法人の本社と別拠点の営業所・支店・ 新設法人にかかる税金とは | MONEYIZM
 

法人の本社と別拠点の営業所・支店・
新設法人にかかる税金とは

「本社以外に別拠点を設置したい」という法人は別拠点の設置による税金面が気になるかもしれません。実際に、同じ企業の別拠点でも、営業所・支店・新設法人によって納税額に差が生じてきます。そこで、別拠点にかかる税金についてそれぞれの組織形態ごとに解説します。

営業所・支店・新設法人にかかる税金

税金について説明する前に営業所・支店・新設法人の位置づけについて確認しましょう。

 

  • 営業所:同じ法人内の別拠点であり、融資などについて独自の意思決定はできない
  • 支店:同じ法人内の別拠点であり、融資などについて独自の意思決定ができる
  • 新設法人:グループ会社などの別法人であり、すべての面において独自の意思決定ができる

 

法人からの独立度合いの大きさでは、「営業所<支店<新設法人」の順になります。それでは、それぞれの組織形態にかかる税金について見ていきましょう。

登記費用(登録免許税)

新たに拠点を設置する場合の登録免許税などの登記費用は次の通りになります。

(1)営業所設置

新たに営業所を設置しても法務局に登記をする必要がないため、登記費用もかかりません。

(2)支店設置

支店設置をする場合には法務局に登記をする義務があります。登記費用は次の区分ごとになります。

 

  • ①本店と管轄を同じ場所に支店を設置する場合:登録免許税6万円
  • ②本店と管轄の異なる場所に支店を設置する場合: 設置する支店数×6万円

 

次の合計額が登記費用になります。

 

  • 登録免許税:設置する支店1ヵ所につき6万円
  • 登記手数料:設置する支店所在地の法務局1ヵ所につき300円
(3)法人設立

一般的な法人設立と全く同じであるため、設立登記と同額の登記費用がかかります。たとえば、新設する法人の組織形態が株式会社なら設立登記にかかる登録免許税は、1つの法人につき最低15万円かかります。

法人住民税と法人事業税

本店のある自治体以外の自治体に拠点を設けた場合には、法人住民税や法人事業税の計算に影響を及ぼします。それでは、営業所・支店・新設法人ごとに見ていきましょう。

(1)営業所・支店

所得金額をベースに計算する法人住民税の所得割と法人事業税の金額は、営業所を設置する前と同額です。あくまでも法人全体の所得金額に税率を掛けた金額を本店と営業所・支店の従業員数であん分計算するためです。

 

一方、住民税の均等割は市区町村や都道府県ごとで課税するため、本店と違う自治体に設置した場合には納税額が増えます。

(2)新設法人

新設法人の税金は本社に相当する親法人と全く別口で計算します。上記(1)と違い、所得金額や均等割を独自で計算するのはもちろん、決算日を親法人と別に設定することが可能です。

固定資産税(償却資産税)

償却資産税を含めた固定資産税は市区町村ごとに所有する固定資産に対して、法人単位で課税します。なお、償却資産税の免税点は150万円未満(償却資産の評価額(≒帳簿価額))になります。

(1)営業所・支店

営業所や支店の市区町村ごとに所有するすべての償却資産の評価額が150万円以上の場合は、償却資産税の課税対象になります。免税点の判定は営業所や支店単位でなく、所在する市区町村内で所有する償却資産の合計額が基準です。

(2)新設法人

新たな拠点が新設法人の場合、親法人とは独立して償却資産税を計算します。そのため、親法人の本店と同じ市区町村に新設法人を設立しても、それぞれの法人ごとで免税点の判定をします。

源泉所得税の納付先

新たな拠点の設置は源泉所得税の納付先にも影響します。

(1)営業所・支店の場合

給与事務を行う所在地を所轄する税務署になります。給与事務を行う場所は自由に選択できるため、事実上本店所在地または拠点の所在地を所轄する税務署の選択制になります。

(2)新設法人

新設法人の所在地を所轄する税務署になります。

営業所・支店を設置した場合の税金面のメリット・デメリット

同じ法人の拠点として営業所や支店を設置した場合、新設法人の設立と比べた税金面のメリット・デメリットについて説明します。

登録免許税が低く抑えられる

新設法人を設置する場合と違い、登録免許税が低く抑えられます。営業所の設置には登記する必要はなく、登記する必要のある支店設置でも新設法人の設立より登記費用はかかりません。

事務的手間がかからない

決算業務など税務申告は法人単位で行います。そのため、同じ法人である営業所や支店を設置しても、税務署への提出書類などは、本店とまとめて作成できます。一方、新設法人を設置すれば、本店とは別法人となるため、各々での提出書類の作成が必要になり、事務的手間が増加します。

営業所・支店の損失分が本店の所得と相殺できる

前述の通り所得金額の計算は法人単位でするため、営業所や支店での損失額は本店などの利益と相殺することができます。そのため、営業所や支店の撤退費用も、法人の所得金額を圧縮するのに貢献します。そこが拠点からの撤退費用を親法人の所得金額と相殺できない新設法人との違いです。

中小企業の特例が利用しづらい

そもそも中小企業の特例は小規模かどうかを法人単位で判定するため、所得金額や売上高を本店と合算する営業所や支店を設置するほうが新設法人の設置よりも税制面で不利になる傾向にあります。たとえば、法人税が「23.2%→15%」までに下がる軽減税率の適用ラインは年800万円までの所得金額になります。そのため、所得金額を分散できる新設法人の設置のほうが有利になる可能性が高くなります。

新設法人を設立した場合の税金面のメリット・デメリット

今度は新設法人を設立した場合の税金面のメリット・デメリットについて見ていきます。

登録免許税がかかる

設立費用や役員変更などに必要な登録免許税がかかることを説明します。

 

新設法人の設立費用はもちろん、最長10年に1度の役員変更に伴う登録免許税も課税されます。しかも、設立当初の資本金に比例して登録免許税も増額されます。

中小企業の特例が利用しやすい

売上高や所得金額の計算は親法人から独立し、売上や利益が合算されないため、中小企業の特例が利用しやすい傾向にあります。前述の法人税の軽減税率を例にすると、新規事業の展開を新設法人にしたほうが所得金額の分散につながります。

 

そのため、中小企業の特例の利用に関して制限が設けられているほどです。これはグループ税制の1つであり、資本金5億円以上の大法人の100%子会社に対して中小企業の特例が制限されています。

例)軽減税率が適用できなくなる、交際費等のうち800万円までの経費計上が認められなくなる など

事務的手間がかかる

前述の通り、税務申告は法人単位でするため、新設法人の設立のほうが事務的手間がかかります。しかも、グループ会社間で内部取引をしている場合、債権債務の計算に手間がかかります。「親法人の新設法人に対する売掛金」と「新設法人の親法人に対する買掛金」の残高を一致させなければ、税務署から提出書類に対する信ぴょう性を疑われてしまいます。

損失分を親会社の所得と相殺できない

前述の通り、新設法人の損失分は親法人の所得金額とは相殺できません。そのため、新事業の展開など軌道に乗るまでに時間がかかるなどという場合、損失分を節税に利用するには営業所や支店の設置よりも不利になる可能性があります。

まとめ

新たな拠点を設ける方法について営業所や支店の設置、新設法人の設立を税金面から比較しました。どの方法がベストなのかはそれぞれの法人の状況によってケースバイケースです。そのため、営業所、支店、新設法人のメリット・デメリットを吟味しながら慎重に検討することをおすすめします。

 

阿部正仁
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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