日本の名目GDPが世界4位に転落、55年ぶりにドイツに抜かれる | MONEYIZM
 

日本の名目GDPが世界4位に転落、55年ぶりにドイツに抜かれる

2023年の日本の名目国内総生産(GDP)は前年比0.2%減の4兆2308億ドルとなり、日本はGDP規模でドイツに抜かれ、世界3位から4位に後退する見通しとなりました。
そこで今回は低迷する日本経済と躍動するドイツ経済を考察し、今後の日本経済の見通しについて解説します。
 

※記事の内容は2023年11月13日時点の情報を元に作成したものであり、現在の内容と異なる場合があります。

日本の名目GDPの変動に関する背景情報

日本経済は長年、低迷を続けている

そもそもGDP(国内総生産)とは、国内で作られたモノやサービスの付加価値を表します。名目GDPは、それらの生産数量に市場価格をかけて得られる総額を合計することで算出されます。一方、実質GDPはこの総額から物価の変動による影響を取り除いたものです。例えば、生産された財の価格が一気に2倍になったとき、名目GDPは単純に2倍になりますが、経済の実際の規模が2倍になったわけではありません。そこで、物価変動の影響を考慮しない実質GDPが、経済の実態を正確に反映する指標とされています。
 

近年、日本の実質GDP成長率は他の先進国に比べて低調でした。実際、2022年度の日本の実質GDP成長率は1.05%であり、これは世界167位です。
この低成長の背景には、低い労働生産性と事業投資額の動向が挙げられます。特に、低賃金の非正規雇用が広く利用されており、労働生産性向上に向けた意欲が高まらない状況が指摘されています。
また、中小企業が全勤労者の7割を雇用しており、これらの企業の多くは投資の原資に限りがあるため、結果的に日本全体の事業投資額が活発化していません。
さらに、日本の人口減少は加速しており、出生率も2022年の79.9万人から2059年には50万人を割り込むとの見通しもあり、今後、さらに少子高齢化が加速することが予想<されます。
こうした状況下で日本経済を維持していくためには、労働生産性と付加価値を引き上げることが必須条件になるといわれています。
そもそも、日本のGDP成長率(2018〜2021年)は米国の半分以下であり、ドイツと比較しても低い成長率が続いています。また1人当たりの名目GDPの国別ランキング(2022年)では、米国7位、ドイツ20位であるのに対して、日本は32位であり、ドイツに名目GDPが抜かれても不思議ではない状況でした。

円安と日本経済への影響

円安は日本経済にプラス材料と言えるでしょう。実際、日本企業の4-9月期の決算発表を受けて、業績の上方修正が相次いでいます。また原材料高や物流コストなどの上昇が落ち着きつつあり、現在のような円安局面では業績が拡大していく見通しです。
またコロナ禍の収束と同時にデフレからの脱却が進んでおり、4〜6月期の需要と供給のギャップが2019年7-9月期以来、実に15四半期ぶりにプラスとなり、デフレを示す指標がプラスになりました。
日本経済が長年デフレに苦しんでいたことを考えれば、デフレの終焉とコロナ禍の収束、そして現在の円安が重なったことは、日本経済にとって巡り合わせともいえる絶好のタイミングではないでしょうか。
 

そもそも、現在の円安の要因は米国と日本の金利差によるものです。
日本はゼロ金利政策を継続していますが、米国は生活費の高騰に対応するため、金利を積極的に引き上げた経緯があります。この場合、金利が高い国の通貨の方が投資家に人気となるため、米ドルが買われやすくなります。もちろん日本も金利を上げれば円安対策が可能となりますが、金利を引き上げると、国内景気が悪化します。なぜなら、金利が高くなれば企業や個人が資金を借りにくくなるので経済活動が抑制されてしまい、結果的に経済成長の鈍化へとつながります。
円安により生活必需品が高騰するよりも、不景気になる方が社会不安が大きくなります。
そのため、政府も日本銀行も金利を上げられないでいるのです。
さらに、日本経済の実力が相対的に落ちていることも円安の要因となっており、その現実を為替レートが突きつけているともいえるでしょう。

日本経済の低迷要因

失われた20年が30年といわれる日本経済の低迷要因は、複数の要素が重なっており、何かひとつの条件を決めること自体がナンセンスかもしれません。
とはいえ、ビジネス面ではインターネットの登場した1990年代、iPhoneが登場した2000年代、クラウドサービスが普及した2010年代において、日本企業は米国企業や台頭する中国企業に敗北したことが、日本経済の低迷の要因のひとつです。
いいかえれば、なぜ日本企業のなかからGAFAMなどのグローバル企業が台頭しなかったのでしょうか?そこには、日本特有の年功序列制度によって人材の流動化が起きなかったこと、また日本にはリスクを冒すイノベーターが生まれにくい環境があるなど、原因を探れば、複数の答えが出てきます。
また、日本が長らく低迷している間に、アジアの国々は高成長を続けており、相対的に日本経済の影響力は年々小さくなっています。
つまり、さまざまな要素が重なり、日本経済は停滞したといえるのではないでしょうか。

