今回のイスラエルとパレスチナの紛争はガソリン代に影響を与えるか? | MONEYIZM
 

今回のイスラエルとパレスチナの紛争はガソリン代に影響を与えるか?

ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、2023年10月のハマスからの攻撃をきっかけに、イスラエルがパレスチナ・ガザに激しい攻撃を行うという新たな紛争が起こっています。
今回の紛争は、原油やガソリン代の更なる高騰を生むことになるのでしょうか。
 

※記事の内容は2023年11月10日時点の情報を元に作成したものであり、現在の内容と異なる場合があります。

パレスチナとイスラエルの紛争の歴史

パレスチナとイスラエルはこれまでもしばしば紛争状態になっていることはご存じの方も多いでしょう。しかし争いの主因は宗教問題であることは当然にせよ、現在の紛争に至る理由には、欧米が深く関わっているのです。
まず紛争の歴史を簡単にさらっておきましょう。

聖地エルサレムを巡る2000年間の争い

イスラエル国家が首都とするエルサレムには現在、ユダヤ教(嘆きの壁)、キリスト教(聖墳墓教会)、そしてイスラム教(岩のドーム)の3つの宗教の聖地があります。それぞれの聖地の成り立ちの時期は前後するものの、宗教において聖地は特別な意味を持った、信者の拠り所となる大切な場所です。
 

ユダヤ人は紀元2世紀にローマ帝国によりエルサレムから追放され、主にヨーロッパに離散しました。その後7世紀のイスラム支配、11世紀の十字軍によるキリスト教支配を経て、16世紀になり聖地を含むパレスチナと呼ばれる地域を支配したオスマントルコにより、エルサレムは3つの宗教に開かれた場所となったのです。
 

以後パレスチナにはアラブ人が住んでいましたが、19世紀になると、エルサレムでのユダヤ人国家建立を目指して多くのユダヤ人が入植をはじめました。
アラブ人とユダヤ人の対立が深まったのは第一次世界大戦後、パレスチナが英国の委任統治領となったからです。大戦中英国は、戦争を有利に進めるためユダヤ人団体にもアラブ人にも国家建設を約束し、結果委任統治領となったパレスチナにさらにユダヤ人が流入するようになりました。当時のナチス・ドイツを筆頭とするヨーロッパにおけるユダヤ人への迫害も流入の大きな要因となっています。
本来自分たちの土地だったとするユダヤ人と、長くパレスチナに住み続けていたアラブ人は当然敵対する関係となりました。

イスラエル建国から絶え間なく続く紛争

第二次世界大戦が終わると、ユダヤ人へのホロコーストの負い目があった欧米諸国は、国連総会でパレスチナをアラブ人とユダヤ人で分割し、それぞれの別の国家を作る、聖地エルサレムはそれとは別に独立した都市とするという決議を可決しました。
しかし当然ながらアラブ側が決議を拒否したまま、英国は問題の解決を試みることなく1948年パレスチナから撤退。ユダヤ側は速攻でイスラエルの建国宣言をしました。周辺のアラブ諸国はこれに対しイスラエルを攻撃。現在まで絶え間なく続く中東戦争の始まりです。
 

イスラエルは中東戦争により占領地域を拡大し、結果大量のパレスチナ難民問題が発生することになりました。
現在、パレスチナ難民はヨルダン川西岸地域と、ガザ地区のみに住み、他は全てイスラエルの領土となっています。イスラエルはヨルダン川西岸地域でも入植を続け、ガザ地区の海岸線、境界線、上空を支配し、当地区を「天井のない監獄」状態に置いています。

今回の紛争でガソリン代の値上げはない?

アラブ地域の政情不安は、原油価格の上昇に繋がるのではという不安があります。今回の紛争もまた原油価格に影響を及ぼすかについて情報を追ってみました。
なお、戦況は流動的であり、以下の情報はあくまでも識者等の意見をまとめた予測となっていることをご了承ください。

原油価格への影響は少ないという意見も

かつて、1990年8月の湾岸戦争勃発により原油価格が一時的に2倍まで急騰したことがあります。
しかし、それ以外の原油価格上昇は、例えばアメリカのITバブルからの金融緩和の影響など、どちらかといえば世界経済の動きに連動していることが多い印象です。
もちろん2011年の「アラブの春」の影響を受けリビアの原油生産量が減少したように、政情が原油生産量を左右することはありえます。しかし今回のパレスチナとイスラエルの争いは今のところパレスチナ地域のみで発生しており、近辺の原油産出国である多くのアラブ諸国を巻き込んで今後拡大するとまでは予測されていないようです。したがって原油価格への影響は限定的であるという見方が多数です。
 

