省の試算では2038年にはそれが枯渇する、つまりこの事業が担ってきた交通事故による被害者救済対策などができなくなる可能性がある、とされました。
 

実は4月からの新たな賦課金は、そうした事態を防ぐために設けられたものでした。同特別会計は恒常的な「歳出過多」にあるため、繰入金が「完済」されれば賦課金制度は必要ない、というほど単純な話ではありません。しかし、徴収される自動車ユーザーからすれば、一般会計からの「返済」を猶予しながら、自分たちに負担を強いるのか、という図式に見えても、おかしくはないでしょう。
 

なぜ「借金」する羽目になったのか?

そもそも、一般会計が特別会計から「借り入れる」ようなことが、なぜ起こったのでしょうか? ひとことで言えば、過去の一般会計の歳入欠陥(実際の歳入が当初予算の見込み額を下回る状態)をカバーするためでした。
 

時代は、30年前の1993年に遡ります。この年、総選挙で自民党が敗北し、非自民の細川護熙連立内閣が誕生する、という政権交代がありました。ところが、折しも総選挙公示直前に発表された92年度一般会計の決算で、1兆5,500億円の歳入欠陥が明らかになったのです。これも81年以来2度目という歴史的な出来事でした。
 

この補填のために目をつけられたのが、特別会計の積立金です。同内閣が編成した94年度予算で、自動車安全特別会計の前身である「自動車損害賠償責任再保険特別会計」の積立金から、8,100億円の繰り入れが実行されました。労働保険特別会計などからも、同様の繰り入れが行われています。
 

もちろん、「借りっぱなし」にすることは許されず、特別会計への繰り戻しについても法律に明記されました。実際、景気が回復して税収が戻れば、すぐに繰り戻しが可能だという見立てもあったはずです。しかし、バブル崩壊による影響には、根深いものがありました。結局93年度決算でも歳入欠陥が生じ、95年度にも自賠責特別会計から3,100億円を繰り入れることになりました。「借金総額」は、1兆1,200億円に膨らんだわけです。
 

今後の展望は?

その後、日本経済が「失われた20年」に低迷し、国の財政も好転するどころか借金(国債発行残高)を積み上げていることは、ご存知の通りです。自動車安全特別会計への「借金返済」についても一時途絶えるなど、30年経って半分も繰り戻しが終わっていない状況にあります。
 

財務省は、「賦課金の新設いかんにかかわらず、特別会計への繰り戻しを着実に進めていきたい」というスタンスですが、事実上、その時々の財政事情を背景とした「任意返済」だけに、「完済」のめどは立ちません。自動車ユーザーの理解を得るためにも、財政規律の面からも、きちんとした繰り戻しのプランを明確にするなどの施策が必要になるのではないでしょうか。
 

まとめ

自動車やバイクなどを運転する人が強制的に加入している自賠責保険に、年間125円(自家用車)の賦課金が新設されました。事故被害者の救済対策が拡充されるのはいいのですが、国の一般会計が自賠責に関わる特別会計から6,000億円「借金」しており、「返済」のめどが立っていない、という問題は未解決のままです。ユーザーの理解を得るためには、何らかの具体策の提示が必要になるでしょう。
 

マネーイズム編集部
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