個人賠償責任保険、日常のうっかり事故にどこまで使えるの? | MONEYIZM
 

個人賠償責任保険、日常のうっかり事故にどこまで使えるの?

日常生活の中で、ついうっかりして他人にケガをさせてしまったり誰かの物を壊してしまったり、というのは普通にあり得ることではないでしょうか。
この記事では、過失により損害を与えた相手から賠償を求められた場合、どのようなケースでどこまで責任を負うべきか、補償してくれる賠償責任保険はあるのか、等について解説します。

故意でなくてもダメ!損害賠償責任は法律上の義務

私たちの社会においては、ちょっとした被害であれば悪気はなかったとして被害者側を大目に見てくれることがあります。しかし、法律上はどのような形であっても相手側に損害が発生したら、加害者に賠償責任が発生するのです。

うっかり事故は「不法行為」として責任を負う

民法709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した」不法行為者は「これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。
当事者同士が契約関係にあれば「債務不履行(同415条)」責任を負わせられますが、交通事故のように何の関わりもない他人の行為が原因で損害を被ったときにも被害者保護が必要なため、この条文があるのです。
 

故意(わざと)でも過失(うっかり)であっても、被害者側の損害はいずれにしても発生するため、その救済が必要なことに変わりありません。ただし故意の場合は民事責任に加え刑事責任も問われますが、過失であれば、過失傷害(刑法209~211条)など一部の例外を除き、問われるのは民事責任のみです。
ちなみに過失とは「予見可能性があることを前提に、回避可能性があったかどうか」で判断されます。そもそも当事者にとって予測しえない状況で起きた事故であれば、加害者側に過失はなく不法行為責任を免れることになります。東京電力福島第1原子力発電所事故を巡る一連の訴訟では、国に津波被害の予見可能性があったかどうかが大きな争点となりました。

事例別、誰がどこまで責任を負う?

不法行為の代表例としては交通事故が挙げられます。しかし交通事故の損害賠償については強制加入の自賠責保険や任意保険があるので、責任範囲(過失割合)を含め当事者よりもそれぞれの保険会社が交渉する場合が多いでしょう。
では、普段の生活で起こりそうな、或いは新聞記事で見かけそうな以下の事例では、損害賠償責任はどうなるでしょうか。

・子どもがうっかり店の陳列品を落として壊した

親子で来店したにもかかわらず、親が子に注意することなく店内を自由に走らせていた結果招いた事故であれば、親が賠償責任を負い、弁償することになります。
とはいえ、子どもがある程度大きければ(一般的には12歳あたりがボーダーです)やってよいことと悪いことの区別はつくので、例えば上記の子が中学生であれば、子ども自身に賠償責任が生じることになります。
ただし子どもは一般的に賠償能力がないため、店側は親の不法行為責任(監督義務違反)による損害賠償を求める可能性があります。親の賠償責任(監督義務違反)の有無は、事故または事件の重大さや当時の状況などで判断されます。

・愛犬と散歩中、うっかりリードが離れ、犬が人に飛びついて怪我をさせた

たとえ犬が相手を襲うつもりがなく、じゃれて飛びついただけであっても、相手が驚いて倒れ、怪我をしたのであれば飼い主が当然に賠償責任を負います。
しかし、新しい丈夫なリードに変えたばかりで飼い主は手を放していないのにリードが突然ちぎれた(しかも小型犬だった)、といったケースであれば、飼い主の注意と管理に落度はなく、責任を負わないとされることもあります(以上民法718条)。

・経営している店の看板が落ちて通行人が怪我をした

ビルの一角を借りている店の経営者が設置した看板であれば経営者が賠償責任を負います。しかし、もし経営者が看板につき落下しないよう十分に注意管理していたことが認められれば、ビルの所有者が責任を負うことになります(以上民法717条)。所有者自身は無過失であっても責任を負うという厳しさですが、看板の設置にミスがあることを証明できれば、所有者から看板の設置業者に求償することが可能です。

個人賠償責任保険は、損害補償にどこまで使える?