また、今回の紛争により、イスラエルとサウジアラビアの国交正常化に向けた交渉が中断されたため、サウジアラビアが原油産出量を調整するのではという意見が出ています。確かにサウジアラビアを始めとするアラブ諸国はパレスチナの支持を表明していますが、だからといって今回イスラエルに攻撃を仕掛けたイスラム組織ハマスの支持をしているという訳ではなく、欧米とのバランスを取りつつパレスチナ人を擁護する立場を取っています。そのため産出量調整に至るとまでは考えられず、影響もあまりないのではとする意見が主流です。
 

さらに、イスラエル支持を表明しているアメリカが、イランがハマスに協力した場合に制裁を強化し、それに対しイランが強硬手段に出た結果、原油価格に影響が出るのではという意見が見られます。
この可能性は現在のところそれほど高くないようですが、今回の紛争が長期化するほど懸念材料にはなってくるため、注視しておいた方が良さそうです。

ガソリン価格を下げるための補助金はいつまで?

原油価格上昇は私たちの生活に直接影響を与えます。石油はプラスチックなどの製品原料、火力発電の燃料、自動車などのガソリンとして広く使われており、価格上昇は直接的にも間接的にも様々なものの値上げに関わってくるからです。
 

既に日本におけるガソリン価格は高騰しています。コロナ禍から脱却しつつある現在、原油の需要が供給に比べて高いことに加え、止まらない円安が価格高騰の要因となっています。
政府は既に2022年1月から、石油元売会社へ補助金の支給を行っており、ガソリンの実売価格は2023年11月現在レギュラー1ℓ173円強となっていますが(下図参照)、もし補助金がなければ200円ほどになってしまうのではともいわれています。

引用:「石油製品価格調査」調査時期2023年11月6日 |経済産業省資源エネルギー庁庁
 

本補助金は2023年末までの延長が決定していますが、政府予算を多くつぎ込んでいることもあり、来年からどうなるのかが懸念されています。
 

ガソリン価格が安値で落ち着いていた頃にはあまり表だっていなかった「そもそもガソリンの二重課税を何とかすべきでは?」という不満も再燃しそうです。
1ℓのガソリンにかかる税金は、ガソリン税が53.8円(上乗せ部分25.1円含む)、石油石炭税と温暖化対策税で2.8円の計56.6円です。これに加えて消費者は消費税も支払っているのです。
政府がせめてトリガー条項(ガソリン価格の高騰時にガソリン税上乗せ部分の課税を停止するというもの)を発動すれば価格的に補助金より効果が出るかもしれませんが、現在のところ発動は見送られたままです。

ガソリン代以外に考えられる日本経済への影響は?

今回のパレスチナ問題がもしガソリン代の更なる高騰を引き起こさなくても、日本経済への影響は他にも考えられます。
まず、円安が更に長期化するリスクです。
国際社会の情勢が不安定だと、世界の金融市場で「有事に強い」ドルを買う動きが高まり、ドルが独歩高となります。それに加えアメリカが政策金利を5.25〜5.50%に据え置く決定をしたのに対し、日本の政策金利は現状のマイナス金利を維持する決定を出しており、この金利の差も為替が円安方向に振れる要因となっています。
 

次に、世界の物流が停滞するリスクが考えられます。
現在の紛争がもし長期化すれば、世界物流の要衝であるスエズ運河の船の運行に影響を及ぼす可能性があります。船の航行が妨げられることがあれば、物流が滞り、様々な商品が値上げするかもしれません
 
今回の紛争とは無関係ですが、実はパナマ運河が既に干ばつによる水不足で来年以降航行制限をかけることを決定しています。今後は物流手段確保のための対策も必要となってくるでしょう。

まとめ

今回のパレスチナ問題による原油価格への影響は少ないとする見方が大勢のようですが、情勢が今後どうなるかの確実な答えは誰も持っていません。世界経済の安定はもちろん、何より人道的な面で、紛争の一刻も早い解決が待たれます。