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インボイス制度で値下げ要求された免税事業者ができる対策は?

2023年10月からインボイス制度が開始されたため、免税事業者のままでいると、取引先から消費税分の値下げを要求される可能性があります。 

本記事では、インボイス制度導入後、取引先から消費税分の値下げ要求をされた際の対策について解説します。また、このようなことが起こる背景まで詳しく説明しているので、ぜひ参考にしてください。

インボイス制度で値下げ要求された場合の免税事業者ができる対策

インボイス制度の影響で取引先から値下げ要求された場合、免税事業者ができる対策は以下の2つです。
 

  • 一方的な値下げ要求は応じる必要なし
  • 関係性を悪化させたくない場合は交渉をする

 

取引先との良好な関係を維持しつつ、値下げ要求の対策ができるようになるので、それぞれ詳しく解説します。

一方的な値下げ要求は応じる必要なし

取引先から一方的な値下げ要求をされた場合は、下請法や独占禁止法に違反するので応じる必要はありません。具体的には、下請法4条の「下請代金の減額」もしくは独占禁止法19条の「優越的地位の濫用」に該当します。
 

下請法4条 下請代金の減額
→親事業者は発注時に決定した下請代金を「下請事業者の責に帰すべき理由」がないにもかかわらず発注後に減額すると下請法違反となります。
引用:公正取引委員会
独占禁止法19条 優越的地位の濫用
→自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らし不当に不利益を与える行為のことです。
引用:公正取引委員会

実際に中小企業庁によると、免税事業者であることを理由に消費税相当額の一部または全部を支払わない行為は、下請法第4条第1項第3号で禁止されている「下請代金の減額」として問題になるとしています。
 

下請法と独占禁止法のどちらの違反になるかの判断方法は、取引先の資本金が1,000万円を超えているか否かを目安にしましょう。1,000万円以下なら独占禁止法の窓口、1,000万円を超えているなら下請法の窓口へ相談してください。なお、資本金額に関わらず、どちらの窓口に相談しても問題はありません。

関係性を悪化させたくない場合は交渉をする

とはいえ、長い付き合いのある取引先に対していきなり法律違反となる旨の話をすると、関係が悪化しないか心配になるでしょう。どうしても気になるなら、値下げ要求を取り下げてくれないか交渉しましょう。もしくは、消費税分の全額ではなく、一部の値下げに留めるという交渉も選択肢の1つです。
 

例えば、現在はインボイス制度の登録番号がなくても、仕入税額控除に係る経過措置によって、3年間(2026年9月まで)は80%は仕入税額控除ができます。つまり、免税事業者と引き続き取引しても、すぐに全額を控除できなくなるわけではなく、20%のみなのです。
 

そのため、「値下げ額は消費税分の全額ではなく、20%以下に留めてほしい」と交渉すれば、取引先の税金面のデメリットに対処しつつ、値下げ額を少なくできます。ただし、2026年9月までの一時的な措置なので、仕入税額控除に係る経過措置が終了するまでの間に、課税事業者になるか否か検討しましょう。
 

また、2026年10月以降は、2029年9月まで50%を仕入税額控除とすることができます。もし2026年9月が近づいて再度値下げ要求をされたら、50%以下に留めてくれないか交渉するとよいでしょう。
 

それ以降になると、免税事業者と取引する課税事業者は仕入税額控除が使えないので、自身も課税事業者になる必要があります。

インボイス制度で免税事業者が値下げ要求される理由

そもそもなぜインボイス制度の開始によって、免税事業者は取引先から値下げ要求されてしまうのでしょうか。それは免税事業者と取引すると、課税事業者の消費税分の負担が増えてしまうためです。そのため少しでも負担を減らすために、消費税分の値下げを要求してくるのです。
 

もう少し具体的に説明すると、消費税の免税事業者(消費税の納税義務を免除されている事業者のこと)はインボイス(適格請求書)を発行できません。結果、課税事業者が免税事業者と取引していると、消費税の仕入控除ができないので、消費税分の負担が増えてしまうのです。
 

実際に課税事業者(=取引先)の立場から考えてみます。例えば、免税事業者と取引して、商品を5,500円(内、消費税500円)で仕入れたとしましょう。その後、その商品を7,700円(内、消費税700円)で販売したとします。
 

インボイス制度が導入される前であれば、課税事業者が支払わなければいけない消費税は仕入れ時と販売時の税額を差し引きし、200円(700円-500円)で済みました。しかし、制度導入後は、免税事業者との取引では消費税が支払われたと税務署に証明できないため、仕入れ時の税額を差し引けなくなり、消費税額が700円となってしまいます。
 

つまり、納税する消費税額が500円増えてしまうため、その分を免税事業者に負担してほしいという動機になるのです。

独占禁止法・下請法の違反に対する罰則

もし行政窓口に相談し、取引先が独占禁止法もしくは下請法に違反していると判断された場合は、一般的にまず行政からの助言が行われます。それでも改善しないと、行政処分が下されます。さらに悪質だと、刑事罰になる流れです。
 

行政処分と刑事罰の内容を、独占禁止法と下請法をそれぞれ紹介すると、以下のとおりとなります。
 

法律 行政処分 罰則
独占禁止法 ・排除措置命令:違反行為をした者に対して、違反行為を速やかに排除するよう命ずる

・課徴金納付命令:違反行為にかかる期間における取引額の1%

※対象期間は最長10年前まで
※課徴金算定額が100万円未満の場合は納付を命じられない
2年以下の懲役または300万円以下の罰金
下請法 勧告:下請事業者に対して速やかに代金の支払いを行い、その他不利益な取り扱いをやめ、必要な措置を取る。また、親事業者の会社名が公表される

※勧告に従わない場合は、独占禁止法で定められている排除措置命令や課徴金納付命令が実施される
50万円以下の罰金

 

一方的に値下げ要求をされたら、上記の行政処分・罰則があることを認識しておき、強気な態度で対応しましょう。

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インボイス制度!免税事業者への値下げ要求は違法?

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まとめ

インボイス制度導入後、取引先から消費税分の値下げ要求をされたら、基本的に応じる必要はありません。独占禁止法もしくは下請法に違反するためです。
 

関係性の悪化を危惧するなら、3年間は免税事業者と取引しても支払われた消費税の80%を控除できることを根拠に、消費税分の20%までの値下げにできないか交渉してみましょう。
 

とはいえ、値下げ要求を簡単に了承してしまうのは、自分の首を締めてしまうだけです。独占禁止法もしくは下請法に違反すると、行政処分や罰則があることを把握し、下手に出ないように対応するとよいでしょう。
 

どうしても一方的な値下げ要求が続く場合は、公正取引委員会などの相談窓口に相談してください。実際に違反となった事例は複数あり、真摯に対応してくれるので、安心して連絡しましょう。

増田賢人
青山学院大学教育人間科学部卒。在学時からFP2級を取得し、お金に関わるジャンルを得意とするライターとして活動。その後、上場企業へ入社し、Webマーケティング担当として従事。現在はお金ジャンルを得意とする専業ライターに転身。「お金の知識は知ってるだけで得する」という経験を幾度もしており、多くの人にお金の基本を身につけてもらいたいと思い執筆を続けている。
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