なぜアメリカで銀行の経営破綻が相次いだのか? 「リーマンショック」の再来はあるの? | MONEYIZM
 

なぜアメリカで銀行の経営破綻が相次いだのか? 「リーマンショック」の再来はあるの?

2023年3月に、アメリカで銀行の破綻が相次ぎました。ITスタートアップ企業を主要な取引先としてきたシリコンバレー銀行と、共に暗号資産(仮想通貨)関連企業を主な顧客とするシルバーゲート銀行(シルバーゲート・キャピタル傘下)、シグネチャー銀行の3行です。特にシリコンバレー銀行とシグネチャー銀行は、破綻規模が史上2番目、3番目という「超大型倒産」でした。この時期に破綻の連鎖が起きた原因はどこにあり、影響はどこまで広がる可能性があるのでしょうか。

破綻したのはどんな銀行だったのか

今回破綻した3つの銀行には、取引先を特定のセクターに特化していた、という特徴がありました。

スタートアップ企業、ベンチャーキャピタルに特化

シリコンバレー銀行は、その名の通り、最先端のIT企業やスタートアップ企業が集まる西部カリフォルニア州のシリコンバレーに拠点を置いていました。創業は1983年で、主にテクノロジー関連のスタートアップ企業や、スタートアップ企業に出資するベンチャーキャピタル向けの融資に、アメリカでも有数の実績を持つ銀行だったそうです。

暗号資産に特化

一方、シグネチャー銀行は2001年の設立で、ニューヨークに拠点を置き、40の店舗を展開していました。こちらの主要顧客は、暗号資産関連の企業でした。シルバーゲート銀行も同様で、1988年に設立され、仮想通貨ブームの初期にこの分野に参入したシルバーゲート・キャピタル傘下の銀行でした。

破綻の連鎖が起こった理由

「投資バブル」の崩壊

3行が破綻した原因は、ある意味単純明快で、融資先や預金者となっていた企業の急速な業績悪化です。
 

こうした企業の業績悪化の前には、バブルといえる急成長がありました。その引き金になったのは、2020年に始まった新型コロナのパンデミックです。外出制限などにより景気が急速に冷え込む中、各国は経済対策として金融緩和(金利の引き下げ)政策を断行し、アメリカもその例外ではありませんでした。 

その結果、世界的に「成長セクター」のリターンに対する過度な期待が膨らみました。最たるものが、ITをはじめとするスタートアップ企業であり、暗号資産関連の企業だったのです。これらの企業に対する投資熱は高まり、この3行には、調達された大量の資金が流れ込む形になりました。各銀行は、それを元手にした投融資を増加させ、自らの業績も拡大させました。
 

ところが、後で述べるように、アメリカの中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)が金融政策を一転させ、2022年3月から段階的な政策金利(中央銀行が一般の銀行に貸し付ける際の金利)の引き上げを開始したことから、このバブルは崩壊に向かいます。さきほどとは反対に、金融引き締め(金利の引き上げ)によって、3行の顧客から投資マネーが撤退する結果となったわけです。

「成長産業」を襲った環境変化

破綻した銀行の取引先である暗号資産、ITスタートアップ企業の置かれた状況について、もう少し詳しくみることにします。
 

まず、暗号資産について。FRBが利上げを実施すると、米国債の金利(利回り)も上昇します。「安全な資産」である国債の利回りが上昇すれば、暗号資産のような「リスク資産」の価値は、相対的に低下していきます。わざわざリスクの高い資産を持つ意味が薄れるからです。
 

実際、金利の上昇により暗号資産を売却する人が増え、価値も下落して、交換所を運営する企業の業績は大幅に悪化しました。2022年11月の大手暗号資産交換所、FTXトレーディングの破綻は、その代表例といえるでしょう。暗号資産関連企業の倒産は増加し、その業界に特化していたシルバーゲート銀行は清算、シグネチャー銀行も経営破綻に追い込まれたわけです。
 

ITスタートアップに関しても、同様の逆風が吹きました。金融引き締めで借り入れのハードルが上がり、株価も低迷するようになったためにIPO(株式新規上場)による市場からの資金調達もしにくい環境になりました。
 

