個人事業主・法人がインボイス発行事業者に登録後、やめる方法は申請した期間によって異なります。
2023年9月30日までの場合は「取り下げ書」を郵送またはe-Taxで提出します。2023年10月1日(インボイス制度導入)以降は所定の「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を提出することになります。
今回はインボイスをやめる方法・注意点、簡易課税制度選択届出書のみを取り下げる方法、インボイス制度の概要と登録するメリット・デメリットなどを解説していきます。
インボイス発行事業者に登録しても取り下げは可能
インボイスの登録期間と取り下げ
インボイス制度(適格請求書等保存方式)は2023年10月1日から開始予定です。
インボイス発行事業者に登録すると、適格請求書を発行できるようになります。
売り手の事業者がインボイス(適格請求書)を発行し、買い手の事業者がインボイスを保存し全額仕入控除ができるようになります。
インボイス制度の登録スケジュールは以下のとおりです。

出典:「令和5年10月からインボイス制度が開始!事業者が進めておきたい準備とは?」❘ 政府広報オンライン
2023年9月30日までにインボイス発行事業者に登録すると、10月1日からインボイスの交付が可能です。10月1日にまでにインボイスセンターから登録の通知が届かない場合でも、登録できたものとみなされます。
登録した後に取り下げることは可能ですが、2023年9月30日までの制度開始前と2023年10月以降の制度導入後では取り下げ方法が異なりますので注意しましょう。
2023年9月30日までは「取り下げ書」を郵送またはe-Taxで提出する
2023年9月30日までにインボイスをやめたいときには、取り下げ書を送付します。取り下げ書の書式は定められていませんが、氏名(法人の場合は法人名・代表者名)と住所・登録番号(交付されている場合)・登録を取り下げたい旨を明記する必要があります。
自分で取り下げ書を作成し、管轄の「インボイス登録センター」に郵送またはe-Taxで送信します。

参考:適格請求書(インボイス)発行事業者登録申請の 取り下げ書❘ 全国商工団体連合会
まだ交付されていない場合、登録番号は不要です。
「確実に取り下げたい」という方は、内容証明郵便で管轄のインボイスセンターへ送付することをおすすめします。
内容証明郵便は、書留郵便物の内容文書について証明するサービスです。郵便物の内容と送付された日時・相手が受け取った日時・差出人と受取人について証明を受けることが可能です。
2023年10月1日以降は所定の届出書を税務署に提出する
2023年10月1日以降は納税地を所轄する税務署長に「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を提出すると登録の取り消しが可能です。
届出書は国税庁のホームページからダウンロードができます。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/kansetsu/1806xx_2/pdf/03.pdf
取り消しは「登録取消届出書の提出があった日の属する課税期間」の「翌課税期間の初日」から有効です。
登録取消届出書を「翌課税期間の初日から起算して15 日前の日」を過ぎて提出した際には翌々課税期間の初日に取り消されます。
例えば3月決算のインボイス発行事業者が、2025年3月25日に届出書を提出した場合は、翌々課税期間の初日(2027年度の4月1日)から取り消しとなります。

出典:「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」❘ 国税庁軽減税率・インボイス制度対応室
上記の法人が2026年(令和8年)から取り消したい場合には、2025(令和7年)3月 17 日までに届出書を提出しなくてはいけません。
なお「翌課税期間の初日から起算して 15 日前の日」が日曜日・祝日であっても計算は変わりません。
簡易課税制度選択届出書を提出したがやめたい
インボイス発行事業者に登録すると同時に「簡易課税制度選択届出書」を提出した方もいらっしゃるでしょう。
政府は支援策の一環としてインボイス制度の公布後に「2割特例(※)」を設けました。簡易課税制度は、売上にかかわる消費税額を基礎に、仕入れについての消費税額を業種ごとに設定された「みなし仕入れ率」で算出することができる制度です。
「簡易課税選択届出書を取り下げたい」という場合はどうすれば良いのでしょうか?
財務省の公表資料「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答」によると、簡易課税を選択していても2割特例は適用されます。