賠償すべき損害額は時として高額になることがあります。ちまたで目にする「個人賠償責任保険」はどのような賠償を、どこまで補償してくれるのでしょうか。

故意による損害には使えないのが原則

個人賠償責任保険(以下「保険」)は、不法行為のうち「過失」による損害を補償する者であることが大前提となります。
過失は、いわば突発的なものです。確かに加害者に責任はあるものの、本人に全ての非を負わせることは少々酷ですし、支払能力の問題も出てきます。そこで、保険で補填することで加害者、被害者双方の救済を図るのです。
一方故意で与えた損害は、加害者が全ての責任を負うべきです。倫理的な面もありますが、仮に故意まで保険で補償できたら保険業界はとても成り立ちませんし、犯罪を誘引する恐れがあるとして非難されるでしょう。
過日ネットを騒がせた「回転寿司店の醤油ボトル舐め事件」における迷惑行為も、明らかに故意によるものですから、仮に保険に入っていたとしても適用されることはまずないでしょう。

保険で賄える損害、賄えない損害

そもそも保険は、被保険者(必ずしも加入者と一致しません)が、過失により相手に負わせた損害の賠償を補償することを前提としています。
「一般社団日本損害保険協会」では「個人賠償責任保険」を「個人の「住宅の管理」または「日常生活」に起因して、国内外(国内限定もあり)で発生した「法律上の損害賠償責任」を負担することによって被る損害を補償する」ものと定義づけています。
しかし、実際には「被保険者」には「生計を共にする同居の親族」も含まれるため、保険で賄える損害賠償責任の範囲はある程度広くなっています。
 

本人が直接損害を与えたケースに加え、前章で紹介した事例
 

  • 子どもがうっかり店の物を壊した
  • 飼い犬が他人にケガをさせた

 

についても補償されます。
 

なお、看板落下の事例については「日常生活」に起因するとは言えないので補償の対象にはなりません。自宅ベランダの鉢植えが落ちて通行人がケガをしたのであれば、「日常生活」といえますが。
 

また、相手への損害賠償金以外にも、訴訟になった場合の弁護士費用まで補償する内容の保険もあります。
 

一方、残念ながら保険では賄えない費用もあります。例えば以下のような場合です。

・免責金額内の損害

一定の免責金額以下の損害であれば自己負担となり、一定額以上では免責金額を差し引いた額が支払われることになります。
もっとも、モラルハザードを回避することが主な目的なので、車両保険など契約者自身の損害に対して設定されることが多くなっています。
 

・精神的損害の賠償金

名誉毀損やプライバシーの侵害を原因として相手に与えた精神的損害への賠償金は、保険で賄うことはできません。補償の対象はあくまでも他人の「身体」または「財物」に対して与えた損害に限られるからです。

・同居の親族に対し与えた損害

自宅前で車をバックさせる際に、同居の親が下車していたことに気づかずうっかり車をぶつけてケガをさせてしまったというようなケースです。

個人賠償責任保険の加入方法は?

個人賠償責任保険は、単独で契約できる商品を用意している保険会社もありますが、どちらかというと、以下に挙げるような一般的に加入者が多い既存の保険の特約(オプション)として展開されていることが多いようです。

・火災保険

集合住宅における水漏れ事故に加え、賃貸物件であれば借家人賠償保険として、賃借人が自己の費用で修繕をした際に補償を受けられる修理費用保険が特約で付けられる

・自動車保険

通常の自動車事故に加え、ファミリーバイクや自転車で起こした事故への補償、その他日常生活時のトラブルで生じた賠償責任まで補える特約もある

・旅行保険

旅行時に事故や盗難で遭った被害だけでなく、旅行先で自身が起こした損害による賠償の補償もオプションとして付けられる
 

紹介した中では、自動車保険の特約がこの記事で定義した「個人賠償責任保険」に大変近い内容だといえます。

まとめ

個人賠償責任保険は、日常生活で起きた賠償責任を補償してくれるものとして、万一の時に役立つものです。一から新たに検討しなくても、すでに加入している保険をチェックして必要と思うものだけ追加してみる方法でよいでしょう。ただし車を持っていない方は単独の個人賠償責任保険を考えてもいいかもしれません。

橋本玲子
行政書士事務所経営。宅地建物取引士、知的財産管理技能士2級取得。遺言執行や成年後見などを行う一般社団法人の理事も務めている。