ビットコインは普及した?法定通貨として採用したエルサルバドルの現状 | MONEYIZM
 

ビットコインは普及した?法定通貨として採用したエルサルバドルの現状

仮想通貨として流通しているビットコイン。ドルなどの国が発行する通貨と比べて価格が安定しないというデメリットがある中で、ビットコインを法定通貨にしている国があります。それがエルサルバドルです。

この記事ではエルサルバドルが、なぜビットコインを法定通貨として採用したのか、また現状はどうなっているのか、今後の見通しも踏まえて解説します。

エルサルバドルはなぜビットコインを法定通貨にしたのか

法定通貨とは「強制通用力」を持つ通貨のことで、最終決済手段として認められていることを意味しています。日本の場合、日本銀行が発行する日本銀行券と政府が発行する貨幣のみが法定通貨ですが、エルサルバドルではビットコインが法定通貨になっています。
 

ではなぜエルサルバドルはビットコインを法定通貨にしたのでしょうか。ここでは2つの理由について解説します。

多くの人が金融サービスを利用できる

エルサルバドルでは、現金での取引が主流のため、金融サービスを利用していない国民が多いと言われています。そのため海外への送金だけでなく、海外市場へのアクセスもできません。
 

その点ビットコインを法定通貨にすれば、金融サービスを多くの国民が使えるようになり、世界市場にもアクセスできるというメリットがあります。

銀行口座が無くても送金できる

エルサルバドルの場合、自国に雇用がないため、外国に出稼ぎに行っている国民が多くいます。そのため海外からエルサルバドルに送金する必要がありますが、銀行口座での送金は手数料が高く設定されています。
 

その点、エルサルバドルで使っているビットコイン用のアプリを経由すれば、送金手数料が無料になるのです。送金手数料の分だけ、国民にとって得になるわけです。

ビットコインがエルサルバドルで普及しない理由

前述したようにビットコインを法定通貨にすることで、エルサルバドルに恩恵があると考えられていましたが、実際には思ったほど普及していません。ここではビットコインがなぜエルサルバドルで普及しないのかの理由について解説します。

ビットコイン価格の下落

エルサルバドルでビットコインが普及しない理由のひとつが、ビットコインの価格が下落し、安定しない点です。ビットコインを高値で購入した場合、価格が下落しているときに使うのはもったいないと考えるのが一般的でしょう。
 

たしかにビットコインはドルや円よりも、相場の動きが激しい通貨です。たとえば2021年11月に777万円の最高値をつけましたが、2022年の最安値は12月の212万円です。そのため通貨として使うよりも、投機目的で保有する人が多いでしょう。こうした状況の中で、エルサルバドルの国民がビットコインを使うのは考えづらいです。

使える場所が少ない

エルサルバドルでビットコインは法定通貨に指定されているにもかかわらず、実際に使える場所は限られています。ビットコインを支払いに利用しているのは約20%で、そのほとんどが大企業です。
 

またお店でビットコインを使おうとしても、ビットコインの導入は任意のため、利用できる店舗が少ないのが現状です。またビットコインでの支払いを拒否しても罰則もありません。
 

このような状況ではビットコインを使用できる場所は限られますし、使用できないのであればビットコインを持とうと国民が思わないのも当然でしょう。 

国民がビットコインを信用していない

そもそも国民がビットコインを信用していないという問題もあります。中央銀行の発表によれば、手数料がかからないため、便利なはずのビットコイン送金の利用者は2%にも満たなかったとのことです。
 

前述したように、政府が提供しているアプリを使えば手数料がかからず、ビットコインを送金できるのが、大きなメリットでした。しかし実際には利用者がほとんどいません。また長年の金融不安から、米ドルを現金で持ちたいと国民は考えているようです。
 

そもそもエルサルバドルは自国通貨「コロン」を持っていましたが、2001年に放棄して米ドルを法定通貨として採用した経緯があります。自国通貨の「コロン」は価値が安定せず、通貨としての信頼性が低かったのがその原因です。
 

「コロン」と同じようなことがビットコインにも起こらないかと、国民が心配していると考えられます。また米ドルは基軸通貨でもあり、信頼できると考えるのは当然でしょう。

ビットコインを法定通貨にする国が増える可能性は少ない

前述したようにビットコインを法定通貨にしたエルサルバドルは成功しているとは言えません、では今後、エルサルバドル以外にもビットコインを法定通貨にする国は増えていくのでしょうか。
 

ここではビットコインを法定通貨にすることに対する国際機関の反応や、中央アフリカやアメリカの各州の事例について紹介します。

世界銀行やIMFは反対の立場

ビットコインを法定通貨にするという動きに対して、世界銀行やIMFは反対の立場です。IMFは法定通貨として扱うことをやめるようエルサルバドルに伝えており、その結果、融資交渉も停滞しています。
 

一方世界銀行も、国際社会に問題を引き起こす可能性があるため、エルサルバドルへの支援を拒否しています。前述したようにビットコインは価格の変動が激しいため、国際機関としては、法定通貨として適切ではないという立場でしょう。

中央アフリカは3カ月で凍結

中央アフリカもビットコインを法定通貨にしましたが、3カ月で凍結しています。そもそも国が貧しいのにもかかわらず、ビットコインを導入するのは反対という意見が多くありました。
 

内戦が長年続いたため、国内のインフラ整備もできていません。そもそもインターネットに接続できる環境はごくわずかだと言われています。このように国の状況が厳しい中で、別の重要な問題に取り組むべきだという意見があったわけです。
 

またビットコインの認知度も低く、ビットコインを利用できる環境が整っていませんでした。国民の認知度が低いため、利用できる場所もほぼ無い状態で、ビットコインを法的通貨にしても意味がないでしょう。結果として3カ月で法律適用が凍結されています。

アメリカ各州の試み

エルサルバドルも中央アフリカも国家レベルで、ビットコインを法定通貨にする試みは決してうまくいっているとはいえません。しかしそうした中で、アメリカの各州では、ビットコインを法定通貨にするという動きがでてきています。
 

たとえばアリゾナ州では、ビットコインを法定通貨にするという動きがあります。この試みは2度目であり、ビットコインを日常の通貨として使用できることで、利便性があがると考えられているのです。コロラド州ではビットコインで税金が払えるようになりました。
 

またビットコインのマイニング報酬を活用しようとしている州も増えています。アメリカのように、州レベルでビットコインでの支払いを認めるような動きは出てくると考えられます。

まとめ

ここまでビットコインを法定通貨にしたエルサルバドルの現状と、世界的な動きについて説明しました。ビットコインは価格の変動が激しく、法定通貨として利用するにはリスクが伴うと考えられます。
 

ただし多くの人が銀行口座を持たない国にとっては、ビットコインは金融サービスにアクセスするために有効です。こうしたメリットを活用しつつ、いかにリスクを抑えていくのか。難しいかじ取りが政府に求められることになるでしょう。

福井俊保
渋谷区で一から立ち上げたプログラミング教室スモールトレインで代表として、小学生に対するプログラミングと中学受験の指導に従事。またフリーランスのライターとしても活躍。教育関係から副業までさまざまな分野の記事を執筆している。
著書に『AI時代に幸せになる子のすごいプログラミング教育』(自由国民社)、共著で『#学校ってなんだろう』(学事出版)がある。