法人や個人事業主が年間を通して事業を続けた結果、もうけが出ず損益がマイナスになることがあります。このような「赤字経営」が長期間継続すれば、事業の継続はおろか倒産のリスクまであります。今回は、赤字経営とは何か?赤字でも倒産しないケース、赤字経営のメリット・デメリットについて解説します。
そもそも赤字経営とは
会社の経営状態を表す言葉として「赤字」「黒字」というキーワードを耳にする場合があります。「赤字」という言葉の由来は、会計で不足やマイナスの数値が出た際、帳簿に数字を赤字で記入することから来ています。今回のテーマである「赤字経営」とは、決算書上の最終的な利益が赤字(マイナス)となる決算を指します。反対に、利益が黒字(プラス)となる決算が「黒字決算」です。
一般的に会社は利益、いわゆる「もうけ」を出すために事業を行いますが、利益の計算方法を簡単に表すと以下のようになります。
収益には売上高や受取利息などがありますし、費用には仕入高や人件費、家賃や水道光熱費などがあります。利益は、収益から費用を差し引くことで求められます。利益を計算した結果、プラスになれば「黒字」、マイナスになれば「赤字」ということです。「赤字経営」とは利益がマイナスの状態を指します。
次に、上記の算式を踏まえて「赤字経営」と手持ちキャッシュの関係を見ていきましょう。資産や負債、純資産の増減によるキャッシュの増減を考慮せず、純粋な損益だけで考えてみます。
収益は、売上高のように「キャッシュの増加」をもたらすものであり、費用は仕入高のように「キャッシュの減少」をもたらすものです。したがって、利益と手持ちキャッシュの増減は密接な関係にあります。「黒字」であればキャッシュは増加しますし「赤字」であればキャッシュは減少します。
一般的な営業サイクルとしては、手持ちキャッシュを費用として先行投資し、商品やサービスを販売することで収益を得て投資したキャッシュを回収します。回収したキャッシュを元手に、再度費用を先行投資してまた収益として回収する、この作業を繰り返していくわけです。
通常であれば利益の分だけ手持ちキャッシュはどんどん増加していくはずですが、「赤字経営」ではそうはいきません。収益より費用が多い状態ですから、営業すればするほどキャッシュは目減りしていきます。さらに「赤字経営」が慢性化すると、先行投資するための手持ちキャッシュすら底をついて最終的には倒産するという流れになります。
したがって、事業を継続させるために会社は利益を出さなければならないのです。
赤字経営でもつぶれない理由とは
「赤字経営」は手持ち資金の減少に繋がることを説明しました。会社を継続していくうえで、手持ち資金は次の利益を生むための元手であり、必要不可欠なものです。これが減少するということは、事業継続が困難になることであり最終的に会社はつぶれてしまうでしょう。
しかし、「赤字経営」であっても事業を継続することができるケースもあります。
1.赤字の内容がキャッシュを使わない支出であるもの
前章で「費用=キャッシュの支出」と解説しましたが、費用のなかにはキャッシュの支出を伴わないものがあります。代表的なものとしては「減価償却費」が挙げられます。「減価償却費」とは、固定資産を購入した際の取得費用を期間の経過に応じて費用化したものです。固定資産の取得時に支出が発生しますが、その後は固定資産を帳簿上で費用化するだけですからキャッシュの支出はありません。
2.現金化できる資産が多いこと
現預金は少なくても、受取手形や売掛金、貸付金といったその他の資産が多いケースもあります。仮に赤字経営であってもこれらの資産を回収し現金化すれば、減少したキャッシュを補充できます。また、重機や車両なども売却すれば現金化可能ですから、資金繰りに困った場合などに処分して現金化もできます。
3.一時的な赤字であること
「赤字経営」といっても、慢性的な赤字経営と違い、一時的な赤字経営であれば事業を継続させることは可能です。例えば、毎期経常的に黒字決算の企業が、役員の退職にあたって多額の役員退職金を費用計上したとしましょう。役員退職金は一時的な支出(費用)ですから、赤字になるのは一時的なものです。もともとコンスタントに黒字を出せる経営体質ですから、翌期になればまた黒字経営に転換ができるでしょう。
赤字経営のメリット・デメリット
赤字経営のメリットとは
では次に「赤字経営」のメリットとデメリットについて見ていきましょう。「赤字経営」のメリットは以下の通りです。
・税金の軽減ができる
所得税や法人税などは、利益(もうけ)に対して税金を負担するのが原則です。「赤字経営」は課税すべき「もうけ」がありませんから、当然税金は発生しません。ただし、法人については、赤字であっても均等に課税される都道府県及び市町村の「均等割」があります。全くゼロにはなりませんので注意してください。
・還付や欠損金繰越、繰戻ができる
青色申告の承認を受けている場合、過去の赤字を現在の黒字と相殺できる「繰越欠損金控除」という特典があります。「赤字経営」により生じたマイナス(欠損金)を、法人であれば最大10年間、個人事業であれば最大3年間繰り越せ、繰越期間中に黒字が出たら相殺できます。
さらに、赤字により生じた欠損金を過去に遡って黒字と相殺し、過去に納付した税金の還付を受けられる「繰戻還付請求」という制度もあります。
赤字経営のデメリットとは
税法上では救済措置を受けやすい「赤字経営」ですが、対外的には数多くのデメリットがあります。
・融資が受けにくい
会社が金融機関から融資を受ける場合、必ずといっていいほど決算書の提示を求められます。金融機関は決算書を通して経営状態や返済能力を確かめ、与信チェックを行いますから「赤字経営」は当然厳しい目でみられます。赤字ということは、経営状態が良くないのは明らかであり、資金繰りも悪化していることが読み取れます。返済能力が低いと判断されれば、結果として融資を断られることにも繋がります。
・取引先などからの信用の低下
与信チェックを行うのは金融機関だけではありません。取引先も慎重に与信状況を確認しているのです。商取引の世界では、代金を後で決済する「掛取引」が頻繁に発生します。資金的な面でみれば、掛取引は金融機関の融資と同じ意味合いを持ちます。掛によりキャッシュの回収を留保するのですから、取引先に自社の資金を預けているのと実質的には同じです。
「赤字経営」の会社は倒産のリスクがありますから、掛取引で生じた債権を回収するのが困難であったり、最悪貸倒れたりする可能性もあります。
「赤字経営」の結果、掛取引ができなくなり、資金的な理由で事業の継続が難しくなる可能性もでてきます。
・倒産の危険性
手元の運転資金が底をつき、金融機関からの融資も取引先との掛取引もなくなれば、売上高といった収入を得るための仕入ができません。利益を生む手段がなくなりますので、必然的に事業を継続することができなくなります。あとは倒産するだけです。
このように「赤字経営」には、事業継続を阻む重大なリスクがいくつもあります。事業の継続を望むのであれば早急に「黒字経営への転換」を図る必要があります。
現在「赤字経営」である会社が黒字経営を目指す場合、次の3点を検討項目にするとよいでしょう。
- 売上高を増やす
- 売上利益率を増やす
- 固定経費を減らす
これらの項目を検討し、改善することで黒字経営への転換が可能となります。
まとめ
いくつかのメリットはあるものの、やはり「赤字経営」という言葉には良い印象がありません。会社が存在するのは、利益を出して事業を継続させるためです。慢性的な「赤字経営」に陥らないよう、いま一度自社の経営状況についての考察をする必要があるでしょう。