【投資家の視点から解説!】恒大集団の破産申請 中国版リーマンショックが世界経済に与える影響について | MONEYIZM
 

【投資家の視点から解説!】恒大集団の破産申請 中国版リーマンショックが世界経済に与える影響について

中国第2位の大手不動産会社である恒大集団が8月17日、米国連邦破産法第15条の適用をニューヨークの裁判所に申請しました。
 

そもそも恒大集団は約1年半前に債務不履行(デフォルト)の状況に直面し、今年7月に発表された2022年末時点の負債額は約2兆4,374億元(約49兆円)に達し、債務超過と経営危機に直面していました。
 

今回の破産申請のポイントは「破産」ではなく、破産しそうであるため、恒大集団の米国にある資産を債権者などに差し押さえられないよう、米国に守ってもらうことにあります。
 

本記事では、恒大集団の破産申請が中国バブル崩壊につながるのか、日本や世界経済への影響はどうなるのか、投資家の視点として考察していきたいと思います。

中国不動産バブル崩壊!?大手デベロッパー企業の債務超過とデフォルト

デベロッパーとは土地を開発する企業のことを指し、恒大集団はマンションを建設して販売する事業を展開しています。ちなみに中国の土地は国有、または農民が集団保有しており、土地を所有することはできません。あくまでも購入できるのは「建物」と「土地の使用権」だけなのです。
 

今回、恒大集団が米国で破産法第15条の適用を申請した理由は、借金が貯金よりも多い債務超過に陥ったことにあります。
 

また8月6日には恒大集団だけでなく、中国不動産大手の碧桂園(へきけいえん)が借金の返済が滞るデフォルト(債務不履行)に陥りそうでしたが、今回は土壇場で回避しました。債務不履行とは、債務者が債務の支払いを履行せず、契約や法的な合意に違反する状況を指します。債務不履行は、借金を返済しない、契約で定められた義務を果たさない、または法的な債務に対する支払いを怠るなど、多くの異なる形態で現れることがあります。
 

しかし、中国を代表する大手ディベロッパーが同時多発的に厳しい状況であることで、中国の不動産バブルが崩壊の兆し、もしくは崩壊がはじまっていると考える見方が強まっています。
 

これは日本では1990年代に起きた不動産バブル崩壊を連想させ、中国経済に対してネガティブと判断する投資家や企業が増加しているはずです。
ちなみに日本の場合、不動産バブルの崩壊によって日本経済は低迷し「失われた30年」と呼ばれる発端となりました。
 

では、中国経済は今後どうなるのか、そこに世界中の注目が集まっており、だからこそ恒大集団の破産申請には大きな衝撃が走ったのです。

そもそも恒大集団とはどんなビジネス構造なのか

1996年に恒大集団はCEO許家印によって設立されました。
現在のような大手ディベロッパーに成長させたのは恒大集団の特徴である「超拡大戦略(ハイレバレッジ戦略)」にありました。
 

前述したように土地は国有であるものの、1978年12月から1989年11月まで、中国の最高指導者であった鄧小平氏(1904-1997)の改革開放によって、共産主義国でありながら、資本主義経済を導入することになります。
 

これにより、土地は所有できないものの「使用権の売買」が可能となり、ここから土地の使用権を担保にお金を借りることができる構造が生まれていきます。
 

つまり、土地使用権を担保にお金を借り、そのお金で新たに土地使用権を購入することが可能となります。これは土地使用権が上がり続ける限り、経済が膨らむことを意味します。
 

さらに、恒大集団など大手ディベロッパーは土地の上にマンションを建設しますが、完成するまでには長い年月がかかります。
 

実は、ここに中国ならではの不動産売買事情が絡んできます。
 

中国ではマンション建設前に購入すると、販売価格を割引する「青田売り※」という手法によって、完成前に資金調達することができました。

※中国政府は、買い手の不信感を軽減するために、不動産デベロッパーの資金に対する制約を設けています。青田売りから得た資金が将来の開発プロジェクトに転用されないように、デベロッパーの資金フローを厳密に監視し、資金の不正流用を禁じました。

これが恒大集団の「超拡大戦略」ですが、このハイリスクな方法を容認していたのが、中国の地方政府です。なぜなら土地の値段が上がり続ける限り、地方政府も儲かるため、恒大集団などの大手ディベロッパーの開発は企業と地方政府の双方にメリットがあったのです。
 

こうして、恒大集団は実態がほとんどないまま急拡大していき、多角化経営に乗り出します。
 

具体的には、サッカーチームの買収、EV事業、メディア事業、ミネラルウォーター事業などを展開するコングロマリット企業に拡大していったのです。
 

こうした事業のベースにはハイリスクな戦略があり、2000年代以降の中国経済の急成長と共にするように恒大集団は成長していきました。

2017年に中国政府が規制をはじめた

2017年になると、中国政府は不動産バブルが発生しないように規制する「デレバレッジ政策」を個人向けにはじめます。つまり、この時期まで恒大集団などの企業だけでなく、政府や個人も借金をもとに新たに投資をするハイリスクな戦略をすることが可能だった、ということです。
この個人向けの「デレバレッジ政策」は、個人が購入できる家の個数に制限をかけたものですが、これにより不動産熱が冷めることはなく、限られた個数であることが人気に拍車をかけてしまいます。
 