ドイツの経済成長とインフレ

ドイツといえば欧州を代表する工業大国です。歴史を振り返れば、世界初のテレビ放送をしたのもドイツであり、日本のトヨタ自動車のように、ドイツにはフォルクスワーゲンがあり、生真面目な国民性も日本とドイツは似ているといわれます。
とはいえ、2023年に限っていえばドイツ経済は0.4%縮小する見通しです。また長引くドイツのインフレ率は6.1%が想定されています。そして、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、EUはロシアに経済制裁をしており、ロシアからの化石燃料や天然ガスの輸入が制限されたことによるエネルギー価格の上昇もドイツのインフレに影響を与えています。
つまり、今年に限っていえば、ドイツが日本のGDPを抜いたのは為替による円安の影響が大きいといえるでしょう。とはいえ、ドイツの人口は日本の2/3程度であり、ドイツの方が圧倒的に1人当たりの生産性が高いといえます。またドイツ経済の中心であるベルリンは欧州有数のスタートアップ集積地として知られ、世界中のイノベーターや起業家を惹きつけています。
ドイツ国民からもベルリンは異色といわれるほど、多様な人種が住むグローバル都市であり、ドイツ経済の躍動を支えています。
最新の予測では、ドイツの経済成長率は2024年は1.3%、25年は1.05%と上昇基調にあり、日本よりも高い経済成長が続くことから、日本と比較した場合、ドイツ経済の未来は明るいといえるでしょう。

日本経済は再びGDP3位になるのか

おそらく、日本経済が再びGDP3位になる可能性は限りなく低く、今後、さらに日本のGDPランキングは下がるはずです。
たとえば、世界一の人口大国となったインドが2050年には世界第2位のGDP規模まで成長するといわれます。また日本に限らず、先進国の出生率は低下しており、人口と労働力が直結していることから、日本だけでなく、今後は先進国のGDPが縮小し、人口動態が若い新興国の台頭が予想されます。
そう考えれば、今後、日本のGDPランキングは確実に下がるため、むしろ日本の課題としては、いかに一人当たりGDPをあげることができるのか、急速に進む高齢化社会を解決するようなビジネスが生まれるのか、そういった日本ならではの社会問題の解決がビジネスで求められるのではないでしょうか。
また、日本経済を再生させる方法として、外国資本の力を借りて復活した事例があります。
 

北海道のニセコ町は外資を受け入れることで、世界的なスノーリゾート地へと変貌しています。
実際、ニセコ町にあるコンビニには、神戸牛やドンペリが置いてあるほどの活況さがあります。なぜニセコ町が外国人から人気になったのかというと、世界一ともいわれる降雪量とパウダースノーがあったことが要因です。
しかし、海外の視点がなければ、ニセコ町は過疎が進んだ町のままだったかもしれません。
これは日本経済にとって重要な示唆に満ちているのではないでしょうか。
日本人には当たり前で気づかない日本の豊かな自然、食のコンテンツ、独自の文化を活かすことで、日本全体がニセコ町のような活気に満ちた場所になるのかもしれません。

日本の名目GDPの転落と今後の経済の見通しについて総括

円安がどこまで続くのか、正確に予測することは難しいものの、円安によって日本の輸出産業が潤い、価格競争力が上昇することで売上が伸びていくことが予想されます。
そうなれば、為替レートが円高方向に振れやすくなりますが、現在の円安の状況下で日本企業が業績をしっかりと伸ばし、足元のビジネスを伸ばしていくことが重要ではないでしょうか。

まとめ

日本の名目GDPがドイツに抜かれ、経済の低迷が続くなか、円安による輸出産業の成長が期待されます。しかし、日本の課題である人口減少や経済の停滞はすぐに解決しない課題であり、新たなテクノロジーの力が必要になるでしょう。
そして、外資を活用したニセコ町のようなアプローチで豊かな自然や文化を活かし、新たな成長の可能性を模索することが求められているのではないでしょうか。
今後の日本経済は、円安と日本企業の業績が拡大することで、1人当たりのGDPを上げる必要があるといえるでしょう。

鈴木林太郎
金融ライター、個人投資家。資産運用とアーティスト作品の収集がライフワーク。どちらも長期投資を前提に、成長していく過程を眺めるのがモットー。Webメディアを中心に米国株にまつわる記事の執筆多数。