「最低賃金」とは 今年は全国平均1,000円が達成される? | MONEYIZM
 

「最低賃金」とは 今年は全国平均1,000円が達成される?

人を雇用した場合、雇用主(使用者)が労働者に対して支払わなくてはならない賃金の最低額=「最低賃金」が定められており、基本的に毎年見直しが行われます。物価高が続く中、気になる基準ですが、今年は全国加重平均で時給1,000円が達成されるのかどうかが注目されています。そもそも最低賃金とはどういうものなのか、現状と見通しなども含めて解説します。

最低賃金制度の概要

最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならない――という制度です。

「地域別」と「産業別」がある

最低賃金には、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。「特定(産業別)最低賃金」は、全国で227件(2023年3月末時点)定められており、地域別最低賃金よりも高い金額水準に設定されています。
 

ここでは、主に地域別最低賃金について説明していきます。

あらゆる雇用形態に適用される

地域別最低賃金は、パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託など雇用形態や呼称に関係なく、セーフティネットとして各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます。
 

ただし、一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭める恐れなどがあるため、次の労働者については、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることを条件に、個別に最低賃金の減額の特例が認められています。
 

  • 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い人
  • 試の使用期間中の人
  • 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている人のうち、厚生労働省令で定める人
  • 軽易な業務に従事する人
  • 断続的労働に従事する人

 

派遣労働者には、派遣先の最低賃金が適用される

派遣労働者には、派遣元の事業場の所在地にかかわらず、派遣先の最低賃金が適用されます。ですから、派遣会社の使用者と派遣される労働者は、派遣先の事業場に適用される最低賃金を把握しておく必要があります。

対象となる賃金にボーナスは含まれる?

最低賃金の対象となるのは、「毎月支払われる基本的な賃金」であることに注意が必要です。最低賃金を計算する場合には、実際に支払われる賃金から、以下の賃金を除外したものが対象となります。
 

  • 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
  • 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
  • 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
  • 所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
  • 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
  • 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
  • 最低賃金を満たしているかどうかのチェック方法

    支払われる賃金が最低賃金額以上となっているかどうかを調べるには、最低賃金の対象となる賃金額と適用される最低賃金額を以下の方法で比較します。
     

    ①時間給の場合
    ・時間給≧最低賃金額(時間額)
    ②日給の場合
    ・日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
    ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、
    ・日給≧最低賃金額(日額)
    ③月給の場合
    ・月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
    ④出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
    ・出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除した金額≧最低賃金(時間額)
    ⑤上記1〜4の組み合わせの場合
    例えば基本給が日給制で各手当(職務手当等)が月給制などの場合は、それぞれ上の2、3の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)とを比較します。

     

    詳しくは、最寄りの都道府県労働局労働基準部賃金課室または労働基準監督署に、確認するようにしてください。

    最低賃金を支払わないとどうなる?

    仮に最低賃金額より低い賃金を労働者、使用者双方の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます。
     

    使用者が労働者に最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合には、使用者は労働者に対してその差額を支払わなくてはなりません。地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、最低賃金法に罰則(50万円以下の罰金)が定められています。なお、特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わない場合には、労働基準法に罰則(30万円以下の罰金)が定められています。
     

    また、使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者の範囲、最低賃金額、参入しない賃金及び効力発生日を、常時作業場の見えやすい場所に掲示するなどの方法により周知しなければなりません。

    最低賃金の現状と見通し

    最低賃金はどのように決まるのか

    最低賃金は、最低賃金審議会(公益代表、労働者代表、使用者代表の各同数の委員で構成)において、賃金の実態調査結果などの各種統計資料を参考にしながら審議を行い、決定しています。
     

