処理水放出が開始!処理水放出への賠償や経済影響とは – マネーイズム
 

処理水放出が開始!処理水放出への賠償や経済影響とは

東京電力福島第一原発は廃炉作業に伴い、処理水の海への放出を開始しました。福島では処理水放出に対し、漁業関係者などから不安の声もあがっています。政府は、処理水放出で被害を受けた事業者に賠償金を支払うとしています。
 

ここでは、処理水放出に対する国の賠償や、経済への影響について詳しく解説します。

そもそも処理水とはどんなもの?

処理水放出に対する国の賠償や経済への影響について見ていく前に、まずは、そもそも処理水とはどのようなものなのか見ていきましょう。

なぜ処理水を放出しなければならないのか

東京電力福島第一原発は廃炉作業に伴い、海へ処理水の放出を開始しました。では、なぜ処理水を海に放出しなければいけないのでしょうか。
 

2011年3月に起こった東日本大震災は、福島にある東京電力福島第一原発にも大きな被害をもたらしました。震災によって施設が被害を受けたことにより、東京電力福島第一原発は廃炉が決まりました。廃炉作業中の東京電力福島第一原発では、核燃料を冷やすために毎日、原子炉に水を注入しています。
 

もちろん、原子炉に注入された水は自然になくなるわけではないので、何らかの対策が必要となります。しかし、原子炉に注入された水をどう処理するのか方針が決まらず、これまでは敷地内のタンクに貯めていました。
 

ただし、敷地内のタンクにも容量があり、このままでは満杯になってしまいます。また、原子炉に注入された水が敷地内のタンクに残っているままでは、災害時や福島第一原発の廃炉作業時の安全が確保できない可能性もあります。そこで、原子炉に注入された水を処分する必要が出てきたのです。
 

政府では、原子炉に注入された水について様々な処分方法を検討してきましたが、安全な方法として、処理水放出という処分方法を決めています。しかし、処理水の処分が完了するまで30年以上かかるともいわれており、その影響は長く続くと考えられています。

ALPS処理水とはどんなもの?

原子炉に注入された水は、そのまま海に放出されるわけではありません。一定の安全基準を満たした状態に処理を施してから放出されます。この処理水を「ALPS処理水」といいます。今、新聞やニュースなどで報道されている処理水とは、ALPS処理水のことです。
 

具体的には、原子炉に注入された水に含まれるトリチウム以外の放射性物質を、多核種除去設備などによって安全基準を満たすまで浄化した水を「ALPS処理水」と呼んでいます。
 

では、なぜトリチウムはそのままでいいのでしょうか。実は、トリチウムは水素の仲間で、自然にも存在しているからです。トリチウムが出す放射線のエネルギーは非常に弱く、紙1枚でさえぎることができるため、トリチウムが人や自然に与える影響は少ないとされています。また、今までトリチウムが原因とされる現象は確認されていません。
 

原子力について高い専門性があるIAEA(国際原子力機関)も、ALPS処理水の海洋放出について、国際安全基準に合致していることや、人や自然に対する放射線の影響は無視できるほどであると包括報告書で報告していることから、政府はALPS処理水の放出を決めました。
 

処理水放出で予想される経済的影響とは

ALPS処理水の放出は、安全面で問題のないことがIAEA1(国際原子力機関)の報告書にも示されています。しかし、ALPS処理水の放出には、大きな経済的な影響があるといわれています。それは、なぜでしょうか。
 

ALPS処理水の放出で予想される経済的影響として「風評被害」と「外国の反応」の2つがあるとされています。それぞれについて見ていきましょう。

・風評被害

ALPS処理水の放出は、科学的には安全が確保されているといっても、安全が具体的に目に見えているわけではありません。なんとなく不安である、福島の農産物や魚介類を避けて別の県のものを購入するという人もいるでしょう。また、ALPS処理水の放出は、完全に安全を担保したものではないと主張する人も出てきます。
 

