【投資家の視点から解説!】ある日、株式市場に突然ブラックスワンがやってくる | MONEYIZM
 

【投資家の視点から解説!】ある日、株式市場に突然ブラックスワンがやってくる

ブラックスワンとは、ある日突然、予想外の出来事が降り注ぎ大きな衝撃を起こす現象のことを指します。この言葉は、ヨーロッパで白鳥が全て白色だと信じられていた1697年に、オーストラリアで黒色のアヒルが発見され、当時、信じられていた鳥類学者たちの定説が大きく崩れ、金融の世界でも使われるようになった現象です。

未来の不確実性 ブラックスワンとの向き合い方

ブラックスワンはピンチでありチャンスでもある

金融の世界で最も恐れられている現象のひとつ、ブラックスワン。
直近で発生したブラックスワンといえば、2020年3月に発生した新型コロナウイルスによるパンデミックです。これも世界の姿を大きく変えた想定外の出来事でした。
このように、ブラックスワンは過去の経験や知識では予測することが困難であるため、従来の統計学は役に立ちません。
 

たとえば、毎日餌をもらっている七面鳥は人間のことを親切で優しい存在と感じているかもしれませんが、感謝祭の前日になると、人間によって突然、首を切られてしまいます。
これは比喩ですが、明日もこれまでと同じような日がやってくると思っていても、実際には予想外のことが起きることがあるのです。
私たち人間は、何か結論を導き出そうと考えるときに、過去から論理的な答えを出そうとします。しかし、実際には過去の経験に基づく分析が意外とあてにならないケースが度々あります。
 

では、事前に想定できない事象であるブラックスワンにどのように向き合うべきなのか、特に投資の場合は事前に準備しておくことが重要です。なぜなら株式市場において、好調なときこそバイアス(認識の歪みや偏り)で不都合な情報を見逃してしまうものだからです。
 

冒頭で述べたように、数多くの白鳥がいるからといって「黒い白鳥はいない」ことを証明していません。いいかえれば、勝手に因果関係を結びつけようとする性質が人間にはあるのです。
つまり、さまざまな現象のなかに、ブラックスワンが潜んでおり、私たちが気づかないうちにブラックスワンは突然、私たちの前にやってくるのです。
こうした前提の上で投資戦略を想定しておくことで、ブラックスワンが到来したときに、その場の感情に任せて株を売却してしまう「狼狽売り」を避けることに繋がります。
だからこそ、大暴落しているマーケットのなかでチャンスを見出し、買い向かうことを検討できる冷静さを保てるのではないでしょうか。

これまで発生した代表的なブラックスワンとは

これまで発生したブラックスワンの代表例といえば、2007年に米国で起きた「サブプライムローン」と2008年に起きた「アイスランド金融危機」です。
サブプライムローンとは「プライムローンのサブ」という意味で、プライムローンという優良顧客向けローンの下位ローンに位置付けられます。
このローンは主に住宅ローンを指す「非優良顧客向け住宅ローン」です。
なにが非優良顧客なのかというと「返済能力が基準に満たない」ことで区別されています。
つまりサブプライムローンとは、非優良顧客に向けて、住宅資金を融資しており、驚くべきことに、お金の返済が難しそうな相手(低所得者層)にも融資していたのです。
 

なぜ、こんな事態になったのかというと、当時の米国は歴史的な低金利の状態にあり、住宅価格は住宅バブルによって値上がりを続けました。つまりローン会社は債務者のローン返済が滞ったとしても、担保となる土地や住宅は値上がりしていたので、担保を回収して売却すれば、融資資金を回収することが可能だったのです。
 

しかし、住宅バブルが弾けたことで、住宅価格が下がり、担保を売却しても融資資金を回収することが不可能となりました。こうした状況になると、土地や不動産の価格が下落するたびに貸し倒れが発生する逆回転が発生します。

貸し倒れが起きると、ローン会社は資金を回収できないため債務が焦げ付くのです。
こうしてサブプライムローンバブルは弾け、世界的な金融危機の引き金となったのです。
このサブプライムローンを発端とした「ブラックスワン」が米国以外で最初にやってきた国が2008年のアイスランドです。
 

この危機の原因は、1980年代以降、金融立国を目指したアイスランドの金融部門が急速に成長し、国内の銀行が大胆で国際的な拡大を実行していたことに関連します。
アイスランドの銀行は、海外から多額の資金を調達し、それによって国内の経済を支えていました。しかし、この急速な成長にはリスクが潜んでいました。
 

なぜなら、アイスランドは金融市場からの資金調達に依存していたからです。
こうしたタイミングでサブプライムローンによる世界的金融危機が発生し、アイスランドの主要銀行が抱える巨額の海外債務が国内総生産(GDP)をはるかに上回ってしまいます。
この金融危機の発生後、アイスランドの金融市場は信頼を失い、通貨クローネは大暴落して通貨危機に陥りました。
その結果、アイスランドの3大銀行が破綻して国有化される事態に陥り、国内経済に大きな混乱が生じ、多くの国民や企業が影響を受け、倒産や財政的な困難に直面したのです。