こうした流れのなかで、恒大集団は政府の規制を甘くみていたと考えられます。
 

なぜなら「超拡大戦略」をやめることがなかったからです。

転機となったのは3つのレッドラインと総量規制

2020年になると、中国の「Tier-1」エリアに該当する大都市の不動産価格が軒並み高騰します。中国の「Tier-1」エリアとは、中国の都市分類システムにおいて最高ランクに位置づけられている都市圏を指します。このシステムは、中国の都市を経済的な発展度や市場規模に基づいて階層化し、都市を「Tier-1」、「Tier-2」、「Tier-3」、「Tier-4」などのカテゴリーに分けるために使用されます。Tier-1エリアは、経済的に最も発展し、人口が多く、市場が大規模である都市圏を表します
 

これは習近平政権が掲げる「共同富裕」という、みんなが豊かになろうとする方針から外れ、不動産がギャンブルと同じような投機目的になっている現状に、中国政府は危機感を募らせます。
 

こうした背景があり、2020年8月に中国政府は「3つのレッドライン(三条紅線)」と呼ばれる財務指針をディベロッパー向けに打ち出します。
 

この「3つのレッドライン」の内訳は下記の通りです。
 

①総資産に対する負債比率が70%を上回らないこと
②自己資本に対する負債比率が100%を上回らないこと
③短期負債を上回る現金を保有していること
 

また、2021年1月から銀行側にも住宅ローンや不動産企業に対する融資について、借りられるお金の総額上限である「総量規制」を設けました。
 

ちなみに日本のバブル崩壊は総量規制がきっかけといわれており、中国政府と大蔵省(現財務省)が行った規制は同じです。
 

こうして、2021年に恒大集団が債務超過に陥ったのです。
 

この出来事が恒大集団だけで済むのか、それとも中国バブル崩壊のきっかけとなり、中国版リーマンショックの引き金となるのか、さまざまな憶測があるなかで、2023年8月に恒大集団は米国で破産申請をしたのです。
 

これにより、事態は全く解決していないことが明るみとなり、これまで中国に広がっていた土地神話が崩壊しようとするなかで、世界経済にどのような影響を与えるのか、これが今後の注目ポイントとなっています。

米国のリーマンショックのようにはならない理由

恒大ショックとも呼ばれる今回の出来事は、米国のリーマンショックのようにはならないはずです。
 

そもそもリーマンショックとは、2008年、米国の投資銀行大手だったリーマン・ブラザーズが負債総額6000億ドルを超える規模で倒産し、これがきっかけとなって世界的な金融危機が発生した出来事です。この危機は、2001年以降に米国政府が高金利住宅ローンである「サブプライムローン」の融資基準を緩和し、これに関連する証券商品が多数発行され、投資家の間で活発に取引がされたことが始まりでした。
 

しかし、2007年以降、サブプライムローンの借り手が返済を滞らせるようになり、金融機関などが次々に損失を出す問題が表面化したのです。
 

米国のリーマンショックの場合は、海外の投資家の資金も入っており、国際的にお金を集めていたリーマン・ブラザーズが崩壊したことで、世界経済に大きな影響を与えました。
 

ここに恒大集団との大きな違いがあります。
 

なぜなら恒大集団の場合、投資をするのは国内の中国人だからです。
 

つまり、現在の中国経済はあくまでも国内向けのドメスティックな経済危機に向き合っていると考えることができます。

世界経済への影響

かつて、オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターの格言で「倒産のない資本主義は地獄のないキリスト教のようなものだ」というものがありますが、資本主義の原動力が創造的破壊である限り「倒産は回復にとって必要不可欠である」と説きました。
 

しかし、中国の習近平政権の場合、「積極的に助けない」ことを明らかにしており、不動産業界全体を調整しようとする意図がはっきりしています。
 

なぜなら、公的資金を投入すると、中国政府が救済してくれることでモラルハザード※につながり、第2、第3の恒大集団を生むリスクをはらんでいます。

※モラルハザードとは、特定の行動によって個人や組織がリスクを取る際に、その行動が他の人や組織に負担をかける可能性がある状況を指します。

それから、恒大集団の不良債権処理をして根本から経営再建をした場合、債権者である取引先などに広範な悪影響を与えてしまい、連鎖的に企業が倒産するリスクがあります。
 

また、社会不安につながることは共産党支配が揺らぐ可能性が高まることを意味します。
 

ここに中国政府のジレンマがあるといえるでしょう。
 

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【ビスカス公式YouTubeチャンネル】中国不動産市場の不況で、日本経済にも影響?!

まとめ

いずれにせよ、中国経済が今後停滞局面を迎える可能性が高いことと、中国そのものにカントリーリスクがあることことから、世界中の投資家は中国への投資に対して、積極的になりにくい状況があります。
その反面、グローバル・サウスと呼ばれるインドやベトナムなど、今後の経済成長が期待できる国や地域に対する投資がさらに注目されることが予想されます。

鈴木林太郎
金融ライター、個人投資家。資産運用とアーティスト作品の収集がライフワーク。どちらも長期投資を前提に、成長していく過程を眺めるのがモットー。Webメディアを中心に米国株にまつわる記事の執筆多数。