ホストクラブの売掛金は違法?合法?社会問題から学ぶ売掛金の仕組み | MONEYIZM
 

ホストクラブの売掛金は違法?合法?社会問題から学ぶ売掛金の仕組み

ここのところニュースなどで「ホストクラブの売掛金」問題がよく取り上げられています。
売掛自体はいわゆる「ツケ」として昔から行われていますが、そもそも売掛金とは何か、また税区分はどうなるのか、そしてホストクラブの売掛は法律上問題ないのかなどを以下に解説します。

そもそも「売掛金」とは何?

事業経営者や会社の経理担当者にとっては馴染みのある言葉ですが、「売掛」は法的には債権の一種です。まずは売掛(金)とは何か、また似たシステムとの違い等を理解しておきましょう。

売掛とは、取引代金を後でまとめて支払うこと

「売掛」とは、商品やサービス等(以下「商品等」)の売り手側と買い手側が、当事者間で交わした契約に基づき、買い手側が売り手側から提供された商品などの代金を後日まとめて支払うという取引上のシステムです。売掛払いともいいます。
そして「売掛金」は、特定の取引で発生した、後日受け取ることができる代金や、経理上の仕訳を表す際に使われる言葉です。
売り手側は買い手側に対し、提供済みの商品等代金を受け取る法的権利を有することになるため、売掛金は債権となるのです。
 

売掛払いは多くの取引で、以下の理由により頻繁に行われています。
 

・手持ち資金がない状態でも取引できる
取引時点で支払いができなくとも、買い手側に別取引での入金などで一定期間後確実に購入資金が入るのであれば、売掛払いにした方が買い手側は必要なときに購入できますし、売り手側も販売チャンスを逃さないですむという利点があります。
 

・処理が楽
事業取引でしょっちゅう商品等の売買を行う場合、その都度支払いが必要となると、支払う側も受け取る側もお金の引出や入金を毎回しないといけません。請求書や領収書の発行も頻繁だと手間になります。
月に一度まとめての支払いにしておけばこれらの手間が軽減できますし、経理上の処理も楽になります。
 

ただし、売り手側は売掛金未回収というリスクが常にあります。また、買い手側は売掛払いをしてもらうためには会社や事業の規模、内容などで取引先の信頼を得なければなりません。
とはいえ、メリットの方が大きいため、売掛は今でも取引の主流になっています。
 

売掛は今日専ら企業間取引で行われています。
かつては「ツケ」といい、消費者と、八百屋や酒屋など個人経営の店との間でも売掛はしばしば行われていましたが、現在都市部ではめっきり見られなくなりました。もっとも、個人経営のスナックなどでは今でも「ツケ払い」は残っているようです。

後払いと売掛払いはどう違う?

クレジットカード(クレカ)払いは、その場で現金支払いは行われず、月に一度前月利用した金額がまとめて口座から引き落とされる後払いシステムであり、一見売掛払いと同じように見えます。
しかし、売掛は当事者が売り手と買い手の二者しかいないところ、クレカ払いにおいては売り手と買い手に加え、カード会社も当事者となります。売り手はカード会社から代金の支払いをすぐに得られるため、買い手に対する売掛金は存在しません。消費者は、カード会社がいわば立替払いをした金額を支払うことになるのです。このように、クレカによる後払いは、売掛払いとは違うシステムです。

民法改正で売掛金の消滅時効が延長された!

消滅時効は、借金などの債務を、条件はあるものの一定の期間が経過したら返済を免れられる(債権者が履行請求権を失う)法律上の制度です。
かつて、債権の(短期)消滅時効期間は、債権の種類により違っていました。例えば医師の診療費債権は3年(民法旧170条)、弁護士費用債権は事件終了から2年(同旧172条)、そして飲食店の売掛金(ツケ)は1年(同旧174条)で請求権が消滅といった具合です。
しかし、細かく分けられ過ぎていて分かりにくいことや、1年やそこらで時効となるのは債権者に酷だということから、2020年の民法改正によりこれら短期消滅事項の時効期間は一律「債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年(同166条1項)」となりました。

売掛金の仕訳・税処理はどうなる?