この分野では、GAFA(Google、Apple、Facebook=現Meta、Amazon)の業績悪化、大幅人員削減というニュースもありました。ビジネス自体の成長性の鈍化、競争の激化が顕在化したこともあって、もともと経営基盤が盤石とはいえないスタートアップのへの投資を手控える動きは、一気に強まりました。そうした状況の下、シリコンバレー銀行は、貸し倒れや、資金繰りに窮した取り引き先企業の預金引き出しの急増などに耐え切れず、破綻を余儀なくされました。

引き金を引いたFRBの金利引き上げ

8回の利上げを実行

このように、風向きを変えたのは、FRBによる政策金利の引き上げでした。2022年3月に0.25%(上限)の利上げが行われて以降、2023年2月まで計8回にわたり、0.25%~0.75%の幅で金利の引き上げが行われたのです。
 

FRBが金融引き締めに政策転換した理由は、想定外のインフレの進行でした。アメリカでは、2021年12月以降、およそ1年間にわたって消費者物価指数が7%超という空前のインフレが続き、国民生活に大きな影響を与えました。ピークは過ぎたものとみられますが、2023年に入っても物価は高止まりの状態です。
 

この状況を打開するために、利上げを断行し、行き過ぎた投資や消費を抑えようというのがFRBの狙いです。

国債の金利上昇が「致命傷」に

こうした政策が3つの銀行の顧客の業績に影響を与え、そのあおりで経営破綻にまで追い込まれた事情は説明しましたが、実は「致命傷」となったのは、これらの銀行が大量に保有していた米国債の存在でした。
 

これらの銀行は、投資バブルの余波で増大した預金の多くを、国債の購入に充てていました。購入時、その金利(利回り)は、1%程度(10年国債)の極めて低い水準でした。ところが、その後矢継ぎ早の利上げが行われ、それにつれて国債の金利も4%近くにまで上昇したのです。そうなると、銀行が持つ利回りの小さい国債の価値は下落します。
 

国債は、基本的に元本が保証された債券です。ただし、それには、「満期まで持ち続ければ」という条件が付きます。投資環境が悪化し、資金繰りに苦しむ顧客からの預金の引き出しが増えると、銀行は損失を覚悟で、保有する国債を現金化する必要に迫られました。そのことが、経営にとって大きなダメージになったのでした。

世界的な信用不安の連鎖は起こらない?

「預金全額保護」を打ち出したアメリカ政府

銀行の経営破綻という事態を受けたアメリカ政府の対応は、素早いものでした。政府は、こうした場合に本来25万ドルまでしか保護されない預金を、全額保護するという異例の措置を発表したのです。金融不安を払しょくするための対応であることは、いうまでもありません。
 

ちなみに、日本で同じことが起こった場合には、1,000万円までの預金、利子が保護されることになっています(ペイオフ)。

注目されたFRBの3月の利上げ

破綻後に注目されたのは、3月に予定されていたFRBによる9回目の利上げがどうなるかでした。利上げの一時停止の観測も流れたのですが、結局0.25%の金利引き上げが決まっています(3月22日)。
 

FRBのパウエル議長は、記者会見で、信用不安の影響を見極めるため利上げの休止も検討したことを明かしつつ、現時点で「銀行システムは健全だ」と述べ、引き続きインフレ対策を優先する姿勢を示しました。

影響の拡大はあるのか

3月の半ばには、経営危機に陥ったクレディ・スイスを、スイス金融最大手のUBSが買収するというニュースがありました。気になるのは、「米国発」の銀行破綻が、2008年の「リーマンショック」のように、世界に飛び火することはないのか、ということです。
 

これについては、今のところその可能性は低い、という見方が強いようです。説明したように、破綻した3行はそもそも取引先が「偏って」いました。新型コロナという特殊な環境下でマネーゲームに翻弄された結果、事業の継続が不可能になったという点で、他の多くの金融機関とは事情が異なる、というわけです。あっけなく行き詰ったことに、リスク管理の甘さも指摘されています。
 

一方で、アメリカを中心に依然としてインフレの懸念を払拭できない現状には、リーマンショック後の調整局面とは異なる政策実行の難しさがある、という見方もあります。今回の銀行破綻が「特殊な事例」で終わるのかどうか、今後も注視する必要がありそうです。

まとめ

2023年3月に相次いで発生したアメリカの銀行破綻の背景には、インフレ抑制を目的としたFRBの段階的な金利引き上げがありました。現在のところ、世界的な信用不安に発展する可能性は低いものとみられていますが、インフレの持続など懸念材料も払しょくされてはいません。当面は、世界経済の動向に注目する必要があるでしょう。

マネーイズム編集部