出典:「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答 」❘ 財務省
よって「2割特例を適用したいから取り下げたい」という方は、取り下げが不要です。
一方で「卸売業などの免税事業者で、2割特例と本則課税を選択して適⽤できるようにしたいから登録を取り下げたい」というケースもあるでしょう。
簡易課税制度選択届出書は、届出書の提出可能期限までは取り下げが可能とされています。
例えば2023年10月1日から登録する際には、2023年12 ⽉31⽇までに提出可能で取り下げ書を提出することで取り下げができます。
取り下げ書の書式は定められていませんが、以下の項目を記載する必要があります。
● 届出書の様式名(表題)
● 提出⽅法(書⾯⼜は e-Tax)
● 届出者の⽒名・名称
● 納税地
● 提出した届出書を取り下げる旨
● 代表者の署名
取り下げ書は管轄の税務署に郵送または直接持参します。
インボイス制度とは
ここまでインボイス発行事業者をやめる方法をお伝えしてきましたが、そもそもインボイス制度とはどのような制度なのでしょうか?
インボイス制度の概要
インボイス制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」で売り手が買い手に対して正確な適用税率と消費税額等を伝えることを目的としています。
現行の請求書(区分記載請求書)に事業者の登録番号・適用税率・税率ごとに区分した消費税額を追加したものです。

売り手がインボイスを交付するためには、消費税の課税事業者になる必要があります。よってインボイス発行事業者になると課税事業者として、消費税の納税義務が生じます。
例えばインボイス制度導入と同時に課税事業者になる場合は2023年10⽉1⽇から「事業者が事業として対価を得て⾏う資産の譲渡、貸付けおよび役務の提供」について、消費税の申告が必要となります。
消費税の標準税率は10%・軽減税率は8%ですが、簡易課税制度を選択するという方法もあります。業種や経費によっては簡易課税制度を選択することで納税額の負担軽減が期待できます。
インボイス発行事業者に登録するメリット
免税事業者が、課税事業者およびインボイス発行事業者になるとインボイスを発行できるようになり買い手(課税事業者)が仕入税額控除を受けられます。
よって「仕入税額控除が受けられないから取引を止めざるを得ない」とう事態を回避できます。ただし、顧客が免税事業者・簡易課税の事業者・一般消費者である場合はインボイス発行事業者になるメリットはありません。
なお、課税事業者が取引先の免税事業者に対してインボイス制度に関して独占禁止法・下請法上問題となり得る行為は禁止されています。
例えば以下のような事例が公正取引委員会や中小企業庁のホームページに掲載されています。
2. 免税事業者に対して課税事業者への転換を求め「インボイス事業者にならなければ、消費税分は支払えません。今後のお取引は考えさせていただきます。」という要請を行い価格交渉にも応じなかった
インボイス発行事業者に登録するデメリット
インボイス発行事業者になることで、①消費税の負担が生じる、②事務作業が増えるというデメリットがあります。
ただしインボイス制度導入にあたって免税事業者からインボイス発行事業者になった方は、2023年10月1日~2026年9月30日を含む課税期間(個人事業主は2023年10~12月の申告から2026年分の申告まで対象)は「売上税額の2割」が納税額になります。
また1万円未満の課税仕入れは、 2023年10月1日~2029年9月30日の期間は帳簿の保存のみで仕入税額控除が可能です。
上記の軽減措置を過ぎると消費税の負担は増えてしまいます。また、経理担当者の事務処理が増え負担となってしまう恐れもあります。
インボイスをやめる際の注意点
「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」は提出する時期に注意
2023年10月1日以降に登録を取り下げるためには「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を提出します。
届出書は「翌課税期間の初日から起算して15 日前の日」までに提出しないと、取り消しが翌々課税期間の初日になってしまいます。
「次年度に免税事業者に戻りたかったのに間に合わなかった」という事態に陥ってしまいますので、提出期間には気をつけましょう。
再登録した後は2年間課税事業者でいなければならない
インボイス発行事業者を取り消し、再びインボイス発行事業者(課税事業者)に再登録した場合には「2年間課税事業者でなくてはならない」という制約が生じます。
課税事業者を選択した事業者は、課税事業者となった課税期間の初日から原則として2年間は免税事業者に戻れないという決まりがあります。
2023年10月1日以降にインボイス発行事業者になった方は、例外的に「2年縛り」は定められていませんが再登録では2年縛りとなってしまいます。
まとめ
インボイス発行事業者をやめる方法は、インボイス制度導入前後で変わりますので注意が必要です。2023年10月1日以降に「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を提出する際には期限に注意し、早めに申請しましょう。