売掛金は売上時に即売上金が発生するのではなく、後日入金予定の取引先への債権です。
そのため、貸借対照表での分類は「流動資産」となります。
 

売掛金の入金が月に一度まとめてであっても、経理上の処理は、正しく回収できないリスクを避けるため取引毎に行うことが大切です。
仕訳方法ですが、まず売掛金発生時は以下のようになります。取引額は10万円とします。

借方 貸方
売掛金 100,000円 売上 100,000円

 

売掛金という「資産(債権)」が増加するため、借方に記載し、対応する貸方は「売上」として同額を記載します。
そして入金があった時点で、以下のように借方に現金資産の増加分10万円を、貸方に消滅した売掛債権額を記載します。

借方 貸方
現金 100,000円 売掛金 100,000円

 

現金でなく振込で入金があった場合は、借方の「現金」を「普通預金」と書き替えます。
 

また、売掛払いを行う買い手側は、支払い完了時まで「買掛金」という債務が発生することになるため、購入時の仕訳は以下のようになります。

借方 貸方
仕入 100,000円 買掛金 100,000円

 

そして支払い完了時に下図の仕訳を行います。(現金支払いの場合)

借方 貸方
買掛金 100,000円 現金 100,000円

 

なお、売掛金(売掛債権)は消費税法上有価証券と同様の扱いとなるため、消費税の課税対象外となります。

ホストによる「売掛」の問題点は?違法ではないのか?

このように、売掛払い自体は取引において通常的に行われています。
ではホストによる売掛が違法なのでは、と問題になるのはなぜなのでしょうか。

売掛金が支払えない客が闇金や風俗を紹介される

個人間で売掛払いによる取引を行うことは禁じられていません。たとえ口頭であっても当事者間の合意さえあれば「ホストクラブの支払いを売掛払いにする」という契約は成立します。
しかし通常の取引であれば、売り手側は貸倒れを避けるため相手方の経営状況をある程度チェックするところ、ホストクラブではおよそ支払い能力のなさそうな若い女性を言葉巧みにホストにはまらせ、時には何百万円もの売掛(ツケ)を発生させています。
そして女性客がツケを支払えなくなると、返済させるために闇金や風俗を紹介するのです。あくまでも「こうして返済する方法があるよ」と提案する体を取っていますが、若い女性が大金を支払うにはその提案に頼らざるを得ない場合がほとんどであり、強要と変わらないのではないかという意見もあります。
一方、最近では店に対する売掛金をホストが立替払いするルールであるホストクラブが多く、ホスト側もツケを回収しないと死活問題なため、何が何でも客に支払わせようとより過激な風俗に誘導するようになります。
これがホストの売掛の大きな問題点なのです。

法律上、返済不要となるケースはあるが…

明らかに支払能力のない若い女性に何百万円もの売掛を行うホストの行為に法的問題はないのでしょうか。
法律上、ホストからの売掛金が返済不要となる可能性には以下のものがあります。
 

・強迫による取消し(民法96条)
 売掛までしたくないのに、ホストに脅されていやいや売掛を承知した場合は取消しができ、売掛契約は遡って最初からなかったことになります。
 
 
・借用書がない場合
 ホストへ売掛があったこと及びその額の証明ができないため、ホスト側が訴訟を起こしても支払いが認められない可能性があります。
 

・客が未成年である時の取消し
 未成年が行った法律行為は、親もしくは未成年後見人が取り消せます。(民法5条)
 

・消滅時効の成立
 
しかし現在、ほとんどのホストクラブでは強迫でなく、女性客のホストに対する好意を利用して売掛を持ちかけるようにしています。
また、借用書も、内訳のない金額だけのものがほとんどですが、一応作成しています。
さらに成人年齢が18歳に引き下げられ、消滅時効は前述のとおり5年と改正されたため、法により返済不要とされる案件は以前に比べ減少していると思われます。また、ホストクラブも20歳前後の女性をターゲットにしてきているようです。

「売掛禁止条例」は可能か?

ホストの売掛が重大問題になっているのに現存の法律で取り締まれないのであれば、望まれるのは新たな規制です。
実際、多数のホストクラブが並ぶ新宿区で売掛の禁止や罰則規定を盛り込んだ「売掛禁止条例」制定を求める声が上がっています。しかし、憲法が保障する経済活動の自由や、民法が規定する契約自由の原則に抵触することから条例化は難しいとする意見が大勢です。
立憲民主党が11月30日に「悪質ホストクラブ被害対策推進法案」を衆議院へ提出するなど国会でも問題になってきてはいますが、先行きは不明です。
現在は、ホストクラブ側と自治体が売掛の自主規制について協議を行っている段階のようです。

まとめ

ホストの売掛に関しては、たとえ現行法上違法とはいえなくとも、若い女性にツケを持ちかけ、高額なホスト代を請求する行為を公序良俗に反するとする声もあります。
また、規制だけでなく、若い女性がホストに「ハマって」しまう現代の社会構造も問題とされています。

橋本玲子
行政書士事務所経営。宅地建物取引士、知的財産管理技能士2級取得。遺言執行や成年後見などを行う一般社団法人の理事も務めている。
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