税金はどこに払う?海外勤務と所得税等の課税関係について解説 | MONEYIZM
 

税金はどこに払う?海外勤務と所得税等の課税関係について解説

海外ビジネスを展開している企業に勤務していると、海外勤務を命じられることがあります。新型コロナウイルスの影響で、ビジネス目的での海外渡航が制限された時期もありましたが、現在でも海外で勤務しているサラリーマンの方は多いでしょう。今回は、海外勤務中に生じた所得の帰属や課税関係について解説していきます。

海外勤務中の所得はどこに帰属するのか

海外勤務により生じる給与の課税関係

海外に事業拠点があるような企業では、国内で給与が支給されることもあれば、現地の法人から給与が支給されることもあり、様々なケースが想定されます。ここで、1年以上に渡る長期間の予定で海外に転勤や出向をする場合、その期間に受け取った給与はどこの国の税法が適用されるのかという問題が生じます。
 

所得税法では、給与の課税関係の判断をその人の「海外での勤務期間」と「住所地」をもとに判断し、「居住者」と「非居住者」に区分します。「住所地」とは、その人が生活の拠点とする場所のことを指し、国内を離れ住所地を海外に移す期間が1年未満であれば「居住者」、1年以上であれば「非居住者」と判断します。
 

給与所得に適用される税法は、この「居住者」「非居住者」によって判定されます。具体的には「居住者」が得る給与所得は、国内で支給されたものだけではなく、海外で支給されたものも日本国内に帰属する給与所得として課税されます。逆に「非居住者」が得る給与所得は国内で支給されたものであっても、海外に帰属する所得であるため、所得税は課税されません。

判断基準は「日本での居住期間」と「生活の中心となる場所」

では「居住者」と「非居住者」を判断する基準についてもう少し詳しく解説していきます。
 

判断基準の1つが、「海外での勤務期間」です。先にも述べましたが、所得税法では海外に出国する期間が1年以上を予定しているのであれば、出国する時点で「非居住者」として判断します。出国する期間が1年未満であれば「居住者」のまま何も変わりません。したがって数日間、数カ月の予定で海外に単身赴任するようなケースは「非居住者」とはならず、日本国内の税法が適用されます。
 

もう1つの判断基準が「住所地」です。先にも述べた通り、「住所地」とはその人が生活の拠点とする場所を指します。具体的には、生活の拠点として海外で借りる貸家やアパート・マンションなどで、長期間生活する予定で家電製品などを購入し準備する場所のことです。
 

類似するものに「居住地」というのがありますが、これは別荘や出張先で一時的に滞在するような購入済マンション等のことです。居住はしてはいるものの生活の拠点とまではいえない場所のことを指します。はじめからその場所に常住するつもりの場所が「住所地」です。
 

この基準からいえば、例え海外勤務が1年以上であっても生活の拠点を日本国内として、仕事が終わればその都度帰国しているようなケースでは「非居住者」に該当しないことになります。

日本国内で所得税が課税されるケースとは?

「非居住者」であっても国内で生じた所得は所得税の課税対象

「非居住者」が受け取る給与所得については、国内の税法が適用されず所得税が課税されないことを解説しました。これは給与所得しかないサラリーマンを想定した話ですが、給与所得以外にも日本国内で生じる所得がある場合には取扱いが少し異なります。
 

例えば、給与所得の他に日本国内で不動産所得がある場合、不動産にかかる所得は国内で生じています。「非居住者」の扱いは、あくまで海外勤務にかかる給与所得に対しての規定であり、日本国内で生じる所得(国内源泉所得)は所得税の課税対象外とはなりません。したがって、例示の場合には不動産所得にかかる確定申告を国内で提出する義務が生じます。 

しかし「非居住者」として海外勤務している期間は、「居住者」ではないため国内で確定申告を行うことができません。そのため日本国内の居住者を「納税管理人」として選任しなければなりません。具体的な手続きとしては「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を納税地の所轄税務署に提出し、納税管理人が「非居住者」にかわって確定申告書の提出や所得税の納付を代理することになります。
納税管理人については、「納税管理人とは?納税管理人の内容や税理士に頼むメリットについて解説」をご覧ください。

「外国税額控除」とは何か?

「居住者」のまま海外の勤務先から給与を受け取るケースがあります。現地企業が給与を支給する際、その国の税法に基づき所得税に相当する税金を給与から徴収されるケースがあるという問題が生じます。「居住者」の給与は、たとえ海外で受け取ったものであっても、日本国内の所得としてカウントされますから、このままでは同一の給与に対して所得税と海外の租税と重複して課税(二重課税)されてしまいます。 

そこで、所得税では二重課税を回避するために、確定申告書の「税額控除」で「外国税額控除」の欄を設けています。日本国内において確定申告をする際、その年の所得総額に対する国外所得総額の割合に応じた税額控除を受けることができます。
 

外国税額控除の計算をする際に対象となる「外国所得税」は、日本国内でも課税標準となった給与にかかる外国租税が該当します。また「外国税額控除」の計算で用いる「所得総額」や「国外所得総額」については、純損失や雑損失の繰越控除や上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除を除くなど、非常に細かい定義があります。計算する際には条文をよく理解し、正しく所得総額を求めるようにしましょう。
 

海外勤務をする際に注意することについて解説

居住期間の判定はその都度行うことに注意

住所地を海外に移し、1年以上の海外勤務をする予定で「非居住者」となったものの、諸事情により期間が短縮され帰国するケースがあります。このような場合、生活の拠点が国内に戻りますので「非居住者」から「居住者」に変更になります。
 

また、逆に当初1年未満の海外勤務の予定が延長され、1年以上になってしまうケースもあるでしょう。この場合は「居住者」から「非居住者」への変更が必要になります。このように、年の途中で「居住者」「非居住者」の区分が変更になる場合には、変更の事実が判明した時点で区分の変更を行います。変更の事実が判明した時点を基準に、「居住者」に該当する部分について、所得税が課税されます。
 

したがって、変更事由が生じてから過去に遡って区分変更をして所得税の修正申告をする必要はありません。

海外勤務により出国する際には確定申告を忘れずに

「非居住者」に該当するような長期の海外勤務が決まり、日本を出国する際には、出国までの所得にかかる確定申告をする必要があります。出国するまでは「居住者」であるため、その期間は所得税の課税対象となるからです。
 

年の途中に「居住者」から「非居住者」に区分変更があるケースでは、その年の1月1日から出国までの期間に生じた所得税を精算しなければなりません。主たる給与を支給している会社は、その従業員の所得税に対して源泉徴収義務を負います。
 

よって、従業員が出国する日までに支払った給与所得を年末調整により清算業務を行わなければなりません。もし、出国までに年末調整にかかる源泉徴収票が手元に届かなければ、会社が出国に伴う年末調整を失念していることが考えられます。出国前に会社の源泉業務担当者に忘れずに依頼しましょう。

まとめ

海外支店を持つ企業や海外取引がある企業に勤務している方にとっては、国外で勤務するといったケースも想定されます。ご自身が得た所得に対する税金がどの国に帰属するかを正しく判断し、申告を忘れずに行いましょう。

奥谷佳子
Webライター/ライター フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。 自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。 取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。
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