ブラックスワンに備えたポートフォリオとは

ブラックスワンを事前に予知することが困難だとすれば、私たちはブラックスワンに備えたポートフォリオについて、どのように考えるべきでしょうか。
 

金融市場において、ブラックスワンは予測不能な変動要因であり、これらの現象がマーケット与える影響を理解し、それに対処するための準備として、事前に適切なポートフォリオを考えることが重要です。そのためには下記のような心構えが大切になるでしょう。

①分散投資の重要性

ブラックスワンなどのマーケットの不確実性に備えるためには、あらかじめリスクを分散させることが必要です。さまざまなセクターに対する投資を検討し、ポートフォリオ全体でリスク管理することが重要です。これにより、ある特定の市場の変動が起きても、ポートフォリオ全体のリスクに与える影響を緩和することができます。

②債券を組み入れる

ブラックスワンの発生時、株式市場は不安定になります。このような状況では、堅牢な債券ポジションが有用です。国債など、安定したキャッシュフローを持つ債券は、ポートフォリオを安全な水準に保ち、投資家のメンタルを支えてくれます。

③キャッシュ・イズ・キング

ブラックスワンが到来した場合、市場は急激な変動を見せることがあります。こうした状況では、キャッシュを保有することが重要です。リスクの高い資産から適切なタイミングで撤退し、キャッシュを保持することで、ブラックスワンの混乱から利益を得る機会が生まれるかもしれません。また生活費の3ヶ月分以上はキャッシュを常に保有しておくなど、株価が大暴落したときに動揺しない運用設計を心がけることが大切です。

④あらたな機会の発見

ブラックスワンがやってくるとマーケットに混乱が生まれ、市場にはあらたな機会がやってきます。このとき、長期的な視野を持ち、冷静な判断力を保つことが大切です。
過去の金融危機から学び、新たな投資機会を見逃さないようにしましょう。これが筆者の経験上、最も難しいものの、あとから振り返れば大きなチャンスであったことが何度もあります。
このように、ブラックスワンの到来に備え戦略的なポートフォリオを築くことが、投資家のメンタルを支える上でとても重要なのです。

投資の目的を忘れないために

投資において、最も重要なのは、ブラックスワンが到来したとしても、本来の投資目的を見失わないことです。たとえば投資の目的が、資産の安全性を追求するために運用しているのだとすれば、ポートフォリオはあくまで目的の手段であり、ブラックスワンがやってきたからといって、投資の目的を見失ってしまうことを避けられる可能性が高いでしょう。
そのために、投資家は自身の投資目的やリスク許容度を検討しておくことで、筆者の経験上、ブラックスワンに対しても冷静に対処する確率を上げられると思います。
つまり、ポートフォリオが揺らぐような事態に直面しても、投資目的を忘れず、着実に投資戦略を続けられる「投資の習慣」を身につけることが、最も重要なことではないでしょうか。

ウォーレン・バフェットの金言

「ゆっくり金持ちになりたい人はいない」

アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏と投資の神様ウォーレン・バフェット氏が対談をした際、興味深いやりとりがありました。ベゾス氏がバフェット氏に「なぜあなたの手法を真似する人がいないのですか」と質問したところ、バフェット氏は「ゆっくりお金持ちになりたい人はいないからだよ」と返答しました。この言葉には投資において多くの人が直面する課題が含まれています。
多くの投資家は、急いで利益を求めるために短期的な方法や熱いトレンドに飛びつきます。
しかし、この焦りが逆に損失を招いてしまうことも少なくないのです。
バフェット氏の言葉は、長期的な成功に焦点を当てることの重要性を指摘しています。ひとつの投資方法や瞬間の話題に振り回されるのではなく、堅実な投資戦略や着実な成長を目指すこと。これこそ誰もが真似できるバフェット氏の金言なのです。

株式市場は平均へ回帰するのか?

ブラックスワンがやってきたときこそ忘れてはならないのが、株式市場の特性です。
実はマーケットには「平均への回帰」と呼ばれる法則があり、長期になると平均値に戻ろうとする力が働きます。こうした原理原則を覚えていれば、ブラックスワンなどの大暴落がやってきたときであっても、いっときの感情に流されて、本来なら売却する必要のなかった株式まで手放してしまうパニック売りが避けられるはずです。

まとめ

<今後も必ずブラックスワンはやってくる>
ブラックスワンは未来において必ずやってくるものです。
そうであれば、予測通りに動いてくれない株式市場において、いかに折り合いをつけてマーケットと向き合うのか、これが投資家として必要な姿勢ではないでしょうか。
また、次のブラックスワンにあらかじめ備えておくことは、ひとりの投資家として、大きく成長する機会と経験をもたらすと筆者は考えます。

鈴木林太郎
金融ライター、個人投資家。資産運用とアーティスト作品の収集がライフワーク。どちらも長期投資を前提に、成長していく過程を眺めるのがモットー。Webメディアを中心に米国株にまつわる記事の執筆多数。
「経済」カテゴリの最新記事