このような風評被害により、福島産の農産物や魚介類の需要の減少や、それに伴う価格の低下が起こると予想されます。

・外国の反応

外国においても、日本国内と同じように、ALPS処理水の放出を不安視する声が出ています。特に、日本の近辺に位置する国からは、ALPS処理水の放出への不安や反対の声が根強いです。
 

実際に対抗措置を講じている国も出てきています。対抗措置を講じている国のひとつが中国です。中国では、日本産の水産物の全面禁輸が発表されました。日本にとって中国は、水産物の輸出で大きな市場となっています。そのため、全面禁輸が長引けば、売上の大幅な減少など多くの損失をもたらす可能性があります。また、日本産の水産物の全面禁輸以外にも、別の制裁措置に乗り出す可能性もあるといわれています。

処理水放出による賠償はどうなっている?

ALPS処理水の放出により、風評被害や外国の反応の影響によって事業者には、東京電力より賠償金が支払われることになっています。
 

2022年12月に、東京電力ホールディングス株式会社が公表した資料である「多核種除去設備等処理水の放出に伴い風評被害が発生した場合の賠償基準について【統合版】」では、賠償の内容や計算方法などが記載されています。風評被害に対する賠償と、外国の禁輸措置に対する賠償についてそれぞれ見てみましょう。
 

●風評被害に対する賠償
賠償の対象になる損害は「逸失利益」と「追加的費用」の2つです。

・逸失利益

風評被害によって生じた水産物や農作物などの価格下落と、売上減少などで減収があった場合に、その減収に対して賠償することとなっています。
 

また、風評被害があった事業者と取引がある事業者にまで減収などの影響がある場合は、その事業者にも賠償することとしています。

・追加的費用

風評被害により負担を余儀なくされた費用があれば、その費用も賠償するとしています。
 

なお、賠償の対象となる事業者は、原則としてALPS処理水を放出する前から事業を営んでいる事業者です。
 

では、賠償額はどのようにして決まるのでしょうか。上述した資料には、統計データや事業者の実情などから、風評被害を確認したのちに損害額を算定することとなっています。損害額については、業種ごとで一定の算式に当てはめて計算することとなります。例えば、次のような計算式で損害額を計算します。

・漁業、農業
損害額=(放出前の価格(基準価格)-放出後の価格)×放出後の水揚量または、放出後の販売数量-市場手数料等

・観光業
損害額=(放出前の売上高(基準売上高)-放出後の売上高)×貢献利益率
・水産加工業、水産卸売業
損害額=(放出前の売上高(基準売上高)-放出後の売上高)×貢献利益率×影響割合

賠償額の算定方法については、ALPS処理水放出から一定期間経過後、状況などの確認や国や関係団体などの意見を聞きながら、見直しが行われるとされています。
 

●外国の禁輸措置に対する賠償
外国の禁輸措置にともない、輸出ができなくなるなどの損害が生じた場合は、禁輸措置の内容や国内外の取引状況をチェックしたうえで、禁輸措置による損害が認定されれば、事業者ごとに損害額を算定することになっています。

まとめ

原子炉に注入された水は、安全面から考えても今すぐに対処しなければなりません。国はALPS処理水として放出することを決め、実際に放出が行われています。
 

一方で、風評被害や外国の反応により、大きな経済的影響が予想されています。風評被害に対する賠償については一定の基準が公表されており、実情に応じて見直しもされる予定です。
 

しかし、中国における日本産の水産物の全面禁輸などの問題は、いまだ解決できていません。経済的影響が大きくなれば、日本の景気にも大きな影を落とす可能性もあります。ALPS処理水放出の問題には、今後も注視していく必要があるでしょう。

長谷川よう
会計事務所に約14年、会計ソフトメーカーに約4年勤務。個人事業主から法人まで多くのお客さまに接することで得た知見をもとに、記事を読んでくださる方が抱えておられるお困りごとや知っておくべき知識について、なるべく平易な表現でお伝えします。