    <決定までのフロー>

    出典:最低賃金の決め方は?❘厚生労働省
     

    毎年7~8月頃に改定額が決定され、10月頃に改定が実施されます。

    地域別最低賃金

    現在(2022年10月~)の地域別最低賃金は、以下の通りとなっています。( )は前年度の金額です。
     

    都道府県名 最低賃金時間額【円】 発効
    北海道 920 (889) 2022年10月2日
    青森 853 (822) 10月5日
    岩手 854 (821) 10月20日
    宮城 883 (853) 10月1日
    秋田 853 (822) 10月1日
    山形 854 (822) 10月6日
    福島 858 (828) 10月6日
    茨城 911 (879) 10月1日
    栃木 913 (882) 10月1日
    群馬 895 (865) 10月8日
    埼玉 987 (956) 10月1日
    千葉 984 (953) 10月1日
    東京 1072 (1041) 10月1日
    神奈川 1071 (1040) 10月1日
    新潟 890 (859) 10月1日
    富山 908 (877) 10月1日
    石川 891 (861) 10月8日
    福井 888 (858) 10月2日
    山梨 898 (866) 10月20日
    長野 908 (877) 10月1日
    岐阜 910 (880) 10月1日
    静岡 944 (913) 10月5日
    愛知 986 (955) 10月1日
    三重 933 (902) 10月1日
    滋賀 927 (896) 10月6日
    京都 968 (937) 10月9日
    大阪 1023 (992) 10月1日
    兵庫 960 (928) 10月1日
    奈良 896 (866) 10月1日
    和歌山 889 (859) 10月1日
    鳥取 854 (821) 10月6日
    島根 857 (824) 10月5日
    岡山 892 (862) 10月1日
    広島 930 (899) 10月1日
    山口 888 (857) 10月13日
    徳島 855 (824) 10月6日
    香川 878 (848) 10月1日
    愛媛 853 (821) 10月5日
    高知 853 (820) 10月9日
    福岡 900 (870) 10月8日
    佐賀 853 (821) 10月2日
    長崎 853 (821) 10月8日
    熊本 853 (821) 10月1日
    大分 854 (822) 10月5日
    宮崎 853 (821) 10月6日
    鹿児島 853 (821) 10月6日
    沖縄 853 (820) 10月6日
    全国加重平均額 961 (930)

     

    22年の改定のポイントは、次の通りです。
     

    • 47都道府県で、30円~33円の引上げ(引上げ額が30円は11県、31円は20都道府県、32円は11県、33円は5県)となった。
    • 改定額の全国加重平均額は961円(昨年度930円)となった。
    • 全国加重平均額31円の引上げは、1978年度に現行の目安制度(最低賃金審議会が地域別最低賃金額の改定についての目安を提示して審議する)が始まって以降で最高額となった。
    • 最高額(1,072円)に対する最低額(853円)の比率は、79.6%となった。昨年度は78.8%で、この比率は8年連続で改善(格差が縮小)している。

    23年度の改定はどうなる?

    では、今年10月頃に実施される23年度の最低賃金の改定は、どうなるのでしょうか。食料品やエネルギーなどの生活関連物資の高騰が続く中、賃金引上げの要求は高まっています。実際、今年の春闘では、大幅なベースアップを提示する企業が多くみられました。
    春闘については、「ファーストリテイリングが社員の年収大幅アップを発表 本番を迎える2023年春闘はどうなる?」をご覧ください。

    最低賃金に関しても、昨年度に引き続く大幅引き上げの機運が高まっているのは確かなようです。3月に開かれた「政労使会議」(政府、経済界、労働界の意見交換会)の席上、岸田総理は、最低賃金について「今年は全国加重平均1,000円を達成することを含め、最低賃金審議会でしっかりと議論をしていただきたい」と述べました。
     

    1,000円達成のためには、加重平均で40円程度の引き上げが必要になりますが、“大台突破”の可能性はあるでしょう。

    企業経営への影響は

    労働者にとって時給のアップは喜ばしいことですが、経営者側には厳しい現実もあります。最後に、企業経営への影響について触れておきます。

    人件費の増加が経営を圧迫する

    時給を30円上げると、8時間・20日勤務(160時間)として、1カ月に1人当たり4,800円の人件費増となります。特に多くの人を最低賃金の水準近くで雇用している会社は、今後の引き上げを見越した対策が望まれます。

    「扶養」がネックになる可能性

    賃上げは労働者にとって喜ばしいといいましたが、配偶者などの扶養内で働く人にとっては、事情が異なります。収入が扶養範囲の「壁」を超えないようにするために、場合によっては労働時間を減らす必要が出てくるでしょう。会社側からすると、パートなどがシフトを減らすことで、結果的に人手不足を招くかもしれません。

    業務効率化などで対応を図る

    こうした「賃上げ圧力」に対応するためには、業務の効率化などを推進し、労働者の生産性を高める方策を真剣に検討する必要があります。生産性がアップすれば、労働時間を見直す可能性なども生まれるでしょう。これを機に、さらに業務のデジタル化を進めるなど、やれることはあるのではないでしょうか。

    まとめ

    最低賃金がどういうものか、現状はどうなっているのかを解説しました。今年10月には、全国区加重平均で1,000円台への引き上げも視野に入っています。夏以降に本格化する改定の議論に注目しましょう。
     

    マネーイズム編集部