リーマン・ショックから15年!金融システムはどのような変化を遂げたか | MONEYIZM
 

リーマン・ショックから15年!金融システムはどのような変化を遂げたか

アメリカのサブプライム問題に端を発し、世界各国の経済に深刻なダメージを与えたリーマン・ショックから15年が経ちました。今回は、過去の教訓を生かし各国の金融システムがどのような変化を遂げたのか?今後、同様の金融危機が起こった際、日本経済にどのような影響を与えるか?などについて解説します。
 

※記事の内容は2023年9月末時点の情報を元に作成したものであり、現在の内容と異なる場合があります。

世界の金融システムを危機に陥れたリーマン・ショック

「リーマン・ショック」とは何か?

「リーマン・ショック」とは、2008年アメリカの投資銀行である「リーマン・ブラザーズ」の破綻をきっかけに起こった世界規模の金融危機のことです。当時のアメリカといえば、FRB(連邦準備銀行)による金融緩和、低金利政策によって不動産投資が過熱している時期です。低金利と金融機関からの融資の出やすさから、住宅取得を検討している方が競って不動産を取得する不動産バブルが起こります。回収不能のリスクが高い低所得者層や支払遅延など信用力の低い借り手に対しても「サブプライムローン」という形で融資が積極的に行われます。しかし「サブプライムローン」は一定期間を経過すると市場金利が適用され返済額が増加する仕組みになっており、返済に窮する債権者が次々と住宅を売却したことで、住宅価格が下落し不動産バブルが崩壊します。
 

このバブルの崩壊で大きなダメージを受けたのが、多額のサブプライムローン債権を抱えていた「リーマン・ブラザーズ」です。不動産バブル崩壊により債権の不履行(デフォルト)が大量に発生し、政府の支援を受けることもできずに64兆円ともいわれる債務を抱えて「リーマン・ブラザーズ」は破綻します。

原因となったのは金融システムの脆弱性

破綻した際の債務額の大きさも問題ですが、なぜアメリカの投資銀行1社の破綻が世界を巻き込む金融危機にまで発展したのでしょうか。原因として挙げられるのは「リーマン・ブラザーズ」が販売したサブプライム債権を含んだ金融商品です。投資家に対して高金利で貸倒リスクの高いサブプライムでの運用のまま販売し、また投資会社の格付を行う企業も不当に高い評価を付けたため、リスクを知らずに多くの投資家がこの金融商品を購入します。しかし、不動産バブルの崩壊に伴いサブプライムローン問題が表面化し、自身が購入した金融商品にも貸倒リスクの高いサブプライム債権が含まれていることを知った投資家が一斉に商品を売却するという事態になります。この騒動に連動して株式市場は暴落し、その影響はアメリカ国内だけにとどまらず、全世界の株式市場に波及していったのが「リーマン・ショック」の概要です。
 

これら一連の金融危機を引き起こしたのは、金融システムの脆弱性が大きな原因であるといわれています。貸倒リスクが高い低所得者層や信用力の低い借り手に対して行う「サブプライムローン」の貸付を際限なく行ったことが事の始まりです。また、サブプライム債権を含んだ金融商品を低リスクであると称して販売したこと、投資会社を不当に高く格付けしたことなどから、銀行を含めた金融市場全体に対する不信感が一気に高まることになります。

リーマン・ショック後の金融システムの変化

世界の債務残高は増え続けている

「リーマン・ショック」から15年が経過した現在、世界の金融市場はどのように変化しているのかをみてみましょう。「リーマン・ショック」を経験したアメリカでは、銀行の破綻リスクを減らすために自己資本強化を促す新たな規制を実施しています。2010年に「ドッド=フランク法」を制定し、万が一の金融危機に備えて銀行自身の自己資本比率を引き上げることを要求し、金融安定監視委員会を設置しFRBによる金融監視体制を強化しています。
「リーマン・ショック」により金融機関が失った顧客に対する信用を取り戻すために、安全な金融機関、強い金融機関をアピールすることが狙いです。アメリカ以外の各国も金融危機を教訓に、銀行に対する監視体制の強化や流動性資産の保有比率を高めるなどの規制を設けています。なお、日本でも預金者保護の観点から2013年に「預金保険法」が改正され、万が一金融機関が破綻した場合でも、元本1,000万円までの預金が保護される制度になっています。

多額の債務残高がもたらす新たな金融破綻の可能性

様々な金融規制の強化により、銀行の破綻という金融危機のリスクは低くなったように見えます。しかし、いくら銀行の体力を向上させても、その体力を超えるデフォルト(債務不履行)が起きればリーマンと同様の金融危機が起こる可能性があります。実際に、金融危機を引き起こす可能性がある驚くべきデータがあります。世界的な金融サービスの業界団体である「国際金融協会」が発表した資料によると、世界経済全体が抱える債務残高は「リーマン・ショック」後も増加し続けているとのことです。
 

「リーマン・ショック」当時の住宅用不動産投資から、現在は企業及び商用不動産投資にシフトしているようですが、その総額は「リーマン・ショック」直前である2007年の約150兆円から約300兆円と倍増しているとの結果が出ています。規制強化で金融機関の財務体質は改善されたものの、金融危機の後も運用益を求めて市場に資金が流出し続けたことで、「リーマン・ショック」を超えるデフォルト(債務不履行)が発生する可能性があります。

世界的な金融危機が日本に及ぼす影響とは?

「対岸の火事」ではない世界の金融危機

今後また世界規模で金融危機が発生したとき、日本経済に与えるダメージはどれくらいあるのでしょうか。「リーマン・ショック」で日本経済が受けた飛び火を例に挙げながら解説します。「リーマン・ショック」当時、不動産バブルの崩壊を一度経験している日本において不動産投資市場は低調であり、サブプライムに投資することもなく金融危機の影響がないように思われていました。しかし、金融市場の原理として、投資資金は「より安定した市場」「より利益を生む市場」に流れる傾向にあります。アメリカの金融危機により市場から逃れた資金は、リスクの低い安定した日本の金融市場に一気に流れてきます。

輸出大国の日本がダメージを受ける可能性も

世界中の金融市場から資金が日本に流れ日本円が急激に買われた結果、外国為替市場は円高に推移していきます。仮に1ドル=120円だった為替レートが1ドル=100円に推移したとしましょう。従来1ドルで販売していた同一商品の販売価額が、為替レートが円高に推移しただけで120円から100円に下落することになります。事実「リーマン・ショック」が発生した2008年からの3年間で、米ドル為替レートは1ドル=103円から1ドル=80円まで円高に推移しています。不動産投資のデフォルト1(債務不履行)という直接的なリスクではなく、その後に起こった資金の流入により日本経済はダメージを受けたわけです。世界と比較して投資リスクが少ないといわれる日本の金融市場ですので、もし仮にリーマン級の金融危機が発生した場合、同様の事態が起こる可能性は高いといえます。

まとめ

不動産投資を含め、投資市場の資金は収益性や安定性を求めて常に世界中を流動しています。今後「リーマン・ショック」クラスのデフォルト(債務不履行)が起こった場合、同様の経済危機が起こる可能性があることを覚えておきましょう。

奥谷佳子
Webライター/ライター フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。 自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。 取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。